第243話 柔術と拳闘(ボクシング)



合気柔術の渋川剛気とマホメド・アライ流拳法を完成させた男マホメド・アライJrの戦いが始まった。
超一流の格闘家同士による注目の一戦だ。
刃牙VS勇次郎が果てしなくどうでもよくなってしまう。
そのためか刃牙は今回(前回も)出てこない。この影の薄さこそが刃牙だ。
むしろ、この一戦には生死不明の加藤と本部が欲しい。(少なくとも本部は生きてます)
合気とボクシングの応酬は、観客席の驚愕と解説の応酬によってさらに盛り上がるのだ

Jrは軽いステップを踏んでいる。
相手の攻撃の全てをスウェーで対処するのがマホメド・アライ流拳法だ。
それは達人相手でも変わらないようだ。
でも、達人はなかなか自分からは仕掛けません。
いざ仕掛けると喉仏を突いたり、脊髄を狙ったり、やかんを使ったりとかなり危険なことをする。

対する渋川先生は手をダラリと下げたままで何も構えていない自然体だ。
自然体ついでに敵前で上着を脱ぐほどの余裕を持っている。

「いかがされた」
「お若いヒト」
「もう…」
「始まってまっせ」

上着を脱ぐ隙をなぜ突かなかったのか?間接的に渋川先生は言っているように思える。
上着を脱ぐ時には手が封じられるため、攻撃するには絶好の好機だ。
思えばシコルスキーも相手の上着を活用して、動きを封じたことがある。
そういえば、自分の上着を使って変わり身の術を使ったこともあった。
もしかしたら、シコルスキーは上着の魔術師なのかもしれない。
だから、上着を着ていなかった全裸状態や復活シコルスは弱かった、のかもしれない。

とりあえず、ロシアのヘッポコのことは置いておこう。
Jrは上着を脱ぐ瞬間を攻撃できなかった。
二人の間合いは遠く、まだ打ち合う距離ではない。
そのため、Jrは仕掛けられなかったのか。
また、Jrはそういったエゲツナイ駆け引きが得意ではない可能性もある。
真っ向から対峙した相手には急所を打つが、そうでない場合は仕掛けづらいのだろうか。
それとも一見隙があるように見える動作の中に、罠が隠されていると思ったのだろうか。
そうだとしたらおそらく正解だろう。
幾多の戦いを潜りぬけてきた達人渋川剛気だ。
あらゆる行動に無駄はなく、そのどれも武器が備わっている。
一見無防備なハンドポケットに勢いが秘められた拳法家もいたし。

(凄イナ…日本の格闘技(マーシャルアーツ)ハ)
(少年ノヨウニ小サナコノ老人ガ…)
(マルデ…………!!!)

達人からは猛獣並のプレッシャーが放たれていた。
通常、リーチに勝るJrは積極的に攻撃を仕掛けるべきだが、渋川先生相手にはそれができなかった。
下手に攻撃すると合気の餌食になってしまうことを本能的に感じたのだろうか?
危険を察知するのも一流の証だ。
圧倒的な格上相手に自信満々にノーガードで突っ込んだ除海王や範海王、サムワンは一流じゃありません。

地上最強の雌を相手に乱打戦に持ちこんだJrもステップを踏み続けて様子を見るしかなかった。
これは勇次郎と対峙した父と同じ状況だ。
これも遺伝子だろうか?
ジョジョ世界には台詞の遺伝子があるように。

いきなりの下駄投擲だ。
身近な道具を武器として使うのは経験豊富な達人ならではだ。
だが、Jrは軽くかわす。
さすがは天才的な見切りの持ち主だ。不意打ちにも見事対処した。
しかし、下駄は罠だった。
かわした先には眼鏡が待っていた。
下駄と眼鏡のコンボだ。
これにはさすがのJrも一瞬隙を作ってしまう。
そして、達人はその一瞬の隙を見逃す男ではなかった。

右手首を渋川先生に掴まれてしまった。
下駄と眼鏡はこの接近への伏線であったのだ。
除海王や範海王が掴んでも問題はない。もう片方の手で殴れば即KOだ。
だが、達人が掴んだ場合の危険度はそれらとは比べ物にならないくらい高い。
BLモノでハンサムな先輩に抱きつかれた時と同じくらいの危険信号だ。

ドシャアァ

人体の崩し方を熟知した渋川剛気だ。手首を掴んだだけでいとも簡単に投げる。
これにはさすがのJrも顔から落ち、無様な姿を見せるしかなかった。
また、さりげなくJrの初ダメージだ。

「AAAッ」

今度は手首を捻られ、悲鳴を上げる。
場面を変えればポルノに使えそうな悲鳴だ。
それはともかくJrが浮いた。
手首を捻るだけで人間が浮き上がる。
合気は最小の動きで最大の効果を生み出していた。

