範馬刃牙 第131話 感謝



克巳は右腕を骨だけにしながらもピクルを倒した。
恐るべし俺マッハ突き、もといファイナルマッハ突きだ。
威力も恐ろしいが代償も恐ろしい。
しかして、本当にピクルを倒したのか?
倒していて欲しいよね。
王大人死亡確認級のダメージですよ、克巳は。
いや、それだと平気なことになっちゃうな…


骨だけになった右腕を克巳は見つめる。
当然のように門下生一同は驚く。
生存確認されたものの行方不明になりがちな末堂だって驚いている。
いや、末堂は驚いて当然だ。
むしろ、驚く人だし。驚き足りないくらいだし。

そんな門下生の動揺とは裏腹に克巳に驚きはあまりなかった。
こうなってしまうことをあらかじめ予測していたのだろうか。
そして、激痛が襲っているはずなのにそれにも顔を歪めていない。
何という精神力。
あとエンドルフィン出し過ぎじゃないでしょうか

(夢から……… 醒めた………)

骨を多重関節にしてマッハを超え、最終的には鞭にした。
しかし、現実は骨は骨だった
克巳のイメージに現実が追いつかなかった。
これが技術の限界なのだろうか。
範馬一族ならリアルに骨が多重関節になってもおかしくない。
おかしいけどおかしくない。

短期間でマッハ突きを何段階も進化させ、最終的には帰結形にまで発展させた。
もっともマッハ突きの進化の果てにあったのはマッハ突きの死だったが。
自分でも驚くくらいの進化の連続を果たしたが、結果として右腕を失ってしまった。
利き腕を失った損失は大きい。
格闘家としても死んでしまったし、日常生活においても今後の人生は不自由が延々と付きまとうだろう。
烈の例を見ると利き腕がなくても何とかなるんじゃないかと思ってしまうが、不便は不便に変わりない。

克巳は文字通り、夢から醒めた心持ちなのだろう。
夢のような進化を続けて、そして目覚めたら現実を突き付けられたのだ。
夢オチにしたいところだがそういうわけにもいかない。
むしろ、マッハ突きできたのが夢オチだったという状態だ。
そりゃあ生身でマッハの速度を出せば身体がイカれてもおかしくはない。
現実はどこまでも非情である。

克巳は黒帯で右腕の止血を行い、倒れたピクルの元へと近付く。
肉がなくなったことに驚いていたけど神経や血管もぶっ飛んでいたんだった。
そりゃあ止血しないとヤバい。
でも、真マッハ蹴りで砕けたはずの左足は平気そうだ。普通に歩いている。
ついでに止血を行う際には骨折した左手で普通に黒帯を握っていた。
やっぱり、グラップラーにとって骨折程度ではダメージに勘定されないらしい。

(もう醒めてもいい……… もう解けていい………)
(もう………)
(出すものはない………)


克巳に力は残されていなかった。
出せるものを全て出し尽くした状態だ。
さらにはこれから数十年続いていくであろう空手家としての人生を投げ打って、ファイナルマッハ突きを出した。
力だけでなく空手家人生も出し尽くした
ここからトドメの左腕でファイナルマッハ突きとかやらないでください。

(立っているのは―――― 俺だ)
(みんながくれた勝利だ………)


克巳は骨だけになった右腕を掲げて勝利宣言をした。
完全に砕け散った右腕が痛々しい。せめて骨折程度の左腕を掲げればいいのに。
しかし、右腕の犠牲がなければピクルを倒すことはできなかった。
壊れた右腕は勲章のようなものだ。
大きすぎる対価ではあったが、誇るに値する勝利でもあった。

克巳の勝ち名乗りと同時に胴着が舞い上がるほどの歓声が克巳を包む
5万5千人、その全てが同時に勝ち鬨をあげた。
抱き合って勝利を喜ぶ門下生もいる。克巳の激闘に涙する門下生もいる。
喜んでいるのはモブだけじゃない。
末堂だってジェットコースターから落ちた時以上の感情を顔に出している。
恋人の烈だって満足気な笑みを浮かべている。

館長が史上最強の生物を倒した。門下生冥利に尽きる。
でも、お前らは少しくらいは克巳の心配をしろ。
右腕が骨だけですよ。浮かれている場合じゃない。
119番に電話をしろ。今すぐにだッッ。

「あの小僧ものの数日間で―――――」
「武を50年は進歩させおった」


郭海皇も静かに、そして大きく克巳を評価した。
501年目の空手に踏み出すつもりが550年目の空手に踏み込んでしまったらしい。
進化するスピードが速すぎて燃え尽きちゃったけど。
マッハで進化したから空気抵抗もシャレにならないのか…

しかし、50年後の武術はマッハを出して身体が骨だけになるのか?
それはそれで嫌だ。
ただ、生き死にを賭けた戦いを腕一本で制することができるのなら安いものだろう。
ファイナルマッハ突きは肉を切ってでも生き残る武術の究極形にして最終形なのかもしれない
殺られずに殺るだ。
肉を切るというか、肉を飛ばす。
そういえば、飛ばした肉はどこへ行ったんだ?

