範馬刃牙 第135話 開花



克巳は右腕を失ったものの食われることはなかった。
死闘は終わったのだ。
右腕を壊すほどに自分を出し尽くして、その果てに本当の意味でピクルに認められた。
武道家人生は終わった。
終わったが、最後を華々しく飾った。


克巳は久しぶりに出てきた小坊主3人の手で担架で運ばれる。
心配されている右腕にはちゃんと止血が施されている。
バキ世界においては絶大な信頼を誇るゴムチューブでだッッ。
(ゴムチューブさえあれば、長年の試合で限界が来てる膝も数試合は持つ)
だったらイケるぜ!
…いや、まぁ、無理だろう。

肝心要とも言える克巳の右腕は布で包まれている。
冷却剤を詰め込んだ布だと思いたい。
そして、克巳の右腕をくっつけて…
前腕が骨だけになった右腕をくっつけてどうするんだ。
だが、肉がなくとも骨さえあればッッッ。
…いや、まぁ、無理だろう。

小坊主の一人が突然周囲を見回す。
何か異変に気付いたようだった。
それはドームいっぱいまで詰まった5万5千人の神心会門下生がいないことだった。
…あの…もしかして帰っちゃった?
散々エールを送ってやったのに負けるなよ、と克巳に失望してしまったのかもしれない。
右腕を骨だけにするのを覚悟で打ったファイナルマッハ突きを忘れたのか!

そう疑ってしまったら、5万5千人の門下生全てが正座をしていた

[誇るべき我等がリーダーを]
[高みから見下ろすこと遂に耐えがたく]
[誰言うともなく――]
[自らの足元へ正座し――――]
[視線を伏せることで忠誠心を示した]


ピクルという超生物に恐れることなく犠牲も厭わず真っ向から戦ったその心意気は、負けはしたものの門下生全員に届いた。
あの戦いを見て克巳を情けないと思える門下生がどこにいようか。
結果としては自爆だったが、あれほど壮絶な自爆もない。
悪徒最終回並みの自爆…ごめん。言葉を間違えた。

だが、この期に及んでも加藤の姿は見られない
お前は神心会門下生の中でも重要な位置にいるだろうが!
克巳の師匠になっていた時期もあったのに…
あくまで加藤は独歩の側にいたい人間なのだろうか。
独歩がピクルに挑む時、その傍らには加藤がいるかもしれない。

なお、小坊主が出てくるのはさりげなくバキ269話以来である。
そして、「バキ」においてもそこしか登場していない。
あの時の勇次郎の親馬鹿がなかったらほぼ10年ぶりの登場と相成るところだった。


克巳を運ぶ担架は球場を過ぎ入場口に差し掛かる。
そこには刃牙、独歩、徳川光成、ペイン博士の4人が待ち構えていた。
戦い尽くした戦士の帰還を一流の戦士と一流のギャラリーが迎えたのだった。

でも、何で烈と郭海皇がいないのだろうか。
両者共に克巳と縁深い。
二人のうち、どちらかでも欠けていれば克巳はここまで戦えなかった。
顔くらい見せてもいいのに…

命を出し尽くさんばかりの克巳には独歩を除く3人が冷や汗だ。
あの傍若無人マッドサイエンティストのペイン博士も冷や汗なのだ
人間がマッハの速度を出すことは予測の範疇だった。
出せること自体がおかしいがソニックブームで問題ない。
だが、人間がピクルに敬意を払われ、そして食われなかったのは予測の範囲外なのだろう。
ピクルは人間ではないが克巳と同じ戦士なのだ。

[刃牙は心から悔いていた]

何ィイイイイイイイイイイ!?
あの天井天我唯我独尊傍若無人公衆猥雑ティッシュ大量消費SAGA大王範馬刃牙が自分を悔いているだとォ!?

