範馬刃牙 第139話 Like an Ogre
独歩の闘争心にも火が点いた。
そして、リアルシャドーは失敗だ!
今までも刃牙は大舞台の前にはリアルシャドーをしてたのか?
春成やJr.瞬殺の真相も入念なリアルシャドーにあったのかもしれない。
妄想の中なら100回は殺しているのだ。Jr.の金的も100回潰した。
油断している時の不意打ち金的だけでなく、いきなり殴りかかってきた時のカウンター金的などもシミュレートしていたのだ。
刃牙の金的は入念なシミュレーションの元に出来上がっている。
刃牙はピクルの姿を間近に見た。
見ただけではなく実際に戦う姿も見た。
刃牙の妄想力なら格闘家ならばそれだけで十分にイメージを生み出すことができるだろう。
(なのに………)
(向き合ったときの彼(ピクル)が)
(まるで見えてこない……ッッ 思い浮かばない……ッッ)
しかし、ピクルは無理だった。
ピクルは刃牙にすら想像不可能の未知の野生力の持ち主であった。
ピクルは1/3800000の奇跡の存在だ。
故に1/3800000の奇跡をイメージすることも不可!
いや、その理屈はおかしい。
刃牙は格闘家だけでなく生物全般をイメージにすることができる。
カマキリを100kgサイズにイメージできるし、一度も見たことのないティラノサウルスも生み出せた。
だが、ピクルは出来ない。
ピクルは四足歩行から二足歩行へ一代にして進化した人外を越えた生物外だ。
生物の範疇を超えた存在をイメージすることは刃牙ですら不可能なのか。
そんなわけでイメージできないのならトレーニングにもならない。
刃牙は棒立ちだ。
それでいいのか、お前は。
それとも、克巳のように開眼するのを待っているのか?
2D俺の嫁を生み出したことに比べれば、妄想ピクルを生み出すのは容易いのだ。
延々と俺の嫁(仮)を生み出す妄想に没入している最中、突如物音がする。
地下室を閉じているフタが開く。誰かが来たようだ。
って、今まで光源全くなしで妄想していたのかよ。
闇の中ほど妄想が滾るのは中学生だけでなく刃牙も一緒のようだ。
さて、地下室の出口から三つ編みが現れる。
〜〜〜〜〜ッッ。梢江かッ!?
バキ世界の三つ編みと言えば梢江だ。
まさかここで出番が来るのか?来るな!
いや、梢江は「バキ」になって以降、三つ編みをほどいている。
おかげでより一層雌度が高まったんだった。
極道の女と言っても過言ではない。
実際、それくらいの迫力は持っていた。間違いない。
梢江は置いておこう。
刃牙の元に来た来訪者は何と烈海王だ。
克巳は置いてきたのかよ!
友情と愛情は別らしい。
克巳はそうとわかりつつも病室で嫉妬しているに違いない。
この予想外の来訪者には刃牙も驚く。
何せあのイチャイチャネチョネチョっぷりを見たくらいだ。
さすがに来るとは思わないだろう。
でも、これは義理チョコだから勘違いしないでしょね。本命のチョコは克巳クンにあげているんだからね!
