範馬刀牙 第250話 美食



ついに刃牙と勇次郎の晩餐が始まる!
一流ホテルの一流料理が刃牙に襲いかかるぞ。
一体、どうやって戦う。
いや、戦わんでいいのか。

「親父……この料理は?」

「東坡肉(トンポウロウ)だ」


テーブルに運ばれてきた一品目は東坡肉(トンポウロウ)こと豚バラ煮込みだ。
美味しんぼの山岡士郎の全盛期を象徴する一品である。
彼は東坡肉を一目見た瞬間に店主に文句をつけた。
刃牙は……如何にするのだろうか。

東坡肉を運んだのは本部だ。
一応、服装はシェフのそれだが、匂い立つ本部臭は隠せない。
しかし、刃牙と勇次郎は本部の存在に気付いていないようだから、変装は成功か?
気付いていないと言うよりも忘れていたという風情なのが気にかかるが。

「中国……北宋代の詩人 蘇東坡――」
「彼の面のは詩人として高名であると共に」
「酒池に興じた稀代の美食家としても知られている」
「それだけならただの放蕩者だが 中国人の食への追求心は生易しくない」
「三日三晩の調理―― 己に課した苦行を克服した先に生まれたモノ」
「それが東坡肉ッッッ」
「味わえ 刃牙」


勇次郎は東坡肉の歴史を語る。
刃牙はただただ圧倒されるのみだ。
料理を運んできた本部も勇次郎の知識に驚くと同時に、解説を奪われて悔しいのかうなだれている。
ついでに蘇東坡は美食家として伝わっていないので嘘知識です。

刃牙は東坡肉を箸で取る。
が、うっかりこぼしてテーブルを汚してしまう。
勇次郎の頭に血管が浮かび上がり、髪が逆立つ。
本部なんて既にチビっている。
食事の場に尿とか最悪だ!

「親父……この東坡肉は出来損ないだよ」
「まず素材が駄目だ そこらの養豚場で育てられた豚じゃ相手にならない」
「シンプルな料理だけにこの料理は誤魔化しの全てを拒絶するッッ」
「加えるなら味付けに使った調味料は 全て化学調味料」
「こんな偽物の味付けで俺が満足すると思ったのかよッッッ」


刃牙はパンツを破きかねない勢いで東坡肉をDISっていく。
食べてもいないのに言いたい放題だ。
化学調味料とか勇次郎にパックのメカブを出した人間が言える台詞ではないが、勢いで刃牙は押し切ろうとする。
あとアンタはカップ麺を食べていましたよね?

言い切った刃牙は早速いつものトランクス姿になり、即座に臨戦態勢だ。
東坡肉とテーブルを挟んで空間が歪む。
その違和感ったらもう並大抵のものではない。

「始まっちまうぜ……ッッ」

「こんなところでかよ!?」


傍らにいた加藤と末堂の驚き役コンビも息を合わせて驚愕する。
さらに本部の解説が合わされば黄金時代が蘇るというものだが、残念ながら解説は勇次郎が奪っちゃったんだよな。
今の本部は失禁するのが精一杯だ。
しかも、まだ失禁しているし。
どれだけ溜め込んでいたんだ、お前は。

「邪ッッッ」
「素材とした豚バラ肉は―― 種子島で俺が丹念に飼育した正真正銘の黒豚」
「調味料は全てこの五体で探してきた職人が作った一流の代物だ」
「阿呆がッッッ」
「批評するのならばまずは正しき審美眼を養えいッッッ」


勇次郎が座ったままキレた!
そりゃ喰わずに文句付けられたらがっかりだよ。
ちょっと涙目だし、実はけっこう傷付いたのかもしれない。
この怒声で刃牙はあっさりと怯んだ。本部も尿の量が増えた。
水たまりができているんだから、誰か突っ込んでやれよ。

しかし、丹念に飼育した、五体で探してきたってどんだけ息子ラブなんですか、勇次郎さん。
この日のために用意してきたということだろうか。
胸が熱くなるな。
何かこの告白を聞いて刃牙も涙ぐんでいるし。

