範馬刃牙 第133話 合掌
「どうだいピクル……… 俺は美味いかい」
克巳の右腕が食われた。
肩から先がなくなった。
…おい、マジでなくなってるよ。
台詞だけ見たらホモっぽいとか言う余裕もない。
長年、バキを読み続けてきた読者にとってショッキングすぎる光景だ。
今号、初めてバキを読み始めた読者にとっても…ガン引きか。
繰り返すようだが克巳の右肩から先がない。
いや、もう、本気でない。
ピクルに噛みちぎられてしまった。
もう治る治らないというか死にますよ、これ。
でも、骨だけの前腕だけじゃなく、上腕まで食われたのは幸いか?
前腕だけだったら肉が少ないからピクルは満足しないかもしれないけど、肉の多い上腕まで食われたのなら満足…しないか。
克巳は全身を食われる覚悟をしなければならない。
(約束は守る……………)
(ここに来て……… 生き長らえようとは思っちゃいない…………)
Eー!覚悟してるぅ!
いやいや、覚悟するなよ。命は大切だよ。
生き残るための術を学ぶのが武道家なのに命を投げ捨てるのは良くない。
命を捨てる覚悟で戦ったからこその出し惜しみのない真マッハ突きやファイナルマッハ突きだったのか?
傷口を押さえて止血くらいは出来るはずなのに、克巳はそれすら行わない。
自分の負けを認めているどころか、死すら認めている。
食われるのならば延命処置に意味がないということか。
…悲しい。
(お前の勝ちだ………)
(食ってくれ………………)
(腕と言わず…… 脚と言わず……)
(頭と言わず………… 残すなよ…………)
克巳が…倒れた。
散々、正拳突きして盛り上げた門下生一同は凍り付く。
戦い尽くした克巳が終わった瞬間であった。
なくなった右腕の根本からは膨大な血が流れている。
克巳は失血によって意識を失ったのだろうか。
そして、意識を失う直前まで克巳はピクルに命を捧げる言葉を言った。
本気で覚悟しているらしい。あるいは投げ捨てたのか?
倒れた克己の目にはまったく光がない。
死んだ…のか?
いや、まだ生きているだろう。そう思わないとやっていられない。
克巳は死なない。そう考えていた時期が僕にもありました。
しかし、トドメを刺そうとピクルが克巳に近付いていく。
克巳の右腕をくわえたままだ。
足音はズシャリと範馬チックだ。
まずい。克巳が、本気で食われて殺される。
(食わせる気だッ 本気でッッ)
多分、ダチだからどうにかなるだろうとか思っていた刃牙は克巳の覚悟に驚く。
主人公だというのに動けない。
四肢を失い、命を投げ捨てる。それがピクルと戦うということである。
…刃牙は自分の甘い考えを猛省しているところだろうか。
(許せピクル……………)
(ここは恐龍時代ではない…………)
(約束は守れんッッ)
試合は失格だが捕縛なら全階級オレのものだ!一流ハンターだ!
徳川光成の指令により、一流ハンターたちが立ち上がる。
って、遅ェよ。
烈の時はノー準備でペイン博士に頼ることになった。
その時の反省を踏まえ、今回はハンターを雇ったそれはいい。
でも、右腕食われてからハンター出陣は遅い。
骨だけになった時点で出陣させろ。
いや、克巳の意識があるうちにハンター出陣は、後々克巳を文句言われそうだ。
である以上、このタイミングがベスト…なのか?
克巳の腕が失われることは避けられなかった。
だが、ハンターがいれば克巳が死ぬという最悪な事態は避けられそうだ。
しかし、その時、徳川光成の前に男が現れる。
独歩だ。
「銃を―――――」
「下ろさせな…………ッッ」
独歩は正拳の構えを取る。
ハンターたちを止めなければ徳川光成に正拳を撃ち込むつもりだ。
克巳の助けに入ると思っていたらまったく違った。
むしろ、克巳を助けない道を選んだ。
「男と男が 克巳がピクルと交わした不文律」
「端から口を挟める問題じゃねェ」
約束を違えて生き残るくらいならば約束を果たして死ね。
克巳も己の死を覚悟したように、独歩も克巳の死を覚悟していた。
重い。なんと重いのだ。
師弟であり親子でもあるこの二人はあまりに重い覚悟でこの戦いに望んでいた。
「約束を……… 果たすんだ………」
克巳を助けない。約束を果たして、ピクルの餌とする。
それが独歩の選んだ選択肢であった。
だが、独歩も辛そうだ。
言葉にそれが現れている。
息子を見殺しにするのだ。辛くないはずがなかった。
だが、それでも約束を果たす。
やはり、重い。
男同士の約束はかくも重いのか。
克巳の死は、もはや避けられそうにない。
その時、一同に驚愕の思いが走る。
克巳が食われたから驚いた、というものではない。
明らかに別のことが起きたから驚いていた。
その時、ピクルは食いちぎった右腕を克巳の前に置いて…合掌していた。
え?克巳死んだ?