――烈はそんな心境なのだろう。
この複雑な関係は主人公もヒロインも他に本命で好きな人がいるというとらドラ!みたいだ。
烈は克巳が本命。刃牙はピクルが本命。
しかし、お互いのことも憎からず想っていて…
無理を言った。
「怪物製造工場(モンスターファクトリー)…………… 想像していた通りシンプルなものだ」
烈は初めて見る刃牙のトレーニングルームをシンプルと形容する。
打岩など試し割りに深い歴史を持つ中国武術だ。トレーニング設備には事欠かせない。
それと比べるとシンプルすぎるくらいなのだろう。
そして、ここでやることは妄想だ。
器具いりません。
器具いらずで妙に強くなる刃牙に嫉妬して烈が殴りかかろうとも、我々が止めることはどうしてできようか。
刃牙は烈に対して自分の非力さを語る。
想像も出来ない怪物が相手だ。
そして、現実においてもマッハの速度にも屈しないSSS級怪物でもある。
相手として大きすぎるくらいだ。
だから、リアルシャドーせずに普通にトレーニングなり実戦なりを…
刃牙は今までの人生では想像もしえない対戦相手、ピクルのことを実際に戦った烈に聞いてみる。
その答えはわからないだ。
戦った本人ですらわからないというスケールの大きさだ。
異常な筋力。異常なタフネス。それだけで語れる相手ではないのだろう。
合気をラーニングしたように範馬一族のような奇妙な底の深さを持っている。
やはり、ピクルは桁が違う。
「克巳もわたしも」
「ピクルの本気を引っ張り出せなかった」
二人ともピクルタックルというピクルの本気の一端を引き出すことは出来た。
だが、そこで終わってしまった。
ピクルの本気はピクルタックルの先にあるものなのだろう。
ピクルの本気は若手実力者2名では無理な領域であった。
それを引き出せるのは…やはり、人外レベルの格闘家のみか。
既に戦いは人間のレベルを超越した領域で展開されている。
「フ…ッ フ…ッ」
「フゥ…… フシュ……」
刃牙は腕を胴体に絡ませながらいきなり変な吐息を吐く。
フシュとかシコルスキーウィルスが伝染したか?
蹴り一発でダメ人間っぷりを発揮したのもシコルスキーウィルスの一端だったのかもしれない。
これには奇行千万の烈も訝しげに刃牙を見てしまう。
変態だからな、この人。
リアルシャドーとかホモセックス以上に変態ですよ。
故に烈は克巳との恋愛に躊躇する必要は絶無ッッ。
「たまんねェな烈ちゃん……」
刃牙が顔を上げると目がヤバかった。
まるで麻薬中毒者のように目を見開いている。
さらには思わず烈をちゃん付けですよ。
烈ちゃん…烈ちゃん…似合う。
烈たんでも私は一向に構わん。
「想像もつかねェ強ェ奴と 心ゆくまでヤレるんだぜッッ」
「どんだけ強ェかワカらねェッッ 何をしてくるかさえワカらねェッッ」
「そんな奴とヤレるんだぜッッッ」
刃牙が発情した!
まるで盛った猫である。
想像もできない強敵との戦いを目の前にして強いんだ星人としての本能が完全に解放されている。
さらには倫理という枠に縛られないのがピクルだ。本当の限界の限界までやり合える相手である。
勇次郎風に言うのならば極上の料理を腹いっぱい食うに等しい行為だ。
独歩も本当ならばこうありたかったのだろう。
しかし、それにしても目がヤバい。
範馬一族にとって戦いは麻薬同然のものだ。
刃牙もガイアの舞台と戦った時に戦場の緊張感を麻薬のようだと形容したことがある。
そして、ピクルは今までに体験したことのない極上の麻薬だ。
範馬一族としては気が狂うくらいに感じてしまうに違いない。
自分の知る人間二人が凄惨な傷痕を残した。
だが、刃牙は闘争心が萎えることは一切なかった。
それどころか激しく燃え上がった。
ブレーキ壊れましたというかブレーキ忘れましたってくらいに燃え上がる。
その闘争心を見届けた烈は明日にでもピクルとの戦いの件を徳川光成に連絡することを打診する。
烈がいつの間にか連絡係になってしまった。
大擂台賽の時も連絡係になっていた。
連絡係が烈の裏の職業なのだろうか?
明日にでも連絡するという急展開だ。
もう数ヶ月は刃牙らしくグダグダすると思ったら、今すぐにでもやる気のようだ。
ピクル編初期のやる気のなさはどこへやら。
完全に自分の本能で生きている。
本能で生きている勇次郎の域に少し近付いたか?
だが、刃牙は明日連絡するという烈の言葉をのんびりしていると言う。
十分速すぎるくらいなのにのんびり呼ばわりだ。
刃牙の闘争心はもう誰にも抑えられない。
ピクルを呼んでこい。今すぐにだッッ。
「明日……… 直………… 俺がピクルの下へ出向く」
連絡などまだるっこい手段は使わない。
明日、自らの足でピクルに挑みかかる!
って、結局明日かよ!
