第253話 イツダッテ



範馬はダメ押し大好きだ。
もう十分だろ、というところから、さらに渾身の一撃をいつも加える。
対戦相手を徹底的なまでに叩き潰すのが範馬の血族たる証だ。
そして、範馬の対戦相手は不必要なまでにとばっちりを食らいます。


Jrは死んだように空ろな視線をしていた。
頭の下のコンクリートは前回よりもへこんでいる。
なんか死んだ直後の人間みたいな感じだ。
すみません、生きていますか?

そんなJrをジャックはじっとみつめている。
Jrはダイヤモンドよりも硬いジャックの歯(推定)をパンチで砕いている
刃牙もジャックの歯を砕こうと四苦八苦したが、全然ダメだった。
とりあえずはJrの惨敗だったが、この点は評価してもいいだろう。
ジャックもその心持で見つめているのか。
まぁ、差し歯だからあっさり砕けたのかもしれませんが。(推定)
いや、範馬なら歯が折れようとも明日にはまた生えていそうだけど…

とにかくJrにはもう戦うだけの余力がないと思ったのか、
ジャックは背を向け帰る準備をする。
敗者にかける言葉はまったくなし。
それが範馬だ。
…というか、ジャック兄さん、何か喋ってください。
ちょっとだけさびしいぞ?

ステキ柄のシャツをジャックは着込む。
さすが、上半身素っ裸で帰るつもりはないのだろう。
そういえば、花山はスペックを警察所に連れて行く際に街中をフンドシ一丁で歩いたのだろうか?
いまさらながら疑問に思ってみます。

突然、ジャックの動きが止まった。
後ろを振り向く。
Jrが息も絶え絶えながら立ち上がった。
だが、めちゃくちゃボロボロだ。
壁にもたれかけないととても立っていられないくらいのダメージを受けている。
しかし、傷だらけの身体から放たれる気迫は本物だ。
本物だからこそ、範馬の動きを止めた。
Jrの心はまだ折れてはいない。

「ダメージヲ受ケルト……」
「立チアガッチマウンダ…」

Jrは汗+出血+乱れた髪の相変わらずの堕ちた天才的表情だった。
これは敗北の一歩直前の状態だ。
しかし、Jrはとことん不敵だった。
また、その台詞からはどこかMっぽい
ごめん、それは嘘だ。

とにもかくにも、ついに、やっと、Jrが父から受け継いだハートを見せた
致命的なダメージを受けようとも戦うことを諦めようとはしないココロの強さは普通にカッコイイ。
この強さをもうちょっと早く見せていたら読者のみんなから叩かれなかったのに…

とにかく、立ち上がったJrに対してジャックはシャツを放り投げ即臨戦体勢に移る。
相手が瀕死でも叩き潰すのが範馬だ。
変にいたわると天内悠のように殺人手刀を食らう。

ジャックはローキックを放った。
相手がピンチでもじっくりと攻める容赦のない攻撃だ。
しかし、Jrはそれに合わせた右ストレートでアゴを打つッ!
最高のタイミング、最高の威力、最高の速度のカウンターだ。
そして、Jrのアゴを狙ったパンチに達人、武神共に敗北している。
これにはさすがのジャックもピンチか?

しかし、カウンターの代償は大きかった。
ジャックのローキックがJrの右足に当たったのだ。
範馬の蹴りにビリビリとしびれが来る。
Jrの顔にも全然余裕がない。
完全に右足は死んでしまった。

かたやカウンターパンチを食らったジャックはガクガクと揺れている。
え?ジャックが揺れている?
驚異的なタフネスを誇るジャックも脳を揺らす攻撃には耐えられないのかッ!?
このまま、達人や武神のように地に伏せてしまうのかッ!?
それだけは勘弁してくれェッ!
いや、まぢで。

しかし、やはりというか何というか範馬は違う
そんなダメージおかまいなしの左パンチィッ!!
しかも、狙いは左足だ
ジャックは勝ち急ぐことなくじわじわとダメージを与えている。

