範馬刃牙 第68話 その変化
刑務官ボブ・マッカーシーが言うには刃牙に変化が起こり始めているらしい。
何が変わるのだろうか?
多分、放尿だな。
失禁ではない。放尿だ。
意識して尿を出すのだ!
それで何が変わるのかまでは、自分は関与しない。
「4年前―――――――― この場所で7階から落下事故があってね」
絶妙なタイミングでボブの解説が入る。
こいつ、空気を言うのを実に読んでいる。
今現在、ダウンしている刃牙とは大違いだ。
さて、ボブが言う落下事故は当然、即死だった。
7階から落ちて平気な人間はいないだろう。
痛み大好きのマゾ気質のある刃牙だって五点着地する。
ところでなんで落下事故なんだ?
事件とか、自殺とか、そういう方面っぽいのに、わざわざ事故と形容しているのが不思議だ。
落下事故に見せて、オリバ刑務所の闇があるのかもしれない。
あと死亡者がどことなくアイアン・マイケルに似ている。
…似てませんか、そうですか。
「しかし今ここに印されたバキ・ハンマの激突痕」
「落下事故によるものを
パッと見ゆうに2倍は越えて……」
オリバの叩き付けは単純計算で7階から自然落下の2倍の破壊力があるようだ。
おそらく、今の刃牙はジェットコースターから落下した末堂以上のダメージを受けている。
末堂なら即死だ。いや、死んでないかもしれないけど、読者的には即死だ。
だが、刃牙は生きていた。
うつ伏せの状態から仰向けへと姿勢を変えただけだが、はっきりと生きていることを証明した。
何せ7階から落下以上のダメージを受けながら、鼻血一つ流していない。
もう、鼻血すら流れないダメージなんですよ。
シコルスキーのドロップキックの方がまだ強い。
ごめん、それは嘘だ。
「ああ……」
「気持ち……いい………」
生死すら怪しかったが、当の刃牙は快楽を覚えていた。
って、このマゾがァ!!
マゾに痛みは通じない。
全て快楽になってしまうから、意味を為さない。
そうえいば、3階から落ちた時、刃牙は受け身を取らなかった。
もしかしたら、あえてダメージを受けるために受け身を取らなかったのかもしれない。
マゾの本能がダメージを受けることを選んだのだ。
マゾとして出来ておる喃。
「最強――――――ビスケット・オリバの――――― 全力………」
オリバの全力に刃牙は5年前の勇次郎との戦いを思い出していた。
「その差が理解(わか)らぬほど隔たる実力差」をオリバにも感じる。
オリバの全力は勇次郎クラスということだろうか。
でも、勇次郎と同等の実力を持っているかはさておき、刃牙との差は何を今更と言った具合だ。
刃牙とオリバの実力差は読者的には十分承知している。
不意打ちのパンチがまったく通用しなかったし、ゲバルとの協力ビンタ一発で気絶とか。
でも、当の本人は叩き込まれるまでは一切知らなかったようだ。
この行き当たりばったりな思考がオリバへの無謀な挑戦に繋がったんだろうな。
「ああ……あれが――――――」
「あれが始まっている………」
刃牙がピンチの時に発動する特殊能力エンドルフィンが来た。
さすが、マゾ。
痛みに思わず脳内麻薬だ。
痛みも刃牙にとっては、エンドルフィンを出す蛇口にしか過ぎない。
でも、鼻血くらいは出しておこう。
「溶けてね………?俺」
エンドルフィンが出たと思ったら、刃牙が溶け始めた。
これはもしかしてオリバが刃牙が生み出した幻影とかではなく、
刃牙そのものが誰かのリアルシャドーによって作られた妄想体であることを示唆しているのかもしれない。
ダメージが許容範囲内を越えたから、本来幻影である刃牙は姿を維持することができなくなり溶けてしまったのだ。
強烈にイメージした妄想体は実体に限りなく近い存在になることはすでに証明されている。
100キロのカマキリと戦った時の刃牙の動きは妄想と戦っているということを超越していた。
刃牙レベルのリアルシャドーは自分限定ではあるが、妄想を実体化することができるのだろう。
なら、刃牙以上の妄想家がリアルシャドーを行えば、他者にも影響を与える幻影を作ることができると推測できる。
そんなことができるのは当然勇次郎だ。
親馬鹿っぷりを爆発させて架空の息子、刃牙を生み出したのだろう。
今までの話は勇次郎の妄想が戦い続けてきた話だったのだ。
そう、元から刃牙という人間はいなかったのだ。
だが、ついに妄想が死んでしまった。
範馬刃牙完!
