範馬刃牙 第153話 早贄



ジャックが2度敗れた。
範馬一族は範馬一族でしか敗れない…
バキ世界の絶対法則であった。
だが、それが破られた。破るだけの力をピクルは持っていた。
スーパーハンマネイター勇次郎が出ないともう無理か?


ジャックは病室で目覚める。傍らには徳川光成とペイン博士がいた。
特に失った部位はないようだ。どうやらピクルに食われなかったようである。
目覚めてすぐに上体を起こしたことから、ピクルの会心打を数度受けても未だこれといった後遺症はないようだ。
さすが範馬。敗れたものの頑丈だ。

徳川光成に病院にいると告げられ、ジャックは再び敗北したことを悟る。
と、同時にジャックの目が座る
徳川光成とペイン博士の両者はジャックの闘争心が萎えていないことを察する。
ま、まだ諦めない気なのか、こいつはッ!
だが、二人とも再びピクルの前に立たせるつもりは当然ない。
静止させるべく言葉を投げつける。

「君は唯一無二の文化財を相手取り 2度にも渡り傷付け合ったのだ 3度目はない」

「もう十分じゃろう… ジャック・ハンマー」


二人とも正論だ。
あれだけの決着を2度も体験したのだ。
生きている方が不思議である。
その上でさらに戦う…あもりにも命知らずすぎるでしょう?

しかし、ペイン博士は文化財だから強いというわけでないぞ。
史上最強の男ならともかく、文化財というのは的外れな気がする。
それともやっぱりピクルの耳を噛みちぎったことが頭に来ているのだろうか
もう戻らない貴重な耳ですよ。
それを無遠慮にアマガミしやがって…いやらしい。

だが、収まるジャックではなかった。
点滴を引きちぎり病室の外へと飛び出す。
2度敗北してもまだまだ元気だ。
烈や克巳が再起不能になったのを見ると、ジャックはかなり被害が少ない方と言える。

と、ジャックが飛び出した先には刃牙がいた
もう現れたのか!はやい!きた!主人公きた!メイン主人公きた!これで勝つる!
範馬兄弟、久しぶりの対面だ。
この二人、なかなか接点がない。
刃牙が毒手にやられた時もジャックは現れなかったほどだ。
命の危機など二人が逢う理由にならない。命の危機以上の理由があるのだろう。

「気持ちは理解してるつもりだ 痛いほど」
「兄弟だからではなく――」
「俺たちは」「生まれついての闘士だから」
「――だからこそ」
「もう終わりだ」


お前はよくやった…もう森へ帰ろう…
刃牙はハンドポケットのまま、淡々と告げる。
ピクルを先取りされたというのに刃牙の態度は何だかデカい。
お前は本当に理解してるのか?
お前は本当に生まれついての闘士なのか?
嘘臭ェ…これが噂の振り込め詐欺だろうか。

刃牙にこんなことを言われて止まるジャックではない。
もし、アゴが動いたのなら、明日に回したお前に言われたくないなどと反論したことだろう。
構わずに歩を進めようとする。

「兄さんッ」

刃牙はポケットから手を出し声を荒げた。
これにはジャックも反射的に足を止める。
何でやる気のない主人公にあれこれと言われなければいけないんだ…
ジャックは嫌な上司を持った心持ちなのだろうか。

「アンタはもう―――…………」
「闘士(ファイター)として終わりなんだよッッ」


〜〜〜〜ッッッ。
刃牙がひどいことを言った!
刃牙にひどいことを言われた!

闘士として終わりなんですわ?お?

お前こそ闘士として終わってるだろう…
少なくとも主人公としては終わってるだろう…
あまりにも予想外の言葉にジャックは仰天する。
そして、刃牙はジャックが敗れた後の話をし始める。


[自ら敗北と認めぬうちは―― 決して敗北者にはならない]
[ジャックの持つその思いはもはや信仰のレベルまで昇華していた]


心が折れぬのなら敗北ではない。自らが認めて初めて敗北になる。
これがバキ世界における真の敗北である。
勇次郎も提唱しているほどだ。

そんなわけで2度の敗北を迎えてなおジャックは敗北を認めていなかった。
ジャック以外から見れば惨敗もいいところではあるが、本人としては違うのだ。
でも、明らかに負けていても負けていないと主張するのはちょっと見苦しいかもしれない。
勇次郎の場合、負けを認めない柳に対して問答無用の制裁を与えたし、引き時も大事であろうか。

ジャックを2度屠ったピクルはまたも号泣する。
涙する時は別れの時…それは食らう時…
って、やっぱり食う気なのか?
生存のために戦う雄は格が違った。
お前らにピクルの悲しみの何がわかるってんだよ。

恐怖に値する相手だった。
でも、殴ってみたら一発だった。
そんなのに恐れていた自分が情けない…
そんな涙ではなさそうだ。

ピクルはジャックを片手で担ぎ上げる。
今度はラストスペル指刺「地上最強のファックユー」が発動しなかったようだ。ボムが切れてしまったようだ。
これでジャックを病院にでも運んであげれば美談だ。
血生臭い戦いをしてきたピクルにそんなものは期待できないけど。

ピクルはジャックを片手で持ちながら、ビルの壁を素手で登っていく。
さりげなく恐ろしいことをやってのけている。
ただ登るだけでもすごいというのに、さらに100kg後半はあるであろうジャックを片手で持ちながら登る…
ピクルの筋力もバランス感覚も凄まじい。
登っている途中にジャックが目覚めなくて良かったな。
目覚めたら暴れて一緒に落下していたぞ。

ピクルはジャックを注意深く、これ以上傷つけないようにしながら、屋上まで運んでいった。
常人なら登るどころか運ぶことで手一杯だというのに…
さて、何故ピクルはジャックを屋上まで運んだのであろうか。

