刃牙道 第36話 逢いてェ



守るべきモノを守るために本部が立ち上がった。
守るために戦う男って大抵格好いいんですけどね。
本部がそれをやると爆笑シーンになるから不思議ですね。
逆に言えば失笑を誘ってこその本部!
こいつは未だに全盛期だ!
格闘家としての賞味期限は20年前に切れているがな!


さて、あれから武蔵は一人でぽつんと夜の街を歩いていた。
だが、日本の警察は優秀。
刑事科強行犯係の末光高と引木栄一郎がしっかりと尾行していた。
死刑囚と違って怪しげなアジトや電車に捕まると言った無理な移動方法をしていないので追いかけること自体は簡単なようだ。

で、武蔵は徳川邸に戻る。
地味に塀をジャンプ一発で跳び越える脚力を披露している。
まぁ、これくらい天内にだってできますよ。
本部にだって……無理かもしれぬ。

迷子が心配だった武蔵だが無事に徳川邸に戻ってきた。
最低でも渋谷から戻ってきたこととなる。
高層ビルが多く見通しが利かない現代でこれはかなりの方向感覚の持ち主ではないだろうか。
私なんて地図を持っていても秋葉原で余裕で迷子になれたというのに……
ピクルもそうだが直感が今の時代よりも大事な時代に生きていた人間はそこも違うということか。

徳川邸にやってきたので一介の刑事には荷が重い。
そこで署長が直々に動く。
そして、みっちゃんは警視総監に手を出すなと伝えるように申すのだった。
……もっと早く言って欲しいのですが。
警察は追わんでもマスコミに知れ渡りすぎたよ。
鎮火作業が下手な奴め。炎上した時に困るぞ。

徳川光成は警察の相手が心底面倒そうであった。
それもそのはず。徳川邸にはある男が訪れていたのだった。
武蔵の匂いに惹かれた男である。
ならば、もてなさねばなるまい。

そしてッ!
前回の引きから徳川邸を訪れる人間はただ一人ッ!
それはこいつだァー!
愚地独歩ぉ!

――って、お前かよ、独歩ちゃん!
前回のラストで守護(まも)らねばならぬとか言っていた人はどうした!?
アンタ、守る人間じゃなくて守ってもらう人間なんですけど!
駆け込むところが違いますよ。
そこは本部流柔術の柔道に駆け込まないと。
それとも真っ暗だったので家賃を払えず追い出されたと勘違いしちゃったか?

うーむ、独歩が出てきて嬉しい。
嬉しいのだがちと期待外れな感が否めないな。
独歩でさえ色褪せるのが本部の参戦表明である。
守るべき人間のはずが奪う人間に回っておるな……

独歩が来たのは徳川光成の情報網を当てにしたからであった。
国内外の強者の情報は徳川光成の元に集まる。
たしかにその通りかもしれないが神心会の情報収集力も侮れないかと。
何せドリアンやシコルスキー、ドイルの所在をしっかりと掴んでいた。
まぁ、欲しいのは所在ではなく情報だからみっちゃんを頼るのも間違いではないのだが。

「空手でも柔でもない 現存するどの体術とも違う」

「剣だよ」
「しかもその水準(レベル)が有り得ねぇ」
「居合など」「一般的な剣術と比べても2桁以上は上だぜ」


一目で武蔵の本質を見切る独歩である。
うーむ、守護らねばならぬと言っていた男とは違うな。
いや、本部も知識は一流だから武蔵の何たるかを見切っていたかもしれないけど。
でも、全ては見切っていないな。間違いない。
見切っていたら守護らねばならぬどころか守護ってもらわねばならぬとなっていただろう。
99の真実に1の勘違いが本部を突き動かすのだ。
金竜山の時は80くらい勘違いしてたけど。

武蔵は独歩がかつて辛勝した佐部を一蹴している。
そして、佐部は現代の剣術家でも最高峰の技量を持つ。
独歩の言う通り、2桁はレベルが違うのだろう。
本部も刀を投げ出すレベルに違いない。
あの人、そうでもない人にも刀を投げてたけど。

「技術(わざ)がホンモノならそれでよし」「他はよし」

「逢いてぇ」


武蔵が本物なのかはどうでもいい。
その技が本物ならよし!
そして、逢いたいと漏らす。
さすがピクルに逢いたい一心で恐竜の置物の中に入った男である。
守護らねばならぬとかのたうっていた男とは違いますな。
ところでどうやって恐竜の置物に入ったんだろね?