最初のローキックで右足を殺し、左パンチで左足を殺した。
これで両足は使えなくなった。
アライ流の命であるフットワークは使えなくなった。
ジャックの攻撃をかわす術はなくなってしまった。

「イツダッテ………」
「立チアガリ――――――」

Jrは翼を折られた。
もう飛び上がることはできない。
それでも、Jrはまだ戦う気だ。
例え戦えなくても戦う気だ。
これがマホメドの強さか。

しかし、そんなハートの強さなどジャックの知ったところではない。
祖国を支えに肋骨を折られてもなお戦意を失わなかったガーレンにとどめのパンチを放つ男だ。
今のJrはまったく動けない。無防備だ。
無防備な相手には当然最大の一撃を放つのが常套手段である。
超電磁タツマキを当てたら超電磁スピンでとどめなのだ。
超電磁タツマキの次に超電磁ヨーヨーを使う馬鹿はいない。

そんなわけで得意技にして必殺技の殺人アッパーがクリーンヒットッ!
思わず天井まで飛び上がるJrッ! 思いっきり顔を天井にぶつけたッ!
アッパー+天井のダメージとボクシングの範疇にはない異次元の攻撃だ。
地形を立体的に使うあたりが範馬の格闘センスが突出している証拠か。

「ソシテ……」

Jrは重力に逆らう気力もなく(霊長類は例外なく逆らえませんが)自由落下する。
そこにジャックの追い討ちのパンチが決まった。
またも壁まで吹っ飛ぶ。
Jrは消力(シャオリー)すら無効果しそうな強力な一撃を2連続で受けた。

「闘ウ…………!!!」

だが、Jrはまだ沈まない
シコルスキーなら敗北宣言しそうな攻撃を食らってもなお立っている。
しかし、気力だけで立っている状況だ。
肉体がまったく追いついていない。
壁の支えがなければ立ち続けることは無理だろう。

「イツダッテ…」
「イツダッテ……」
「イツダッテ………」

そんな絶望的な状況でも、なおJrはくじけない。
両手で「クイ…クイ…」と挑発する。
しかも、大口を開けて舌まで出した
最上級の挑発だ。
そして、なんというハートの強さだッ!
並大抵の格闘家なら地面に寝るだろう。
なのに、Jrは立ち上がり、さらには挑発する。
ここに板垣先生のハートこそが格闘家の強さという主張が感じられる。

「Stand and Fight」

舌を出したままの顔にジャックの豪腕がうなった。
潰されるJrの顔。
あんこが飛び出しそうな致命的な一撃だ。
それでもJrは立つのかッ!?
それとも今度こそ沈むのかッ!?
次週は休載のため、再来週に続くッ!!
…休載すか(つд`)


ボコボコにされながらも立ち上がるというJrの強い精神力が初めて披露された。
この強さは範馬に匹敵するかもしれない。
とりあえず、勇次郎に吹っ飛ばされただけで戦意喪失した刃牙よりは強いハートの持ち主だということは確実だろう。

逆境にあらがう強さは逆転には必須だ。
そして、こういった逆転劇に読者は引き寄せられる。
ここでジャックを相手に劇的な逆転勝利をすれば、Jrの人気は急上昇するだろう。
今がイロイロな意味で最大にして最後の逆転チャンスだ。
でも、どうやって逆転するんだろう?
…どうやっても無理っぽいなぁ。

とにかく、Jrの切り札のひとつハートが解禁された。
次に解禁されるのは父親殺しのパンチか?
しかし、体力的にそれを使うのは無理そう。
しかも、今回のパンチで出し切った感があるし。
まぁ、十分以上に頑張ったのでこのまま沈んでも読者は何一つ文句は言わないだろう。

ところで「Stand and Fight」はアライ父から教えられた言葉なのだろうか?
逆境において想い出されるのは自分の原点だ。
もし、Stand〜が父の言葉ならば、父との修行の日々がJrにとっての原点なのだろう。
ならば、次回は回想か?
状況的には回想というよりも走馬灯ですが。



Weekly BAKIのTOPに戻る