ピクルの視線は上を向く。
そこにはポールとそれにくくられているロープがあった。
ピクルはロープを手に取る。…道具を使えるのか、こいつ。
やっぱり、人外クラスの進化を果たしている。
そのロープをジャックの足にくくりつけ…

[あろうことかピクルは――]
[大ジャック・ハンマーを食料としての保存を試みたのである]


ジャックをポールにくくりつけて逆さ吊りにした。
ジャックを戦士としてではなく、食料として扱ったのだ。
美談も何もないひどい話だ。
もっとも保存食として扱ったのでジャックは無事に生き延びたわけなのだが。

ピクルの食糧難は今も昔も変わっていない。
その場で食わないということはピクルの腹は膨らんでいたのだろうか。
でも、ジャックの頬肉を食べてから何も口にしていないはずだ。
烈の脚を食ってもすぐに腹が減るくらいだし、あれくらいじゃ絶対に足りない。

ジャックの巨体を見込んでいざという時の保存食としたのだろうか。
食材を干せば生よりも長持ちするぜ。そのためにわざわざ屋上まで登った。
ピクルは生活の知恵と同時に、原始の料理法を披露したのであった。
奇妙なところで文明レベルの高いピクルであった。

でも、略奪を考慮していない辺りはやっぱり天然だ
ビルの屋上は安全地帯と思い込んでいたのだろうか。
ところがぎっちょん。あっさり奪われてしまった。
ピクルは深い悲しみに包まれた。

天然と言い出したらそもそもジャックは死んでいないのですが。
くくりつけても、ジャックが目覚めたら逃げ出されますよ。
生死確認が下手というか、変なところで詰めの甘いとピクルである。
ちゃんと食料にするのなら、ジャックにトドメを刺しておかないと…刺されても困るけど。

ただ、目覚めたらビルの屋上に逆さ吊り…ジャックと言えども動揺しそうだ。
ヘタに暴れると地上に落下してしまうので気を付けましょう。


結局、ピクルにとってジャックとの戦いも戦闘ではなく食事だった
これ以上の屈辱もあるまい。
ジャックは冷や汗と共に震える。
戦意喪失は確定的に明らか。

「葬り去る―――― ではなく大切に扱われる」
「敵ではなく―――――ゴチソウとして」
「ワカるよねこの意味」


動揺に震えるジャックとは対称的に、刃牙は淡々と事実のみを突き付ける。
敵とか餌以前に遊び相手としか扱われなかった男がダメ出しした
これはひどい。
事実は事実に違いはないが、もうちょっと言い方というか言う場というか…
ジャックを止めるためかもしれないが、変わらぬ刃牙イズムを見せつけられた。

ピクルにとっては勝負ですらなかった。
ジャックは包帯が敗れるほどに口を大きく広げ…慟哭をした。
これで心も身体も完全決着だ。

しかし、アゴの骨が砕けたというのによく口が動いたな、ジャック。
骨以上の筋肉で動かしたのか?
無論、範馬ですから。
次回へ続く。


ピクルは範馬一族ですら敵ではなく餌扱いした。
もはや飛び抜けているどころの強さではない。
やっぱり調整ミスの気が…
どこまで強さが肥大化すれば気が済むんだ?

ジャック編に決着が付いた。
範馬一族の敗北はターニングポイントとなるのは間違いないだろう。
次は誰がピクルと戦うのだろうか。
範馬一族が出て、範馬一族が敗れた以上、もう範馬一族しか残弾はなさそうだ。
範馬一族に並ぶ実力者は郭海皇やオリバくらいではあるが、ピクル戦線には参戦しなそうだ。
やはり、次こそ刃牙の出番であろうか。

今回、板垣先生と柔道の金メダリスト石井慧のインタビューがあった。
その中で寂海王の話が出てきた。
板垣先生はそれで思い出して寂海王を再登場させたりするか?
いや、勝ち目がなさそうだけど。

ジャックの敗北を転機に人間勢が底力を見せるか?
ヒュム♂がピクルに襲い掛かるぜ。
出番のないガイアや寂海王、鎬昂昇の戦いは見てみたい。
ガイアは外伝予約が入ってるから難しいかもしれないけど、花山だって登場したんだ。
頑張って現れてみよう。

ピクルは今回の件で怖さ耐性が付いた気がする。
何せ普通に食料にしようとした。
同じ手は通用しないかもしれない。
戦いの度にピクルは脆い部分を見せつつも、それを上回るほどに完璧に見えてくる。
やっぱり、肉で勝たないと勝ち目がないか?

戦闘面においてはジャックですらピクルの突破口を見出せなかった。
全属性に耐性を持っているボスキャラって感じだ。
属性魔法は全部通用しません。どうしろと。
板垣先生もやり過ぎちゃったと思っているんじゃないか?

忘れられているけど、ピクルの食糧問題はどうなるのだろうか。
干しジャックを作ろうとしたほどだ。食糧問題は去っていないのだ。
干しジャックを作ったように、密かに干しシベリアトラを作っていることに期待しよう。

と、ここでひとつ疑問に思ってしまったけど、ジャックをただ天日に晒すだけじゃ腐るんじゃないだろうか
干し肉を作る時には塩で保存性を高めておきますよ。水気だって切っておく。ただ干すだけだと…
ピクルとて腐った肉は食いたくなかろう。
冷凍肉を食べた以上、食品に対するこだわりはないかもしれないけど。

その干しジャックは今や病院だ。
もうピクルに挑むことはなかろう。
と、そこで問題となるのがピクルの方だ。
せっかくビルに登って保存したジャックを、頃や良しと食べようと思ったら時既に時間切れ。
屋上には誰もいなかった…
今頃ピクルは食料を奪われた怒りに震えているかもしれない。



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