範馬刃牙 第295話 栄えある光



勇次郎が金的を喰らった!
金的はバキ世界を代表する必殺技にして基本技だ。
格闘技の隔たりなく金的は行われている。
本来、下半身への攻撃が禁じられているボクシングでさえ金的を使用済みだ。
貧富や貴賤の隔たりなく用いられるのだ。
……別にボクシングが貧しいとか賤しいというわけではありません。


さて、金的を喰らった人間はどうなるのか。
まず、股間を押さえる。ダウンを伴うことが多い。
余裕があればじたばたとするし、人によっては面白い顔をする。

勇次郎はどうなるのか。
勇次郎も股間を押さえた!
白目です。今度はダメージの意味合いが強い。
発勁で金的の痛みをかき消すわけにはいかないか……
ただダウンをしたりじたばたしたり面白い顔をしなかったのに、地上最強の沽券や誇りが見える。
あ、鞭打のことは忘れてください。

(質問)
(強ければ強いほど 手に入らないものってなァ〜んだ)
(答え)
(栄光)


金的を穿たれても勇次郎は物思いを止めない。
強いからこそ栄光がない。
最初からクリア済みのゲームを渡されたものなのだろう。
強すぎた男だけが持つ悩みだ。
FBIにさえわからないモノである。

そこにハイキック! 手刀! アッパー!
遠慮ねえな、この鬼息子!
いや、ドレスをやってしまった以上、それはお互い様か?
さらに刃牙は手招きする。
何という不遜な態度! 性格の悪さが如実に表れている!
久し振りに見た性格の悪い刃牙だ。
と思ったけど、千春の時も見せていた。
久し振りでもないか。

親として、地上最強として、刃牙の挑発に応じないわけにはいかない。
ついに放たれるのは勇次郎の得意技かかと落としだ。
モーションの大きさとは裏腹にジャブより速いと称される神速のかかと落としである。
多くの格闘家に振り下ろされ問答無用に穿ってきた。
スピードとパワーを両立したまさに必殺技だ。

だが、それをかわして軸足に蹴りだ!
ジャブより速いかかと落としよりも速く動いた。
恐ろしいまでの反射速度だ。
死に際の集中力を越えた反射速度はたしかに範馬脳が目覚めている。

数々の実績を誇るかかと落としが破られた。
実績に比例した自負を持っていたのか、これには勇次郎だからとて表情を崩す。
勇次郎は脅威の追い上げを受けて、混乱したからこそもっとも頼れる技を使ったのかもしれない。

窮地ほど鍛錬を重ねていた技が無意識に出るものだ。
鍛錬を重ねていたのかはわからないが、かかと落としは勇次郎の象徴とも言える技であることはたしかだ。
それが破られた混乱と動揺は計り知れないものがあるだろう。

さらにお返しと言わんばかりに刃牙はかかと落としを行おうとする。
意趣返しではあるが調子に乗りすぎだ!
だが、勇次郎に直撃し、数回転した上でダウンする。
反射速度のみならず大胆さとパワーも兼ね備える。
恐ろしい脳の革命だ。
人間の潜在能力は抑えられていると言われているから、今の刃牙は潜在能力全開。
範馬脳とは即ちそういうことなのか?

そして、刃牙の身体から後光が迸る。
範馬脳も笑っている。
笑っている!?
脳の形状が変わったよ。
もう範馬脳自体が独立した生物なんじゃないか?
もしかしたら刃牙はかつて宇宙からの侵略者に寄生されたのかも。

(缶ジュースでも買いに出掛けるように)
(栄光とやらの場所まで歩いて行き)
(自販機で缶ジュースを入手するように栄光を手にする)
(そこには)
(挫折障害の一切が存在しない)
(皆の衆………)
(手にした缶ジュースに達成感はあるかい…?)
(皆の衆………)
(そのジュースを栄光と呼べるかい…!!?)

勇次郎は自分の栄光観を語る。
そんなことを語っているからやられたい放題なんじゃないか?
苦労せずに勝ってしまい本懐を成し遂げる。
漫画にはよくあることだが、勇次郎はそれを地上最強まで貫いてしまった。
もはや腕力でかなわないことはこの世に存在しないし、対抗する相手もいなくなってしまった。

かなわないことがない。栄光が存在しない。
強すぎる者だけが知る苦悩であり、共有できる人間は誰一人として存在しない。
だが、今刃牙は勇次郎を圧倒している。
生まれて始めて、あるいは勇一郎以来の手の届かぬ存在が目の前にいる。
勇次郎はどうするのか、屈服してしまうのか、望みが叶ったと勇次郎も範馬脳に覚醒するのか。

先が読めないがここで観客のアクションに注目したい。
まず、一般人は勇次郎のダウンに写メを撮っている。
伝説の勇次郎が倒される。
決定的で象徴的なシーンだ。そりゃあ写メを撮りたくなる。
金的のシーンは撮ってなかったのは不幸中の幸いか。
そうなると勇次郎は未来に欲する栄光はないかもしれないが、過去を払拭したくなるのかもしれない。

独歩は視線を落としている。
勇次郎の凋落の瞬間を見てしまったからだろうか。
今勇次郎ともっとも親密な関係にある。死闘も繰り広げた。
それだけにショックも大きいか。

ある意味ではジョーカーとも言えるピクルは姿を見せていない。
ピクルのこの戦いにおけるアクションはどれも的確だ。
虎王直後にはあくびを見せたり、勇一郎が出てきた時は脅えたり、この場で起きている現象をよく的確に察知している。
それだけに勇次郎の現状がわからない。
当の本人はいろいろと語っているからそれなりに余裕があるのか?

ここから勇次郎はどうするのだろうか。
全力を出しても敵わない強敵が現れたのかも知れない。
願ったり叶ったりでここからが本番か?
勇次郎が金的をやられたのだから、今度は刃牙が金的を喰らう番かもしれない。
勇次郎とは比べものにならないナイスリアクションを見せてごめんなさいという気持ちになる。
次回へ続く。


勇次郎が未曾有のピンチだ。
これが範馬脳の恐ろしさか。
でも、範馬脳は勇次郎も持っているはずだ。
それが目覚めれば空前絶後の格闘戦が繰り広げられることは間違いないだろう。
それとも範馬脳を持っていないのか? 勇一郎からの隔世遺伝なのか?

範馬脳で何が変わったのか。
反射速度のみならずパワーも上がっているような。
範馬脳が未知の存在だけに範馬脳の効能もよくわからない。
ここでドクター紅葉たちが研究の結果を……と言いたいところだけど、彼らも何が何なのかわかっていなかった。

一方で勇次郎の悩みが吐露され続けている。
だからこそ、ボコスカにやられているんじゃないか?
というのはさておき、そこは回収されるのだろうか。
刃牙がその悩みを解消しうる存在というだけでも特筆すべきだ。
それと対峙した時にどんなリアクションを取ることやら。
勇次郎の威厳を保って欲しい。金的やられた時点で多くは望めないが。

こうなると観客の反応はどうなるのだろう。
沸き上がるのか、刃牙が糾弾されるのか。
多分、刃牙ファンよりも勇次郎ファンの方が多い。
勇次郎がみんなの声援で立ち上がったりしたら、主人公が誰なのかを忘れてしまう。
うん、主人公せっかくの反撃なのにいまいち応援する気になれない。
積み重ねた業というモノを感じてしまうのでした。



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