範馬刃牙 第126話 巨大な牙
ピクルが克巳を餌と認めた。
ここから先は食われても文句は言えない。
食人ショー一歩手前だ。
しかし、戦いがひとつの転機を迎えている中、末堂の姿は消えたままだ。
…セミみたいな男だなぁ。潜伏期間は長く、そして復活期間は短く。
時代は2億年前に遡る。
その頃のピクルは襲い掛かる恐竜たちと相対していた。
構えは勇次郎のごとく、両腕を大きく広げたものだ。
股間のレックスを惜しげもなく晒す構えでもある。
こんな隙だらけの構えを、まったくの生身で、それも鋭利な武器を多数持つ恐竜に行うのは自殺行為に見える。
見えるが、これで戦い抜いてきたからこそのピクルか。
自身の強さを信じているからこそ、この構えを取るのだろうか。
自分の数倍の体躯を誇る恐竜たちを倒し、食らう。
倒すのはもちろんのこと、素手で恐竜を解体する膂力もすさまじい。
そりゃあ烈の背骨をあっさりとメキュれる。
…克巳も解体されないように何とか頑張ってください。
[強敵だけを][食べてきた]
[強敵だからだ!!!]
生まれた時代は違えど現代の戦士たちと同じくピクルも強いんだ星人である。
いや、リアルにピクル星人だけど。
もしも心が通じれば現代の戦士たちと仲良くなれ…ないか。
そんな戦いの日々でピクルは恐竜の首を締め上げている。
全身を用いてダイナミックに締め上げている。第1話で象の鼻を締め付けた勇次郎ようだ。
こいつ、絞め技も使えるのかよ。
野生の本能が生物に有効な攻撃を選択したのだろうか。
ピクルクラスの力で絞め技をやられようものなら、人間なら一瞬で骨折られそうだ。
[食料(えさ)は][襲い来る強者(もの)のみ!!!]
[無法のただ中に課した唯一の法律(ルール) 淡い矜持(ほこり)……]
強敵だから戦う。強敵だから食らう。
それがピクルの生き甲斐であり、生き様であり、誇りである。
時代が変われどそれは曲げられないのだろう。
ピクルは強いが故にある種の悲しさも漂わせる。
例え1ヶ月断食と相成っても、胸に抱いた矜持は曲げられない。
でも、同族食うのはきついんでちょっとくらいは曲げてください。
食うために戦うという現代の戦士たちとは闘争に対する向き合い方が異なるピクルではあるが、強敵と戦うという部分は共通していた。
ピクルはあくまでも雄なのだ。
生きるために戦うと同時に、戦うためにも戦っている。
そして、現代。
ピクルを満足させるのに値する相手をほとんどいなくなってしまった。
だが、そんな中、強敵と認めるに相応しい相手が現れた。
ピクルはかつて恐竜たちを目の前にした時に見せた両腕を大きく広げる構えを取る。
[この弱小なサイズにありながら――]
[その戦力は]
克巳が自分よりも数段小さい相手だと認めながらも、その戦力が恐竜クラスであると見切る。
相手の姿形に惑わされていない。
ピクルが白亜紀を生き残ってこれたのはただ強いだけではなく、その鋭敏な感覚によるものも大きいのだろう。
肉体面が超一流ならば精神面も超一流であった。
あとピクルに一目でこの構えを取らせた烈はさすがであると言うべきか(第93話)。
最終的には本気を出させるに至るし、克巳に追い抜かれた感があるはもののその実力は一歩抜きんでていたようだ。
「バキよ 見てみィ…」
「そっくりだ 範馬勇次郎と」
徳川のじっちゃんと刃牙はピクルの構えから即座に勇次郎を連想する。
最強同士のシンクロニシティだ。
やっぱりピクルは範馬一族の祖先だったりしちゃうのか?
近いうちにDNA鑑定でもやってみてはどうか。
2億年くらいの時間では範馬の遺伝子は微塵も色あせないはずだ。
それ、人間じゃあないけど範馬一族自体人間じゃないし。
それにしてもいい驚き役だ。
じっちゃんは年季の入った見事な仕事をやってのけた。
対する刃牙はどこか気の入っていない答えをする。
こっちもさすがだ。
(何があった!?……………克巳さん よくぞそこまでの撓(しな)やかさをッッ)
そう思っていたら刃牙の驚きはピクルよりもむしろ克巳にあった。
克巳の構えはあの刃牙をして驚愕に値するものである。
ボクシングに蹴りがある程度ではまったく驚かないあの刃牙が、である。
無関心大王の心を揺れ動かすほどの力が真マッハ突きの構えには秘められていた。
しかし、しなやかさをって何かよくわからない褒め方だ。
しなやかだとすごいのだろうか。鞭打をやった柳なんかはすごい評価だったりするのか?