「ご……ごめんな……ッッ」

「とはいえ――批評をするなとは言わぬ」
「あらゆる行為 あらゆる存在 万物の全てには批評がつきものだ」
「それを否定する権利は誰にもない」
「喰え」
「喰って感じるままに本音を言うことが家族には肝要だ」


勇次郎のいい話シリーズ、今度は批評についてだ。
刃牙は思わずごめんなさいと言いそうになるし、完全に厳しい父親を前にした息子になっている。
こんな刃牙を見ると不思議とムカつかない。笑えてくるけど。

刃牙は涙ぐみながらテーブルに落ちた東坡肉を再び箸に取る。
本部は酷評しかされていないことを思い出したのか、涙がこぼれる。
あとまだ尿は出ている。
もうちょっとで勇次郎の脚に触れそうだけど、大丈夫か?

ついに東坡肉を食する刃牙だった。
その時、洪水が襲いかかる。

(う……うンめェ〜〜ッッ)
(襲いかかる歯と舌――)
(それを拒絶することもなく ただ力に任せるままほぐれて溶けていくッッッ)
(これが肉!?)
(これほどとろけた肉なんて知らないッッッ)
(まるで女性の身体のような柔らかさ――)
(否 熱く溶けた泥の海ッッッ)


刃牙は絶賛の嵐だが、SAGAで使った形容は食欲がなくなるので止めていただきたい。
SAGAと梢江は食欲をなくす。
でも、刃牙はゲテモノ好きだからか、むしろ食欲をそそるのか?
梢江を思い出すだけで私はご飯もおかずも食べられなくなる自信がある。

我を忘れて東坡肉に貪る。
箸をかなぐり捨てて素手で食べているよ。
美味いのはいいことだが、作法にうるさい勇次郎にそれは自殺行為じゃないか?
……あ、白目で笑っている。
作法よりも親馬鹿ということか。

「どうだ」

「お……美味しかったです」(敬語使うしかねェッッッ)


感動のあまり、敬語を使う刃牙だった。
強さで負けている上に料理で負けた。
どうしたものか。
なお、本部は東坡肉に手を伸ばして、勇次郎に殴られて気絶した。
尿の海に沈んで非常に食欲を減退させる。

本部に変わってロリオン・グラッシーが料理を持って来る。
忘れてしまいそうですが、かつて勇次郎にかかと落とし一発で負けた人です。
勇次郎は忘れていたようで誰お前という顔をしていた。

「これは――おむすびッッッ」
(まさか親父の作ったおむすびッッッ)
(鬼のおむすび――)


勇次郎の次の武器はおむすびだ!
ただのおむすびでなく、海苔で鬼の貌を作ったおむすびである。
妙に細かい書き込みが作った人の技量を感じさせる。
勇次郎が頬を朱に染めているし、やっぱりこれを作ったのは勇次郎なのだろうか。
頑張って海苔を加工したんだろうな……

刃牙はおそるおそるおむすびに箸を当てる。
さっきまで素手で東坡肉を食べていたのに、いきなり箸っすか。
中途半端に行儀の良い男だ。

(この弾力――)
(〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ)
(これはッッッ)

ここで再び刃牙に電撃が走る。
弾力という言葉から思い出されるのは鎬紅葉のジャックに対する言動だ。
だが、無駄に硬いと言うこともなく一応柔らかいらしい。
まぁ、勇次郎のおむすびが柔らかいだけでも驚愕に値するが。

加藤と末堂もビビる。
見開きでビビる。
そんなのに見開きを使っていいのか?
あと本部は完全に尿まみれになっていた。

恐るべき勇次郎の料理だった。
いや、全然勇次郎が作ったとは描写されていないけど、妙に一喜一憂しているし勇次郎が作ったのだろう。
刃牙もトランクス一丁で妙に喜んでいるし、勇次郎じゃなかったらがっかりだよ。
次回以降も波乱が待ち受けていそうだ。
次回へ続け。



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