範馬刃牙 第272話 撫でる 



勇次郎が刃牙を撫でようとしている。
予想外の行動ではあるが、刃牙としては無意識であれど渇望していたモノなのだろう。
涙に従うか、あるいは……


「きなさい」
「撫でてやる」


勇次郎は微笑みながら刃牙を讃えようとする。
稀に見る優しい勇次郎ですよ。
年中怒りっぱなし骨格まで怒りっぱなしの勇次郎としては珍しい。
本当に勇次郎なのか疑うべきかもしれない。

刃牙は驚く。
独歩も驚く。
観客だって驚く。
勇次郎についてほとんど知らない観客にとっても、勇次郎は誉めるような人間ではないらしい。

(俺を撫でてやるとッッ)
(何よりあの手のカタチッッ)
(動かぬ証拠…ッッ 撫でるしかないカタチ!!)


あまりの急展開に刃牙だって混乱している。
だが、勇次郎の柔らかく、そして僅かに折り曲げられた手の形!
明らかに撫でるものだ!
いやいや、撫でると言って拳を握る馬鹿はいないぞ。
凶器を持っていないから犯人じゃないと言うようなものだ。

「ケンカだぜッッ」

「だからなんだ!?」
「息子の手柄を誉めぬ父親がどこにいる」


勇次郎は刃牙を闘争の対手としてよりも息子としての立場を優先している。
逆に言えば勇次郎にとっての刃牙の脅威度はその程度ということだ。
鬼の貌を見せたといえど、まだまだ本気とは言い難いのかもしれない。
鬼の貌もトリケラトプス拳に対抗して突貫作業で見せちゃったのかも。
時期尚早だったと後悔していたりして。

そして、刃牙は涙する。
涙した刃牙でさえ理解できない涙であった。
さて、ここまで先週の内容にして今週の内容だ。
あらすじ長ェよ!?
だから、最近は展開が妙に遅いんだ!

「見るにたえねェ…・」

(哀れじゃ……)


涙する刃牙に対して独歩と徳川光成は辛辣な評価を下す。
誉めると言う対戦相手を前に涙……
たしかにこのような評価を下すには十分であろう。

[父親から誉められるという当たり前 抜け落ちたまま過ぎ去った18年だった……]
[子が父親に誉められた際の―――― 感激…………成就…………果報…………]
[この子には一切が無さ過ぎた あまりに不慣れ過ぎていた]

刃牙は勇次郎に誉められることがなかった。
そして、その勇次郎のことが大好きだった。
泣いても仕方がない。
それだけにどこか悲しい情景であった。

[あんなにも硬く握られていた父の拳が………]
[あんなにも柔らかく解かれ 自分に触れようとしている]
[「もういいッッ」「どうでもいいッッ」「罠だっていいッッ騙されてもいいッッ」]
[あの掌に撫でてもらえるなら………!!!]


刃牙はある種悲願とも言えた勇次郎の賞賛を受けようとしている。
もっとも敬愛した父の手の平だ。
0.5秒パンチだけでここまで誉められるとは……
勇次郎にとってゴキブリダッシュやトリケラトプス拳よりも0.5秒パンチらしい。
……何だかな。

刃牙の頭上に勇次郎の手が迫る。
何か屈服を意味しそうだが、刃牙にとってはそれさえも些事だろう。
勇次郎の賞賛を受け入れる直前となり……刃牙は勇次郎から急遽距離を離す。

「どっちが勝つかの喧嘩だからッッ」
「どっちが強いかの比べ合いだからッッ」


心からの望みを闘争心で拒絶した。
そういえば、こいつらは喧嘩してたんだな……
すっかり忘れていたよ。
すっかり忘れるほど脱線していた。

ともあれ、刃牙の闘争心は萎えてはいなかった。
まぁ、砂上の楼閣の気もするが。
涙は途絶えていないし……
案外、メンタルが弱点なのかもしれない。

ここで問答無用で殴りに行けないのが刃牙の脆さか。
何だかんだで動揺は収まっていないのだろう。
勇次郎相手に完全に勝ちに行けていない。
バケツかぶせて金的みたいな非情な手段を取れない。
この戦いが普通に戦いとは違うことを意味している。

