範馬刃牙 第136話 日中合作
前回、担架で運ばれる克巳の見送りに烈は来なかった。
烈は克巳の最大の親友と言っても過言ではない男だ。
ピクルとの戦いに当たって、もっとも克巳に尽力したと言っても過言ではない。
烈の敗北が克巳を動かし、迷いに陥った克巳を烈が押し出した。
二人はどちらかが欠けても成り立たないほどの関係になった。
では、何故烈は克巳の見送りに来なかったのか。
その答えが今回明らかになる。
「中国茶だ」
「わたしがブレンドした」
彼女の仕事は傷付いた彼氏を嘆くことではないッッ。
無事生きて還った彼氏を迎え、ただいまの言葉をかけることだッッッ。
烈海王が克巳の看病に参戦だァ!
そりゃ見送りに来ねェよ。
救急車よりも速く病院に先回りして克巳を迎えたに違いない。
もちろん、素足で病院に行きますよ。川だって走りますよ。義足とか関係ありません。
よく見ると「範馬刃牙」から「かつレツ!」にタイトルが変わっているかもしれない。
かつレツ!はとらドラ!みたいな勢いでお願いします。お願いします。お願いします。(3連呼)
克巳がいる病院は烈が運ばれたものと同じ杉谷総合病院だ。
外見そのものは普通の病院だが原人に四肢を食われた格闘家を匿ったのだ。
中身は明らかに普通じゃない。
徳川財閥御用達の病院なのだろう。
さて、病室に男が二人…
看病でしょう。
ここから先はツンデレのツンを超えたデレ地獄が展開されることが容易に想像できる。
心臓の弱い方、同性愛に興味のない方はお控えください。
全国100万人の克巳×烈派の読者一同の想像通りに念を入れて準備した水筒から出した中国茶を克巳に手渡す。
冒頭からヘタすれば、むしろヘタしなくともSAGAりかねない勢いだが烈はどちらかというと受けだ。
故にSAGAに移らず看病に専念している。
でも、克巳は上半身に何も着込んでいないことから準備は万端か?
というか、烈の時といい重傷人なのに何で裸なんだよ。
もしも克巳と烈の立場が逆だったら間違いなく烈に克巳に襲われている。
我愛称(ウォーアイニー)ッッ。
だが、読者的には救命阿(ジュウミンア)ッッッ。だが、犯っちまえッッッ。
(なお、ニーの表記は正確には你ですが、日本語にはない漢字なので称で代用しています)
差し出された茶を克巳は左手で受け取る。
右腕は…やっぱりない。肩から先が消失している。
噛みちぎられた右腕は結局接合手術を行わなかったようだ。
断面がメチャクチャだし、何より前腕部が完全に死んでいることから接合しても意味がないと判断したのか。
克巳は全身全霊でピクルと戦い、そして確実に燃え尽きていた。
「…………うん…… いい香りだ…………」
「……………………………… うまい………」
妻となった女の手料理を食べた時のような反応だ。
もう…腹ァいっぱいだァ…
病院の一室の温度が異常に高い。
その温度もバキ特有の雄度によって高くなっているのではない。
ネチョネチョのラブラブ空気で高くなっている。
恋人のために、自らの手で料理を作る。
基本だが、基本だがここまでそれが圧倒的な熱愛空間を作ろうとはッッ。
正確には作ったのは茶だが、バキ世界有数の料理技術を烈のことだ。
克巳の病院食全てを自らの手で調理しているに違いない。
多分、ベッドの傍らには寝袋があることだろう。
中国茶は茶葉を発酵させて作る。だから香りと味わいに深みが出ると烈は語る。
そのためか日本の玉露はやや物足りないようだ。
長い時間をかけて、深い味わいを生み出すのが中華料理だ。
海産物の干し物なども時間をかけて作り上げ、複雑玄妙な味わいを生み出している。
それは中国武術にも似る。
長い歴史をかけることで他のどの格闘技とも異なった独特の体系を生み出した。
そっくりだッッ。中国武術は中国茶にそっくりだッッッ。…そっくりか?
「ウマい玉露 今度は俺が淹れてやろう」
「番茶も煎茶も焙じ茶も 発酵はしていないけどどれもウマい」
俺のターン!
手料理には手料理でお返しだ。
今度は克巳が烈に茶を淹れると言う。
これはデートの約束と取ってもらっても構わないのか?
構わないんだろう。
構わないんだな。
構えッッ。今すぐに構えッッ。
さっさとデートの準備だッッッ。むしろ、SAGAれ!
…熱くなった。落ち着こう。
日本茶は中国茶と異なり味わいが素直で軽めだ。
素材の持ち味を活かし、あまり手を加えないのが和食だ。
その特徴が茶にも出ているのだ。
これは空手にも似る。
中国武術より歴史は浅いものの、反面簡素な技術体系を磨き上げてきた。
正拳突きが象徴のように、簡素ながら洗練されている。
そっくりだッッ。中国武術は日本茶にそっくりだッッッ。…そっくりかなぁ…
しかし、茶を淹れると言っても片腕では淹れにくかろう。
そう考えていた時期は俺にもありました。
でも、烈の右腕が克巳の右腕の代わりとなり二人でイチャイチャしながら日本茶を淹れればいい…
そんな妄想に即座に支配されたのは言うまでもない。
克巳…こうか?