そりゃあ、克巳の壮絶な戦いを見て新聞紙と妄想だけで戦える気でいた自分を恥じないとダメすぎる
腕を失っても勝てないのがピクルですよ。
刃牙は自分のぬるい考えを見直した方がいいだろう。
もしかして、勇次郎にも新聞紙と妄想で勝てる気でいたんじゃないだろうな。

[嫉妬(ジェラシー)から思わずほとばしり出た失言だった]

123話で克巳に言った台詞は嫉妬から出た言葉だった。
克巳は本当に刃牙の先を行ったのだ。

おそらくは技の破壊力において先を越した。
精神力に関しては完全に刃牙を凌駕していた。
もしも刃牙と克巳が戦っていたら、真マッハ突きの時点で勝負ありの気がする。
あの地上最強の一人に入ると父親に称された刃牙を、克巳は超えたのだった。

でも、悔いるのは失言だけかよ。
心構えを悔いろッッッ。
お前に一番足りないのはそれだ。

[過去 数多くの局面で―――]
[この男に失望してきた]


克巳に失望してたって言っちゃったよこの人!
夜叉猿をボコった時も、ドリアンを火だるまにした時も、刃牙は克巳に失望していた。
評価が底辺中の底辺だったらしい。
ひでえ男だ。

まぁ、たしかにあの克巳には失望してもしょうがない。
火だるまにした直後、不覚を取るし。
独歩がいなかったら輪切りですよ、輪切り。
もしも米軍基地に出向いていたら克巳の評価は底辺を貫通してしまったところだろう。

しかし、何というお前が言うな大賞だ
妄想カマキリと戦って恐竜サイズの象と勝ったも同然だとかのたまっていたお前が言うな。
多分、克巳に失望している数倍は周りから失望されている。

[お調子者の―― お坊っちゃまリーダー……]
[そんな 彼がよもや――――――
 これほど気高い開花を見せようとは…………………ッッ]


克巳を上から目線で見ていた結果がこれだよ。
実力に加え精神性においても刃牙を乗り越えてしまった。
刃牙はサボりすぎだ。
それでもどこか上から目線なのが刃牙らしさか。
いいからそこも悔いろ。

[父は誇っていた]

息子は命こそ取り留めたものの右腕を失った。
普通なら悲しむ。
でも、誇りに思う。
強さの世界に生きる親子だけはある。

ピクルに敬意の念を抱かせるのは強いだけでは無理だろう。
それなら食われるだけだ。
強さを超えた精神性を見せないとダメだ。
克巳をそれを為した。
独歩にとって息子がただ強いだけではない価値があるに違いない。

[思えばあの瞬間(とき)ではなかったか 拳雄 烈海王の敗北を知らせたあの時]
[かつて我が子に――― 毛先ほどもなかったあの予感]
[こいつ……][化けようとしている]


103話で克巳は「そーゆーのをナメてるって言うんだよ」と言った。
あの頃は虚勢にしか見えなかった。
だが、長年克巳の成長を見てきた独歩にとって、そこに僅かな変化を感じたのだろう。
そして、克巳は餌以上の存在となった。
予感は的中したのだ。

しかし、独歩も克巳に化ける予感を感じていなかっただなんて克巳の評価の低さがわかる
克巳はあまりに順当に、つまづくことなく強くなっていったので、独歩にとって物足りなかったのかもしれない。
ドリアンに惨敗したのも束の間、何か別の方向に変化してたし。

その中で烈海王は一人だけ克巳に対して高い評価を与えていた。
さすがは恋人ということか。
マッハ突きに対する想いは深いのだ。

さて、そんな克巳が空手家を超えた一人の男として、大きく変化した。
師として、父として、感動に値することだろう。

「かなわねェ…」
(見事な化けっぷりだ)


独歩は呟く。
空手家愚地克巳は死んだが、ここに神心会館長愚地克巳が生まれた。
自分が作った組織を安心して跡を任せられることだろう。
感無量である。

独歩に心残りはなくなったことだろう。
ならば、次は独歩がピクルに挑む番か?
生死を超えた領域で戦うのは独歩も同じだ。
何せ1度死んでいるくらいだ。
顔面爆破を食らって死ななかったのも不思議である。
神心会VSピクルはこれからが本番かもしれない。
でも、1度死んだという点ではピクルも同じだよな。

戦士たちはそれぞれの思いを胸に克巳を見送った。
今度はギャラリーの出番である。
ペイン博士は徳川光成にピクルの所在を問う。
おい、わからねえのかよ。
克巳を見逃したもののSSS級の危険人物なことには違いありませんよ。
トラックか剣持武志が危ないッッッ。

