範馬刃牙 第230話 純闘志
刃牙のターンが来たぞ!
バリバリキャンセルしたいところだが、始まってしまっては仕方がない。
烈も刃牙が千春を追い払うように、ボクサーを駆逐するべきなんだが…
「テーマが―――― できた…………」
千春との喧嘩は刃牙にとっては無意味なものだった。
だが、ここでついに千春と戦う理由が、テーマができた。
火付きが遅いのが範馬刃牙である。
そのテーマには『虐殺』とか『屠殺』とか『鏖殺』とかの不吉なワードが並びそうだ。
刃牙はエンジンに火が付けばワケがわからないくらいの奇怪さを見せつける。
オリバやピクルなど勝てるはずのない相手とも互角以上に渡り合うほどだ。
危険な結果になりそうだなー…
(テーマがあろうがなかろうが)
(寝てようが起きてようが)
(俺にとっちゃあ 怪獣に変わりはねェ!!)
千春にとっては範馬刃牙は依然変わらぬ脅威の象徴であった。
事実、瞬殺を数度繰り返している。
これで脅威に感じていなければ千春の脳味噌は原人以下だ。
オイラが刃牙の喧嘩相手になってあげるよ!
だって千春雑魚じゃん!と断られる。断られた。
千春はフェイント何もなしのアッパーを放つ。
千春にフェイントを行う技術も思考もない。
純然たるアッパーは刃牙にクリーンヒットした。
だが、それで千春の拳は砕けた。
殴った方が殴られた方よりもダメージを負うという矛盾…
拳を鍛えていない人間はパンチの衝撃に拳が耐えられず折れるという。
だが、千春は相応に喧嘩慣れしている。格闘技者ではないが、十分に拳は鍛えられている。
つまり、これは刃牙が異常ということだ。
かつて腹筋のみでガイアの拳を破壊しただけはある。
あの時よりも強くなった刃牙はただ立っているだけで凶器だ。
理不尽なまでの戦力差であった。
殴ったのに拳が砕けた。
その事実に驚いている間に、顔面を手の甲で叩かれる。
ダメージよりも足止めを狙った一撃だ。
初手より本命の千春とは異なる格闘技者らしい布石のための一撃である。
続いてリバーを平拳で打つ。
千春に衝撃が走り涙が迸る。
あの千春が涙を流したというのも不思議だ。
おそらくは理想の角度で打ち込まれたのだろう。
多分、息できません。このまま朝まで寝たい気分です。
これだけで十分心を折れそうだが、トドメに刃牙はハイキックを放つ。
完璧な形で入っただけに、千春は踏ん張ることもできず地面に頭をぶつける。
ついでに地面はアスファルトだ。思い切り叩きつけられれば死ぬ。
気持ちいいまでに刃牙は容赦がなかった。
やっぱり、テーマは虐殺屠殺鏖殺なのか?
必殺は必ず殺すって意味だぜと言わんばかりに刃牙は千春を屠った。
当然、千春は立ち上がらない。
それどころか救急車を呼んであげてもいいくらいだ。
見た目には血を出していないけど、脳内は血みどろかもしれない。
早急な処置を…
(俺らの――――――――― “勝負”ってのは………)
(刃牙さんら技術者の―――――)
(倒すか倒されるかとは)
(チョットだけ違うんだわ)
戦い倒されながら千春は語る。
喧嘩と試合はどうやら異なるようだ。
でも、生粋の実戦派の刃牙にとっては今更の気もする。
というか、一時期は不良だったし、喧嘩の機微もわかっているはずなんだが…
テーマに沿って刃牙は千春を倒した。
破壊された限界をとりあえず立て掛けて、再び横になって本を読み始まる。
………
いや、この態度はどうなんだろう。
最低最悪最凶っぷりを惜しげもなく晒している。
間違いなくヒールだ。
さて、何時間本を読んでいたのか、時計を見ると短針が3時と4時の間を指していた。
外へ出ると千春の死体…じゃなくて肢体はない。
刃牙はホッとする。
本を読んでいた仕草といいテーマができたとかやる気を出していた人間とはとても思えない。
で、刃牙は買い物に出かける。
すると帰り道に千春が待ち受けていた。
まただよ!
