範馬刃牙 第143話 実感
ピクルが四足歩行を、ジャックがマックシングを発動させた。
お互いに序盤から出し惜しみなしの全力だ。
特にマックシングは健康を大いに害するジャックの最終兵器である。
ヘタすればガリガリになるほど吐く。
吐いた方が強いのがジャックなんだけど。
勇次郎を倒すのがジャックの最大の目標であるが、その過程でマックシングとは後先を考えていない暴挙だ。
でも、ピクルとの戦いでヘタに手を抜けば食われる。そうなると勇次郎どころではない。
今は健康を犠牲にしても勝つ時なのかもしれない。
噛み付きが破られて拳も通用しないなら、引き出すものは薬物だけか。
地下闘技場は激動を繰り広げている。
だが、灼熱の時を迎えているのがジャックとピクルだけではない。
主人公の刃牙もだ!
というわけで、烈と共に地下闘技場へと向かう。
うん。普通向かうよね。強敵との戦いを目前に、それを奪われた。
普通だったら現場に向かう。
でも、刃牙だったら家の中でごろごろしていそうな気がしていた。
明日から俺はやるぜ。明日からやると決めたら今日は何があっても動かないぜ。でも、明日からやるぜ。
そういう人間に限って明日もやらないものだが、刃牙はちゃんと今日中に動いた。
すごいぞ。すごい進歩だ。進歩なのか?
地下闘技場へと向かう道程で、刃牙と烈は歪んだドアに驚く。
烈は驚きすぎて「強盗ではないな」とか言い出す。
いや、あまりにも大ボケだろう、烈。
地下闘技場なんかに強盗が入った日には、ジャガッタ10人分くらいひどい目に遭うに違いない。
最悪、地下闘技場戦士と戦われますよ。
物好きな観客たちは大喜びだ!
烈の大ボケには刃牙だって「金庫はないよこの先には」と素で返してしまう。
気の効いたツッコミをする余裕すらない。
日和った芸人のようである。
烈をちゃん付けするほどのノリノリだった刃牙はどこへやら。
二人は異常事態が起きていることを把握し、先へと急ぐ。
急いで走る。
って、お前、烈のことを考えろ!
義足だから走れませんよ。
義足には走るための種類があるというのに、杖同然の義足では無理だ。
気合いで走れたとしても刃牙クラスの身体能力を持つ人間について行けるわけがない。
でも、烈は義足でもマッハ突きを使える男だ(第116話)。
走るくらいわけないですよ。刃牙についていくのも余裕ですよ。
やっぱり、片脚を失ったダメージを感じさせない。
右脚を食われた時は大層悲しんだものだったが、何だか余計な心配だったようだ。
克巳だってそのうち片腕しかないのに、両腕で日本茶を作り始めるかもしれない。
「行きましょうこのままッ」
「明白了(ミンパイラ)ッ(承知した)」
走っていくとまたも破壊されたドアが目に付く。
だが、もう立ち止まっている時間はない。
刃牙は思考に時間を割くよりも先へ進むことを重視する。
烈はそれに答える。中国語で。
何だか妙に面白い二人だ。
克巳がこの二人を見ると嫉妬することは想像に難くない。
つーか、むしろ嫉妬しろ。
刃牙は立ち止まらずドアの向こう側へと進む。
と、その時、ガラス状の何かを踏みつけてしまい、驚きと共に立ち止まる。
前進を決意したのも束の間、結局、刃牙は立ち止まってしまうのだった。
やる気を出した途端にこれだよ。
克巳に先を越されるわ、ジャックに先を越されるわ、刃牙はやる気を出すと止まってしまう病気にでもかかっているのだろうか。
さて、刃牙が踏みつけたものは使用済みのステロイドの瓶だった。
おそらく、いや、間違いなくジャックが使用したものであろう。
しかも、それはひとつふたつではない。
廊下中にステロイドの瓶が転がっていた。
ざっと数えてみたところ、ステロイドは軽く30個はある。
描写されていないものも含めればもっと多くの残骸があることだろう。
ジャックはピクルの元へと向かいながら膨大な量のドーピングを行っていたようだ。
相変わらずの不自然主義を貫くジャックであった。
第139話で妙に急いでやってきたジャックであったが、ドーピングを行っていた以上、急ぐのも当たり前か。
これでもしもピクルが地下闘技場にいなかったらどうしていたんだろう。
烈と戦った後は脱走している。地下闘技場にいない可能性は否定できない。
急いで地下闘技場に来て大急ぎでドーピングをした。
でも、ピクルがいないことを考えてなかったよ。ヤバッヤバッ。大急ぎで向かおう。いなかったら急いで別の場所を探すぞ。
ジャック大急ぎにはそんな裏があったのかもしれない。
「”ヘンゼルとグレーテル”だな
まるで」
「誰が通ったのかこれほどワカリやすい例もない」
ヘンゼルとグレーテルよりもウサギとカメの方が似合っている気がする。
刃牙兎は戦わないけれど主人公だから出番と扉絵をそこそこ与えられていた。
対するジャック亀は厚木基地に出向いたけれど、以後の出番はまったくない。
じゃあ、刃牙兎は余裕でピクル戦を先取りできると明日からやると決めたら、その隙にジャック亀が刃牙兎を追い越して…
烈も「ウサギとカメの間違いじゃないか」と突っ込めば良かったのに。
ピクルの挑戦者の正体に勘付きつつ、二人は地下闘技場への前進を再開する。
何というか、今更だけどジャックがドーピングしていることはバレバレだったのか。
勇次郎は一目で見抜いたし、決勝戦になる頃にはあの加藤ですら見抜いていた。
表だってドーピングしている姿は一度も見せなかったけれど、ジャック=ドーピングの方程式は根強く染みついていた。
刃牙と烈は地下闘技場へと辿り着く。
そこで目にしたのはジャックに突進するピクルの姿だ!
