範馬刃牙 第107話 長たる器
ピクルが食料を確保した。
勝利の鍵はトラックだったのだ。
1食1トラックだ。
そのうち、栄養補給のために野菜やサプリメントを入れるかもしれない。
あ、イジメテ君に生肉入れればいいんだよな…
1食に平民10年分の食費がかかりそうだけど。
場面は神心会ビルに移る。
そこにいたのは床を汗の水たまりを作っていた克己だった。
残念ながら汗の量は汗の達人烈海王よりは少ない。
いや、残念なのか、それ。
汗だらけの克己はサンドバッグを目の前に深呼吸をする。
汗の量から厳しい修練をしていることがわかる。
今の克己は努力する天才なのだ。
天才という称号も過去のものになりまくっているが。
克己は目を閉じ、意識を集中させる。
次の瞬間にはサンドバッグの元へと歩み出す。
そして、サンドバッグに刹那の7連撃を決めた。
左から4発、右から3発を同時に叩き込む新技だ。
7発同時に打ち込むことだけでも十分にすごいが、それを両手ではなく左手のみでやってのけた。
恐るべき速さを伴った連撃にサンドバッグが歪む。
高度な技術を用いる天才克己らしい新技だったが、ピクルに通用するのか、これ。
サンドバッグを破壊できない程度の威力ですよ。
トラックに轢かれても大丈夫なピクルに通用するとは思えない。
[だから相手にもされんのだ―――――――俺にも刃牙にも父親にも]
克己はトレーニングを終え正座をする。
先ほど行った技を脳内で反復しているのだろうか?
だが、その脳裏には86話で叩きつけられた勇次郎の言葉が響く。
この言葉はあまりにクリーンヒットすぎたので、克己の心に深く刻まれたようだ。
そりゃあ虚勢を張った上に加勢にも期待していた人間は誰も相手にしたくない。
(その通りだ…………)
(範馬勇次郎の言う通りだ)
なんと克己が勇次郎の言葉を認めていた。
堕ちた天才としてネタキャラ道一直線だったが、克己はその現状を認めていた。
天才であることを誇り誇示していた過去の克己の姿は完全になかった。
ちょっと寂しい。
(父
愚地独歩の気紛れで 館長の椅子に座っちまってる俺だが)
(器じゃない)
(空手界最大流派神心会……… その館長たる器にない)
(父
愚地独歩に備わる歴史 伝説――――― カリスマが俺にはない)
ええ?館長になってたの?
ええ?克己が自分の実力不足を認めている?
う、嘘くせえ…
実はこいつ、3代目館長アルセーヌじゃないだろうな。
登場当初は独歩を凌ぐ実力の持ち主と持てはやされていた克己だったが、いつの間にか弱体化していた。
そのことを知っているのは読者だけかと思っていたら、克己自身が独歩に及ばないことを認めていた。
最大トーナメントの頃の克己だったら、喜んで館長の椅子に座っていたに違いない。
だが、自分の実力不足を認めていた克己にとっては、館長の椅子に座るのは荷が重いのだろう。
妙に殊勝な人間になってしまった。
克己らしくないなぁ…
でも、独歩に劣っていると認めているのは歴史と伝説、そしてカリスマの3点だ。
実力については述べていない。
もしかして、実力では勝てていると思っているのかもしれない。
独歩に一番に劣っているのは実力なのだが。
歴史も伝説もカリスマも作ろうと思って身につけられるものではない。
特にカリスマなんて失いすぎてどうしようもないくらいだ。
天才と持てはやされた時はカリスマがあったかもしれない。
だが、ドリアンにやられたりドイルに爆破されたりと門下生の前で数多の失態を繰り返している。
歴史は年輪を重ねれば何とか、伝説は塩漬けになって蘇れば何とかという具合だが、カリスマはもう諦めた方がいい。
しかし、それじゃあ何で独歩が模範演舞を行っていたのだろう。
やっぱり、独歩がいないと神心会全体の士気を保てないのだろうか。
克己は常日頃からあいつが館長じゃダメだと陰口を叩かれているのかもしれない。
神心会の株価も下がって経営難に陥っているとか。
…なんか苦労してそうだなぁ…
