範馬刃牙 第21話 自由の種類



ナンバー2の向かいに屈強そうな大男が座っていた。
噛まれるにはいい体格だ。
噛まれる人は大抵いい体格だけど。

刃牙の隣に同じ部屋にいた爺さんが座った。
ナンバー2の向かいにいる男が挑む気だと解説する

「君の国の国技大相撲(スモーレスリング)出身だ」
「総合格闘技に転向しわずか数試合で王座に上りつめている」
「そのバカ力を路上で発揮しちまった」
「日本でもアメリカでも喧嘩は負け無し」
「もっとも刑務所(ここ)にいる連中はたいていそうだがね」


すげえッ!!
どうしてそんなことを知っているんだッ!!
何でも知ってるわぁ、この爺さん。
刑務所内での役職は解説役で決定だ。
刃牙が剛体術を使おうとすれば、
「あッッ…あれは鎬紅葉に使った剛体術の構え…ッッッ」
「知っているのか爺さんッッ」
「うむ、必殺の威力を持ちながらも長い連載で一度しか使っていない技よ…」
「俺は恐ろしい男を同室に持ったもんだぜ…」

――などなど解説で場を盛り上げることだろう。
ついでに2番目と4番目はアイアン・マイケルの台詞です。

大男が飯を食べながらナンバー2に話しかける。
大男では刃牙と同室の巨人と混同しそうなので、この場では田仁志君と呼ぼう。
太めの体格はまさに田仁志君だ。
頑張れ田仁志君!
かってんぐわぁー!

「アンタが2(セカン)と呼ばれるならとりあえず俺は1stとでも名乗るか」

はいでぇー!
俺が王様(キング)だ!宣言だ!
1stと名乗るにはオリバという壁を越えなければいけないことは忘れておこう。
こういった大風呂敷を広げる時点で田仁志君の死亡フラグは確定したようなものだが、あえて無視しておこう。

田仁志君はスプーンを使いづらいと言い、指の力でふたつに割った。
「フン……」と田仁志君はすごく自慢げだ。
でも、これくらいなら花山薫が13歳の時点で乗り越えている領域だろう。
自慢できることじゃない。
刃牙は「周囲(まわり)の反応は冷たいッスね」と静かに突っ込む。
いや、一番冷たいのはアンタだと思う。

対するナンバー2のパフォーマンスはスプーンの真ん中を指先でつまんで上下に揺らすものだった。
誰もがやったことのある目の錯覚でスプーンが柔らかくなるあれだ!
ナンバー2、完全に田仁志君をおちょくっている。
おちょくっているからこの話だけナンバー2を越前と表記しておく

ふにゃふにゃとスプーンで遊んでいたナンバー2だが、突如指の動きが速くなる。
するとスプーンが完全に折れ曲がっていた
すごいけど相変わらず地味だ
越前にはもっとわかりやすくすごいことをやってもらいたい。
指が6本になるとか。

これにはさすがの田仁志君も動揺を隠せず口を大開きにする。
この動揺を引きずりたくないのか、悟られたくないのか、即立ち上がってちゃぶ台返しで奇襲する。
ぶがぁあああああ!!
田仁志君大立ち回りだッ!
でも、越前は微動だにせずちゃぶ台返しを受ける。
身体に料理がぶっかけられたが、まったく表情を変えない。
もしかしたら静かに怒っているのかもしれない。
大好きなオムライスを食べられなくなった挙句、嫌いなポークビーンズをかけられれば普通キレる。
…キレる、よね?

田仁志君の暴動に看守が銃を構える。
が、それを越前が手で制する。
看守よりも越前の方が権限は上のようだ。

「俺を倒し――そして何を手に入れる」

「不自由な内(なか)での――――――せめてもの自由……………」


田仁志君…自由が欲しいならオリバを倒そう
アンチェイン待遇さえ手に入れれば、ステーキ食べ放題国外旅行し放題だ。
まぁ、その足がかりとして越前と戦うのかもしれないが。

「ここに居る者にとって唯一の楽しみである食事」
「君はそれを奪った」
「重罪だ」


越前はやっぱりオムライスとポークビーンズの件で怒っていた。
もう、せっかくのツンデレっ娘がデレて作った料理がドブに投げ捨てられた気分なのだろう。
美味かろうが不味かろうが関係ないのですよ。
ツンデレっ娘が作ったこと自体が幸福なのですよ。

「君から自由を奪う」

越前は目にも止まらぬ動きで看守から銃を奪い田仁志君に渡そうとする
囚人に銃を奪われるのは一大事だ。
前回も奪われたのは気にしない。
それはともかく看守は銃を慌てて取り返そうとするが、先輩と思しき同僚に止められる。
手出しは無用ということか。
越前の力は絶大だ。

越前の行動に田仁志君は冷や汗をダラダラ流す。
あ、負けたなこいつ。
もう完全に負ける気だ。
そして、爺さんは「見るに忍びない…」とコメントする。
なんか本部100%だ。実に本部だ。
刑務所内にこんな見事な解説役がいるのは幸福だ。
これでバキの楽しみが30%ほど増えた。

「考えたな」
「拳銃持たせりゃ負けても言い訳ができる」


田仁志君は自分が勝つことを前提で考えている。
でも、冷や汗ダラダラだ。
負ける準備は万端だ!!
相手が越前かどうかなんて関係ない。
今ならアイアン・マイケルにすら敗北できるだろう。
…いや、アイアン・マイケルになら勝てるか。

越前は田仁志君に銃を持たせる。
「しっかり持つんだ」としっかりエスコートしてあげる。
「急所に当てて…………」と額に銃口をつける。
傍目から見れば越前絶体絶命だ。
だが、周りは本当に冷めた目で見ている。
越前にとってこれくらいは日常茶飯事ということか。
舐められに舐められた田仁志君は指に力を込めて、引き金を引こうとする。
さっすが田仁志君!
俺たちにできないことを平然とやってのける!
そこにしびれる憧れるぅ!

が、引き金を引こうとした瞬間、越前の金的が田仁志君に決まった
COOL金的だ。
解説爺さんは「カワイそうになァ………」とコメントしているが本当にかわいそうだ。
金的にお約束の「メタァ」も「メキャッ」もない。
効果音なしで股間に電撃が走ってる。
すごく痛そうだ。
田仁志様ぁッ!
はいでぇー!はいでぇー!
かってんぐわぁー!かってんぐわぁー!


「引き金を引く以外何一つ自由がない」
「2(セカン)の思うツボじゃ……」


田仁志君は胃液を吐きながら悶絶している。
手の位置はおそらく定位置だろう。
そんな敗者が悶絶する中、解説爺さんは静かに越前の勝因を分析する。
どうやら、銃を持たせることにより銃を使う以外の選択肢をなくしたようだ。
相手の行動がひとつに絞らればそれに対応するのは容易、ということか?
もっとも、これは指の動きに勝る金的が可能な越前の身体能力があってこその戦術だろう。
何にせよ越前は身体能力だけでなく、戦いの駆け引きも一流らしい。
油断ならない強敵だ。

「死ぬにはいい日だ」

悶絶する田仁志君を見下ろしながら越前はつぶやく。
待て、まだ追い討ちするつもりなのか?
田仁志君の活躍を次号も見られると嬉しいのだが、これ以上やられるのも不憫だ。
金玉を潰されたんだから、これ以上叩くところがないだろう。
そういう意味でシコルスキーは立派だった。
金的を食らった上でさらに叩きのめされたのだ。
見事な噛まれスピリッツだ。
ロシア人は違う。
田仁志君もロシア人だったら、もっと奮闘できたのになぁ。


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