最初からクライマックスだぜ。
放送開始数分で大量のズボン(notパンツ)を見せつけられた気分だ。
それに対してジャックは立ったまま対抗しようとする。
ピクルの四足歩行に対してジャックはクラウチングスタートで対抗、とか思ったけれど、そこまで無謀ではないらしい。
ピクルは口を大きく広げている。噛み付く気だろうか。
今までピクルタックルは純粋な突進技として用いられてきた。
だが、超スピードによる突進という媒体は、相手を押さえつけてからの噛み付きなど多くの攻撃に派生させることができる。
そして、ピクルのパワーを持ってすればタックルから繰り出す攻撃どれもが必殺の威力を持つ。
警戒すべきはタックルそのものではなく、そこからピクルがどういった行動を取るのかだろう。
ジャックはピクルタックルにどう対抗するのであろうか。
考える間もなく、ジャックを閃光が包み込む。
激突ッ!?
烈を一撃で切って落としたピクルタックルをまともに受ければ、いくらタフネス自慢でさらマックシング中のジャックとてただでは済むまい。
ジャックの危機にこの戦いを見ていた4人の男たちは凍り付く。
「!」「むッ」「おッ」「!」
「一人…………!!?」
四者四様の驚愕をしながら、4人の思うことはひとつであった。
闘技場には両腕を掲げたジャックしか立っていなかったのだ。
ジャックは無事なのか?
ピクルはどこへ消えたんだ?
そして、何が起きたんだ!?
ドガァッッ
次の瞬間、ピクルは2階席に突っ込んでいた。
遥か後方だ。これには4人の観客、そして二人のグラップラーが気付かぬのも無理がない。
ジャックが用いたのは筋肉か?それとも、技なのか?
いずれにせよジャックはピクルタックルを正面から破ったのだった。
しかも、克巳の時とは違って五体を留めている。健康に関しては目を閉じておこう。
ピクルタックルを少しでも受けたのなら足元に踏ん張った跡が残るはずだ。
だが、その痕跡は残されていない。
ピクルタックルの加速をそのままに両腕を持ち上げることで逸らして、観客席まで吹き飛ばしたのだろうか。
ブレーキを一切考慮していない気がするし、目標を逸らされても止まることができないのかもしれない。
力と技が高度に融合した範馬一族ならではの神業か。
2階席まで吹っ飛んだのは計算のうちです。
だが、ピクルの方もただ者ではない。
力を用いたにせよ技を用いたにせよ、ピクルタックルの加速そのままに観客席まで吹き飛ばされたことは間違いない。
甚大なダメージを負ったことだろう。
それでもピクルは即座に動き出した。
2階席まで吹っ飛んだどこぞの少年Bは瀕死だったというのに…(第114話)
わかりきっていたことだがタフネスは人外級だ。
ジャックはピクルの追い打ちをかけるべく、素早くピクルの髪を掴む。
前回と前々回で地力で負けてしまい大劣勢になったとはいえ、範馬一族は神出鬼没の機動力を誇っている。
勇次郎なんか速いを通り越してワープの領域まで達している(第50話)。
そして、その機動力は今回も炸裂した。
何せ2階席にいるピクルが立ち上がる前に髪を掴んだのだ。
ジャックは恐ろしい機動力を誇っている。
腐っても範馬一族である。やはり、ピクルに対抗できるのは範馬一族だけか。
髪を掴んだジャックはピクルを振り回そうとする。
そのまま投げるのか?打撃に繋げるのか?
ピクルタックルを破ったからといって勝負は終わったわけではないのだ。
ここからがお互いの全力をぶつけ合う正念場になることは間違いない。
ピクルも身体のどこかを失うことを覚悟した方がいいのかもしれない。
同時に観客席も戦いの舞台になったというのも、何かの象徴のようだ。
長い地下闘技場の歴史でも初めてである。
シコルスキーとのノールール対決をした時だって、観客席に吹き飛んだシコルスキーを闘技場に戻るように言ったくらいだ。
地下闘技場を決戦の場にしたとはいえ、その戦いは闘技場の中で収まるものではなくなってきているのだ。
そのうち、地下闘技場のあちこちを二人が飛び交い、ついには崩落するのか?
