刃牙道 第38話 舞踊(おど)



独歩の試し割りが舞踊(おど)りと侮られた。
独歩のモデルとなった人物は旧来の空手を踊りと否定した。
だが、よもや実戦を志した独歩が否定されることになろうとは……
独歩で舞踊りなら本部は何だろう。
解説(かた)り? 語るじゃなく騙るの方です。


独歩の武を踊りと言うのは侮辱である。
当然、独歩は怒る。
でも、舞いを演じると書いて演舞だからな。
仕方ないかもしれぬ。

一瞬即発の空気が漂う。
みっちゃんも独歩の実戦(ケンカ)が見られると震える。
そういえば、この人は独歩の実戦を見たことがなかった。
強いて言えばドリアンを蹴ったことと暴漢を殺した(一応生死不明)くらいか。
暴漢の件で震えていたし独歩の喧嘩を心待ちにしていたのかもしれない。

独歩は武蔵に肉薄する。
そして、笑う。
直後に頭突き! だが、かわすだけでなく撫でられる!
頭突きが当たると思った瞬間にはかわしていた。
さすが刃牙のジャブを押さえた男である。凄まじい読みの持ち主だ。
そして、不意打ちに対応できる実戦派だ。

これには格の違いを感じてしまうみっちゃんであった。
アンタ、いつもこうだよな。
格闘家に無茶振りをして格の違いに困惑してしまっている。
もうちょっと慎重を期してもいいのではないでしょうか。

「赦されい愚地さん」
「少しからかってみた」


と、ここで武蔵の発言は本意ではなかったことが語られる。
試し割りが武であることを武蔵は承知していた。
その理由は試し割りが相手を想定していたものだったからだ。
ブロック割りは倒れた相手への下段突き、手刀は首筋へのカウンター、跳び蹴りも首を狙ったものと見えていた。
いずれも必殺だ。

独歩の試し割りは実戦を意識したものなのだ。
かつての勇次郎の試し割りへの疑問に対する答えかもしれない。
劉海王の返答よりは上等ではなかろうか。

独歩の空手は武蔵に武と認めてもらえた。
刃牙は武と認めてもらえなかったのに対し大きな差だ。
刃牙は武道家と言うにはまだ未熟ということだろうか。
まぁ、隙だらけだしな。

それでも火が付いてしまったのだから戦うより他あるまい。
独歩を敵と認めたのか、武蔵は二刀流の構えをするのだった。
まぁ、モブ警官にも見せたから、けっこう出し惜しまないようだけど。

「へ…………ッ」
「やっぱりな…」
「ちゃんと持ってやがる…………」


独歩の目には武蔵の持つ2本の刀が見えていた。
幻影を武器にする辺り、刃牙と似ているな。
卓越した刃牙の妖術スキルを無効化できたのは武蔵もまた幻影スキル持ちだからか。

「遠い………」
「見えない………ありもしない剣に間合(きょり)を脅かされてやがる」


武蔵は見えない刀をどうしても意識してしまう。
これが風王結界(インビジブル・エア)……
物質を伴っていないのだから無視すればいいのだが、そうもいかない並々ならぬ迫力を持っているのが武蔵の恐ろしいところか。
実ダメージはないとはいえ、刀で威圧できるのだから相手としてはかなりの脅威になるのは間違いない。
素手でありながら素手ではないのが武蔵なのだ。
武器を堂々と持ち出す本部はこの相手にどう立ち回るか、気になるところである。気になれ!

「むん!」

武蔵は独歩の顔をめがけて突く。
いきなり必殺の一撃だ。もっとも刀なのだから、全てが必殺なのだが。
それを独歩は横っ腹を叩くことで逸らしてかわす。
さすがは日本刀と戦った男である。
なお、その戦った相手は為す術もなくナマス斬りにされた。

だが、武蔵は二刀流。
その隙にもう片方の刀で袈裟斬りにされた。
実際に斬られたわけではない。
あくまでもイメージ上のダメージである。
だが、独歩はそのイメージに困惑し致命的な隙を作ってしまう。

「なぁ愚地さん」
「やはり舞踊(おど)っていたぞ」


幻影刀によって隙だらけになった独歩の顔面を武蔵は殴る。
独歩はダウン、おそらくは勝負ありだろう。
あの打たれ強い独歩がたった1発でやられた。
武蔵の幻影刀を用いた巧みな立ち回りはもちろん、(混乱したところに当てたとはいえ)単純な打撃力もかなりのものだ。

踊っていたというのは本来ダメージがないはずの幻影刀に惑わされたからだろうか。
実戦に向けて演舞をしていたというのに、その実戦において力を発揮できないのなら踊りと言われても仕方あるまい。
無視できぬ迫力があるとはいえ、存在しない幻影に惑わされては話にならぬ。
格闘家たちには幻影刀に耐えうる精神力が求められているのかもしれない。
本部は……理屈で幻影をオカルトだと論破して耐えていただきたい。

「斬るまでもない」

勝負を決めたのは顔面への正拳だった。
武蔵が格闘家に打撃らしい打撃を打ち込んだのは初めてではある。
前述した通り、タフな独歩を1発で倒したのだから、打撃力の高さが伺える。
斬るまでもないというのは幻影に惑わされた相手は斬るまでもないということか。
一応、斬ってもらえた刃牙はそれなりに高く評価してもらえたのだろうか。
独歩も菩薩拳を見せれば良かったのに。
未だに原理はよくわからないのだが、殺気のない打撃だから武蔵の読みを外せるかもしれないぞ。

武蔵は独歩をあっさりと屠った。
その実力は未だに底を知れない。
武蔵の本気を引き出すのは一体誰なのか。
本部は引き出せるのか。
次回へ続く。


独歩完敗!
まぁ、独歩はよく負けますからな。
それでも実力者と評価されているのはさすがだ。
そういったところを含めて独歩の魅力でもある。

独歩は武蔵にその武を評価されたものの、実戦においては踊りと言われてしまった。
たしかに実戦で力を発揮できないのでは踊りである。
独歩でさえ実戦で思うようにさせてもらえない強さを持つのが武蔵であった。

これには多くの格闘家が色褪せてしまい否定されるかもしれない。
ピクルといい過去からの強者は現代人を否定していく。
本部が守護らねばならぬと言った理由がわかる。
なので、守護ってもらいたいのですが……

武蔵はからかってみたと言っているが、けっこう独歩の痛いところを突いた。
その上で奇襲を制することで心理的な優位に立った。
そうなれば精神的にダメージを与える幻影刀の威力も上がるだろう。
武蔵は試合巧者だ。
その武術のみならず駆け引きの強さも武蔵の武器か。

こりゃ本部に守護ってもらわないとな。
柳戦での駆け引きは見事の一言だったし、武蔵と同レベルの駆け引きをしてくれるかもしれない。
でも、あの人、駆け引きはともかく、勘違いがひどいからなー。
いや、勘違いをしなければそもそも戦いさえしないし勘違いしてもらわないと困るか。

独歩はよく負けると書いた。
新展開に入ったらとりあえず痛い目を見るのが独歩の役割なのだ。
ドリアンに手を切られ、Jr.に敗北してとあまりいい目を見ていない。
というわけで今回も痛い目を見た。
まぁ、いつものことですな。
まだ慌てる時間ではない。慌てるのは本部が勝ってからだ。
……アンタはさっさと守護ってくれ。




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