(やる………)
(アイツと………)
独歩との差にいかんともしがたい感情を抱える克己は、ピクルと戦うことを決意する。
何でだよ。
ピクルを倒しても館長に相応しい歴史と伝説、カリスマが身につくわけじゃないぞ。
いやまぁ、格闘技団体の館長が重要文化財に暴行を働いて逮捕という歴史と伝説は得られるかもしれないが。
ただし、カリスマは失ってしまう。
その決意を見届けたかのように、神心会門下生から前回のトラック破壊事件が伝えられる。
さすが警察よりも情報網が濃い神心会だ。
非常に目立つ事件だったこともあるが、ピクルの動向を素早くキャッチしている。
現場ではピクルを轢いたトラックの運ちゃんが事情聴取を受けていた。
一応は加害者なのだが、ピクルの頑張りのおかげですっかり被害者扱いされていそうだ。
運ちゃんの証言によると一塊50キロの肉を数個平らげたようだ。
背景を見るに最低でも2つの肉の塊が食べている。
骨を残しているので若干軽くなるだろうがそれでも約100キロだ。
烈を食べた時は骨ごといただいたのに…
ピクルは無闇なところで食への趣向がわからない。
骨を残すなら烈の骨も残せば良かったのに。
骨さえ残っていれば肉がなくなろうがどうにかなるのがバキ世界なのに…
とりあえず、ピクルは最低100キロ食べないと満足しないらしい。
人間一人分じゃ足りません。
烈を一人丸々食わないと満足しないのかよ。
本当は足だけじゃなく全身を食らい尽くしたかったのだろう。
烈は本当に九死に一生を得た。
「フフ……“渡りに船”とはよくぞ言ったもの なんという幸運だ」
克己は手早くピクルを補足できたのを幸運と捉える。
泥舟だし不幸だよォ!
いや、リアルに死にますよ。Real
Dieですよ。
烈は麻酔アタックで何とか足で済んだんだ。
今は麻酔を打ってくれるペイン博士がいない。
挑めばほぼ殺される。
大丈夫か、克己…
言うが早いか、克己は門下生一同を集める。
神心会恒例の作戦指揮だろう。
この場で狙いを付けられると誰もが逃げられない。
警察ですら手をこまねいた死刑囚だって神心会にかかれば一瞬で見つかってしまう。
久しぶりに警察以上の情報力を見せつけるのだろうか。
「我々の指導的立場にある烈
海王氏 氏の仇を討つ」
烈は何だかんだで神心会の師範を続けていたようだ。
89話では中国武術錬成研究会なんてところに浮気したりもしたが、ちゃんと神心会にいたらしい。
もしかしたら、冒頭で克己が見せた7連撃も空手+中国武術のハイブリッド技なのかもしれない。
神心会最強の男の愚地独歩と中国武術の第一人者の烈海王が技術指導を行っているとしたら、克己は肩身が狭いどころの話ではない。
克己が一体何を教えると言うのだろうか。
あいついなくてもいいんじゃね?などと噂された日には、メリケン粉をばらまいて爆破したくなるくらいだ。
なお、数年ぶりに克己がバンダナを取った。
全身火傷して以来、毛髪が危ぶまれていたがきちんと生え揃っている。
でも、違和感が妙にある。
何か克己の髪型の気がしない。
バンダナを取った瞬間、まるで別人になったようだ。
昔の克己と比べてみると髪の盛り上がりがなくなっている。
おかげで徳川光成親衛隊隊長の加納秀明にそっくりだ。
加納秀明なんていまいちどころじゃない人じゃん。
死刑囚編に敗北した姿で1コマだけ再登場して、往年のファンを喜ばせるどころか気付かなかったくらいだ。
ちょっと間接的にやばいぞ、克己。
克己はピクルの捜索をするように門下生一同に命令する。
当然リベンジするためだ。
でも、死刑囚の時と違って、相手は全人類の宝、重要文化財だ。
組織がかりでボコると責任問題で社会問題だ。
神心会が犯罪組織として滅びかねない。
克己の言葉に門下生一同は声を上げ、従う。
でも、加藤がドリアンに殺されかけた時よりはテンションが引くそうだ。
克己の激もあの時よりずっと軽いものだ。
ピクルへ挑むことに迷いがあるのだろうか?