「いい機会だ」
「強さの本質を実感させる」
「またとない機会だ」


言うなり、勇次郎は刃牙に肉薄する。
腕を脇に通して反対側の腕を掴む。
刃牙の上半身の動きは完全に止められた。
見事なお手前である。

一瞬で接近し一瞬で捕縛した。
これには0.5秒の隙間を突くこともできなかった。
あるいは勇次郎が刃牙の0.5秒の隙間を突いたのかもしれない。
細かいところでも基本性能の差を見せつけられている。

刃牙は勇次郎の技術と怪力によりまったく動けない。
もう勝負ありですよ。
精一杯暴れてもこの緊縛を解くことはできない。

「撫でてやる」

刃牙が拒否するのなら無理矢理撫でる!
実に勇次郎だ。とことん勇次郎だ。
勇次郎のやることなすことに筋力が関わらない所業はないんだろうな。
ストライダムなんていつだって勇次郎の筋力に脅かされていることだろう。

[強さとは…]
[希望(のぞ)みを実現させる力…………]
[言わず語らず 少年は本質を心に刻んだ]


こうして勇次郎は力尽くで刃牙を撫でた。
力強く撫でたが、それ以上の意味合いは込められていない。
むしろ、その力強さは勇次郎の父性を象徴しているようにも思える。

強さとはワガママを通す力だ。
勇次郎は撫でるというワガママを通し、刃牙は撫でられたくないというワガママを通せなかった。
力の差の縮図とも言える結果だ。
……やっぱり、刃牙じゃかなわんか。

でも、撫でられたいのが刃牙の心からの望みだった。
ある意味、グッドエンドか?
せっかくだから泣いて喜べよ。
そんな悪いものでもあるまいて。

ともあれ、悔しいでも感じちゃう……! 状態に陥った刃牙だ。
仲間が助けに来ないと不味いぞ。
本部でさえサボっている以上、仲間には期待できないから独力で解決しないと。
刃牙は闘争心を取り戻せるか?
そもそも、この状態から抜け出せるか?

いい加減、刃牙も鬼の貌を出す時が来たのかも知れない。
ピクル戦では存在さえ忘れていたことから、どうもド忘れしていそうだけど。
次回へ続く。


刃牙が撫でられた!
刃牙はワガママ力で勇次郎に負けているということか。
勇次郎のワガママは天性のものだからな。
ストライダムを困らせるくらいのワガママがないと……
あ、刃牙は一緒にご飯を食べたいで困らせていた。

刃牙は勇次郎がご飯を作った時も泣くのだろうか。
泣きそうだ。
刃牙、勇次郎に涙するシリーズが作れそうなくらいだ。
梢江のことを誉めればまた泣きそうだな……

それにしてもまったく格闘技をしていない。
格闘漫画であることを誰もが忘れそうだ。
そりゃ餓狼伝のコミックスの広告に格闘純度刃牙以上と書かれちゃうよ。
いや、もう格闘漫画ではなく板垣漫画であることも事実なのだが。

格闘技的に考えるとこの状況下は不味い。
力で負けているし体格で負けている。
ジャガられれば終わりますよ。
こういう時のために液体化か?
悪魔将軍みたいなことになったりして。

しかし、鬼の貌を出した上で本気で潰しに行かない勇次郎は貴重だ。
ある意味、チャンスだし0.5秒の隙を突くこともできた。
今は0.5秒パンチを勇次郎に把握されているし、接近を許してしまった。
0.5秒以内に接近できるのなら、自然と0.5秒の隙を突くこととなり反応できない!
そういう理屈になるし、勇次郎なら実現できるから困る。

この場にジャックがいたらどうなっていたことやら。
今では歯牙にも掛けない状況だ。
かつては刃牙よりも強いと値踏みしていたはずなのに……
そんなジャックこそ撫でられれば泣いちゃったりして。

しかし、見方を変えれば少女漫画みたいな展開だ。
お前をレイプするとかそんな。
暴力が愛情に変化する範馬一族はある意味少女漫画に近いと言えよう。
ここから先、少女漫画のガジェットがたくさん盛り込まれるかもしれない。
そうなると刃牙はヒロイン的立ち位置で犯されるだけだな。
頭を撫でられてフットーしちゃいそうだよぉ……



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