範馬刃牙 第38話 カヤの外



「俺を嘗めてんのかッッ」

刃牙はのっけから髪を逆立たせてマジギレだ。範馬怒りをしている。
それはもう、ヤングチャンピオンでセックスを見せられたように、その間実に2秒で決着をつけられたように、5ヶ月の前フリをなかったことにされたように怒っている。
今の刃牙ならチャンピオンを引き裂きかねない。
ムエタイ使いがいたら迷わず殴るだろうし、アイアン・マイケルでもいたら迷わず刃牙ラッシュで屠ることだろう。

虚勢を張りまくって、威嚇もしまくって…かと言って思い上がってもいる、今持っている度量実力をそのまま貌に出るに任せない刃牙の態度にゲバルとオリバの二人は…
ただ呆然としてるだけだ。
何話し掛けてきてるわけ?と言わんばかりに場違いな空気がしている。

「黙って聞いてりゃよう」
「喧嘩だけが残っただの―――誰(た)がために戦うだの―――」
「戦うために何が必要だの」
「何もいらねェだの――――」


せっかく怒ったのに構ってもらえなかったのが悔しかったのか、二人の襟を掴んでさらに続ける。
柳とシコルスキーの襟を掴んで「歯ァくいしばれいッッ」と猛った姿が思い出されるが、この二人の戦力は柳とシコルスキーの2.5、多くても3.0から3.2倍以上はあるだろう。
ビンタされるのはお前の方だ、刃牙。
そんな不安を覚えたのか、ルームメイトの人たちは冷や汗ダラダラだ。
本気で心配されてる。
これでいいのか?

「イチャイチャと……」
「ノロけてンじゃねえェェッッ」


刃牙が叫んだ!!
イチャイチャとノロけていたのは数年前のお前だろ。
ここまで自分のことをなかったことにして猛られると、むしろ気持ちがいい。
こういう刃牙は大好きだ。
すげえ小物っぽい。

ガッ

小物っぽい小物っぽいと思った途端に、刃牙はオリバとゲバルのダブル張り手を喰らった
どちらもバキ世界においてトップクラスの筋力の持ち主だ。
それを2発同時に受けたのなら、さすがの刃牙もただではすまないだろう。
だが、そこは刃牙だ。
おそらく、この程度の反撃は予知していただろうし、例え予知していなくとも耐え切れるだけのタフネスは持っているだろう。
この程度でKOするようなら、勇次郎には4000年かかってもたどり着くことはできない

[殺し合いをする猛獣同士ですらが]
[戦いの途中邪魔が入るなり協力し合い――]
[排除するという]
[バキがハネられたのは]
[あまりに必然だった]


刃牙は柵まで一直線に吹き飛ぶ。
放物線を描かない軌道で吹っ飛んだ。
柵がぶっ壊れかけるものの何とか刃牙を支えた。
ヘタすれば地上数階の高さから落下しているところだ。
勇次郎と戦う前に死にかけてどうするお前。
しかも、事故で死にかけて本当にどうする。

これがアイアン・マイケルならそのままドクターが呼ばれるところだが、そこは範馬刃牙だ。
すぐに立ち上がってヘタれ顔で冷や汗でも流すことだろう。

「嫉妬(ジェラシー)か…」

「範馬の血―――――の前では刺激が強すぎたか………」


二人は刃牙をわりと差し置いて会話する。
当の刃牙は虚ろな目というより死んだ魚の目をしたまま、よだれをたらしている。
………
……

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ。
お前、普通に気を失ってどうする。
どうしようもない小物っぷりだ。
アメリカに来たことで加藤の血が混ざってしまったようだ。
でも、こんな刃牙、俺大好きなんですけど
これでこそ刃牙だ。芸術的なまでに噛ませだ。

オリバはとりあえず、刃牙のことを忘れて前回話にあがった彼女のことを思い出そうとする。
ハンカチを取り出してその匂いを嗅ぐ。
声優と握手をした手の匂いを嗅ぐように、麗しくかつ執拗な姿だ。
彼女からもらったものかとゲバルが聞くが、どうやら違うようだ。

「彼女が昔住んでいた街で買ったものさ」

え?ナニそれ?
通販で買うよりもコミケで買った同人理論か?
彼女が持っていたのではなく、住んでいた街で買ったものをありがたむオリバの理解にゲバルはおおいに困る。

「彼女が住んでた街(エリア)にこのハンカチーフがあったというだけで…」
「ここに彼女を感じ取ることができる」
「リバプールで買物をする観光客がビートルズを感じ取るように」


四葉が刺繍されたシスプリグッズがあったというだけで…ここに四葉を感じ取ることができる。
つまりはそういうことだろうか?
そういうことなんだろうな。
その四葉ラブの勢いに任せ、オリバはゲバルにもハンカチの匂いを嗅がせようとする。
でも、この手のシスプリグッズに興味のないゲバルは――むしろ、俺はストロベリー・パニック!派だ言わんばかりに、四葉ハンカチにつばをかけた

「オォオオォオオオォォオオオォオオォオオオオオォオオォオォオオォオオオオオォォオオオオォオオオオオオ」

オリバさん号泣だ。
大切にしていたシスプリグッズにつばをかけられたんだ。
そりゃあ泣くに違いない。
泣いたまま、ゲバルの元を走り去る。
今時シスプリグッズを手に入れるのは容易ではない。
汚された悲しみと取り返しのつかない喪失がオリバを襲っているのだろう。

「この世で最も濃厚に香るもの……」
「それはあのハンカチーフではない」


シスプリの時代は終わったとばかりにゲバルはつぶやく。
その間、主人公は気絶したままだ。
お前それで良いのか?
2/3がいいくらい言えよ。

ところで私は最近のGsをまったく知らないのだけど。


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