折れた拳にはテーピングがされていることから、あの後に病院に行ったのだろう。
…自分の脚で。
(俺らの勝負ってのは――――)
(2人のうち―――――)
(どっちかが“敗け”と認めたときが決着なんだ)
心が折れた方が負けなのがバキ世界だ。
心が折れない限り、試合で負けても勝負で負けたわけではない。
この不文律をいいことに、死刑囚は諦めの悪さを存分に見せつけたものだった。
千春の心は未だに折れていない。
例え圧倒的な実力を見せつけられても…
だから、刃牙に挑む。
傍から見れば決着ってレベルじゃないけど。
(たとえ―――)
(倒れた相手を)(立って見下ろしても―――)
(敗ける場合(とき)だってある…………………)
(見上げながら)(勝つ場合(とき)だってある)
心が折れた方が負けだ。
だからこそ、肉体を完膚無きまで叩きのめされても、心さえ折れなければ負けない。
逆に肉体で圧倒しても心を折られればそれは負けになる。
…とは言ったものの、それで刃牙VSピクルを結果に色をつけたのは納得がいかない。
倒れた方が負け。
それがわかりやすい。
ともあれ、千春の心は折れていない。
だから、負けていない。
千春は両腕を上げて、キングギドラの入れ墨を再び解放した。
その瞬間に問答無用に殴られた。
始めようと思った時には始まっている。
それが喧嘩でもある。
パンチ一発で千春が吹き飛び、地面に頭をしたたかにぶつける。
路上で戦ったので、もちろん地面は硬い。
いい加減頭蓋骨が陥没していそうだ。
もう脳味噌がやられて、記憶が失われていないか?
(千春さん)
(アリガトウ)
(勉強させてもらいます…ッ)
でも、刃牙としては手応えがあったようだ。
試合と喧嘩の違いを改めて知ったのか?
しかし、試合じゃない戦いを刃牙は幾度も迎えている。
特に範馬刃牙になってからはそうした戦いばかりだ。
今更とも言える。
もしかして、刃牙は初心を忘れていたのか?
闘争を試合の延長上でしか考えられなくなっていたのだろうか。
ピクルに負けた気もなかったみたいだし、悪い意味でそっちの価値観は理解していると思うが…
刃牙はよくわからん。
「喧嘩だぜ ストレッチなんかしてんじゃねェよ」
心では感謝しながら口では憎まれ口を叩く。
このツンデレめ!
いや、ツンデレに失礼か…
よくわからないが、千春もとい花山は喧嘩ならではの機微を刃牙に伝えようとしたようだ。
今更だ。本当に今更だ。
そして、それを刃牙は感じ取ったのか?
いや、感じ取れたそうだけど、結局テーマは何だったんだ?
一応の決着かもしれないがよくわからない戦いだった。
刃牙は千春の真意を汲み取った…かは定かではないが、何らかの得るものはあったようだ。
千春が負けを認めない限り、延々と続いていくことになる。
だが、刃牙が成果を得た以上、続ける意味もなさそうだ。
あるいは完全に戦意をなくすまで殴り続けるか?
君が!泣くまで!殴るのを止めない!
次回へ続く。
これで刃牙VS千春は決着した…のか?
まぁ、これ以上、続けても無意味そうだ。
あるいは勇次郎と戦うまで倒れては挑んでくる千春を殴る特訓を行うのだろうか。
うーむ。よくわからん。
花山は刃牙の立ち振る舞いから、喧嘩の勝敗を理解していないと踏んだのだろうか。
試合ではない喧嘩ならではの戦いをしてお互いを認め合ったはずだが…
うーむ…よくわからん…
花山は刃牙VSピクルの勝者を刃牙と認定していた。
でも、刃牙は自分を敗者と思っていた。
そこで元気づけるために千春を当て馬にした!
違うか。
よくわからなかったがこれで刃牙VS千春は終結だろうか。
いや、このまま終わるとオチがない。
オチ不在でもいいか?
何にせよこれで烈とクレーザーに視点が集中してくれるのだろうか。
心が折れた方が負け。折れなければ勝ち。
喧嘩の哲学だ。
やっぱり、刃牙VSピクルの影響があるのだろうか。
肉体ではピクルが勝った。だが、ピクルは精神面に大きなダメージを負った。
よくわからん勝敗になったバトルだった。
千春の喧嘩方程式から見るとあのバトルは刃牙の勝ちになる。
事実、花山は刃牙を勝者とした。
それは刃牙も肯定しているのだろうか。
そういえば、刃牙のピクル戦の感想がない。
放っておくにはもったいないんじゃなイカ?
もしかして、刃牙は負けたと凹んでいたのかもしれない。
あの結果を肯定させるために花山は千春を遣わせたのかも。
…うーむ、よくわからんな。
いっそのこと負けても心が折れなかったら負けじゃないから、堂々と勇次郎に挑めという啓示か?
第2回最大トーナメント並みに刃牙VS勇次郎はどこへやらと行ったところだ。
心が折れなかったら大丈夫!と刃牙は勇次郎に喧嘩を売るかも。
まぁ、心が折れずとも背骨を折られそうだけど。
ともあれ、久方ぶりの千春の出番はサンドバッグで終わりそうだ。
アリガトウ…勉強させてもらいます…と心の中で言いながら刃牙は殴りまくる。
口頭ではこの邪気眼中二病不良!キモッ!と罵りながら殴りまくる。
俺の主人公がこんなにムカつくわけがない。
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