範馬刃牙 第121話 天賦の才
克巳が本格的に進化し始めた。
妖怪郭海皇の技を体得したのだ。
人類としては大きな一歩だろう。
だが、これだけで終わっては模倣が得意なしょんぼり天才だ。
天才として相応しい進化を遂げるためのプラスアルファが欲しい。
刃牙が茶々入れたら殴る。
さて、克巳に大きなヒント――いわゆる精神論を教えた郭海皇はどうしているかというと、中国人らしく中華料理店にいた。
独歩が中華料理のフルコースを郭海皇に馳走していたのだった。傍らには関係者の烈海王もいる。
克巳が床に落ちた卵をスクランブルエッグにして食っている最中に豪華な連中だ。
(前号の作者コメントによると克巳は割った卵をスクランブルエッグにして食べた)
独歩は郭海皇を丁重にもてなす。
中国武術最強の男にして、自分の3倍近い年齢を誇る武の大先輩だ。
敬意を表するに値する人物である。
郭海皇としても伝説的な空手家愚地独歩とは言葉を交えたかったに違いない。
お互いに武術馬鹿だし勇次郎に殺されたりしている(一方は擬態)し、畑は違えど仲良くなれそうだ。
…あ。でも、息子の質に相当の差があるな。
この辺の話になると二人のすれ違いが始まるのかもしれない。
いや、克巳もここ最近でやっと覚醒したんだ…
春成だって…何とかすれば…何ともならんか。
そんな達人二人とはやや離れた距離で烈は頬が膨らむほど、大量の料理を口に含んでいた。
空気読めよ!
さすが蛮勇烈海王だ。達人が二人いようと知ったことじゃないゴーイングマイウェイである。
本当なら克巳の側にいたかったのだろう。
でも、中国武術のラスボス、郭海皇がいる。
ヘタして機嫌を損なえれば中国武術界における扱いが悪くなるかもしれない。
そうなってしまったら、片脚を失ってしまった以上、今までのように力で我を通すことも難しい。
どんどんと地位は落ちて、いつしかムエタイのリングでワイクーを踊る役割を押しつけられるかもしれない。
郭海皇を接待せねば生活が危ういのだ。
あと頬を膨らませた烈海王って萌えキャラですよね。
そんなKYな烈に郭海皇は問いかける。
克巳を一撃で倒したことに関してだった。
でも、料理を口に含んでいるので答えられません。
接待ポイントダウンだ。
年俸が10%くらいは落ちたかもしれない。
そんな烈に助け船を出すように独歩が克巳の一発KOを事実だと認める。
「にわかには信じがたいの」
郭老師は烈をどれだけ信用してないんですか。
飯を優先したことによる怒りは想像以上に大きいらしい。
年俸が10%じゃなく20%は下がっているかも。
それにしてもかつて中国武術サイコー主義者であった郭海皇が、烈の勝利を疑うようなことを言うのは驚きだ。
「海王ならそれくらいやって当然だ」とか「中国人ならそれくらいやって当然だ」とか言いそうなのに。
勇次郎との戦いを経たことで郭海皇の価値観は変わったようだ。
齢146歳にして柔軟な考えをしている。
あるいは大擂台賽の中国万歳の語り口は全力を尽くすに値する相手を挑発するためのもので、本心ではなかったのかもしれない。
克巳の4502年マッハ突きを完全ではないと言った郭海皇だったが、独力でそこまで到達した才能は高く評価していたようだ。
ともあれ、郭海皇の機嫌を損ねては悪いと、烈は飲み物を口に入れ料理を消化する。
これで受け答えができる。
海王らしい機転の利かせ方だった。
そして、あくまで勝てたのは過去の克巳であり、今の克巳ではないと言う。
過去どころかつい最近までだよな。
1ヶ月ちょっと前までの克巳はダメっぷりを遺憾なく発揮しており、片脚を失っていても勝てそうだった。
でも、最近は男を上げており、落ち目ではないのだ。
受け答えを完了した烈は気を取り直してチャーハンを食べようとする。
こいつ全然反省していねえ。
何だよ。天然なのかよ。
年俸が危ないってのにわざわざ天然ボケを炸裂させなくても…
萌えキャラとしての自負がいくら何でも強すぎるのではないでしょうか?