烈…そうだよ…
なんて言い合いながら茶を淹れあい、そしていつしか――
素人でも容易に想像のボーイズラブ、BLが連想される。
ここでバキは女性読者の獲得にも動き出した。
今号のマイティハートもBLネタだし、実にいいシンクロニシティである。
この濃密かつ可憐なBLに今号からバキを読み始めた女性読者は失神しかねない。
さて、烈の表情が改まる。
ボーイズラブモードからグラップラーモードになった。
二人とも色にだけ生きる男ではないのだ。
汗だけじゃなく血にまみれる世界でも生きている。
刃牙は色にだけ生きるっていうか…性欲にだけ生きるっていうか…
「片腕を失った君にこんなことを言うのは―― 不謹慎すぎることは百も承知している」
「君に嫉妬している」
「それが癪だ………」
烈は心底申し訳なさそうに頭を下げる。
克巳は右腕を失った。もう元には戻らない。
日常生活には不便が付きまとう。
そして何よりも五体を武器とする武術家人生に終焉を迎えたのだ。
愚地克巳21歳。短い。短すぎる空手家としての生命だった。
だが、人生の全てを失うようなダメージが羨ましい。
全てを失っても構わないと思えるような戦いだったのだ。
全てを出し尽くして、何もかもを出し尽くして、ピクルとの戦いに全てを捧げて、燃え尽きた。
烈には出来なかった。命を失うことを恐れてしまった。
自分もこのような戦いが出来ていれば、自分を誇ることが出来ただろう。
だからこそ、死をも恐れず、覚悟して、全てを出し尽くした克巳が妬ましくも羨ましい。
もう一度、機会が訪れたら…しかし、もう二度と前線に立つことには出来ない。
嫉妬と羨望と後悔が烈の心中で複雑に入り交じっていることだろう。
「へりくだるつもりはない」
「闘いに――― 武に生きるなら誰もが羨む」
「そんな試合だった」
まったくの出し惜しみもなく、本当の意味で全てと言える全てを出し尽くして、
その全てを真っ向から一片たりとも逃さずに受け止める相手と戦った。
そして、こうすれば良かったとか、あれを使ったら勝てたとか、一点の疑問の入る余地もなく、曇りもなく、真の敗北をした。
凄惨なダメージを負った。
だが、自分の強さを惜しみなく引き出させてくれる相手と戦ったことは誇りとなるものだろう。
「言うまでもなく俺一人によるものではない」
天才ですから。俺独力で十分ですから。
昔の克巳はそう言っていたに違いない。
だが、今の克巳はそんなことは死んでも言わない。
今の克巳は天才愚地克巳ではない。男の中の男愚地克巳なのだ。
「烈 海王あなたと 郭
海皇両氏は無論」
「中国―――――琉球―――――日本―――――
三国に渡り数千年もの間 一刻も進化を止めなかった数多の先人達」
「幾百万―――――幾千万もの先輩達の息遣い 温もり……」
「そして悠久の時…… 今も感じている」
克巳は自分だけの力でピクルと戦えたわけではないのだ。
空手と中国拳法の技術が融合し、それを克巳はまとめ上げ、そして遥か先にまで進化させた。
先人たちがいなければその域にまで達することはできなかった。だからこそ感謝をする。
言っていることはまともだ。
でも、息遣いとか温もりとか言うな。
漂うホモ臭…もといBL臭をさらに濃密なものにする気かよッッ。
イチャイチャネチョネチョグチョグチョな熱帯夜から、しんみりとしたムードへと変わる。
そんな場の空気を変えるように克巳は茶を促す。
取り繕うように中国茶を玉露並みと評する。
…ちょっと無理しているのか?
あれで味に癖があるから…
それともいい加減烈も茶だけでなく肉を差し出してみてはどうだろうか。
わたしが餌となっては如何かッ。
「幸運にも俺は代表しただけ 日中合作なんだあの試合は」
日本を代表する武術と中国を代表する武術。
2つの国の技術体系が融合したものを克巳は代表して使ったのだ。
やはり一昔の克巳ではありえない謙虚な姿勢である。
天才の自分よりも、先人たちが築き上げてきた武術の方が価値があるとした。
ピクルにはマンパワーそのものではなく、武術という概念そのものがぶつけられた。
だが、その武術の結晶が敗北した。
ここから先は武術を上回るマンパワーが必要になってくるのだろうか。
…範馬とか。
なお、これは克巳と烈のこれから人生も日中合作になるというフラグでしょうか?
克巳の間接的なプロポーズだったのかもしれない。
烈は恥じらいのあまり、頬を紅色に染めるに違いない。
「なのに勝てない」
ギャー!範馬が来た!
