範馬刃牙 第293話 父への贈り物(プレゼント)



刃牙の手の中には何かが握られている。
チャリという音からは金属質な何かであることは間違いない。
ここで懐かしの夜叉猿の牙を隠しており、勇次郎に夜叉猿を殺したことを謝らせたりして。
自分で食べたことは忘れた。


「どうか………」
「受け取ってよ」
「もらってばっかじゃさ…………」
「悪いから…………」


刃牙は手の中に隠した何かを勇次郎に渡す。
すっかり血涙は止んで脱剣といった風情だ。
表情も生き生きとしており、すっかり回復済みだ。
範馬刃牙はこの身を鬼と鍛えた戦士ですから……この程度では折れません。

しかし、早いよ。回復早すぎるよ。
勇次郎とて手に余る回復速度だ。
こりゃ、6%以下の酸素の使用も辞さない勢いだ。
実は柳って凄かったのか?
そんな柳に勝った本部はもっと凄いのか?

勇次郎は手の平を開く。
そこには車のパーツで作られた人形があった。
ワイヤーやネジを手足に、ギアなどの太いパーツを頭部に見立てている。
ねじ穴を目に見立てていたり芸が細かい。

範馬一族は例外なく芸が細かい。
勇次郎は数々のパフォーマンスから言うまでもないし、ジャックも口の中で釘を固結びにしたり意外と器用だ。
で、刃牙もこうして車のパーツで人形を作った。
勇一郎がジェームズ少将を甲板に串刺しにしたのも器用さが現れてる。
普通なら頭が潰れる。
端から端まで器用な一族である。

「これをいつ……」

珍しく勇次郎が問う。
その答えは車に叩きつけられながらだった。
まさか、身を守るだけではなく、人形まで作っていたとは……
器用さはもちろんのこと、ものすごい集中力だ。
今の刃牙にとってはドレスでさえ、片手間で対処できるものということだ。
範馬脳、目覚めすぎである。
脳に血が集まりすぎて、むしろ範馬脳が活発化したのだろうか。

「オマエは」「俺をして叩きつけられていない」

勇次郎もドレスをやりながらも、手に伝わる衝撃から刃牙が回避していることを感じていた。
だが、刃牙が人形を作っていたことまではさすがに予想できなかったようだ。
これは間接的にではあるが刃牙が勇次郎の上を行った。
範馬脳、すげえや。

その勇次郎は密かに人形をズボンのポケットに入れている。
うっわ、親馬鹿!
この人形は刃牙が勇次郎の上を行った証左だ。
ある意味では勇次郎が待ち望んだものである。
そりゃあポケットに入れるか。

「手足がどーもね」
「雑でね」


そんな刃牙は何だか心ここにあらずと言った具合で同じことを繰り返す。
大事なことなので2回言いました。
普段なら喜ぶなり勝ち誇るなりしているところだ。
刃牙が奇行に走ると次の瞬間何が起こるかわからない。

「オマエさっき…」「なにか」

「“もらってばかりじゃ”……だね?」


勇次郎は先ほどの刃牙の言葉を問う。
と、同時に戦慄する。
直後に刃牙が縦回転だ!
蹴りか?
勇次郎は何とか回避するが顔が歪む。
勇次郎をして戦慄させ平常心ではいられなくする攻撃だった。

「その通りだよ父さん」
「俺はもう受け取っている」
「父からの勝利………!」


刃牙がデカく出た! 加えて範馬脳が覚醒だ!
久し振りの勝利宣言である。
いつもの、というかついさっきまでの刃牙なら何を言っているんだ?
と相成るところだが、今の刃牙の集中力はとんでもない。
ドレスでさえ楽々対処できるほどだ。
今の刃牙の反応速度は並大抵のものではない。

勇次郎は重心を下げる。
生意気を言われたから即折檻の構えだ。
だが、今の刃牙にはそれさえも止まって見えているのか。
重心を下げた瞬間にハイキックがモロに決まった。
まさかのクリーンヒットである。
0.5秒理論もゴキブリダッシュも用いていないのだろうか、純然たる反射神経による一撃か?

これを受けて勇次郎は鼻血を流す。
勇次郎が鼻血!?
これは由々しき事態だ。
勇次郎は戦いにおいて出血したことはほとんどない。
郭海皇との戦いで妙に出血したくらいだ。
あれもあれで出所がわからないから、出血に数えていいものやら。

その勇次郎が鼻血を流した。
そして、鼻血はけっこうなダメージがあることを証明している。
刃牙のハイキックは勇次郎にたしかなダメージを与えている!

勇次郎の上体が崩れる。
振り返ったところにさらに顔面にパンチだ。
勇次郎はのけぞる。
刃牙の連撃はたしかなダメージを与えている。
思えば刃牙が鬼の貌を出してから、勇次郎に一度も打撃を与えていなかった。
通常時でさえピクルには大ダメージを与えられていたし、ならば鬼の貌で殴れば勇次郎が相手とてダメージを与えられるのか?
強い! 強さが爆発しすぎている!

これで刃牙にも逆転の目が出てきたのか?
鬼の貌を出した以上は打撃力では肉薄するのが一応の道理だ。
ならば、勇次郎を上回る反射神経を身に付ければ差を覆してもおかしくはないか。
これは勇次郎も油断できなくなってきた。

「ねェ」「会話(はなし)長くね?」

「教育だから」「あれは教育だからッッ」


観客たちの熟練度も上がってきたのか、ちゃんとわかっていらっしゃる。
さすがはドレスを見た上で戻ってきただけのことはある。
しかし、会話が長いのか、あるいは話が長いのか?
もう少しで1周年だ。話が長いと言われても仕方がない。
メタ発言に思えてくるくらいだ。
教育だから大丈夫か?
次回へ続く。


刃牙が覚醒した!
脳の覚醒の効果は抜群だ。
もしかして、刃牙は肉体は勇次郎に匹敵するポテンシャルを秘めていたけど、
脳が覚醒できていなかったからそれを活かせなかったのかもしれない。
人間は潜在能力の30%も活かせていないとか何とか。

今のところ、刃牙の反射神経は勇次郎を凌駕している。
パワーで勝てないならスピードで勝負ということか。
常時0.5秒を先んじられると勇次郎とて困りそうだ。
今の刃牙ならそれもできそうなのが怖い。

だからとて! 勇次郎を圧倒できると決まったわけではない。
刃牙に範馬脳があるのなら、勇次郎にも範馬脳があると見るべきだろう。
勇次郎はもう1段階変身を残している状況だ。
それをやられたら刃牙も敵わんだろう。
まだまだ転ぶ要素はある。
その前に刃牙がケリを……さすがに無理か。

戦いは技術の進化、筋肉の進化、骨格の進化と来て、究極系として脳の進化が訪れた。
もう生まれ持った何かがなければどうにもならない。
何か世知辛い世の中だなー。
勇次郎戦を終えたら次は宇宙人くらいは呼んでこないと厳しいかも。
人非人トーナメントなんて開いたら盛り上がりそうだ!
無理ですか。さいですか。



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