生活よりも萌えを重視するとはもはやプロの領域である。
「いまやったとしたらどうじゃ」
無茶言わないでくださいおじいちゃん。
烈は片脚ないんですよ。勝てるかどうか以前の問題だ。
よっぽど烈を虐めたいのか、こいつ。
さすが、パンツ脱がせてそれに加えて玉ピンする人だ。
ドSの塊である。
この問いには食欲を重視していた烈の手が止まる。
片脚ないから無理ですよ、とは言わない。
どれだけ現役でいる気満々なんだ。
義足で克巳と稽古も出来ていたし、片脚失った程度では強さに陰りは見られないのだろうか。
「拳雄 烈
海王の天才を 十分に認めつつ―」
「愚地克己の天賦の才は恐るべしと言わねばなるまい」
克巳の才能には郭海皇からもお墨付きが出た。
烈のハンコは私情が多分に混ざっているから信用できないが、郭海皇のなら安心だ。
一応、烈のことを認めているし、年俸も大幅ダウンはなさそうだ。
買い食いを控えなければいけないのかもしれないけど。
で、烈はまたチャーハンを口に含み、頬を膨らませる。
ちょっとくらいは自重しろよ…
「先日
氏に伝えた新たな打拳」
「おそらくは既に身につけ」
「ひょっとしたら」「もう今頃は」「その遙か先に……」
郭海皇は克巳のさらなる進化を予感していた。
克巳の才能を大きく買っている。
さて、烈はこれ以上ないくらいに頬を膨らませていた。
フグか、お前は。
時を同じくして神心会本部の道場では、克巳は棒立ちしていた。
膝をやや曲げて拳に力を込めていない。
ボブ・マッカーシーがいれば宮本武蔵がどうのこうの言いそうなくらいに脱力していた。
そして、この構えこそが最上の打撃を打つために克巳が辿り着いた答えであった。
関節をイメージで増やすことによる超音速に加えて、刃牙の0.5秒パンチの脱力を克巳は手に入れた。
消力効果もあるかもしれない。
だが、それで満足する克巳ではない。
構えの工夫の次は拳の工夫である。
力なく握ったやる気のなさそうな拳こそが克巳の描いた完成系であった。
「人生最初に形造る 手の形………」
菩薩の拳!
克巳はマッハ突きに独歩が55年の研鑽の末に見つけた拳を組み入れた。
郭海皇から技術をもらっただけではなく、独歩から学んだものも引き出しているのだ。
空手家愚地克己ならではのアレンジである。
仕上げと言わんばかりに克巳は郭海皇から学んだイメージを加える。
今度は腕の関節だけではない。
全身の関節をイメージした関節に変えた。
イメージがどうのこうのは1週間前どころか鞭打の時点で通過した場所だが、きっと克巳的には別物に変わっただろう。
「フフ…… 自分で震えてやがる……………」
「何もない空間に 空突きを放つ」
「そんな………… 道場ではごく日常的な行為の以前(まえ)に震えてやがる」
脱力…菩薩の拳…関節のイメージ…
3つの要素が混ざり合った。
言わば消力菩薩の鞭打だ。
字面的に最後が余計です。
ともあれバキ世界の3つの必殺技を合体させた超必殺技である。
その試し撃ちをしようとしただけで克巳は震える。
理論だけではハエも殺せないが、克巳にとっては超必殺技が完成したも同然らしい。
…反復しなくていいなんて天才だなぁ。
「肩から先しか動かさぬあのイメージを――――――」
「全身で…………」
「全力(マックス)で…………………」
脱力と菩薩の拳と関節のイメージの3つだけでなく、そこに自らが編み出したマッハ突きを加えた。
他者から学んだものと自分で見つけたものの二つを融合させている。
克巳が歩んできた空手人生を体現するかのような大技だ。
もはや4502年マッハ突きではない。
郭海皇の146年と中国武術4000年。独歩の55年と空手500年。
そして、克巳の20年と新しい空手501年の全てが融合したのだ。
名付けて5222年マッハ突きだ。
烈は何もせずに膨れているだけだったので烈の4001年は数に入れません。
そして、克巳は5222年マッハ突きを撃つ。
あまりの速さに腕だけではなく脚にも残像が見えていた。
全身これマッハである。
これなら全身が残像になるピクルタックルに対抗できる…よね、多分。
バシャア
5222年マッハ突きが炸裂し、今までとはまったく異質の音が響いた。
音速の壁を越えた時の破裂音ではない。
まるで水気のあるものが破れた音だ。
…人間の70%は水分だと言う。
もしかして音速すぎてやっちゃったか?
いや、新必殺技がそんなガッカリオチのはずが…
ともあれ次回へ続く。
キャプテン翼に出てきた必殺シュートを混ぜたトルネードアロースカイウィングシュートみたいな必殺技が出来上がった。
結果として烈の役目が克巳のやる気を高めたことくらいだった。
役に立ってねえ…
いや、ピクルとの戦いに付き添って解説するという役目があるか。
さて、5222年マッハ突きの話である。
4502年マッハ突きの難点は貫手であることだった。
絶対ピクルの腹筋の前に指が折れることは予想できた。
実に地雷である。
それとは逆に5222年マッハ突きは菩薩の拳だ。
サーベルの切れ味はないが、指が折れる心配もない。
裸足で頸動脈に蹴り込んでもノーダメージの生物に切れ味がどうのこうのという時点で失敗であるが。
…あれは克巳が先に言ったけど、烈も同じことを考えていたっぽいなぁ…
役に立ってないなぁ、烈…
その烈はボケっぷりが半端ではなかった。
片脚になったことだし本気で萌えキャラを目指していることが伺える。
だって、こうだもん。
何ですか、この人。
悔しいので回してみた。
gifアニメにもしてみた。
アホのように回してみた。
…すまん、烈よ。
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