範馬刃牙 第300話 血肉を争う



梢江でさえ止められない戦いだ。
梢江の割り込む隙なし。
というか、梢江が紙面に割り込んで欲しくなかった。
せっかくイカ娘などで紙面の雄臭さを中和しているのに、梢江が雄臭くしてどうするよ。
って、あれ?


「きゃあああッッッ」

梢江は女性らしい悲鳴を上げる。
目の前で殴り合いが行われればJKなら悲鳴の一つや二つは上げる。
誰だってそうする俺だってそうする。
でも、梢江なら「うぎゃっ うぎゃっ うぎゃーっ!!」とか見苦しい悲鳴を上げても良かったのに。
女なら梢江ひとつで勝負せんかい!

刃牙が白目でうずくまるのに対し、勇次郎は余裕ありげに鼻血を飛ばしている。
パンチ力の差か、タフネスの差か、正面衝突では勇次郎に分があるのか。
刃牙、白目だし。あ、勇次郎も白目だ。
最近、二人とも白目比率が高い。
これが範馬化現象だろうか。

「バッカじゃないの!!?」

梢江がツンデレ系ヒロインの常套句を叫んだ!
何というヒロイン!
真夜中に萌えの王道、セーラー服で駆けつけただけではなく、
さらに定着しきったが故に文化として昇華したツンデレヒロインの要素をプラスした!
もはや萌えの最終兵器とはこのことである。
心臓の弱い人間なら萌え死ぬことは想像に難くない。

さらに握った手を胸元に持ってくるポーズを取り、可愛さアッピルにも余念はない。
憎まれ口を叩きつつも可愛さを押し出すことを忘れない。
まさに屍肉を喰い漁るハイエナの如く貪欲な萌えへの姿勢だ。
これはちょっとヤバい。
もうチャンピオン最萌えは梢江で決定だ。
この必死さ極まる表情も威嚇しているタスマニアデビルみたいである。
積極的にお近づきになりたくない。

「ひイッッ」

あざといというか、露骨というか、えげつないというか、腐臭がするというか、えずきたくなるというか、
そんな熱烈な萌えアピールの直後にこの包み隠さない悲鳴である。
あえて可愛くない表情や声を用いることで逆に萌えさせる高等技術だ。
萌えの最終兵器松本梢江とはこのことである。
スマイルプリキュアの黄色かよ。
キュアアグリーとか名乗ってみてはどうでしょうか。

さて、百戦錬磨の梢江がなぜ悲鳴を上げたのか。
再び刃牙と勇次郎が目の前で殴り合ったのだった。
今度は同時にアッパーだ。
お互いの身体が浮き合う奇妙な光景だ。
もはや物理現象に囚われない摩訶不思議が展開されている。

一見押されたに見えた刃牙だったが、素早く復帰して反撃を行っている。
パワーでは勇次郎に分があるかも知れないが、刃牙は一歩たりとも引く気はない。
今ならピクル相手にも互角に殴り合えるかもしれない。

[終了(おわ)りが近い……]

刃牙も勇次郎も梢江も決着が近いことを感じていた。
ホントかよ!?
正直、嘘臭い。
1年間、殴り合った上で決着が近いと言われるとなるほどそれもそうかもしれないとなるはずだが、
どうもこの親子二人はその辺が胡散臭くて仕方がない。

この激闘を見て観客たちは感じていた。
己の裡の野生が失われていたことを。
男なら誰しも最強を夢見る。
最大トーナメント決勝戦で語られたことだ。
そして、多くの人がその夢を失ってしまう。

刃牙と勇次郎は夢見た最強そのものだ。
観客はただすごいものを見たかっただけかもしれないが、それ以上の何かを感じていてもおかしくはない。
例えば人の可能性とか。
例えば試合が長いとか。

打撃戦もヒートアップする。
勇次郎のパンチを飛んでかわし、そのまま蹴りを叩き込む。
さらに顎を拳で打ち、もう一度殴る。
高速の3連打によるカウンターだったが、構わずに勇次郎はハイキックを叩き込む。
何とかガードに成功するが天地が逆になったようだ。
体勢を立て直したところで手刀で地面に叩きつけられた。
刃牙がスピードで戦い、勇次郎がパワーで戦っている。
二人の違いが如実に表れた駆け引きであった。

