範馬刃牙 第45話 燻り



必殺のヒゲミサイルがオリバの右目に命中した。
どんなリアクションを取るのかと思えば、意外や意外。
涙を流して痛がる。
心の中では眼球にもウェイトトレーニングを仕込むべきだったと後悔しているかもしれない。

このオリバのリアクションに観衆は戸惑う。
刃牙だけはなんとなく何かを察したような表情をしているが実際にわかっているのかは不明だ。
というか、何か喋れお前。

とにかく、オリバは目に刺さったヒゲミサイルを抜こうとする。
めちゃくちゃ隙だらけです。
それでいいのか、あんた。
出逢って早々にデレを見せるツンデレか。

この反応が目論見通りだったのか、ゲバルは笑う。
すかさずタックルでオリバにしがみつく
デイヴのようななめらかな動きだ。
オリバペースかと思いきや、ヒゲミサイルの一撃でゲバルペースになってしまっている。

「シェィラッ」

オリバの巨体を真上へ向かって投げた!
奇襲から投げるまでの流れが実にスムーズだ。
オリバを真上へと上げる筋力も侮れない。
親指と小指でつまんでいるバンダナを離しそうになる。
これにはさすがのオリバも汗を流す。

オリバは空中で態勢を立て直し、地面に着地する。
この攻防によるダメージはないようだ。
だが、別の部分でダメージはあった

「持ちかたを…… 変えたのかい」
「そんな…」
「鷲掴みなんかにして」


オリバは思わず、親指と小指でつまむはずが手で握ってしまっていた。
前回、オリバがゲバルを侮辱したのと同じだ。
やられたらやり返すの理論で、ゲバルは借りを返した。
これでルーザールーズにおけるダメージは同等だ。

「ハッ」
「かっこわるッッ」


同等かと思ったら、マリアさんの追い討ちが入った
好きな娘にかっこわるいと言われてしまった。
離婚しようと申しかけられたかのごとく、唖然とする。
今まで一度も見たことがないショック顔だ。
ダメだ!
このオリバ、マジでダメだ!

そんなショックを引きずっていたら、ハイキックをモロに食らった
さらに平拳を喉に受ける。
筋肉で鍛えられない部分だけあり、オリバものけぞる。
完全にゲバルペースだ。

劣勢を瞬時に覆せるゲバルはかなりの試合巧者か。
この駆け引きの強さもゲバルの持ち味なのだろう。
さらにオリバを追い込むべく、親指と小指でバンダナをつまんで、余裕を見せ挑発する。
オリバが呆然としたところにテンプルに肘を当てる。
試合運びがうまい。
オリバを完全に圧倒している。
もっとも、マリアさんの一撃のおかげかもしれないけど。
環境利用闘法というやつですか?

ゲバルはバンダナを引っ張る。
オリバをそれにつられて、引っ張られてしまう。
無防備なオリバの顔面を手の甲で叩く。
ひるんだところを頭突きで追い討ちして、オリバが鼻血を流す。
流れを掌握されている。
オリバ、大ピンチだ。

(スマない………)
(スマないマリアッッ)
(すっかり退屈させちまったね)
(もう大丈夫だ)
(わたしは男らしく生きる)


だが、頭の中に浮かぶのはマリアさんのことだった。
あの子の微笑みがあれば、あと50年は戦える。
まぁ、マリアさんの微笑みとかあまり見たくないのだが。
それにこんなことを考える余裕があるということは、思ったよりダメージを受けていないのかもしれない。

あと退屈させないのと男らしく生きるのは別問題だと思う。
退屈させないためにはアイアン・マイケルを呼んでくればいい。
突如、アイアン・マイケルがこの戦いに乱入したら、1ヶ月はアイアン・マイケルの話題が続く
間違いない。
ところでアイアン・マイケルはどこへ行ったんだろう?

「なァゲバル」
「君は……」
「いつまでハンカチなんか握ってるんだい」


ルーザールーズのルールを揺るがす発言をした。
妹のいらないシスプリを渇望するような暴言だ。
これにはゲバルも呆気に取られ、攻撃の手が止まる。
この隙に金的をしたら範馬刃牙賞をもらえる、かもしれない。

「わたしの左手を見ろ」
「もうつまんですらいない」
「もう握らない……」


オリバが最上級のスマートを見せた。
握らない、つまむなんてしない、ただ手のひらに置くだけ。
春風のようなさりげなさが漂うけど、大丈夫なのかそれで

現状の戦いは身体能力そのものよりも、駆け引きを競っている。
どちらかがハッタリを効かせれば、もう一方がハッタリを効かせる展開だ。
でも、最大のハッタリはムエタイで戦う宣言だな。
わたしの構えを見ろ。
もう勝つ気ですらいない。
もう勝たない……


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