範馬刃牙 第307話 拳から伝わるモノ



勇次郎は神の領域に達していた。
神ですよ、神。
英語で言うとゴッド。
ゴッド勇次郎。俺のこの鬼が真っ赤に哭く。
アメリカだとゴッドの意味が重いのでバーニング勇次郎になる。
これで私はバーニング勇次郎!


勇次郎は即ち神である。
鬼であり神。
鬼神だ。
生き神だよ。

実力もそうだがやはり功績が大きい。
過程や結果はどうあれ、勇次郎は弱者を助けた。
重ねるが過程や結果はどうあれ、勇次郎は己の力を誰かのために使ったのだ。
さらに重ねるが過程や結果はどうあれ、それは立派なことである。
……本当にやりたいことが強い相手と戦いたいってだけだからなー。

それほどの功績が刃牙にあるのか。
誰かのために己の力を使ったのはえーと……
紅葉の時くらいですか。あと梢江。
梢江かぁ……うーん、梢江かぁ……
松本や梢江はどうあれ、それは立派なことである。

さて、上空から二人の戦いが映される。
もう人、人、人の群れだ。
ビルの隙間を埋め尽くしているし、ビルの中にも人がいる。
ものすごい注目度だ。
後ろの方は何も見えていないに違いない。
まぁ、轟音が響いているから見えない人も満足か?

[父と子を囲むその“輪”は]
[少しずつ大きさを縮小(ちぢ)めていた]


戦いのフィナーレを前に一度は逃げ出した観客たちも二人との距離を縮めていく。
彼らの好奇心もマックスに達していた。
彼らも強さに憧れ魅せられた人間なのだ。
男なら仕方がない。
女性も混ざっているけど仕方がない。

彼らの前には花山やピクルがいる。
どちらも相当な威圧感の持ち主だ。
花山はどうみてもヤクザだし、ピクルも推定身長220cmくらいの常識外れの巨漢だ。
のに、さらに一歩踏み出した。
観客の好奇心は花山とピクルを越えた。
まことに天晴れである。

[息子の拳は父を感じていた]

刃牙の拳が勇次郎のアゴに入る。
衝撃、骨、顔面、重量、耐久力……
様々な要素を感じていた。
今のところ、触感で感じられる要素しか感じることができていない。
そのうち、勇次郎の内面も感じられるようになるのだろうか。
戦いこそ最良のコミュニティと言ったのは勇次郎本人だし、この殴り合いで二人の親子の距離はさらに近づくかもしれない。
同時に死という絶対的な要因で遠ざかる可能性もあるのだが……

忘れられがちだが今の刃牙は鼓膜を破られ音が聞こえない。
五感の一つを失っている。
だからこそ、勇次郎をより強く感じているのかもしれない。
言葉がないからこそわかるものもある。

[父の拳は何を思う……]

一方で勇次郎は拳を通して何を思うのか。
それはわからなかった。
しかし、こうなると面白い顔はやはり刃牙の専門だ。
珍しく勇次郎が痛そうな顔をしたと思ったら、思わず笑いを誘う変顔を刃牙はする。
何でこの人は芸人根性を見せるんだろう。

この激闘は観客だけが見ているわけではなかった。
TV放送が行われて……いるのかよ!?
いいのか?
むしろ、しなきゃダメか?
あっという間にワールドワイド。
いや、そもそもワールドワイドか。
刃牙なんて大統領をさらったあの人だと指を指されるかもしれない。

この戦いをこの場にいない格闘家もTVを通して見ていた。
克巳と渋川先生はどちらが勝つことを望んでいるのか、自問する。
二人ともTVで我慢する道を選んだ。
おとなしいと言うべきか、あるいはあの大群の中頑張るよりは効率的と褒めるべきか。

さらにこの戦いを勇次郎の息子の一人、ジャックも見ていた。
刃牙にトドメを刺されてから音沙汰なかったけど無事に生きていた。
外壁がひび割れた安アパートに住んでいるようだ。
衣食住にこだわらないジャックらしいというか何というか。

ジャックの足下には相変わらず薬物が転がっている。
ドーピングトレーニング止める気ゼロだ。
だが、不思議と正座している。
カナダ人だから正座は文化にないはずだ。
そして、身体が震えていた。

[親父(チチ)ヨ………]
「俺ダッテ出来ルンダ!!!」


ジャックが慟哭した!
泣いている。ジャックが泣いている。
それほどの悔しさがあるのだろう。
自分が命を犠牲にしてまで追い求めた父との死闘を弟が演じている。
泣いてしまうほど悔しいに決まっている。
あまりにも悔しくてカタコトの日本語で喋ってしまっているほどだ。
君一人なので英語でいいんですよ?