いや、ピクルは死んだ相手に合掌するようなキャラじゃないはず。
というか、そんな文化ない。
でも、死んだみたいで縁起悪いな。
[時代――民族――文化――知性――
あらゆる障害(もの)を超越(こえ)て人類が取ってしまう行為がある]
[何故か人間(ひと)は 掌を合わせてしまうという]
曰く天災が降り注いだ時に、曰くキリストのような人間に出逢った時に。
そのような時にあらゆる人間が行ってしまう行為…それが合掌であった。
故にピクルも克巳に合掌をするのだ。
ピクルに文化はない。知能はあるが知識がない。
だが、それでもピクルの心を揺さぶるものが克巳にはあった。
[戦利品だったハズの肉(もの) それは強敵(とも)が与えたものだった]
[いかに野生とはいえ人間(ひと)として…………
いかに原始とはいえ親友(とも)として…………]
ピクルは完全に自分の力で克巳の右腕を奪ったわけではなかった。
克巳が自分の全力を尽くした果てにピクルがそれを手にした形になった。
結果としてピクルが勝ったが明確な形で勝利してはいない。
また、2億年前の最強の敵であったティラノサウルスすら屠ったピクルタックルを克巳は真っ正面から打ち破った。
おそらくピクルの人生の中で初めての経験だろう。
そして、自らの腕を犠牲に戦うという狂気に近い精神力も見せた。
これもピクルにはないものだ。
ピクルにとって克巳を尊敬すべき点がいくつもあるのだ。
もしも克巳の身体がマッハについてこれたのならば、勝者は逆だったのかもしれない。
克巳はピクルの人生の中でも明確な勝利を出来なかった唯一の相手の可能性が高い。
だからこそ、ピクルは克巳に合掌した。最大限の尊敬の念を表した。
克巳はピクルにとってただの餌以上の存在となった。
でも、尊敬と食欲は別物だ。
合掌の後は5万5千人の前で食人ショーが始まりそうで怖い。
さすがにそれは門下生一同のトラウマになる。
なので、どうにか尊敬に値する相手ということで右腕だけで我慢してもらいたいところだ。
克巳の生死がグレーゾーンのまま、次回へ続く。
さらば克巳。
右腕が骨だけになった時から危ないと思っていたが、決定的なものとなった。
衆人環視の前では食わないだろうとたかをくくっていた。甘かった。
あまりに重い展開になってしまいネタの挟みようがない。
昔はネタで烈の遺影を作ったりしたものだが、さすがに今回はそんなパワーはない。
直後に掲載されているみつどもえも可哀想になってくる。
みつばの隣でふんどし男が腕に祈り捧げているんですよ。やべえよ。
右腕のない克巳の姿は衝撃的だ。
10年来のファンとしては卒倒せんばかりに。
アキレス腱を噛みちぎられても回復できるのがバキ世界だが、これはもう二度と戻らない。
空手家愚地克巳は本当に死んでしまった。
克巳VSピクルは連載史上もっとも死という言葉を意識させられた勝負だったと思う。
克巳はダメージでダウンしたのではなく、死が一歩手前に迫ったためにダウンした。
本当に死の手前なのである。
このままだと本気で死ぬ。
登場から10年も経過したキャラが死ぬのだ。
死んでもおかしくはない。
それほどまでに壮絶である。
そして、ハンターの麻酔は独歩に止められた以上、生死はピクルの良心にかかっている。
克巳が死ぬも生きるもピクル次第だ。
…尊敬したんだからこれ以上食わないで欲しいものだが…
ピクルは烈の脚程度じゃ満足しないから難しいところだ。
ピクルの食欲的には克巳を丸ごと食わないと満足しないだろう。
しかし、読者的に困る。
空手家としては死んでしまったが、せめて愚地克巳そのものは生き残ってもらいたい。
食欲に勝る敬意を見せて欲しい…
それにしてもピクルVS現代の戦士2戦目とは思えないほどの燃え尽きっぷりだ。
いくら何でも燃え尽きすぎではないでしょうか。
この後に戦う格闘家は最低腕一本丸ごと失う覚悟で戦わなければならない。
四肢だけでなく内臓飛び出すことも必要だろうか。
それじゃあただのグロ漫画になるが、内臓ぶちまけまくりの覚悟のススメとかを掲載していたのがチャンピオンという雑誌だ。
内臓が飛び出てもおかしくない。
克巳の壮絶な最期に刃牙は何を思うのであろうか。
まぁ、人生設計改めないと不味いですよね。
刃牙の人生の目標は勇次郎に勝つことだ。
勇次郎との戦いで腕なくなろうが脚なくなろうが問題ない。
だが、その過程となるピクルに食われたらシャレにならない。
五体満足でも勝てるかどうか怪しいというか勝てない相手だ。
四肢のどこかを失えば勝率がマイナスに突入してしまう。
ティラノサウルスとの戦闘経験は忘れておいた方がいい。
さて、次回はどうなるのだろうか。
衆人環視の前で食人はヤバい。
でも、今更それで止まることもなさそうだ。
次回、1話丸ごと使って食人ショーか?
門下生どころか読者一同のトラウマになる。
…やっぱり、ピクルの良心に期待せざるを得ないか。
右腕を食べたら街に赴いてトラックに襲い掛かってもらいたい。
しかし、襲えど襲えど中に入っているのは普通の宅配便であった。
そして、何度もトラックにぶつかるうちにピクルの体力にも限界が…
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