餓狼伝 Vol.211
公開処刑ショーの始まりだ。
ヤクザと機動隊の二人には黙祷を。
いや、死にはしないだろうけど、酷い目に遭うだろうな。
というか、決勝戦の後にこんな奴らを料理してどうするんだ。
るいはこれは撒き餌を作るための準備なのだろうか。
松尾象山は潰した小魚を針に付けることで、より大きな獲物を狙おうとしているのだ。
「白強者」
「――と黒強者」
「ハッキリ言ってヤ○ザと機動隊」
「あまりにもワカりやすい強者2人ッッ」
えー、ヤクザは伏せ字なのか?
放送禁止用語なのかと調べてみたけど、特に何もないようだ。
さて、一目瞭然、わかりやすい強者、らしい。
先ほどまで戦っていた格闘家一同は何だったんだ?
この二人にはある意味稀少動物のような珍妙さが求められているのか。
うん、いろいろとイロモノっぽいし期待できる。
まずは黒強者ことヤクザが動く。
松尾象山を「松さん」と呼ぶことから、それなりに親しい仲のようだ。
友人だと自分から名乗っていることから、お互いがお互いに友と認め合っていることが伺える。
松尾象山の友人であるだけでも半端じゃない。
二人の間に何があったのだろうか?
もしかしたらヤクザの顔中に刻まれた傷痕は松尾象山によるものかもしれない。
「ヤー公明るい所に引っぱり出して 何させる気だい」
「喧嘩」
松尾象山は即答だ。
しかも、素手による喧嘩ではない。
刃物も不意打ちも解禁した本物をやれと言う。
全て演舞として処理するつもりらしい。
もう空手大会とかそういうのは関係ない。
ただ戦いたいだけなのか?
松尾象山の挑発的な言葉にヤクザの顔が強ばる。
暴力世界に生きる腕に自慢と自信のある男だ。
丸腰の相手にそんな男が刃物も不意打ちも使えと言われたからには、プライドを傷つけられたような心持ちなのだろう。
ヤクザはサングラスを外すと同時に握って砕く。
その破片を松尾象山の目に向かって投げつける。
目潰しだ。
襲い掛かるガラスの破片を松尾象山はまばたきもせず受け止める。
実際にガラスが眼球に当たっても微動だにせずだ。
すさまじい動体視力と胆力である。
ヤクザの目潰しは失敗に終わった。
だが、構うものかと胸からナイフを取り出し松尾象山の腹部に突き立てようとする。
友人なのにノー遠慮すぎる。
いや、松尾象山の友人だからこそか?
目潰しからナイフによる致命傷を狙った不意打ち。
松尾象山の言った通り、刃物あり不意打ちありの本物を衆人環視の前で実践した。
このヤクザ、ただ者ではない。
普通、やれと言われてもやれません。
完璧な流れの不意打ちであったが相手が悪かった。
松尾象山は一連の不意打ちにまったく動じず頭突きで切って落とす。
鼻血と共にヤクザは膝を床に着ける。
決着であった。
一瞬の隙を狙いすまそうとした不意打ちは、一瞬の隙も見つけさせなかった松尾象山によって破られた。
これには丹波も驚く。普通に驚く。
…「松尾象山ならこれくらい当然だ」くらいはハッタリかませよ。
目の前で見ている機動隊ならばその驚きは丹波以上だろう。
そう思っていたら無表情だった。
冷静に松尾象山の戦力を分析しているように見える。ただやられるだけでなく、勝機を見出そうとしている。
この男はなかなか出来る。素手でも1回戦を突破する実力はありそうだ。
やられ役だけど。
松尾象山は目から血を流す。
おそらくガラスの破片が刺さったのだろう。
だが、意に介せず機動隊の方を向く。
やはり生贄は一匹では済まないらしい。
機動隊は自分とは真逆の立場にいるヤクザの行動を評価する。
サングラスによる目潰し、ナイフの強襲を双方ミスではないと言う。
「松尾象山とて所詮は人間(ひと) ――という戦力分析の甘さに尽きる」
人間だと思っていると勝てない相手が松尾象山らしい。
常人離れした体力と精神力の持ち主だ。
梶原なんかじゃ足下にも及ばない。
そんな相手にさすがの機動隊も素手ではやらないという。
だが、今は完全武装。そして、自らも武道家だった。
「敗北(まけ)る要素が見つけられません」
ダメです。この人も松尾象山を人間扱いしています。
同じミスを犯す気かよ。
武装した程度で勝てるなら苦労しない。
そして、板垣漫画においては国家権力ほど弱いものは存在しないというのに…
機動隊は盾を前に突きだして守りの布陣を敷く。
多分、障子紙程度の役割しかなさないだろうが、これで守りの準備は万全だ。
拳でも蹴りでも破壊されそうだ。どうするんだ、機動隊。
!
機動隊は盾で松尾象山の足の甲を刺した!
いくら常人離れした肉体の持ち主でもそこに筋肉はない。
そして、盾を使えば態勢を変に崩すこともない。
守りながら急所を攻めるという武道家のノウハウが活きた完璧な奇襲であった。
とりあえず先手は機動隊が取ったが先手を取っただけで終わる可能性も大いにある。
機動隊の安否やいかに。
松尾象山が酷い目に遭う姿をまったく想像できないのは人望であろうか。
次回へ続く。
ハチャメチャ展開がさらにハチャメチャなことになってきた。
いきなり刃物沙汰はいくら何でもまずいと思います。
さすが松尾象山だけあり強権発動だ。
とりあえず、機動隊は何も出来ず負けるだろう。
武器と盾持っていれば勝てる相手でもない。
問題は倒した後だ。
盛大な撒き餌の後に松尾象山は何をするのだろうか?
やっぱり、鞍馬か?鞍馬が生贄になるのか?
これで何も起こらずに大会が終わったらある意味すごい。
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