(イメージでは)全身多重関節になった克巳の変化を一目で見切ったのは恐るべき観察眼ではあるが。
妄想の達人だけあり、他人の妄想にも敏感なのだろうか。
この曖昧な褒め方が刃牙らしいと言うか何というか。
何にせよ、刃牙における克巳の株が上昇した。
今までは加藤に毛が生えた程度だと思っていたのだろう。
ちくしょう、何もやっていねえくせに。
「老師ッいかがか!?」「決定(きま)るのですか
ここでッ」
「ここまでの戦局ッ ピクルをどう見られました!!?」
ここで烈が郭海皇に解説を求める。
何というチームワーク。
ここに実況烈、解説郭海皇の最強中国武術解説コンビが結成した。
郭海皇が解説するのも豪華ではあるが、それ以上に烈が実況に回るのが異例だ。
解説役と比べて実況役は華やかさがない。加藤とか末堂にやらせるのが筋だ。
そして、解説役としても高い実力を持つ烈にあえて実況をやらせる…
現代武術の粋と生粋の野生という大一番に相応しい大胆な起用だ。
これで加藤と末堂が口を挟むことはできなくなった。
さて、郭海皇はどういう答えを出すのであろうか。
勇次郎と正面から戦うことの出来た唯一の男と言ってもいい。
その男が史上最強と名高いピクルにどういった評価を下す。
「もし」「許されるものなら」
「儂ゃ…」
「心臓を停止(とめ)てしまいたいよ………ッッ」
いや、あんたは実際に止められるだろう。
思わず突っ込んでしまった。
ちょっと止めてみようか。春成が彼岸で手を振ってるのが見えたら動かしておこう。
郭海皇は烈の問いに対し、直接は答えずどこかはぐらかした。
ピクルのあまりに桁違いの身体能力に対しての答えであろうか。
だとしたら、郭海皇ですら心臓を止めたくなるほどに、勝負を投げ出したくなるくらいにピクルの能力は高いと言える。
事実上の敗北宣言だ。
実際にピクルは146年積み重ねてきた武を丸きりなかったことにする力を持っている。
勇次郎になかったことにされた今となっては、何か今更って感じだが。
それとも、僅か20年で郭海皇の146年に肉薄した克巳について述べているのだろうか。
才能のみで自らが長年積み重ねた域まで達せられるとちょっとやるせなくなって心臓を止めたくなる。
何にせよ郭海皇の真意は読みがたい。
これもまた、海皇ならではの駆け引きか。
克巳はピクルの脅威を知ってなお自ら前へと出て行く。
顔に緊張も焦りもない。
真マッハ突きに絶対の自信を持っているのか。
そして、お互いの間合いに入った。
同時にピクルは拳を振り落とす。野生らしい力任せのパンチだ。
それだけで致命傷になりかねない一撃必殺のパンチでもある。
どうする、克巳。
(迷いはない……)
(今!!!)
カッ
真マッハ突きがピクルのボディに突き刺さった。
ピクルのパンチの内側に入り込むことでカウンターの形で決めている。
ただ真マッハ突きを打ち込むだけではなく、カウンターのタイミングもまた完璧だ。
天才愚地克己の才能が爆発した瞬間であった。
これにはピクルの大ダメージを免れないか?
[刹那 戦士(ピクル)の脳裏をよぎったものは]
[宿敵(ライバル)Tレックスの振るう鋼鉄(はがね)の尾…………!!!]
真マッハ突きの破壊力はティラノサウルスの尾と互角だった!
それはすごいのか、すごくないのか。
いや、克巳サイズでティラノサウルス級の破壊力はすごいことはすごいけど、
道場の窓を全て衝撃波で割った変態技が常識的な域に収められた気も…
ピクルにとってティラノサウルスの尾はどれほどの破壊力なのだろうか。
ティラノサウルスほどの体躯と体重を持つ生物が遠心力を付けて尾を振り回せば相当の威力になるかもしれないが…
いずれにせよ、せっかくの切り札ではあったがピクルが体験済みの威力だとするのなら暗雲が立ちこめる。
真マッハ突きはピクルにどれほどのダメージになるのか。
次回へ続く。
ついに真マッハ突きが炸裂した。
ついに、というほど出し惜しんだわけじゃないけど。
真マッハ突きの見開きは入魂の一作で凄まじい迫力なわけだけど、ティラノサウルスの尾くらいの威力か…
ピクルでもティラノサウルスの一撃を食らえばダメージくらいは受けてくれるよね?
刃牙だって血まみれになってやっと倒したくらいだし、ピクルをしても無傷で倒せる相手ではない…よね?
真マッハ突きを撃ってからが本当の勝負になるのだろうか。
威力面でやや不安が見られた真マッハ突きだったが、克巳の腕の方も気になる。
空撃ちした時に何か変な感触を覚えていたようだし、超音速で殴る以上、腕の負担も大きそうだ。
今回は左腕で真マッハ突きを撃ったのも、利き腕を温存するためだったとか。
次回から残った右がやけに熱いぜ、と言う展開になりそうでちょっと怖い。
戦いの方も気になるが、観客も気になる。
末堂はどうしたんだ?加藤出てこいよ。
あと独歩は何をやっているんだ。
…そうだ、独歩が一番忘れられている気がする。
次回の冒頭でみんな揃って真マッハ突きに驚くのだろうか。
その時に末堂が出てこなかったら何というか筋金入りだな。
…まぁ、夏の終わりと同時にセミの命も潰えたということでひとつ。
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