「そう……ハネ上がったんだよバキが」
――と、思っていたら、溶けていたのは刃牙の幻覚だったようだ。
エンドルフィンのwikiによると、エンドルフィンを出しすぎると脳細胞を破壊してしまうらしい。
出しすぎたからついつい幻覚を見てしまったのだろうか。
エンドルフィンに頼りすぎだ。
また、脳細胞の破壊と同時に人格を破壊することもあり得るようだ。
…なんか刃牙の性格が悪くなった理由がわかった気がした。
エンドルフィンの出しすぎで性格が悪くなったに違いない。
ついでに性行為でもエンドルフィンが出るらしい。
ということは、Jr.編で刃牙の性格が異常に悪かったのはSAGAりすぎたからと見て間違いない。
とにかく、刃牙は仰向けの状態から真上に飛んだ。
どういう原理かは不明だが飛んだ。
「北斗の拳」に出てきた跳刃地背拳という言葉が脳裏をよぎる。
もしかしたら、フォックスは範馬の血族、あるいは範馬がフォックスの血族なのかもしれない。
刃牙の放尿癖もその影響なのかもしれない。
「伝説は知っているがモチロン初めて目にする」
刃牙の背中に鬼の貌が浮かんでいた。
かつて、ジャックとの戦いで最後の最後でやっと解放された刃牙の鬼の貌だったが、今回は早々に浮き上がった。
範馬のずるさを象徴する筋肉だ。
そのずるさの恩恵を受けられないジャックは少し可哀想だ。
刃牙の何倍のトレーニングを重ねているから、余計可哀想だ。
で、なんでボブは鬼の貌を知っているんだ。
「日本の古武道(マーシャルアーツ)にだけ存在し―――― 遂には封印された………」
「打撃筋(ヒッティングマッスル) 鍛錬法(エクササイズ)」
「その鍛錬によってのみ――――― 形成される悪魔の貌」
古武道って、それ何か違うよ!ボブ・マッカーシーィィィッッッ!!!
ボブ・マッカーシーの口から語られた鬼の貌の驚愕の事実だ。
日本の古武道にだけ存在し、挙げ句、封印されたらしい。
う、嘘くせぇ…
鬼の貌は中国四千年を象徴する郭海皇ですら見たこともなく、筋肉の構成が通常とは異なると宇宙人扱いしたものだ。
それどころか、天然戦闘形態と鍛錬によってなるものではないと称した。
古武道をやれば筋肉の進化が異端化することはありえないので、ボブ・マッカーシーはとんでもない勘違いをしていそうだ。
というか、古武道で鬼の貌が出せるなら、今頃本部が最強だ。
いや、もしかしたら、鬼の貌を出せたのかもしれない。
出せたからこそ、勇次郎に勝てる気で挑んだ可能性がある。
いや、刀に頼った男だから、それだけはないか。
それ以前の部分で否定するべきかもしれないけど。
「さらに驚くことにはバキ・ハンマの立ち姿が―――――――
ある男に重なったのだ………ッッ」
「世界で最も高名な剣術家(ソードマン) 誰もが知るあの男に………ッッ」
ボブは刃牙の姿に宮本武蔵を重ねた。
古武道といい、随分日本びいきのアメリカ人だ。
でも、何で宮本武蔵よ?
かつて、消力を解説する際に烈海王は脱力の象徴として宮本武蔵を挙げた。
だが、鬼の貌は脱力とは無縁のそれこそ力みの象徴だ。
それになぜ宮本武蔵が関わってくるのだろうか?
非常に不思議だ。
もしかしたら、ボブは幻覚を見ているのかもしれない。
目の前で起こる筋肉乱舞に理性は全ての情景を閉ざすことを選んだ。
つまり、エンドルフィンだ!
ボブの幻覚なら刃牙は生き残れる!
いや、現実ではさらにひどい目に遭ってるかもしれないけど。
ともあれ、刃牙とオリバの戦力がついに並んだ。
…かもしれない。
オリバは鬼の貌というか範馬にこのまま食われてしまうのだろうか?
郭海皇ですら鬼の貌の前には何一つ対抗できなかった。
オリバはいったいどうなるのだろうか。
それとも、連載史上初の鬼の貌と五分った男になるのだろうか。
とりあえず、最強の範馬力でレイプはちょっと勘弁願いたい。
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