範馬刃牙 第120話 生への渇望



妖怪郭海皇は格が違った。
人間の努力が妖怪の能力の前にはいかに儚いものなのか、見事に知らしめられた。
グラップラーと妖怪の間には埋めがたい差があるようだ。


さて、克巳は夜の道場で一人で郭海皇がやった卵割りに挑戦していた。
すでに烈も郭海皇もいない。
独力での特訓に移ったようだ。

克巳の足下には割られた卵が落ちている。
が、郭海皇の時のように殻は鋭利に切れていない。
力任せに割ったような汚い割れ方をしている。
おかげで道場が汚れ放題だ。
後始末は烈に直接舐めさせるのだろうか?

克巳は天才と言われ、その才能を発揮し4502年マッハ突きを完成させた。
しかし、中国拳法の真髄を見せられ、自分の未熟さを知った。
烈に負けた時と状況が同じだった。
苦悩から克巳は郭海皇の言葉を思い出す。


「27か所の関節はおろか―――――」
「肩から先の関節しか使用(つか)っとらん」
「関節の数 わずか数か所」
「なのに超音速」


身体全体を使う4502年マッハ突きとは異なり、郭海皇は肩から先だけで音速を実現していた。
しかも、枯れ枝のような腕で、だった。
筋力ではなく純然たる技術で生み出した奇跡である。
いや、勇次郎と打撃戦を繰り広げたくらいだから、細そうに見えてその筋力はオリバ並みかもしれないけど。

「現実には数か所の関節しか使用していない しかし真実は違う」

関節の数とスピードは無関係の気もするが、郭海皇は見た目以上に関節を使っているらしい。
その秘訣は何なのだろうか?
海皇ならではの技術が眠っているのか?

「現実の構造はどうであれ」
「わしがイメージしている作りは違う」
「イメージは無限 おワカリか 日本のオサムライよ」


根性論かよ!
郭海皇のイメージする自らの関節は蛇のようにいくつもの関節に分かれていた。
どれだけ妄想(イメージ)したって現実は変わらないだろうが、あの郭海皇が言うのだ
そりゃあ自分の体重がないと思えば消力(シャオリー)できますよ。その状態で殴ればクレーターひとつ完成ですよ。
郭海皇が言うのだから間違いない。
…鞭打とか言うなよ、お前ら。

イメージすれば関節は無限に増える。
4502年マッハ突きを超える無理無茶理屈だ。
だが、人外のピクルを相手とするだけに、克巳も人外の領域に踏み込まなければ勝ち目がない
そういう意味では郭海皇の助言は非常に大きな意味がある。
人外の体力に打ち勝つには最低でも人外の技術…あるいは妄想力を身に付けなければならない
妄想すれば100キロのカマキリが大暴れする世界だ。無問題である。


イメージは無限。
郭海皇の狂言…もとい至言に学び、克巳は紐でぶら下げた卵の前に立つ。

「イメージが現実に 勝てるハズがない」

だが、克巳は一線を越えられないでいた。
そりゃ無茶だよ、おじいちゃん。
関節の数がたくさんだとイメージしても現実では何の効果もないよ。

そうは言いたいものの、実際にイメージが現実を凌駕した瞬間を見せつけられてしまった。
そして、ピクルという超生物と渡り合うためには少しでも武器が欲しい。
克巳は人外の領域の技術に到達するため、卵の前で苦悩し続ける。

だが、卵に向かって幾度も幾度も拳は振るっていない。
あくまで思索に耽るのみだった。
こればかりは数を重ねれば身につくものではない。
人外の閃きが必要となる領域だ。
克巳はたしかなイメージを作るにはどうすればいいのか、悩み続ける。
ここで刃牙ならあっさりとやってのけて殴りそうになる。

克巳は目の前の卵について考える。
卵は何故殻を身に付けたのか。脆い中身を守るためだった。
そのために固い殻を願った。
キリンも高いところにある草を食べたくて首を伸ばすことを願った。
象も鼻を伸ばした。シマウマは縞模様になった。虎も縞模様になった。豹も豹柄になった。
昆虫も擬態したよ。鳥だって翼を手に入れたよ。コブラだって毒を手に入れたよ。

「どれも生き残らんが為!」
「彼等 生物達の「生」に対しての執念ッッ それによってもたらされる進化の大きさッッ」


ええー!そこまで飛躍させるの!
生き残るために動物たちは進化した。
生き残ることを願ったから進化できた。
武術家の研鑽など生物の進化と比べたら生ぬるいもの。
ならば、自分も進化できる!
もう技術とか、イメージとか、そういう領域ではなく進化にまで話が飛躍している

一見荒唐無稽極まりない。
だが、相手はピクルなのだ。
四足歩行から二足歩行へ進化した超生物だ。
ピクルには人間の英知中国武術が通用しなかった。
ならばこそ人間を超えた進化を果たさなければ勝てない!そして、生き残れない!
死ねば烈とにゃもにゃもできないのは別問題だ。

生物の進化の答えに達した克巳は己の関節をまたもイメージする。
前よりも関節を多く。いや、さらに多く。そして、それよりも多く。
そして、完成した克巳のイメージは腕全てが関節だった

パンッ

そして、夜が明けた時、郭海皇マッハ突き(仮)は完成した。
妄想力が刃牙クラスの変態に辿り着いた瞬間だ。
想像すれば関節を増やせる。関節を増やせばマッハになれる。
想像による進化を果たした郭海皇は妖怪だが、1日でその域にまで達した克巳もさすがは天才と言ったところである。

でも、これだと4000年マッハ突きだ。
501年目の空手も4001年目の中国武術のどちらも介入していない。
あるいは郭海皇の妖怪性が生み出した郭海皇独自のものかもしれない。
鬼の貌を出した勇次郎への郭海皇流ラッシュは、もしかしたらこれだったのか?
いずれにせよ対ピクルに相応しい武器は完成した。
次回へ続く。
原理が鞭打なのが不安要素だが。


郭海皇の介入により、マッハ突きはトンデモ技術論から超精神論になった
郭海皇マッハ突きは常人の精神力では無理な技だろう。
例えば146歳生きられり自分の心臓を止めるような精神力が必要となるのだろう。
無理です。人間には無理です。

しかし、克巳は自らの生存を賭け、郭海皇マッハ突きを自分のものにした。
人外への道を一歩踏み出したのだ。
ピクルには人間の技術が通用しない。中国武術は通用しないし、合気だってたった一度の経験で模倣された。
だが、人外の技術ならどうか?
原理が鞭打だから人間の技術の範疇に見えるが、妖怪郭海皇が完全技と称するほどなのだ。
史上最強に牙を剥くことができるかもしれない。

でも、せっかくの501年の空手と4001年の中国武術の合作が郭海皇の一人舞台になってしまった
妖怪だからしょうがないよ。しょうがないのか?うん、しょうがない。
しかして、克巳も仮にでも天才なら501年目の空手のエッセンスを組み込んでもらいたい。
肩から先の加速だけでは足りない。
ならば足から手までの関節を増やす。
これだけでもマッハ1飛び越えてマッハ3だ。
さらに首を振ってウェイトを乗せる!
完全無欠の真・4502年マッハ突きの完成であった。
…首を振るってのはなんかダサい材料だな。

克巳にも材料が揃い始めたが、相手となるピクルは範馬一族と同等の化け物だ。
範馬一族のB少年は妄想で100キロのカマキリを生み出した。
ピクルだって半端ない妄想力を持っていてもおかしくない。
そして、克巳との戦いの中で進化するかも。
具体的には四足歩行に…あれ?退化?


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