こうして刃牙は直接的にジャックを叩き伏せ、今度は間接的に叩き伏せた。
こいつはジャックに何か恨みがあるのだろうか。
うーん、決勝戦のジャックはファイトスタイルはともかくとして、わりと刃牙に兄として向き合っていたと思うのだが……
特に自分に勝利した刃牙を祝福してあげたのはいいお兄さんじゃないですか。
兄くんとか兄チャマとか呼んだっていいんですよ?

さて、ジャックと言えば気になるのはピクルに食われた頬だ。
それがどうなっているかと言うと、ちゃんと再生していた。
ただし、食われた部位の肌の色が他とは異なる。
再生したというよりも移植したのかもしれない。
あれだけの大怪我は治そうと思っても治らないか。
いずれにせよ鎬紅葉様々ということで。

おまけでぐしゃぐしゃに砕かれた歯もしっかり治っている。
アゴも完治済みのようだ。
刃牙に続いてピクルと戦ってこれと言った後遺症がない。
烈や克巳は人生が変わるほどのダメージを受けたのに……
己の無力さは嘆いているが、己の幸運さは誇ってもいいくらいだ。
思えば頸動脈を噛み切られても復活してたし、ジャックのタフネスというか再生能力は恐ろしいものがある。
腐っても範馬である。

[己の耐久力(タフネス)を誇示(ほこ)る為…?]
[全力疾走(スパート)する愛息を抱き締める為…?]
[開手したその掌を]
[父は静かに広げた……]


勇次郎は拳を解き両腕を広げた!
オリバVS龍書文の時のように、勇次郎VS郭春成のように、一方的に攻撃を受けるのはその後の約束された勝利の構えである。
ここから勇次郎は刃牙にトドメを刺す技を繰り出すのか。
鬼哭拳か。それとも朱沢江珠を殺した博愛固めか。
フィナーレが目前であることは疑いようもない。

残り10回未満。
勇次郎が動き出したことで終わりが見えてきたのか。
あるいはここから刃牙の神話が紹介されるのか。
幼年編終了から地下闘技場デビューまでの経歴は謎に等しい。
そこを引っ張り出して来るとか。
気になると言えば気になるが終わりが遠ざかるか。
次回へ続く。


終局を目前に迎え観客もヒートアップだ。
今ならドレスされても逃げないぞ!
いや、それは無理か。

両腕を広げられると刃牙としては詰みだ。
ここからの反撃が怖いし、勇次郎の宣言からすると最悪死ぬ。
刃牙が死ぬと……梢江が出てこなくなる。
死ね!

勇次郎は鬼なだけじゃなく神だ。
もし、刃牙が勇次郎を超えるとなれば神殺しの技を身につけなければいけないだろう。
刃牙は中二病を爆発させる必要があるな。

――僕は神に憧れた。
毎日、神に祈った。
原初(はじまり)は父さんと母さんの真似事だった。
模倣に過ぎなかった。
祈りに意味なんて在りはしない。
だからこそ、抱いた一念。
神への猜疑。
だから、知ろうとした。
神の在り処を。在り方を。神とは何故在るかを。
そして、知った。
ヒトは神を求め、神を代弁し、争うことを。
僕が祈りを捧げていた神はそんなモノだった。
争いの根源。
僕は納得した。
嗚呼――なるほど。神を崇拝するだけだと。
人の命運を左右するのだ。
人々が祈りを捧げるわけだ。
だから、僕は神に憧れた。
当然だろう?
誰かの命を手に握れるんだ。
そんな力を求めるのは当然のことさ。
そう、憧れているんだ。
だからさ。
いつも祈りを捧げて、いつも憧れた。
そんな存在の命を手に握りたくなるのは――当たり前だろう?
祈リ捧ゲ続ケタ偶像ニ最高ノ愛ト感謝ト祝辞ト怨嗟ヲ。
神を穿つ刹那(ヘヴンズモーメント)――

まぁ、こんな漢字に1話丸々使っておけば勇次郎も倒せるさ。
あ、高校時代のノートに書いていました。
私はもう中二病卒業したので、今はこういうのは書けないかな……



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