そのままSAGAってもおかしくない状況に刃牙が割り込んだ。
手には薔薇を持っている。
体裁はお見舞いだが、台詞は不敵で相変わらず範馬だ。
「何を言うか………ッッ」
不敵な台詞に烈が即反応する。
アッチのカツキュンは負けていない!とでも言いたそうだ。
片腕を失ってまで戦った男に敗北をしたんだと告げるのは酷であろう。
しかし、当の克巳は自分の敗北を受け入れていた。
空手と中国武術を融合させ、右腕を犠牲にまで力を振り絞ったが勝てなかったことを認めている。
「力足らずも根限りやった… それだけは否定させない」
克巳の戦いは壮絶なものだった。
それを否定できるのは勇次郎くらいだ。
刃牙が否定したら勇次郎クラスの態度のデカさを手に入れたということになる。
…いや、それはどうなんだ?
まぁ、勇次郎に及ばずとも態度だけはデカいのが刃牙ですよね。
「そしてあれ以上はない…」
…本当に克巳らしくない、弱気な発言だった。
出せる力を全て尽くした。そして、全てを失った。
あれ以上の力を出すことが出来ず、これから先も出すことができない。
燃え尽きたんだな。本当に。
「君に継(つ)なぎたい」
克巳が刃牙にバトンを渡した。
克巳は刃牙がピクルと戦うに相応しい男だと認めていた。
傍目から見ると刃牙は何もしていない。
…おい。そんな奴に渡していいのか。
それにお前のことに失望し続けてきたぞ。
最後の最後でやっと見直したけど。
ともあれ、バトンを渡した。
大きな意味を持つバトンだ。
それを払いのけるのが刃牙という男だ。
平気でやる。余裕でやる。そんな男なんだ、こいつは。
克巳の言葉を受け取ると同時に、刃牙は薔薇の花束を茎ごと絞り、その花をありったけの力で握りしめる。
〜〜〜〜〜〜〜ッッッ。これは花山が自分の母に行った行為と同じだ!(グラップラー刃牙13巻)
そして、握りしめた拳から一滴の薔薇の液体が垂れる。
天然香水の完成だ。
花山クラスの握力を以て出来上がる天然香水を刃牙はやってのけた。
刃牙の握力は新聞紙を握りしめるだけではない。
既に花山の域にまで達していたのだ。
今の刃牙はパワー・スピード・テクニック…全てが超一流の域にまで仕上がっている。
…何で仕上がっているんだ?
やっぱり範馬は侮れない。もといズルい。
「受け取ったよ」
出来上がった香水を克巳に付けて、刃牙は呟く。
烈の敗北で刃牙の闘争本能が揺さぶられ、ピクルとの邂逅でたしかなものとなり、そして克巳の戦いを見たことでさらに燃え上がった。
今の刃牙は本気でピクルと戦うつもりだ。
しかし、何で天然香水を作ったんだ?
花山が天然香水を作ったのは薔薇の香水が好きな母親のためだ。
でも、克巳は別段薔薇の香水が好きな描写はない。
範馬一族大好きのパフォーマンスなのだろうか。
だが、世の中には百合という言葉がある。
その対義語とも言える言葉が薔薇だ。
つまりはそういうことだ。
そう、薔薇の天然香水は祝儀なのだ。
克巳と烈にとってこれ以上の贈り物はあるまい。
さて、刃牙は克巳の壮絶な戦いを目にしてついに本気になった。
本気になってからが長いのが刃牙だけど。
勇次郎と戦う時が来たと言いながらもう3年ですよ(バキ240話)。
…やっぱり、もうちょっと寄り道するのだろうか。
次回へ続く。
クラナドは人生。
Fateは文学。
ならば刃牙はラブコメ。
そう言っても過言ではないどころかむしろ足りないくらいの話だった。
かつレツ!は115話で佳境を迎え、今回ついにエンディングを迎えた。
次に訪れるのはエピローグであろう。
何かもう、板垣先生って恋愛も描けたんですね。
爽やか風味のさっぱりとした汗の味だ。
イチャつき具合もちょうどいい。
男だらけのバキ世界ですっごく爽やかな存在だ。
梢江が入ると愛情とか性欲とか肉汁とかが入ってくる。
果てしなくキモくなる。
そんなかつレツ!はもう近年チャンピオン最高のラブコメであろう。
身長176cmというミニマムサイズの超男なんですよ烈は。
わがままで短気・気に入らない相手にはすぐに噛み付く凶暴さと“海王”という名前から、
周りから通称“手乗りカイオー”と怖れられているんですよ。
声優は釘宮理恵だ。
ゲハァ!萌えすぎて、死ぬ!
いい加減とらドラ!ファンに本気で殺されそうなのでここまで。
刃牙はやっと本気でやる気になった。
良いことだ。多分。
でも、他の戦士6人はどうなるんだ?
やる気になったところに割り込まれて、やる気を失うのかもしれない。
刃牙ならありえる。普通にありえる。
刃牙は花山級の握力を身に付けていた。
新聞紙なら勝てそうにないが、花山の握力なら話は別だ。
これなら、勝て…怪しい。
まぁ、今挑んでもピクルに勝てるかは怪しい。
刃牙にも修行が必要だろう。
残った6人の戦士が戦っている間に自分を鍛えるのだ。
逐一観戦することでテンションの維持もちゃんと行う。
…やっぱり、火付き悪い人かも。
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