「聞こえんのかね……」
「この―――地の底から響くような 遠吠え………」
「無傷に見えるピクルにとっても……」
「それほどの闘いじゃったということじゃろう…………」


地下闘技場でピクルは涙を流しながら絶叫していた。
この叫びは心の痛みか、それとも身体の痛みか。
ちょっとくらいなら後者であって欲しい。
腹が減りすぎて食わなかったことを後悔しているとかは、止めて欲しい。

実質、無傷で勝利したピクルであったが、その感情は大きく揺れていた。
マッハ突きはピクルのハートを射貫いたのだった。
身体で勝てなくても心で勝て。
刃牙に対するメッセージなのかも。
ダメだッッ。そこが刃牙が一番やる気出してない部分だッッッ。

東京ドームにピクルの叫びがこだまする。
ピクルは肉体で勝利し、克巳は精神で勝利した。
痛み分けだった。
克巳側の損害もひどいが、ピクルの心へのダメージも大きい。
これにて克巳VSピクルは完全決着した。
次回へ続く。


ピクルの肉体と克巳の精神力のぶつかり合いは終わった。
お互いが足りない部分に被害を被った形だ。
克巳のように精神力での勝負を続ければ、そのうちピクルの精神が崩壊するかもしれない。
それはない。

克巳の強さよりも精神面が強調された戦いであった。
花山が精神力で花山を押したのも伏線だったのかもしれない(111話)。
肉至上主義のバキ世界でも精神力が力を発揮することもあるらしい。
まぁ、骨だけになるくらいの精神力じゃないとダメだけど。

この辺は刃牙も見習ってみてはどうか。
でも、妄想の達人刃牙ならお手の物か?
余裕で多重関節にします。
克巳の自爆を見習って900kmくらいで殴る。
これなら空気の壁と激突しないから安全だ!
全力を出し切らないセコさにピクルが怒るかもしれない。

まぁ、刃牙に足りないのは覚悟だな。
ピクルと戦いたいのにいざ喧嘩を売られると尻込みしちゃうし、どうも覚悟が足りない。
覚悟というよりやる気か。
8人の戦士がそれぞれの生き様を見せれば刃牙も化けるかも。
…8人の犠牲が必要なのか…嫌だな、それは。

技術でピクルの肉体を叩き伏せることは出来ず、精神力でも叩き伏せることは出来なかった。
筋力を超えた範馬力が必要になってくる頃か?
範馬力が覚醒すればオリバにも押し勝てるのだ。
こんなのに負けたらピクルは何かひどく不満そうだが。
普通に泣いちゃうよ。

でも、何だかんだでピクルの食料問題は解決していない
ピクルは水だけあれば1ヶ月は生きることができる生命力を持つ。
しかし、そんな無茶を毎回させるわけにもいかない。
でも、戦士を食べさせる無茶も毎回させるわけにもいかない。

ここらでピクルも文明に目覚めてはどうか。
野菜を食べるのだ!
野菜なら襲い掛からなくても問題ない。というか、そもそも襲い掛からない。
そうだ、野菜食わせればいいんじゃん。
恐竜にだって草食のものはいるだろうし、だとするとピクルは草食という概念を知らないはずがない。
野菜だって食べれるのだ!

それに野菜を食べる理由もある。
ライオンが野菜を食べないのは草食動物の内蔵から食物繊維を摂るからだ。
でも、ピクルはまだ内臓を食べてない。
食べたのはシベリアトラくらいだ。残念ながら肉食です。

そんなわけで食物繊維不足が続いている。
今こそピクルに野菜を!
主食にはなりえないだろうが、ピクルにとって重要な食料になることは疑いようもない。
そうだよ。強敵とかの前に野菜だよ。
ピクルは思いっきり肉食だけどここは我慢して野菜を食らってもらう。

でも、バキ世界の住民のほとんどが野菜を食べていない気がする。
肉だらけですよ。
オリバもジャックも、ステーキしか食っていない印象がある。
刃牙なんてカップヌードルだ。お前それでいいのか。
…やっぱり、肉しかないのかなぁ…

構成部品を肉だらけにしたミートイジメテ君をピクルに襲い掛からせてみてはどうか。
食物繊維対策に内臓もぶらさげておく。
あまりにキモい外見にさすがのピクルも引く。



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