渋川先生は浮き上がったJrをキレイに投げる。
見事な投げだ。この場に寂海王がいれば、即スカウトしてしまいそうなくらい見事な投げだ。
あまり力が入っていない動きだったが、Jrは遠く高く飛んだ。
これも合気の妙だ。
身長や蹴りだけで戦うヘッポコ海王の技術とは違うのだ。

また、下駄と眼鏡による奇襲でリーチの差を見事に補って先手を取っている。
さすが、自分よりデカい相手ばかりと戦ってきただけのことはある。
間合いの詰め方が抜群にうまい。

宙に浮いたJrは為す術もなく背中から落ちた。
しかし、その後の反応は素早く、すぐさま起き上がった。
フットワークを駆使するマホメド・アライ流拳法にとってダウンしたままでは持ち味を活かせず不利だ。
すぐに起き上がったのはその不利を想定した行動だ。
実戦状況でも戦えるような動きをJrは実行している。

(関節ノ構造ト言ウヨリ――――
 人体ノ持ツ反射ニ ツケコムヨウナ…)

さすがのJrも合気には困惑していた。
合気の技術は東洋の神秘だ。
また渋川先生の合気はさらなる高みへと達しており、簡単に理解できるはずがない。
理解できるのは範馬の血族くらいか。
中国武術の神秘というか運動エネルギーの神秘、消力(シャオリー)も簡単に理解してたし。

(ソレデモナオ)
(コノ勝負ッッ マルデ敗(ま)ケル気ガシナイ!!)

相手の技がわからなくてもJrは勝つ気満々だった。
当然ながら相手の技がわからない場合、勝つことは難しい。
どう対処すればいいのかわからないからだ。(ボクサーを研究しきったテコンドー使いは負けていましたが)
そして、何よりマホメド・アライ流拳法は相手の攻撃を見切ることが重要だ。
身長や蹴りだけの攻撃は簡単に見切れたために楽に勝つことができたし。
だが、今は見切れていない。
なのになんだその自信は?
梢江との戦いで何かを得たのだろうか?
自分はバキSAGAを読んで、命を大切にしましょうくらいしか得ることはできませんでした。

「ほう…」

Jrの自信に何かを感じたのか、達人が初めて構える。
強敵と相対する時の構えだ。
まだ立ち合ってから短いが、Jrを強敵と認めたようだ。

「拳闘の歴史」
「たかだか100年………」
「短ェ短ェ」

だが渋川先生は強気な態度を一切崩さない。
この不敵さが渋川剛気らしさだ。
でも、歴史を持ち出すのは何だか珍しい。
中国四千年をやたら持ち上げたガングロ中国人が思い出されてしまう。
とはいえ、事実柔術の歴史は古い。
また歴史が古いだけでなく、渋川先生は75年間の人生のほぼ全てを武術においてきた。
渋川先生の柔術の歴史、これについて考えると長く、濃く、深い

しかし、Jrは不敵な笑みを浮かべた。
さすが、中国四千年を(半端に)身に付けた(弱小)海王たちを屠り歴史の差を乗り越えてきただけのことはある。
歴史の差には慣れっこなのだろう。
そして次の瞬間一気に踏み込み左ジャブを放つ
Jrの左ジャブの威力は241話のサンドバック破壊の儀式で証明された。
これにさらに踏み込みが加えられている。
大地を蹴るといわれるほど、強い脚力を持つJrの踏み込みだ。
左ジャブにはさらなる速さと威力が込められただろう。
もはや除海王や範海王が相手ならワンパンチKO級の一撃だ。
それを達人がどう対処するのか?
次週に続くッ!!


非常に達人らしい技術がいきなり炸裂した戦いだ。
合気の技も見事ながら、下駄と眼鏡を使って相手の隙を作り出す駆け引きも上手い。
まだまだ渋川剛気は健在だ。
長い刑務所生活とバキSAGAによってすっかり腐り切ってしまった挙句、本部に敗北した某空道使いとは違う。

渋川先生の合気と経験の妙にJrがどう戦うのかも気になる。
複雑な軌道を描く新・紐切りをあっさり見切るほどの渋川先生にただ速いだけの攻撃は通用しないだろう。
菩薩拳のように人生が込められた一撃や範馬パワーを活かした理不尽な攻撃でなければクリーンヒットはありえない。
拳だけによる攻撃でどこまで達人を翻弄できるかが鍵だ。

もしかしたら、達人にならってシューズを投げるのかもしれない。
しかし、コンボとなるもうひとつの飛び道具がないのが弱点だ。
候補となる神様人形も今や梢江の手にある。
というか、さりげなくJrはボクシングシューズを履いている。
いくら戦うためとはいえ、市街でこんなモノを履くあたりにただならぬセンスを感じる。
そんなセンスの持ち主だから、梢江に惚れてしまったのか?
そういえば、梢江はどうなったのだろう?
今時、一人で悶々としているのか?
刃牙が布団の中で(梢江梢江梢江)と唸ったように。



Weekly BAKIのTOPに戻る