第240話 最強の称号



勝負なしと同時に大擂台賽終了ッッ!!
100年に一度のでかいイベントだったが、戦いの余韻を楽しむことのないまま終わってしまった。
海皇襲名トーナメントから外国人いじめの大会になってしまったから、下手に長引かせると不味い気もしますが。
なお、外国人いじめのつもりが返り討ちにあってしまったのは秘密です。

大擂台賽は国辱モノの試合が多い上に最終試合は不決着だった。
正直、名勝負は少ない。
少ないのだが、観客は満足気な表情だ。
郭海皇の擬態に騙されて、号泣していた時とはエライ違いだ。
妖怪爺が死んでスッキリしたという意味の笑顔ではないだろう
郭海皇は地上最強の理不尽生物相手に引くことなく戦った。
勇次郎相手に真っ向勝負であそこまで渡り合えたのは郭海皇が始めてだ。
特に鬼が発動した勇次郎の攻撃を幾度も受け、それでもなお立ち上がり拳を振るったのは、さすが中国拳法最強の男といったところだ。
まぁ、最後には擬態で命を拾いましたが。
とにかく、そんな郭海皇の勇姿に観客は大満足したのだろう。
だから、不完全燃焼でも気にしていない、と。
また、中国四千年と戦った日米軍にもある種の敬意を持っているからこそ、これだけのいい表情(かお)をできるのだろう。
…回想。
パンツに手を突っ込むマッチョ黒人、2秒で瞬殺の淫獣、ペテン師爆発のヒゲ親父、同じく瞬殺の黒人ボクサー、ミスター理不尽大王…
敬意よりも殺意を抱く方が似合っています。

だが、読者の危惧通り海皇襲名はうやむやになってしまった。
って、作者公認かよッ!!
なんというテキトーっぷりだ。
観客は満足しているから、まぁいいのかもしれないが。
しかし、こんな結果だといったい何のために多くの海王が犠牲(ネタ)になってしまったのだろうか。
顔の皮を剥がされるためだけに1世紀生きた劉海王、巨漢噛ませ犬海王の除海王、解毒用の毒手使い張海王、
ムエタイがムエタイたる証明をしてくれた最強の急所攻撃(受け専門)男サムワン海王、キャンディ食べるためにやってきた怒理庵海王、
ジャガッタ・シャーマンの後継者楊海王、ホモに目をつけられた陳海王、井の中の蛙な握力自慢孫海王、
いつのまにかに消え去った毛海王、ワケわかんねェ範海王、利き腕斬られた中国武術省の御三方…
犠牲者は多い。
この結末だと報われません。
もしくは海王たちのやられっぷりに感動したからこそ、観客たちは満足したのか?
海王のネタキャラ率は10割を占めるので、その気持ちは非常によくわかります。
それいったら、バキキャラの全てがネタキャラなんですが。


そんな大擂台賽終了の夜、大会中でもっとも暴れた男――範馬勇次郎は試合場に一人で立っていた。
その表情は感情がこもっていないというよりも、どこかしんみりした感じだ。
勇次郎はあまりの強さゆえに、自分の力の全て出しきることは少ない。
指一本でムエタイ戦士を倒せるくらいだ。
そんな中、大擂台賽は自分を全力を出し尽くせる稀有な舞台だった。
それが終わってしまったことに寂しさを感じているのだろうか?
思えば、愚息のバキも地下闘技場最大トーナメントが終わった時に、こうして一人闘技場にたたずんでいた。
勇次郎もバキも、闘争でしか自分を表現できない不器用な親子なのかもしれない。
肉体の交合ですら闘争にしてしまうくらい不器用だ。

そこに郭海皇が現れる。
勇次郎にはずいぶんこっぴどくやられたが、ダメージはもう快復したようだ。
少し遊ばれただけで因果の彼方に消え去ってしまったサムワン氏と比べると立派です。

「ともに意識し…」
「ともに尽くしあった」

その本質は正反対とはいえ、二人とも最強の称号を持つ男だ。
最強同士惹かれ合う部分があったのだろう。
お互いがお互いに恋をしてしまったウブな少年少女のように意識しあったのだ。
まさしくボーイミーツガール。
この場合、妖怪ミーツオーガですが。

「のう範馬海皇」

郭海皇が勇次郎を認めた。
郭海皇は「海皇」の称号を守るためなら、なんだってしてきた。
手を切り落とすわ、大会のルールを勝手に変更するわ、かなりムチャクチャなことをする。
ましてや、勇次郎の強さの質は海皇という称号の持つ意味とはかけ離れている。
それなのに、勇次郎を海皇と認める――これには大きすぎる意味がある。

「中国武術に命を賭した者達の中から」
「たった1人だけが名乗ることを許される海皇の称号」
「たとえあんたを倒したとしても」
「俺が名乗ることなど誰も納得するまいよ」

