範馬刃牙 第263話 無礼



ゴキブリコンビネーションの効果や如何に。
ここで回想などを入れるのが大人の醍醐味。
というわけで、一拍空けるわけだ。


[人は強き者を讃える]

ボクシング、柔道、相撲。
人は強い者を評価し、讃えてきた。
強さが絶対的な価値観となっているバキ世界ならばなおさらだ。

でも、どの強者もバキ世界では地位が低い。
ボクシングは復権気味とはいえ戦績という点では言うまでもない。
柔道はボクシング以下だ。
相撲は……よく考えれば本部にしか勝っていないのは致命的だ。
ニンジャスレイヤーだともはやムエタイ枠に収まっているし、相撲の未来は暗い。
チャンピオンでは頑張っているジャンルだけど……

[ただ巨大(おお)きいというだけでさえ人は歓喜(よろこ)ぶ]

これはバキファンなら身に覚えのあることだ。
デカい人が出てきただけでテンションが上がるってもんだ。
一体どんなやられ方をするのかと心が沸き上がる。
ピクルが刃牙に陵辱されたのも、もしかして巨漢の呪い?

[人間(ひと)は強大なものが大好きだ]

単純にして絶対的な心理を突いた真理だった。
勇次郎が伝説になったのもだからだった。
チャンピオンと言えど武器や兵器には敵わない。
けれど、勇次郎は違う。
どこまでも己の強さを貫く。
強さに少しでも憧れるのなら、その姿を見たくもなるし親子喧嘩なうと呟く。

ムエタイ選手だって世間的には強者なんですよ。
憧れもするし祭り立てられる。
そして、生け贄として捧げられ続ける。
強いということは罪である。

勇次郎は強さの象徴にして結晶だ。
バキ世界における強さが具現化した存在である。
誰だって見たい。俺だってそうする。

だが、刃牙の三連撃、ゴキブリコンビネーションは観客の目には映らなかった。
パンチやキックが見えないという次元ではなく、全身の動きそのものが見えない。
白亜紀闘法状態だ。
ゴキブリって白亜紀にもいたな。ピクルもゴキブリの真似をしたりして。

[始まってる]
[とうに開始(はじ)まってるぜ]


(観客の視点からは)動かない刃牙と勇次郎だったが、そこに待望の見識者が現れる。
俺たちはお前の登場を待っていた!
闘争なら勝てぬが解説なら百戦不敗!
……愚地独歩だ。
逃げろォ! 下がるんだ独歩ォ!

頼むから本部連れてきてくださいよ。
アンタら、けっこう仲良いですよね。
でも、思い返せば本部から独歩に絡むことはあれど、独歩から本部に絡むことはなかった。
……あれ。案外、アウトオブ眼中……?

バキ世界を代表する格闘家だけあり、独歩は刃牙の打撃を捉えていたようだ。
これが本部ならとりあえず偉そうなことを言っているだけとしか思われない。
その辺の本部の信頼度はさすがだと思うので出てきてください。お願いします。
本部ネタばっかり使っている私が道化じゃないか。

「そうなんだよ」
「達人同士ってそういうものなんだよ」
「向き合ったときには始まってる」


納得の観客であった。
……独歩の意図は理解されていないな。
独歩も独歩で何か恥ずかしそうに顔を伏せるし。
何か滑った感がする。

というか、独歩のことを知らないのか、こいつら。
独歩も独歩でなかなかの都市伝説……どころではなく、生ける伝説なのだが。
最近じゃ無差別暴力で有名そうだ。
これが一見さんの限界か。
これだから最近の若い者は……

「俺が教えたことだった」
「闘争とは単独で中止できない」
「双方の合意のもと 初めて成立するもの」


三連撃を受け動きのない勇次郎だったが、口を動かし語り出す。
別に気絶したわけではなかったようだ。
それどころか微塵のダメージも感じさせない。
本気の刃牙の打撃はピクルにさえダメージを与えるのだが……
ピクルのタフネスが規格外なら、勇次郎のタフネスは常識外だ。

純粋なタフネスなのか。あるいは何らかの技術なのか。
理由はわからないがゴキブリコンビネーションを無力化している。
パワーとタフネスに傾倒したピクルと違って、勇次郎は戦いの風呂敷が広い。
刃牙も攻めあぐねているのが伺える。

だが、勇次郎にダメージを与えたらしく、勇次郎は口の中を切っていた。
あの勇次郎を出血させただけでも十分な功績だ。
勇次郎だって出血するのはいつ以来だと呟くほどである。
少なくとも郭海皇以来かな。
連載ではけっこうな間が空いたというか、勇次郎はあれ以来戦っていない。
作中時間ではあまり時間が経過していないから、懐かしむほどじゃないんじゃないだろうか。

「我が身に迫る危険」
「自力で解決せねばな」


刃牙の容赦のない不意打ちにより、勇次郎に笑みが戻り髪が逆立つ。
それは観客に視認できるものだった。
やっぱり、髪の逆立ちってイメージ画像じゃなく実際の現象だったんだ……

これで勇次郎も本気になったことだろう。
ナントモ有耶無耶な感が否めないが親子喧嘩は闘争へとシフトした。
金的が炸裂することも多分にあり得る。
そういえば、勇次郎は金的を喰らったことはないな。

(尊敬を込めて打ち込んだ 急所への確かな3発………)
(なのにどうだ…………?)
(ビクともしない…)


一見何てことないような風情の刃牙だったが、内心は混乱していた。
そりゃあ自慢のゴキブリコンビネーションが通じていないのだ。
そして、刃牙はゴキブリダッシュしか対勇次郎戦の武器を用意していない。
早速武器を失った状況である。

