範馬刃牙 第95話 謝々(ありがとう)
中国四千年の妙技にピクルが涙した。
泣きまくる。とにかく泣きまくる。
ドリアンのように相手を油断させるための涙ではないようだ。
…相手を油断させるために泣く野生ってどうよ。
(尻もちをついた体勢――――… 顔面へモロに蹴り込んだ)
(普通人ならば確実に死んでいた)
突如泣いたピクルに対し、烈海王は特に動揺した様子はない。
むしろ、ピクルのタフネスを分析している。
しかし、普通人の基準って何だ?
一般人なのだろうか。それとも普通の格闘家レベルの人間なのだろうか。
いずれにせよ、烈先生は致死の一撃を放ったらしい。
文化遺産に対して遠慮全くなしだ。
(君のその耐久力(タフネス)に――――)
(謝々(ありがとう)ッッ)
本来ならば自分の全力の一撃が通用しなかったことにショックを受けるのが妥当なところだが、烈海王はむしろピクルに感謝する。
そして、涙にビビることなく、再度前進する。
起き上がったピクルは烈海王に力なく手を伸ばすが、それを払いのけてピクルのアゴに蹴りを決める。
垂直に蹴り上げる中国拳法式の蹴りだ。
地面を縦に捉えているので地球アタック理論で地球の核の硬さをぶつけていることだろう。
縦に浮き上げたところに烈先生はボディーに直突きを当てる。
さらに手刀でアゴを打ち抜く。
上段・中段・上段と的確に振り分けられた攻撃にピクルがぐらつく。
中国四千年の英知は2億年前の野生にすら通じるのか!
(バカな…ッッ)
(人間がピクルを圧倒するなんて)
烈先生のワンサイドゲームにペイン博士が驚く。
というか、人間単位で見ているのか、ペイン博士。
ピクルって人間じゃないのかよ。
やっぱり、筋肉のDNAが通常の人間とは大きく異なるピクル星人なのかもしれない。
100点くらいは楽勝でありそうだ。
さらに烈海王はアゴに跳び蹴りを食らわせる。
ピクルの頭ほどまで飛び上がる驚異の跳躍力が成せる技か。
さらに直蹴りでアゴ!
さらにさらにハイキックでアゴ!
さらにさらにさらに手首の付け根でアゴ!
トドメに平拳でアゴォ!
驚異恐怖のアゴ狙いの連撃だ。
バキ世界におけるアゴを狙った打撃の信頼性は高い。
Jr.がそれを得意としており、独歩や渋川先生といった実力者を一度とはいえ屠り、
タフネスに定評のあるジャックの足下をぐらつかせることに成功している。
刃牙も春成をアゴ狙い3連撃で瞬殺している。
また、ダメージを与えることよりも意識を失わせることを狙いとした打撃のため、瞬殺に向いている。
烈海王は普通人なら即死させる廻し蹴りでピクルに目立ったダメージを与えられなかったため、
アゴ狙いの打撃で脳震盪を狙ったのかもしれない。
相手のタフネスに合わせて的確な攻撃方法を選択している。
これが現代人の知恵か。
(顎部のみに集中させた 六連撃ッッ)
(ピクルの頭部内壁に起こる未曾有の震盪
恐らくは数千回ッッ)
いや、いくら何でも数千回は多すぎるだろう。
一発でどれだけ揺らしているんだ。
揺らした状態でさらに揺らせば数倍になるとかのトンデモ理論発動か?
ともあれ、6発も的確に、かつスピーディに、それでいて多くの攻撃を使ってアゴを打ち抜いたこの連撃は
バキ史上最大最強の脳震盪攻撃かもしれない。
春成だったら最初の1発で気絶間違いなしだ。
このダメ押しに次ぐダメ押しは、大擂台賽で刃牙が見せたその間実に2秒ラッシュに触発されて編み出されたものかもしれない。
それはもう四千年の歴史を巨凶の血であっさりなかったことにされた恨みとか、
中国になんか不細工なヒロインを連れてこられた恨みとか、
命を助けてやったのに影で中国拳法を虚仮にしたいと言われた恨みとか、
せっかくの息子対決を2秒で終わらせられた恨みとか、
同じく命を助けてやったのにぽっと出のホモ海王のセコンドについた恨みとか、
大将戦でなんかわけのわからない驚愕をされた恨みとか、
久しぶりに逢ったと思ったらいきなり中国拳法教えてくれと言われた恨みとか、
バキSAGAが未だトラウマになっている恨みとか、
そういう恨みがつもり積もって出来上がったに違いあるまい。
(ああ…たまらぬッッ
この至福……ッッ)
(ここで終わってくれるなッッ)
やりたいことをやり尽くした烈海王はご満悦だ。
自分の持つ最高の攻撃を出し尽くしてもなおピクルは立っている。
最高の試し割りだ。
この快感を味わったらもう打岩には戻れない。
でも、負けたら喰われるんだからなるべくなら早く終わらせた方がいい。
烈海王はウルトラハイリスクな試合をしていることを自覚してもらいたい。
もっとも、これだけの連撃を決めておきながら構えを崩さない烈海王に油断はない。
己の技量に自信があってこそのこの言葉か。
[メキュッ]
そう思って次のページをめくったら、
シベリアトラ殺しの背骨破壊(仮称ロシア殺し)を食らったじゃねえか!