独歩がそう漏らすと武蔵が部屋に入ってくる。
逢いたいと言った矢先に逢えた。
そして、互いにエンジンをいつでもかけられる武術家だ。
いつ始まってもおかしくはない。

「この人を見て何を感じる」

「ふむ………」「この人なら飯の前でも構わんよ」


空腹を訴える武蔵であったが、独歩ならば飯を差し置いてでも試合う気か。
武蔵は刃牙を見てご馳走に感じた。
武蔵にとっての最大級の娯楽は食事であることが伺える。
独歩はその食事を差し置いてでも戦いたい相手と認めてもらえた。

独歩はクラシックな技術をいくつも持つ古流な格闘家である。
だが、武蔵はそのさらに上を行くクラシックさである。
どちらの技術が深いのか、試し合う相手としてはピッタリか。
本部でもピッタリだと思うのですけどねぇ……
あの人、技術はともかく肉体がついてきていないからあかんか。

本部が先陣を切るかと思ったがまさかの独歩が割り込んだ。
初手から大物である。これは激闘必死か。
本部は果たして独歩を守護れるのか?
あるいは守護られる立場に甘んじることとなるのか?
やはり、本部は解説(かたら)ねばならぬのか?
次回へ続く。


本部参戦!
本部失踪!
はい、次。

……では、可哀想なので本部のことについて。
本部といえば解説王である。
というか、負け続けで解説しか残されていない男である。

では、本部は弱いのか。
まぁ、弱いってイメージしかないですな。
だが、本部は柳を屠っている。
板垣先生も「本部が強くて何が悪い」と高い評価を与えている。

実績だけで言えば本部は弱い。それは間違いない。
だって金竜山に負けたし。
だが、板垣先生の本部の評価は一貫して高いのではないだろうか。
それこそ独歩を1分以内に殺せると言ったのだ。
相当な実力者として描いたことだろう。

その後の本部は泣かず飛ばずだ。
勇次郎に負けて、金竜山に負けた。
だが、思い返して欲しい。
本部は勇次郎の打撃を見切っていた。
当時の勇次郎は紅葉にパワー勝負で負けそうになったりといまいちな面が多いとはいえ、当時の時点で最強格だった。
それに負けたはしたものの勇次郎は鬼の貌を出している。
勇次郎の打撃を見切り鬼の貌を出させた本部の実力は本物と言っても差し支えないだろう。
負けはしたものの善戦と言ってもいい。恥にはならぬ。

じゃあ、何があかんかったのか。
……まぁ、金竜山に負けたことだな。
金竜山に負けさえしなければそれなりの実力者として語り継がれたことだろう。
そして、今の地位は得られなかっただろう。
それなりの実力者より解説の神の方が地位は高い。

金竜山戦の本部の不甲斐なさはとんでもなかった。
まず、いきなり張り手を食らいダウンした。
勇次郎の打撃を見切った男とは思えない失態だ。
そして、そこから引き起こされて投げを食らった。
ダウンが逃げ道にならない実戦派とは思えない失態だ。
逆転の一手と小指を取るがまったく通じなかった。
解説神と呼ばれる男とは思えない失態だ。
目潰しを含めた数々の打撃の多くを捌かれ、当たったものもダメージにはならずやぐら投げからのフィニッシュに繋がった。
何かもう止めてくれと言った失態だ。
とにかく金竜山戦の本部は不甲斐ない。
そりゃ勇次郎に善戦した過去も忘れ去られてしまいますよ。

そして、以後の本部のやることは偉そうに解説することだけだ。
その見事な解説と偉そうな雰囲気、そして初期の賛美に似通わない実力が本部の地位を決定付けたと言えよう。
振り返ると花田をやたらと持ち上げたり、その持ち上げた直後に花田が半殺しにあったりと、発言の怪しさが浮き彫りになる。
そういえば、その花田も何か勘違いしていたな。
勘違いは本部流柔術の伝統なのか?

さて、金竜山戦の大失態は本物だ。
本物過ぎて本部が偽者になった。
だが、金竜山戦がなければどうか。
本部は未だにクラシックな実力者として語り継がれていたに違いない。
ガイアみたいな感じでな。
板垣先生の本部像とは即ちそういうものかもしれない。

引き合いに出したガイアだが互いに唐突に復活し死刑囚を倒している点が共通している。
勇次郎に負けた点でも同じだ。
だが、ガイアは実力者として認められたのに対し、本部は笑いの種になってしまっている。
何がいけなかったのか。死刑囚相手にやったことはどっちもどっちだ。
やっぱ金竜山戦かな……

つまり、金竜山さえいなければ本部は強者!
これからタイムマシーンで金竜山をボコりに行くのかもな。
クローンを作って降霊したのだから今更タイムマシーンくらいで騒ぎませんよ。
氷付けの原始人が蘇るよりそっちの方がずっと自然だ。
特訓したのもそのためだったのだ!

で、独歩の方だが本部さんは守護れるのか?
それとも守護りたかった友が倒れたことで、その悲しみで超パワーアップするか?
おお、何か凄い主人公っぽいエピソードだ!
人は失うことでも強くなれるのだ。
……本部は地位を失っても強くなれなかったけどな。




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