今日中に、とは言わない。
無駄なところで理性を働かせている。
明日頑張るんじゃなく今日だけを頑張った者が勝てるんだって班長が…
烈は口には出さなかったが発情した刃牙に勇次郎の姿を重ねていた。
戦いが酸素よりも好きな勇次郎だ。
それと同じ匂いを今の刃牙に感じたのだろう。
ピクルという存在が現れたことで長年(連載時間で軽く10年)押し隠していた戦いへの欲求が発露した。
今の刃牙は戦いを何よりも求める。相手を壊し合う血生臭い決闘を求めている。
梢江を突き放したのは二重の意味で正解だった。
ここまで来ると最愛が入り込む余地のない領域だ。
骨が折れ血が出るどころか、肉がちぎれ骨が剥き出しになる戦いである。
刃牙は最愛を振り払った。ならば、最強を目指し悪鬼のごとく極上の戦いを貪るのみだ。
明日になったらな!
…明日なのかよ。
その一方で東京ドームでは異変が起きていた。
地下闘技場へと続くドアが次々に破壊されている。
頑丈そうな鋼鉄製のドアも溶けた飴のように曲がっていた。
よほどの怪力の持ち主が破壊したようだ。
真っ先に思い当たるのはピクルである。
だが、ピクルは野生らしくもなく地下闘技場に鎮座しているはずだ。
新たな強者がピクルの元へ出向いているらしい。
ズン
侵入者は柵を粉々に粉砕しながら地下闘技場へ降り立つ。
目の前には体育座りしているピクルだ。
…こいつ、本当に野生なのか?
体力を温存しているにしても、体育座りはむしろ疲れると思うのだが…
さて、侵入者の脚部がドアップで描かれる。
そこには夥しい傷痕が刻まれている。
身体中に傷痕を背負った男…刃牙か?
明日とか言っておいてやっぱり今日やってきたのか?
烈ちゃん、明日って今さ!
「探したぜ… 直立原人……」
ジャック・ハンマー参戦ッッ!!
前フリ、一切なし。
範馬一族の雄、ジャックが突如の参戦だ。
直立原人なんて妙なあだなまで付けやがった。
明日とか言っているから今日やってきたジャックにピクルを奪われた。
ジャックはドアを破壊しながら地下闘技場までやってきた。
よっぽど急いでいたらしい。
現代的な風習に染まる余裕一切なしだ。その証拠に真新しい汗に包まれている。
刃牙がピクルに発情したように、ジャックもピクルに発情していたのだ。
血は争えぬということか。
ジャックの到来にピクルの顔は歓喜で包まれ髪も逆立つ。
範馬という超ド級の強者だ。
強者との戦いを望むピクルにとって、まさに待ちに待った格好の獲物なのだろう。
ジャックにとってもピクルは獲物として相応しい。
せっかく苦痛に耐えて骨延長手術をしたのにしょぼい相手にしか恵まれなかった。
Jr.はジャックを満足させるだけの器でなかったし、シコルスキーに至ってはネタにしかならないしょぼさだった。
だが、ピクルは勇次郎級の怪物だ。
刃牙と同じく勇次郎を越えることを望むジャックにとって、これほど対戦相手として相応しい相手もいない。
バキ史上最大級の超パワー勝負が幕を開けようとしていた。
次回へ続く。
予想外のジャック乱入だった。
烈に克巳と対ピクル戦はかませ犬ゼロの出し惜しみのないラインナップが並んだ。
そして、厚木基地に来た8人の中で最強であるジャックが出てきた。
板垣先生は本気で後先考えていない。
ジャックの後に寂海王がピクルに挑んでもしょうがない。
ジャックの後は刃牙が続くのだろうか?
寂海王は置いておいて、昂昇やガイアの活躍は見てみたかった気がする。
ジャックとピクルには共通点が多い。
2mを上回る巨大な体格。異常な筋力。常人離れしたタフネス。高等技術をコピーする能力。そして、噛みつき…
何よりも人外なことも共通している。
唯一の相違点は、ジャックが科学で生まれた人外ならばピクルは野生から生まれた人外だ。
科学の結晶と生粋の野生はどちらが勝利するのだろうか。
でも、技術などの人類が築いた文明が肉体力に否定されてきたのがバキ世界だ。
特に最近は中国武術も未来空手もピクルの肉体の前に押し潰されている。
ジャックの科学もピクルの肉体に敗北してしまうのか?