郭海皇が勇次郎を認めたように、勇次郎もまた郭海皇を認めた。
郭海皇の強さは間違いなくホンモノだった。
それも勇次郎の強さとはまったく異質の強さだ。
自分と正反対でありつつも、対等の強さを持つ郭海皇には尊敬する部分があるのだろう。

お互いに認め合った後に勇次郎は試合場から去ろうとする。
最近では非常に貴重なモノとなってしまった心の交流が行われた。
むしろ、主人公とライバルといった趣がある。
完全にバキと春成を食っています。

「100年経ったらまた闘(や)ろうや」

郭海皇は勇次郎に再戦の誓いを立てる。
って、アンタは246歳まで生きるつもりなのかッッ!?
妖怪ですら無理っぽい所業です。
海皇の名は伊達じゃない。
もしかしたら長生きしすぎると、長生きに歯止めがかからなくなって、いつまでも生き続けることができるのかもしれない。
生きているって素晴らしい。
それに対し勇次郎は不敵な範馬的笑顔で応える。
この人も生きる気マンマンだ。
きっと、100年後もこのままの筋肉で範馬立ちや鬼の背中を見せたりしそうだ。
バキもヨボヨボになって立ち向かうのか?

(ワシも…)
(呼ばれてみたいのォ…)
(地上最強の生物……)

郭海皇は人が人たる強さを求め、生涯を武術に捧げた。
だが、それは建前で真の望みは地上最強なのだろう。
だからこそ、さらなる高みを目指して力を捨て武を身につけた。
だからこそ、勇次郎と戦いどちらが最強なのかを決しようとした。
徳川のご老公は地下闘技場最大トーナメント決勝戦前に「男として生まれたからには誰だって一度は地上最強を志すッ」と発言している。
郭海皇は地上最強への夢を146年の長きに渡って諦めなかった雄中の雄なのだ。

郭海皇の熱視線を察したのか、勇次郎は右手をポケットから出して横へ向ける。
この行為は勇次郎の郭海皇に対する好意を表わしていた。
そんなものを表わす前に殴ったり蹴ったりする人だから、このような行動は珍しい。

勇次郎と郭海皇の熱いやり取りが誰もいない試合場で二人きりで行われた。
これでバキ薔薇界では勇次郎×郭海皇がフィーバーするだろう。
郭海皇の消力責めに勇次郎の鬼の絶頂を…
ごめん、無理。


場所は変わってヘリの中だ。
このヘリはバキを拉致した「中華人民共和国 特別搶救隊」のものだ。
密入国した後は密出国する。
これで±0になる。
違法には変わりありませんが。

ヘリの中にはバキ・梢江・烈先生・寂海王・パイロットがいる。
バキは戦い疲れたのか梢江と寄り添い一時の休息にひたっている。
まぁ、疲れるほど戦っていないんですが。
だって、その間実に2秒だし。

梢江はいつのまにかに復活だ。
バキLoveを見せ付けて、読者をイヤな気分にしてくれている。
日本に帰ったら復ッ活ッしたバキと一発ヤる、のは勘弁してください。

烈先生はグラサンをかけている。
弁髪にグラサンは似合わないというか、怖い
チャイニーズマフィアとして青龍刀をぶん回すのがオススメです。

そして、寂海王は烈に熱視線を送っている。
狙った獲物は絶対に逃がさないという決意がありありと伝わってくる。
愛人…じゃなくて、空拳道への勧誘はまだ諦めていないようだ。
……………………
…アレ?
なんで寂海王がVIP待遇なんですか?
前半で濃密な心理描写を描いておいて、後半でツッコみどころを用意する。
読者の皆様、安心してください。
バキはまだまだネタ漫画としてイケます。

(勝てるとか―――――)(勝てないとか――――)
(そういう次元のハナシではない)
(やれる理由もやれぬ理由も)(無限に用意できる)
(だからやる……)(時期が来た!!!)

バキはついに勇次郎との戦いを決意した。
決意したのはいいが…あなた、ナニをほざいているんですか?
今のバキの実力では郭海皇にすら勝てないだろう。
勇次郎VS郭海皇戦で己の小物っぷりを遠慮なくアピールしたし。

とにもかくにも、勝てないのはわかっているらしい。
だが、バキが勇次郎に挑む理由はただひとつ、勇次郎に勝つためだ。
勝ち負けの問題ではないと言っているが、ぶっちゃけ勝ち負けの問題です。

もしや、これは現実逃避の準備か?
とりあえず、帰国したらトレーニングと称した梢江との肉体の交合を繰り返すのかもしれない。
その結果腹上死、勝負ありッッ。
そして、あの世で郭海皇理論で勝利宣言する。
「バキSAGAの勝利(かち)…」



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