「すっげェ……」

「あり余る才能に…… 愚地克巳が追いついたのォォ……ッッ」


球場随一の問題児二人、刃牙と徳川光成も克巳の偉業には驚かざるを得なかった。
刃牙は久方ぶりに素直に驚愕の気持ちを見せる。
真マッハ突きは当たり前と切って捨てた刃牙だったが、ファイナルマッハ突きの威力と発想には驚愕に値するようだ。
上から目線に定評のある刃牙が珍しく兜を脱いだ瞬間であった。
まぁ、ピクルをKOした以外にも右腕が骨だけになるとそりゃあ驚く。
驚くついでに新聞紙パンチくらいで戦える気になっていた自分を恥じてもらいたい
新聞紙を握るどころか右腕を骨にしないと勝てないんですよ…

一方、徳川光成の賞賛は何だかわかりにくい。
徳川光成曰く、今までの克巳は才能を持て余していたようだ
どれだけ克巳を軽視しているんだお前は。
克巳の決戦の申し込みも躊躇せずに受諾したし、克巳をどれだけ低く評価していたのかが伺える。
でも、128話だとピクルを軽視していた。
烈が食われて以来、徳川光成の発言には一貫性がない
…やっぱり、食われたショックで頭が…

なお、問題児三人目のペイン博士の姿はなぜか見られない。
克巳の肉がなくなった理由をそれっぽく説明してもいいのに…
またも暗躍の準備をしているのだろうか。

(こうせずにいられない…ッッ)

克巳は歓声に包まれながら門下生一同に頭を下げる。
勝ったのに、頭を下げていた。
そんな克巳に末堂の号令の元、5万5千人の正拳突きが捧げられる。

(頭を下げずにいられない)
(こんな俺にアリガトウ)
(こんな俺なのにアリガトウ)
謝りたいと感じてる………)
(だから感謝というのだろう これを感謝というのだろう)


勝利してなお克巳は門下生一同に感謝をしていた。
館長という重荷を背負うと同時に、多くの門下生から信頼も受けていた。
だからこそ、ファイナルマッハ突きという諸刃の剣に手を出したのだろう。
空手家としての人生は終わったが、それに匹敵する輝きを手に入れた。

だからこそ、克巳がここまで戦えたのは克巳個人だけの力ではない。
信頼してくれた多くの人がいたからだ。
かつての驕りと傲慢さが見えた天才空手家愚地克巳は存在しない。
神心会館長愚地克巳がそこにいた。
館長として相応しい人物を目指し、死闘を繰り広げ、やっと克巳はその場所へと辿り着いた。

さて、そんな喜ばしいことがありつつも、克巳は大きなミスを犯してしまった。
バキ世界において自分から勝利宣言ほど危険なものはない
例えば刃牙。勝利宣言をした途端に水弾食らったり金玉蹴られました。
例えば天内悠。勝利宣言をした途端に勇次郎の手刀を浴びました。
例えばオリバ。勝利宣言をした途端に刃牙に鼻穴に指を入れられました。
例えば寂海王。勝利宣言をした途端に…ってこの人は別枠だ。

いずれにせよ勝利宣言した次の瞬間には酷い目に遭うのがこの世界の常識だ
克巳だって花山に正中線四連突をして勝ったと思った瞬間に握撃を食らった。
勝ちを確信するのは勝負ありの声がかけられてからだ。
もっとも、右腕を犠牲にピクル最大の技ピクルタックルを跳ね返したからには、勝利宣言したくなる気持ちもわかるが。

ズシャ…

歓声に包まれる中、異質な音が克巳の後ろから響く。
歓声と比べれば非常に小さい音だったが、たしかなノイズであった。
克巳は音を察知して振り向く。勝利を宣言したとはいえ油断はなかった。
同時に顔が驚きに包まれる
なんとピクルが寝返りを打っていた。
気を失っていたんじゃなかったのか?

(倒されているのではないッッッ)
(ただ………… 眠っているだけ………………!!?)