烈海王の怒濤の連続技に対し、ピクルのは一瞬の破壊劇だった。
あの烈海王が反応することすらできず、見事にロシア殺しを決められた。
範馬一族にすら烈海王に反応されない攻撃ができるかは怪しい。
恐るべきスピード。そして、パワーだ。
もしかしたら、ピクルの耐久力を人間格闘家の範疇で考え、さすがにアゴ狙い6連の後に即座に反撃されないと一瞬気を緩めたのかもしれない。
その一瞬の隙をピクルの野生が察知して一気にロシア殺しをやったのだろうか。
烈海王は何が起こったのかわからないような呆然とした顔のまま、地面にヒザをつき倒れようとする。
かつて刃牙に首を折られかえた時、頸椎を外して難を逃れた烈海王だったが、背骨を狙われるとどうしようもないらしい。
一応、首は折れていないようなので、頸椎外し自体はやったのかもしれない。
一方のピクルは相変わらず涙を流している。
その表情は悲壮感のある悲しみに溢れた顔だ。
ピクルは現代人とは思考回路が根本的に異なるとはいえ、
烈海王が今の実力を身につけるまでにどれだけの苦労をしたのかは察することができるはずだ。
その長い鍛錬を自らの手で崩すことを惜しいと感じたのだろうか。
でも、台詞がないからわかりません。
倒れゆく烈海王をピクルは手で捕らえる。
その顔はお前はいいライバルだったと言った感じだ。
戦士が戦士に対する敬意か。
で、口を開ける。
…え?
やっぱり食べるの?
[ガブッ]
[メリィッ]
うわあ!本気で食べちゃった!
烈海王のどこの肉なのかは描写されていない。
だが、間違いなくどこかの肉を噛みちぎった。
ジャックみたいにダメージを与えるために噛み切るんじゃなく、捕食するために噛みちぎっているからタチが悪い。
勝負に負けても負けるだけで済まされない。
烈海王、人生最大のピンチだ。
ピクルも「WOOOOOOOKYAAAAAAAHH!!噛んじゃった!噛んじゃった!いっぱいかんでやったぜーッ」と言っている場合じゃない。
全然言ってねえよ(ちょっと錯乱しています)。
とはいえ、烈海王がまだ負けたと決まったわけじゃない。
中国拳法の理合で背骨の骨折を避けられている可能性もある。
その場合、噛みちぎられた痛みで覚醒すればまだ何とかなる。
逃げればピクルは追ってこないはずだぞ!
でも、肩や腕など肉厚な部分が噛まれたのならともかく、首や頭などの急所をやられていたらやばいよなぁ…
大ピンチを迎えた状態で次回へ続く。
烈海王の中国拳法は見事なものだったが、ピクルの異常すぎる身体能力の前に無力化されてしまった。
常人が死ぬ廻し蹴りを食らってもノーダメージ。数千回脳が揺れてもノーダメージ。
なんかいきなり範馬以外には倒せない生物の気がしてきた。
食人すら辞さないことがわかったし、危険度は範馬一族と互角か。
そして、烈海王はこの窮地をどうやってくぐり抜けるのだろうか。
さすがに来週になったらまずピクルお食事シーンが流れて最後のページで白骨になった烈先生がいたら凹む。
烈先生が本気で喰われたら、他の格闘家7人も同じように喰われることになってしまう。
そうなると半端じゃなく困る。
もし、喰われるようなら、ここは何としても責任者一同に命を賭けて止めてもらいたいところだ。
ここまで来て「本人がやりたいと言っているからいい」で済ませるつもりじゃないだろうな。
というか、殺人幇助になってしまうぞ。これが新聞に載ったらまずすぎるぞ。
人間を殺したとなれば、ピクルが危険な存在として殺されかねない。あるいは厳重に保護観察されることになってしまう。
実際問題、どっちも無理だろうけど、ピクルを日本に連れてきた意味がほとんどなくなってしまうことには変わらない。
そして、ジジイ3人組の社会的な地位は絶望的に落ち込む。
命がかかっているのは烈海王だけじゃなく観戦しているジジイ3人組もだ!
でも、徳川のジジイは「ピクルは最高じゃ!」とか喜びそうだよな。
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