範馬刃牙 第35話 風
ゲバルの表情がやばいことになっている。
今なら平気で人を殺しそうな雰囲気がするし、何よりも普通に強そうだ。
アイアン・マイケルと違うところを見せてやってください。
何もかも違うから今更見せる部分もなさそうなのだが。
メイクをしたゲバルは凶悪な笑みを浮かべる。
それは範馬笑いに近い。
これが白目だったら完璧に範馬笑いだ。
対するマウスたちは冷や汗ダラダラで負けムードが漂う。
冷や汗は負けの前兆だ。3人揃って流せばさらに効果的だ。
「考えてもみろ」
「意表をついた登場ッ」
「風車のオモチャ」
「放尿ッ」
「風……ッ」
「泥のメイクッ」
「この中に一つでも 実力と呼べるものがあるかッッ」
「全て演出にすぎないッッ」
とりあえず、このまま呑まれていてはまずいので、ゲバルの行動を否定してみるテストだ。
やたらノロノロした前転も、コンクリートに突き刺さった風車も、異常な突風も、即興とは思えないメイクも、そして放尿も全てペテン扱いだ。
…放尿のコマだけ大きいことから、尿をかけられたことを根に持っているのだろうか?
他の要素はハッタリだといえるとしても、放尿だけは本物です。
襲いかかる相手にいきなり放尿ですよ。この男、自らの尿意を自在にコントロールできるんですよ。
膨大な量の尿を余裕たっぷりに放出できるなど、ゲバルの膀胱は侮れない。
出したばかりだと油断していると、またひっかけられるぞマウスよ。
ともあれ、汗が引きマウスたちの顔に余裕が戻る。
まぁ、全部演出かもしれないし、言っていることは正しい。
でも、異常に盛り上がった筋肉から目をそらすのはまずいだろう。
これは明らかに実力と呼べるものだ。
今のマウスは都合の悪いものから目をそらしている。
末期だ。
「取りもどせ…」
「いつもの自分をッッ」
マウスたちはゲバルを素早く囲む。
だが、今までの3方向から囲む陣形ではなく、左右から二人に加えさらに上空から囲む新しい陣形だ。
一人が刑務所の2階相当の高さからゲバルを見下ろしている。
上空からの攻撃は死角に位置する。非常に対応しにくい。
格闘技の範疇にないチームプレイだ。何だか強そうだ。
でも、ものすごくイロモノっぽい陣形なんですけど。
なんかキャプテン翼でコーナーポストの上に登って敵チームの連携を崩すのを思い出してしまった。
今のマウスの立ち位置は立花兄弟だ。
スカイラブハリケーンしかやることがない。
「このフォーメーションさっきのとは比較にならぬほど厄介なものだ」
「膀胱が空になった今…………」
「この四面体(テトラ)をどう乗りきる?」
厄介だ。たしかに対応に困る。
何をすればいいのかわからない。
どうすれば防げるか、というよりも俺は一体何をすればいいんだ?といった趣なのだが。
というよりも、マウスたちはまだ放尿を心配しているのか?
連携を防ぐ手段は放尿しか思いつかないのかよ!
第一ゲバルの膀胱が空になったことは確定していない。
油断して襲いかかればまた放尿を食らいますよ。
上空にいるマウスにも尿をぶつけますよ。
量だけじゃなく勢いも一流…ッッ。
この奇怪な陣形にはさすがのゲバルもいろいろと引かれるものがあるらしい。
上に登ったマウスが一人で降りられるかどうか普通に心配する。
…うん。2階くらいまで道具なしで登ったんだ。
一人で降りられるかはちょっと怪しい。
このまま降りられないとダサいの一言だ。
そんな隙だらけのゲバルに背後にいる二人のマウスが襲いかかる。
お前、また踏まれるのか!!
今日のマウスは飛び蹴りとパンチで攻め立てる。
上にいるマウスはひっかかるだけで精一杯のようなので見物するだけだ。
マウスお得意の3人同時攻撃が行えてない。
なんか、すごく墓穴を掘っているフォーメーションだ。
そして、ゲバルにお約束のカウンターを食らうのだった。
ゲバルは両手をだらりと下げ、背中を向けている状態から一気に振り向き、その勢いのままアッパーを出す。
腰の回転と体重をフルに乗せたワイルドアッパーだ。
マウスたちが攻撃を出してから全ての動作を終える前に、アッパーがヒットするほどゲバルの動きは速い。
間違いなくジャブよりも速いアッパーだ。
食らったことすら感じさせないアッパーが、パンチをしたマウス(放尿を食らっていない方)にクリーンヒットする。
拳がアゴにめり込んだ。
この一発で前歯はボロボロに折れ砕け、血涙が飛び散る。
これだけで致命傷なのに、挙句の果てにはジャックのアッパーのようにグルグルと回りながら浮き上がる。
ゲバルの打撃力はジャックと互角なのか?
ゲバルの殺人アッパーを食らったマウスの一人は推定6mほど浮き上がった後に地面に落下した。
当然KOだ。
というか、命が危ない。
なんか久し振りに危ない打撃を見た気がする。
ついでながら壁側に飛んだのちに真逆の方向であるゲバル側に落下するあたりも危ない。
ベクトルが正反対なのですが。
あまりの回転にブーメランのごとく軌道を変えたのか?
当のゲバルは白目になって口から煙を噴出している。
この人も、けっこう危ない。
身体の中に蒸気機関でも組み込んでいるのだろうか。
それとも組みこんでこそ、この破壊力なのか?
[その思いが―――――――]
[リーダー格
唇(リップ)の細胞を逃走(はし)らせた]
[他人(ヒト)と我の尿――――――――混ぜもの(ブレンド)をまきちらしながら]
ゲバルの異常な打撃力にビビった唇は言われなくてもスタコラサッサだ。
放尿しながら逃げる。
ところでわざわざ混ぜもの(ブレンド)と表現するあたりに、板垣先生の尿に対する熱が感じ取れる。
もう尿尽くしだ、ほんと。
[兄弟(三人)の―――――――]
[連携を期待できぬ以上――――――――]
[もはや―――――――]
[決着の必要もなく]
戦意喪失したマウスとはもう戦う必要がないと判断したのか、ゲバルは帰路に着く(アイアン・マイケルのフォローなしで)。
連携を崩して勝つという王道的な勝ち方だったが、崩し方がすさまじかった。
これほどの打撃力の持ち主はずいぶん久し振りだ。
というよりも、田仁志君鼓膜破壊で技巧派だと思っていたら、純然なパワーファイターなのが意外だった。
これならオリバともいい勝負をできそうだし、刃牙のライバルとしても十分だ。
でも、問題は風が吹いてメイクしなければ強くなれないことだなぁ。
まぁ、いざという時には尿があるか。
パワーと尿で戦うのがゲバルのファイトスタイルなのだ。
刃牙との放尿対決が楽しみです。
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