第241話 原点
大擂台賽は鎮火されるように終わったが、とにかく新展開だ。
『バキ』になってからというもの、展開が早い。
早いというよりも、なんだか消化不良気味に話が続いていっているような…
死刑囚編だって、何ともアレな感じに終わったし。
刃牙は密国がバレなかったようで、無事帰国していた。
もっとも、知り合いの神心館に頼めば、どんな犯罪行為も隠蔽できそうだが。
そんな背景があるのか、ないのか、想像に委ねられる中、刃牙は真夜中のロードワークを開始する。
勇次郎と戦うと宣言した以上、身体をなまらせるつもりはないようだ。
おおッ!なんだか主人公らしいだお?
ともかく、ロードワークは刃牙のメイントレーニングだ。
神心館のトーナメントから帰る時にロードワーク、ムサシを担いでロードワーク、富士の樹海に向かってロードワーク、東京に戻る時もロードワーク、筋肉に負担をかけるイメージをしつつロードワーク、梢江をお姫様だっこしてロードワーク…
最後のは若干余計ながら、作中で描かれている刃牙のトレーニングにはロードワークが多い。
思い直せば、最初の頃の刃牙はちゃんとトレーニングしていたんだなぁ…
近年は梢江との戦いや砂糖水で強くなっちゃってるし…
刃牙はロードワークの果てに富士山に着いた。
東京と富士山の距離を考えると恐ろしいことになるが、気にしてはいけない。
常時、シャキーンとエンドルフィン出しているんです。
とにかくこれだけの距離を走ればいいトレーニングになるだろう、多分。
そして、学校はどうした?
さすがは範馬の血族、妙に不遜です。
「ごぶさたしてます長老…」
富士の樹海には「長老」と呼ばれる(正確には呼んでいる)巨木がある。
刃牙は長老と会うために富士の樹海へ来たのだった。
しかし、この巨木の正体は何なのだろうか?
「長老」という名前をつけているくらいなのだから、何かしらの歴史がありそうだ。
でも、多分、連載終了まで謎のままです。
それはともかく、刃牙は回想をするつもりなのだろうか?
ここで幼年編への長期回想に入ったのは刃牙ファンなら周知の事実だ。
しかし、このタイミングでナニを回想するんだ?
…バキSAGAとか…
「タフだなァ」
樹齢うん千年ありそうな巨木だ。
タフなのには間違いない。
しかし、この言葉は長老に投げかけたものではなかった。
「最初から最後まで」
「俺のペースについてきた」
「なんの用だい」
どうやら、刃牙のロードワークには追跡者がいたらしい。
東京から富士山までの追跡者だ。
並大抵ではないタフさとどうしようもない執念(マイナスイメージ)の持ち主だ。
しかし、奇人範馬を追うのはいい考えではない。
あの勇次郎も刃牙と梢江のデートには動揺したのだ。
並大抵の神経の持ち主はチャンピオンを引き裂きますよ?
ロードワーク大王刃牙と対等に渡り合った追跡者の正体はマホメド・アライJr、通称魔法滅土Jrだった。
中国の武術トーナメントでつけられてしまったニックネームが印象的すぎて、本名が忘れられかけている闘士だ。
しかし名前とは裏腹にその実力は高く(名前は関係ない)、対戦者のほぼ全てを瞬殺している。
実は魔法滅土Jrという愛称が嫌いだったため、その腹いせを対戦者にぶつけた(のかもしれない)。
その結果全部瞬殺と相成った(のかもしれない)。
「君は…」
魔法滅土Jrが追って来たことが意外だったのか、刃牙は驚いている。
刃牙と魔法滅土Jrは互いに偉大な(イカれた)父を持つ。
大擂台賽ではチームを組んだほどだ。
だが、二人に共通点はいろいろあるのだが、今までに二人の間には不思議と直接的な接点がなかった。
今ここで刃牙と魔法滅土Jrの間に初めての会話が交わされた。
「ココガ…君ニトッテノ原点………ソンナ所カナ」
「俺に……用かい」
「君ガ使用ッテタノカ」
ダメです、会話になっていません。
むしろ、Jrは刃牙の問いを無視しているように思える。
やはり、Jrの目的は刃牙との世話話ではないだろう。
Jrは刃牙が使っていたと思われるサンドバックに目をつける。
使いこまれたのかボロボロになっている。
おそらく刃牙にとっては長年付き添ったトレーニングパートナーのような存在なのだろう。
そのサンドバックにJrは軽い左ジャブを打つ。
拳は握られてはいなかった。
体重×速度×握力=破壊力とは無縁の人らしい。
しかし、ジャブが打ち込まれたにも関わらずサンドバックはまったく動かなかった。
外れたのかと思いきや、Jrが振り向くとサンドバックの胴体が裂けた。
恐ろしい切れ味のジャブだ。
思えば範海王の顔をジャブで斬っている。
Jrにとってはジャブですら必殺技なのだ。
バキ世界においてサンドバック破壊は一種のパラメーターだ。
今までサンドバックを破壊したことがあるのは刃牙・ジャック・鎬昂昇・烈海王など、いずれも実力者だ。
Jrの実力もこの儀式によって確かなものになった(かもしれない)。