さて、そんなジャックとピクルの激闘を眺めているだけの自分に刃牙は歯がゆさを感じていた。
そりゃあ悔しいだろう。悔しくて顔が>△<こんな感じになっている。
もっとも悔しくない方がおかしい。
ねえどんな気持ち?明日やる気になったら先取りされてどんな気持ち?
N・D・K?
(“ピクル戦”争奪………)
(誰よりも先んじていると自負していた)
(次は当然俺がヤルものと)
(それがどうだ…………ッッ)
誰よりも先んじていると自負していた。
誰よりも先んじていると自負していた。
誰よりも先んじていると自負していた。
どの口が言うんだお前は。
本日どころか今年のお前が言うな大賞を受賞した。
今年は始まったばかりだが、今年を代表することは間違いない。
刃牙はピクル一番乗りを勝手に自負して、勝手に次に戦うのは自分だと決めていたらしい。
そりゃあ明日にやりますよ。だって、内定しているんだから焦る必要がない。
あくまでも自負だけど。
この根拠のまったくない自負はどこから来たんだ?
ティラノサウルスとのリアルシャドーで脳がショートしてしまったのだろうか。
[出遅れたことは理解していた その理解が――――――]
[実感へと変化し――実感は痛みへと変化した………]
刃牙の背中に哀愁が漂う。
まさしく敗者の背中であった。
しかし、出遅れたことは厚木基地に出向かなかった時点で理解して欲しかった。
今まで対ピクルの最前線に立っていると、自分を騙してきたがその結果がこれだよ。
この痛みは今まで自分を騙してきた報いなのかもしれない。
次回へ続く。
今日のためなら明日を捨てる男、ジャックの本領が発揮された。
力こそ薬物だ。薬物こそドーピングだ!と言わんばかりの摂取量だ。
昔はあんなにやっていなかったのに…
多ければ多いほどいいというものでもあるまい。
デカすれば巨乳だって奇乳になりますよ。松山せいじみたいに。
ジャックにドーピングを授けた博士は死んでしまった。
あの博士からストックしていた質のいいステロイドはなくなったのかもしれない。
だから、今回のように量でカバーしたのだろうか。
質を量でカバーできるのもおかしいが。
押され放題だったジャックだったが、マックシングが発動すれば話は別だった。
やっぱり範馬は人類とは違う。
打たれてからが範馬の異常性が輝く時だ。
ここからピクルは範馬力の前に圧倒されるのか?
だが、ピクルの方も未だ全力が見えていない。
全力の証であるピクルタックルもその一端に過ぎないのだ。
常時四足歩行から繰り出される戦闘方法は明らかに人類のそれとは異なることだろう。
範馬一族とてその戦いに対応できるのであろうか。
今まで全力を出した範馬にかなう存在はいなかった。
オリバだって刃牙には後半押され放題であった。
今のところ、全力の範馬一族に勝てたのは範馬一族だけである。
ピクルはどこまで範馬一族に抗えるのか、それとも乗り越えてしまうのか。
お互いに力を見せつけたものの、天秤がどちらに傾くのかは予想できない。
一方で刃牙はひどいことになっている。
烈という萌えっ娘がいなければ死んでますよ。
自分のダメさを自覚したから、これからが覚醒の時か?
覚醒するにしても、もう一人くらい生贄が出るかもしれない。
寂海王なんかどうだ。新鮮すぎるぞ。
でも、刃牙の地下闘技場まで駆けつける速度は半端ではない。
ジャックの顔が食われるところまでは徳川光成と携帯で会話をしていたので自宅にいたのは間違いない。
そして、ジャックのアッパーが炸裂して、ピクルタックルの構えを取り、それが炸裂する頃には地下闘技場に到着していた。
どんだけ速いんだ。しかも、義足の烈を付き添えてこの速度だよ。
烈さん、タクシーを!明白了!
そんなやり取りをしつつ気合いで急行したのだろうか。
あるいは走ったな。
急ぐのだからこそ奔るのが範馬刃牙だ。
烈さん、走るぞ!明白了!
烈さん、川を走って渡るぞ!明白了!
烈ちゃん、ツンデレ!明白了アルヨ!
こんなことを言いながらダッシュである。
そりゃあ即到着してもおかしくない。
ただ、刃牙が到着して期待できることはジャックが食われそうになっても助けてもらえることだ。
殴り合ったとはいえ兄弟の間柄だ。
負けた時にはちゃんと助けてもらいたい。
助けてやらないと主人公じゃないよねー。
…あ、克巳…
でも、刃牙が「範馬一族が負けてたまるかァ!」とピクルに殴りかかって、一発でダウンしちゃえばダメだな。
そもそも、あまりのジェラシーに今すぐ刃牙ハウスに逃げ出しちゃいそうだ。
そして、明日からちゃんとやるさ。今日はもう寝ます。
…刃牙のカッコイイところがまったく想像できねえな。
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