それにしても尊敬=急所というのがとてつもなく範馬的だ。
尊敬する相手は叩き潰せと。
因果な家系であるものだ。
それならもしかして刃牙が叩き潰してきた対戦相手にはリスペクトが込められているのだろうか。
春成やJr.……お前たちもまさしく強敵(とも)だった……

しかし、だからといって退くわけにはいかない。
後退のネジを外してあるんだよ。
相手が梢江だろうが勇次郎だろうが退かない。
刃牙は再び肉体を液体にする。
もうただ液体になるだけじゃなく猛烈な勢いで溢れ出している。
こいつ、新たな領域に旅立ちやがった。
G師匠だって大切は増やせないぞ。
何だか連載が進む度に刃牙の変態度が上がっている。

そして、地面にクレーターを作るほどの猛烈な加速を行う。
0kmから270kmの超加速だ。
だが、発動と同時に勇次郎が目の前に立っておりゴキブリダッシュは潰されてしまう。
まるでエアバッグに包まれたように刃牙の動きは止まる。

踏み出した時にクレーターはできあがっている。
ゴキブリダッシュは間違いなく始動した。
そして、瞬時に270kmに達するほどのエネルギーが発生した。
であるのに、勇次郎は音もなく接近し音もなく初動を抑えた。

ゴキブリダッシュ並みの速度で近付いたことはもちろん、ゴキブリダッシュの加速を封じたことが驚きだ。
勇次郎は270kmの速度を一気に無に帰した。
技術か、筋力か、駆け引きか……
何を以てこの偉業を為したのかはわからないが、いずれにせよ勇次郎以外にはできない所業だろう。
独歩だって目を見開く。本部なら冷や汗と共に解説すらできなくなる。

刃牙は勇次郎を見て、自分が作ったクレーターを見てと、完全な混乱状態だ。
絶対の自信を持っていたゴキブリダッシュが完全な形で破られた。
パワーで負けたからスピードを活かしたコンビネーションに活路を見出すはずが、ゴキブリダッシュのスピードを封じられてしまった
完全敗北だ。冷や汗を流して負け犬顔である。

「この俺を相手どり…」
「同じ手を2度も…」

["無礼者"…………確かそんな言葉を耳にした―――― 気がする]


勇次郎のノーインチ張り手が刃牙の顔面に決まった。
ノーインチとはいえ、勇次郎は身体を捻りに捻って破壊力を生み出している。
その破壊力たるや、ムエタイ5殺クラスであろう。
刃牙の顔面を狙ったことから、勇次郎も本気モードか?

本格的な勝負に移行して俺たちの戦いはこれからだ状態だ。
鬼の貌が控えていることからまだまだ勝負は加速するだろうが、
勇次郎も刃牙の急所を狙い始めたしここまでとは比べものにならなくなるだろう。
……刃牙の危険度が。

注目点としては独歩の登場だ。
この調子でどんどん格闘家を登場させてパーティ状態にしてもらいたいところだ。
解説も盛り上がるぞ!
そうなると烈の不在がもったいないな。ベガスだから新宿に来るわけにもいくまい。
いや、いきなり現れたりして。
ボルトとの試合を蹴ってきたと発言して、烈ボクシング編完!
お盆後の次回へ続く。


ゴキブリダッシュからゴキブリタックルに進化し、そして実戦形とも言えるゴキブリコンビネーションが生まれた。
でも、初速を封じるという完璧な破られ方をした。
超高速で接近、超高速で打撃、超高速で離脱……コンセプトとしては悪くなかったのだが。
宇宙世紀だったら黒い彗星の異名を戴けたかもしれない。

パワーでは勇次郎に勝てない。
スピードも破られた。
次に刃牙に残されているのはテクニックか?
でも、ゴキブリダッシュ理論というテクニックというレベルじゃない理論が持ち出されてしまった。
何かものすごいテクニックが必要になりそうだ。

刃牙はこれで弾切れだろうか。
もうちょっと何か隠しダネがないと観客もがっかりですよ。
でも、刃牙は決戦に向けて特に準備せずに突っ込んで何とかすることが多い。
最大トーナメントだって膝枕されてました。
この天才め。いや、梢江の膝枕とか喰われそうで嫌だけど。

液体化するという玄人好みというか妖術紛いの技を使う刃牙に対して、勇次郎はわかりやすい。
思いっきり張り手。
観客も沸き上がるよ。
刃牙は結局何もやっていねえ! と煽られる。
やっぱり、勇次郎を見たいんだろうなぁ。

でも、刃牙と言えばペテン師だ。
実は演技だったと言ってみるか?
変顔で蘇る!
刃牙は本気になるとわりと変顔気味になるから相性いいかもしれぬ。

刃牙には解説役がいると心強いのだが。
加藤は昔はあいつのライバルだったんだぜッッと強がってみるのはどうよ。
彼が刃牙のライバルでいられた時期は短い。何よりも短い。
いや、ドリアンとの戦いは男を見せたと思うけど。

とりあえず、刃牙は吹っ飛ぶだろう。
観客に迷惑がかからないか不安だ。
トンデモボクシング漫画、リングにかけろのラストバトルでは
対戦相手の必殺ブロウで吹っ飛んだので審判をクッション代わりにしたという逸話がある。
刃牙も観客をクッション代わりにしてみるかい?
容赦ねえ! 都市伝説そのものだ! とか沸き上がったらどうしよう……



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