なお、アナコンダやコブラなどのヘビ殺しの称号を持つキャラは噛ませ犬になる傾向があります。
「君ト対決シタイ」
Jrは刃牙に挑戦した。
しかも、相手のトレーニング器具を破壊するという挑発行為つきだ。
怒り沸騰範馬パワー全開の刃牙と戦いたいらしい。
だが、バキを怒らせるとロクなことがない。
腐っても主人公だ。
半端に喧嘩を吹っかけたロシアの死刑囚は、ビルから突き落とされ、生急所蹴りを食らい、足腰立たなくなるまで殴られた挙句、放置プレイを強要された。
だが、それくらいの方がJrにとっては都合がいいのだろう。
せっかく完成したアライ流拳法は大擂台賽では対戦者のあまりの弱さに不発に終わっている。
アライ流拳法の全てをぶつけられる相手として、自分と同じく対戦者を瞬殺した刃牙を選んだのだろう。
この調子で殴りまくってください。
「断る」
あっさり断りやがったッッ。
せっかく富士の樹海まで、遭難を覚悟してやってきたJrに失礼な行為だ。
Jrは裏格闘業界では著名人なのだ。
一流の闘士ですら一生に一度戦えるかどうかのビッグネームらしい。
それを無下にするということは、完全に勇次郎以外は相手にしないつもりらしい。
刃牙の予想外の答えにさすがのJrも動揺する。
自分との対決を断った刃牙が誰と戦うのか…
Jrの脳裏に浮かんだのは地上最強の生物と呼ばれる悪鬼の姿だった。
「殺サレル」
魔法滅土Jrは静かにつぶやく。
今この瞬間ッッ、読者とJrの心はひとつとなったッッッ。
さすがアライ流拳法を完成させた男だけあり、絶妙なカウンター(ツッコミ)だ。
いや、本当に殺されるだろう。
あれだけの人外っぷりを見ても、まだ「勝てるッッ」というか「生きて帰れるッッ」と思えたら、本当の意味で大物だ。
「勝つからヤル」
「負けるからヤラない」
「そういう闘いじゃない」
「誰が強いとか弱いとか――――」
「もうそんなことには興味がないんだ」
刃牙は魔法滅土JrのTKO級のツッコミにも動じず言い返す。
だが、かなり後ろ向きな考えだ。
昔の刃牙は誰よりも強くなるために戦っていた。
それは勇次郎を素手で殺すためであった。
しかし、梢江との交合を経て、刃牙の戦いの目的は大切な人を守るものになった。
そして、勇次郎との共闘を経て「とりあえず、戦ってみっか」になってしまった。
…大丈夫か、主人公?
どうでもいいが、「ヤル」という表現は勘弁してもらいたい。
せめて「戦(ヤ)ル」や「闘争(ヤ)ル」にするべきかと。
このままだと、梢江とヤルように聞こえる。
だが、刃牙のクロスカウンターにJrは動じない。
どうやら、刃牙と対決をする策をちゃんと用意しているようだ。
思えば、Jrは駆け引きが非常にうまい。
刃牙が泡を吹いて戦うような策を見せ付けるのだろうか?
(君ハ僕ト闘ウコトニナル)
(シカモ―――――)
(君ノ方カラ望ンデ)
そして、Jrはさっそくとっておきの策を実行に移した。
その策とは梢江に非通知で電話をかけることッッ!!!
……………………
あー…これはつまり…
「殺サレル」
もちろん、梢江がじゃなく、Jrが殺されます。
殺害者は梢江です。
日本が保有している天然核兵器松本梢江に近づくと原子単位で分解されることとなる。
梢江は闘争において、巨凶範馬と互角に渡り合った巨凶松本の血を引く地上最強の雌だ。
いくらJrでも荷が重すぎるだろう。
彼の日本一のヤクザ花山薫は抵抗する暇もないまま撃退されている。
中国拳法No1と名高い烈先生も梢江の猛獣の連撃に微動だにできなかった。
Jrの安否や如何に?
(どんな惨劇が起こるのか非常に怖い)次週へ続くッ!
新章開始と同時に恐ろしい展開となっている。
ナニが恐ろしいかって梢江が重要人物になっているあたりが恐ろしい。
思えば大擂台賽編では梢江があまり活躍しなかった…ごめん、立派に読者を恐怖を植え付けましたね。
…大擂台賽編後半でやたら出番が少なかったのは、これからのための充電期間だったのか?
充電期間といえば、ストーリーに置いてけぼりにされたキャラたちの動向も気になる。
特にジャック範馬が気にかかる。
今ここで出番がなければ何のために背を伸ばしたのか非常に疑問だ。
勇次郎の「世界中にバラまかれた俺の種」「ガキ供と い〜〜〜〜〜い親友(ダチ)になりそうだぜ」発言も気になるところだ。
範海王がその一人かと思われたが、範の名を偶然背負っただけのまがい物だった。
これも今ここで出番がなければ何のために世界中でSAGAりまくったのか非常に疑問だ。
…もしかして、世界中というのは日本(刃牙)とベトナム(ジャック)の二つの地域だけを指しているんじゃないだろうな。
だとしたら、勇次郎史上最大最強のハッタリだ。
それにしても、梢江よりも魔法滅土Jrの身の安否の方が素で気になるのはなんでだろう?
何だか「勇次郎が克巳に命を狙われても絶対に平気」という感覚だ。
ならば梢江の戦力は勇次郎と互角なのか?
少なくとも雌としての戦力は間違いなく漫画史上最強です。