餓狼伝 Vol.214
北辰館トーナメントが終わり新展開が始まろうとしている。
新展開となれば主人公の出番ですよ。
6年の封印の潜伏期を経て、丹波が華麗に蘇る時が来る!
というわけで早速長田が出てくる。
帽子とサングラスに身を隠して、夜の街を歩いている。
北辰館トーナメントで名が売れてしまった有名人だ。
街中を歩く時には変装をしないと不都合なのだろう。
って、長田かよ。
丹波じゃないじゃん。主人公じゃないじゃん。
実質、北辰館トーナメントの主人公は長田だった。
もしかして、さっくりと主人公の座をいただいちゃったか?
「オマエさんを殺そうとしたら ラクショーだったぜ長田さん」
丹波が登場した!
背後から不穏当な言葉をかける。
声をかけられて、初めて長田は丹波が背後に立っていることに気付く。
いや、隙ありすぎだろう、長田。
ちょっと油断しすぎですよ。恋人の藤巻が自分の元を去ったから心に空白が空いているのだろうか。
二人に面識はない。
特に長田からしてみれば丹波なんてどこのニート、もとい馬の骨といった感じだろう。
でも、長田は丹波のことを知っていた。
知る人ぞ知る一流闘士という扱いだろうか。
あまりにマイナーすぎる気がしないでもないが。
丹波は長田を駐車場へと招き入れる。
夜の駐車場に格闘家二人…喧嘩でしょう。
というわけで、丹波の用件は喧嘩であった。
長田は丹波の挑戦状にどう対応するのか。
プロレスの道を志したきっかけは川辺に喧嘩で負けたことだった。
喧嘩もプロレスの一部だと長田も承知しているに違いない。
ならば、挑戦を受けないわけがない。
丹波と長田の勝負が、今始まろうとしている。
「………………………… バカな…… お互い……………プロ同志だぜ……」
エー!
渋った。あの長田が普通に喧嘩を渋った。
日和りすぎだろう、この人。
二度と泪(なみだ)しないための道を歩んできた男が、こんな弱気を見せるなんて…
こいつ、梶原じゃないよな。
長田は弱音を吐いた。
その弱音を丹波は「怖じ気付く」「ビビってる」と徹底的に煽っていく。
弱点を徹底的に攻めるのは基本だ。
丹波はその基本を忠実に実行している。
6年間戦っていなかったくせに実行している。
いや、ブランクはあんまり関係ない。でも、身の程をわきまえた方が…
丹波は小石を蹴り、長田の帽子を吹き飛ばす。
何という正確なコントロールであろうか。
顔に似合わず器用な男である。
少年時代にコーラのリフティングをやってのけただけある。
丹波の技に長田は血の気が引く。
引くのかよ!
ダ、ダメだ…ダメすぎるぞ、この長田。略してダメ田。
今の長田は丹波にすら負ける。負けるだけの弱気を感じさせる。
「ここで殺されるかも知れねェッッッ」
レフェリーなし。ゴングなし。ルールなし。
そして、地面は固くいろいろなものが転がっているアスファルトだ。
ヘタすれば死ぬ。
実戦の厳しさを長田に突き付ける。
それを聞いた長田は後ろに下がる。
うわあ…なんだ、この人。
本当の本気にダメ田だ。
以後、ダメ田と呼ぶ。
ダメ田は丹波に威圧され、やっと手をあげ構えを取る。
だが、表情に闘志はまったくない。
丹波に完全に気圧されている。
構えも戦うための構えというよりも守るための構えだ。
ダメ田だ…
まさか梶原の域に長田が踏み込もうとは誰が予想できただろうか。
「――ッてバカ……」
「本気にする奴がいるか…………」
今までのは冗談だと丹波は親し気に近寄る。
冗談で駐車場まで連れてこられたら普通怒る。
だが、長田は安堵する。
もう、この人から闘争心は完全に抜け落ちていた。
で、丹波は長田の両手を掴む。
って、長田、お前はホッとしている場合じゃねえよ!
ガードを封じられた。丹波の攻撃を無抵抗に受けることになるぞ。
というわけで丹波の金的が炸裂する。
完全に防ぎようのないタイミングだ。ガードも封じられているしなおさらだ。
長田は何一つ動けず戦慄するだけであった。
数々の陽動で長田の焦りを誘発し、そして大きな隙を生み出しそこを突く。
実戦派の格闘家だけあり、丹波の行動には一切の無駄がない。
尿だって目潰しに使う男だけはある。
実戦における立ち回りにおいては一日の長がある。
「甘ェよ…… スポーツマン」
さて、決まったかに見えた金的は寸止めだった。
そして、丹波は不敵な台詞と共に背を向け立ち去る。
決着は着いていないが勝者は誰の目から見ても明らかだった。
丹波文七、恐るべし。
北辰館トーナメント準優勝者ですら相手にしていない。
餓狼伝は酔った横綱に不意打ちするところから始まった。
実戦こそが餓狼伝の真髄なのだ。
その実戦で力を発揮する丹波はさすが主人公である。
次回へ続く。
なお、次号は休載です。慣れました。
丹波は餓狼伝BOYで描かれた少年時代では腕っ節ではなくペテンでのし上がった。
そこで磨いたペテンが成年になった今でも発揮されている。
丹波は駆け引きにも長けるのだ。
でも、肝心の腕っ節は発揮されていない。
かつての嘘の強さを捨て、本当の強さを手に入れたのが今の丹波…のはずだ。
ここらで丹波の真っ当な活躍を見てみたいところである。
堤との戦いは名勝負中の名勝負だったけど、もう何年前の話だよと。
長田は丹波の相手にならなかった。
ならば、次のターゲットは優勝者である姫川であろうか。
姫川は実戦においても力を発揮する格闘家だ。
丹波の実力を試すのに相応しい相手である。
これからは丹波の真の力が発揮される展開になりそうな気がしたい(願望)。
それにしても長田がダメすぎる。
こんなにダメな人だったか?
梶原と顔を変えても違和感がないくらいダメだ。
トーナメント前夜に藤巻は長田に失望したなどのひどい言葉を投げつけた。
だが、それはあくまで長田を突き放すためで本音ではなかった。
でも、今の長田を見たら心から言ってしまいそうだ。
ツンデレじゃなくガチツンである。
姫川との戦いで長田が負けた最大の要因は油断だった。
あれを考えると長田は試合には強いが実戦に弱い人間なのかもしれない。
それでもっても今回の長田はダメすぎる。
せめてムエタイを生贄に出せばいいのに…
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