ファイナルマッハ突きを受けたというのにピクルは眠っていた。
ファイナルマッハ突きには睡眠属性があるとかそういう話ではないだろう。
ピクルタックルを跳ね返すほどの衝撃波をピクルに放ったのだ。ダメージは間違いなくあった。
ならば、この睡眠はダメージ回復手段なのか?
何にせよファイナルマッハ突きを持ってしてもピクルを倒すには至らなかった。

戦闘中に睡眠という前代未聞をピクルは成し遂げた。
普通の人間が相手だったら寝ているところに追い打ちを決めれば勝負ありだろう。
だが、相手はピクルだ。
真マッハ突きを持ってしてもそのダメージはすぐに回復された。
ファイナルマッハ突きも倒すには至らず、睡眠させる程度に収まった。
ヘタな追い打ちをしてもトドメとなるどころか、手痛い反撃を受けてしまうのは想像に難くない。

まして克巳には残された武器がない以上、なおさらだ。
克巳はファイナルマッハ突きで勝利は掴んだに見えたが、その直後に詰まってしまった
ピクルも克巳に武器がなくなったのを見通して眠ったのかもしれない。
凶悪なまでのタフネスと回復力に任せた大胆すぎる駆け引きだ。
汚いなさすがピクルきたない。

これから克巳はどうするのだろうか。
ダメージが大きすぎる。これ以上戦うのは不可能だろう。
一方的に攻め立てたというのにその実瀕死なのは克巳というのが理不尽だ。
圧倒的な理不尽の壁を越えなければ人間はピクルに近付くことが出来ないのだろうか。
MPどころかHPを使い果たす作戦は、脅威のHP回復力を誇るピクルにはあまり有効じゃなかったのかもしれない。

とりあえず、克巳が行える最善の行動はひとつだけだ。
逃げろ克巳。
寝ている今なら逃げ切れる可能性は高い。
イスタス戦では逃げることが最強の護身術だと克巳自体も言ってた
最新最強最後の克巳の必殺技ファイナルマッハ突きの後は、最初期の必殺技逃走が見られるのか?
間違っても追いかけてきたピクルに頭突きなんかしないように。さらに左腕でファイナルマッハ突きとかも止めるように。
愚地克巳。一難去ってまた一難であった。
次回へ続く。


克巳は右腕を失った。
しかし、ピクルは何も失っていなかった。
ファイナルマッハ突き食らってから睡眠余裕でした。
この後立ち上がって克巳に反撃とかやられると笑えない。

おそらくバキ連載史上最大破壊力の攻撃であるファイナルマッハ突きを持ってしてもピクルを倒すことができなかった。
勇次郎の鬼哭拳並みの破壊力を誇るであろうピクルタックルを正面から打ち破ったほどだ。
だが、出血すらない。
地上最強の壁は高すぎる。
あまりにも高く設定しすぎた気がしないでもない。

克巳が逃げるのか先か、覚悟を決めるのが先か、あるいはピクルが起き上がるのが先か。
右腕の犠牲は何だったのかと疑わんばかりの窮地だ。
一時の勝利を手にしたのはいいがそれでもピクルには届きそうになかった。
…おとなしく逃げた方がいいなぁ、これ。

ペイン博士の姿が見えないのもピクルの睡眠の真相を見切ったからだろうか。
克巳の身体の一部を食べたら即麻酔注射を打つ気ですよ。
そうなるとファイナルマッハ突きよりも麻酔注射の方が強いということに…
人体の限界を飛び越えるのがバキ世界だが、科学の力が凌駕してしまうのだろうか。

でも、ホルマリンプールの中で長時間眠ることで、麻酔に対する耐性を付けたかも。
そうなると麻酔注射は意味を為さない。
やはり、肉体を超えるのは科学ではなく肉体しかないとなる。
バキ世界における肉体至上主義の復活だ。
…それはそれでピクルを止められないから困るな。

もしもここからピクルが克巳に襲い掛かれば対抗手段はない。
骨折しても戦うのがバキ世界だがさすがに肉を失った状態では戦えない
しかし、限界を超えても戦うのがグラップラーだ。
克巳もここからさらに限界を…無理だッッ。
左でファイナルマッハ突きを打ってもすぐに睡眠される以上、克巳に出来る最善手は逃げるだけだ。
館長愚地克巳ではなく武道家愚地克巳の姿を見せるのだろうか。

それともここで控えの独歩が登場か?
勇次郎と渡り合ったくらいだ。時間稼ぎくらいは出来るだろう。
でも、標的が克巳から独歩になるだけで根本的な解決にはならないな。

克巳の右腕を差し出しても骨だけでピクルは満足しなそうだ。
腕より肉量の多い烈の左脚を食っても満足しなかったし、克巳が被害を抑えつつ生き残る手段はないといっても過言ではない。
ピクルは泣かずに食わないよりだったら泣いて食う男だし、慈悲の心を捧げられることもないだろう。
ピクルが起き上がりでもしたら克巳は覚悟を決めなければいけなそうだ。

だが、こういう時にこそ刃牙の出番だ。
友?のピンチに駆けつけるのが主人公の役目である。
刃牙には新聞紙パンチがある。妄想ティノラサウルスだって倒した。
ピクルと戦う資格は十分だ!
…ないか。

ここらで刃牙にはいいところを見せて欲しいものである。
病院で慰めさせて株を上げるのは2回も通用しないぞ。
ピクルを阻止しようとして一瞬で潰されて慰められるのはありかもしれないけど。
…あ、一瞬で潰されるのも2度目だ…こっちも通用しないなぁ…



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