ジャック兄さんは骨延長手術してからちょっと人間味を取り戻している気がする。
最大トーナメントでは相手の攻撃では一切砕けなかった鋼鉄の歯をJr.に砕かれていた(252話)。
当時はツッコミを入れるのを忘れていたけど、ジャックの歯が砕けるというのは大事件だ。
歯の強度自体が落ちている可能性がある。
生活面でも最大トーナメントのジャックは得体の知れない空気が漂いまくっていたのに対し、
骨延長手術以後は猪狩の世話になっているという安定っぷりだ。
安定した生活に任せて思わずステーキをたらふく食ってしまう(250話)。
カナダ時代は廃ビルに暮らしていたみたいだからなぁ…
鎬紅葉によると身長を伸ばしたと同時に身体能力も伸ばしたようだった。
だが、明日を捨ててでも勝つという狂気に近い精神力は見られなくなってしまった。
見せていないだけ、なのかもしれないけど。
何にせよジャックから人外度が失われると対ピクル戦に陰りが見える。
あるいはここで10年ぶりに明日を捨てたジャックを見られるのだろうか。
ドーピングをガンガン打ち込む。ピクルが食っても吐き出してしまうほどに身体を薬で犯し込む。
でも、ガリガリジャックはドーピングを凌駕した存在なんだよな。
そのガリガリジャックの先にあるのが今のビッグジャックだ。
もうドーピングに頼る時代は終わったのか…?
ジャック兄さんの身体に悪いがドーピングを打ちまくった異常な形相の姿をもう一度くらいは見てみたい。
いっそのことビッグガリガリジャックになってみるか?
ジャックの乱入は驚きだが、闘争心に火が点いているのは範馬だけではないだろう。
独歩は強いんだ星人としての本能を取り戻した。
昂昇も、寂海王も、渋川先生も、ガイアもピクルとの戦いを今まで以上に渇望しているに違いない。…と思いたい。
死刑囚たちが集まったように地下闘技場に訪れているかもしれない。
戦いは大好きだが戦うと思わせて戦わないのもまた範馬一族なのだ。
ジャックはドイルに宣戦布告しておいて結局戦わなかった経歴を持つ。
刃牙もよくやる。いや、刃牙はそもそも戦う気概すら見せないんだけど。
そんなわけでジャックの参戦もポーズだけの可能性は否めない…かもしれない。
一方で刃牙はやる気を出している。
明日だけど。明日だけど、やる気を出した。
主人公なのにやる気を出すこと自体が珍しい男だ。
やる気を出しただけでも御の字だろう。
烈は刃牙に勇次郎の姿を感じた。
凶暴にまで戦いを求める姿勢は勇次郎に似ている。
116話で見事な勇次郎の物真似を演じたが、根本的な精神面でも近付きつつあるらしい。
「フシュ」も勇次郎の「エフッ」と同様の範馬奇声なのか?(15話)
いや、そんなところは似ないでも…むしろ、シコルスキーに似ちゃったから本気で心配してしまった。
ただ精神面は近付けど肉体面ではどうなのかは怪しい。
一応は100kgのハンデを押しのけてオリバとの殴り合いに勝利した。
だからといって勇次郎に匹敵しうる筋力なのかとなれば、やや疑問である。
刃牙もスコッチ一気飲みとか煙草一気吸いとかをやれば…
そういう意味でもピクルを越えるのは、勇次郎に今の自分が通用するかどうかを確かめるには絶好の試金石であるのは間違いない。
その試金石をジャックに奪われちゃったわけだけど。
克巳の時もうっかりリアルシャドーしたら先を越されてしまった。
今回もリアルシャドーに手間取って先を越された。
刃牙にとってリアルシャドーは戦いを遠ざける存在なのかもしれない。
まぁ、現実から目を逸らす行為だからなぁ…
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