[もはや数時間にも及ぶこの肉の削り合い]

長ェ! だが、説得力ありすぎる!
そりゃあ1年間戦えば数時間にもなるか。
あとアンタらは話しすぎだよ。
もはや戦うのじゃなくイチャイチャするのが目的にしか思えない。
梢江にも突っ込まれるほどだ。
うん、イチャイチャするのが目的か。

刃牙は地面に叩きつけられた状態から勇次郎の身長くらいまで飛び上がる。
ものすごい跳躍力だ。
助走なし劣悪な姿勢からのジャンプでこれだ。
そして、勇次郎の首に脚で組み付く。
これは転蓮華だ!

この世で一番使われた必殺技でございますか?
マッハ突き、紐切り……いろいろございますなァ……
ただ――たった一つだけというのならやはり………
転蓮華でございます。

そんなわけで転蓮華は幾度も用いられた必殺技だ。
その使用回数はトップクラスである。
烈VSタクタロフ、刃牙VS烈、刃牙VSジャック、そして今回と4度も用いている。
これと並ぶ多用された技は廻し受けくらいだよ。
何か本家の烈よりも刃牙の方が使用している。
よほど気に入ったのか。

だが、勇次郎には力で抑えられてしまう。
まぁ、ジャックでも力で転蓮華を破ったほどだ。
勇次郎に通用しないのは道理か。
でも、刃牙は冷や汗だらだらだからけっこう焦っている。
転蓮華は姿勢さえうまく行けば体重任せで筋力や技術があまり関与してこないもの、
つまりは効き目の上限が決まっている技だと思うけれど、いざやってみれば案外違うのだろうか。

ジャックはこのまま投げ飛ばしたが、勇次郎は違う。
このまま、姿勢を正し直立する。
それは肩車をしているような状況だ。

[この親子喧嘩は]
[不和ではない]
[これって融和だろ!]
[世の全ての親子達が……]
[お手本とすべき親子関係だろ!!!]

そして、何もなかったように歩き出す。
まるで子を肩車するように、子を自慢するように。
でも、お手本とするべき親子関係なのかな……
お互いの全てを用いてコミュニティを行っているのは実にいい関係と言えなくもないが、
常人どころかムエタイ戦士なら何回死んでいたのか、数えることも躊躇われる。

ともあれ、思いっきり二人の関係が肯定された。
まぁ、やたらと仲が良いしそこは肯定しておくべきだろう。
実にいい親子関係と言えなくもない。
なので、ジャックのことも忘れないでください。
次回へ続く。


二人とも全力でぶつかり始めた。
なのに、なかなか進まない。
本当に決着間近なのか?
うーむ、いまいち信用ならん。

でも、梢江が出たし決着間近なんだろう。
うん、そうに違いない。
梢江の後に誰が来てもインパクトに劣るというものですよ。
郭海皇が来てもさすがに梢江には負ける。

なら、梢江以上のインパクトがあれば、まだまだ続くかもしれない。
そうでなくとも続くかもしれないが、まぁそれは置いておこう。
梢江以上のインパクトのあるキャラっているかな。
サムワン海王なんていいかもしれない。ドヤ顔で現れた彼を思えば笑いがこみ上げる。
郭春成もどうだ。あいつ、わりとピクルに似ている。郭春成が大コケしたからピクルが生まれたのかも。
いやいや、本部のインパクトはシャレにならない。梢江よりも普通に喜ばれる。
そろそろ、ゲバルのことも思い出してあげてはどうだろうか。何かものすごい勢いで使い捨てられた人だった。
そういえば、ルミナはどうしているんだろう。刃牙の数少ない友達だろうに。友達だよね?

ここでやっぱりアレかな。
まさかのボルトの登場!
ヘヴィ級チャンピオンのタイトルマッチでさえ見られない壮絶な打撃戦にチビる。
戦わずして本気で負けている男、ウィルバー・ボルト。
終わりの気配は見えるかも知れないが、彼の登場の気配はまったく感じられないのは悲しい。



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