戦って負ければリアルに殺される。
あの勇次郎を上回る筋力を間近で見たことだし、克己は勝算のない戦いだとわかっているのかもしれない。
あと、もしかしてと思って探してみたが門下生一同の中に末堂はいなかった。
末堂よ…ッッッ。
[勝てるからやる 勝てぬからやらない]
[判断基準は勝ち負けにない]
[今はただ行動(うご)くこと 他に示す方法はない]
[神心会門下延べ100万 その長たる重圧
この背に感じろッッ]
ピクルとの戦いは生き残るか食われるかだ。
克己は勝ち負けじゃないことを悟ってください。
そして、ピクルに挑んでも館長の証を得られるかは別である。
そもそも、犯罪行為ですよ。しかも、ほぼ私怨。
むしろ、館長失格だ。
だが、神心会に一般論は霞む。
何せ軍隊以上の暴力集団だ。
烈を食ったピクルを倒す。
これを成し遂げれば館長としての実力十分と認められるかもしれない。
歴史も伝説もカリスマも一気にゲットだ。
ピクルを倒すことは普通に追い詰められた克己が見出した唯一の弱点策だ。
でも、克己は館長の座を気にしすぎて自分を見失っているように思える。
行動にまったく余裕がない。
勝てないとわかりきっており、しかも負ければ食われることを知っている。
それでもピクルとの勝負に望もうとすることから、今の克己は相当余裕がない。
この調子で気負ったままでは実力を発揮できなそうだ。
烈だって中国4000年を背負おうとしたため、グルグルパンチを出すまで実力を出し切れなかった。
克己も館長の重荷から解放された時、覚醒するのかもしれない。
ビッグ克己に抱かれ、目覚めた克己は虚勢を張り加勢を期待する!
さて、都内5万5千人の神心会門下生に見張られていると気付かないピクルは風俗店の目の前で客寄せに絡まれていた。
ひいいいいいいい。お前の店が潰れるぞ。
ピクルには本番禁止とか言っても関係ない。
無遠慮に風俗嬢相手にレイプすることだろう。
むしろ、爪を生やして見るからに怪しい奴を店に入れようとするな。
あとトラックに轢かれた際に吹き飛んだ帽子と靴をちゃんと身につけていることから、やっぱりピクルは頭がいい。
同時にその店のボーイを務めているだろう男は神心会門下生だった。
ピクルの居場所が神心会に伝えられる。
戦いの準備は整った。
次の戦いの舞台は風俗店になるのだろうか?
次回へ続く。
烈の次は克己が立った。
克己は勝つことを前提に行動していない。
勝利への執着心がないため、コロっと食われそうで未来が暗い。
戦いどころか食事に終わってしまいそうだ。
いや、最低100キロの肉を食べた直後だから見逃してもらえるかも…
実力は烈以下の克己だ。
勝算なんて0どころかマイナスに踏み込んでるだろう。
本人も勝ち目のない戦いだとわかっているようだ。
それでも負ければ食われることだし、何とか克己には頑張ってもらいたいところだ。
グルグルパンチの後でもいいから、天才愚地克己の姿を久々に見せてもらいたい。
ところでピクル相手に客寄せをしている馬鹿な男も神心会門下生の一人なのかもしれない。
ピクルを勧誘したのは風俗嬢をレイプしようと全裸になったところに克己が襲い掛かる作戦を実行するための布石だったのだ。
普通なら羞恥心やら何やらで動きが鈍る。
でも、ピクルにとっては裸が自然体だ。
勝機を掴んだと思った克己は手痛い反撃を受けるというか食われる!
…明るい未来が見えないなぁ、ホント。
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