第254話 来…イ…ヨ…
ドカッ
ジャックの豪腕がJrの顔面にクリーンヒットした。
しかも、フルスウィングの渾身の一撃だ。
アオリには『最悪の一撃がJrの顔面に…!!』とコメントされている。
本当に最悪の一撃だ。
生きていますか?
Jrの顔面はジャックの拳とコンクリートの壁のサンドイッチになった。
後頭部の壁を思いっきり凹んでいる。煙まで出していた。
ジャックの一撃は恐るべき威力だった。
グボ…とジャックは拳を引き抜く。
Jrの顔面は克己の下段突きを食らったドイルのように、あるいはオリバの頭突きを食らった龍書文のように陥没していた。
アタマの中のモノが飛び出そうなくらいだ。
しかも、舌出しながら殴られたのが不味かったのか、舌がザックリと切れていた、というよりも両断されていた。
かろうじて端の方は繋がっているが、今にもちぎれてしまいそうだ。ブラン…と舌が垂れ下がる。
それにともない、Jrもズズ…と腰を降ろし、ドシャ…と倒れる。
どうやら、精神力で支えていた肉体も朽ち果て、ついに戦闘不能になったようだ。
もう戦えるようなコンディションではない。
というか、早く病院へ行ったほうがいいと思います。むしろ救急車を呼びましょう(ないしは烈海王に乗せてもらう)。
舌が切れると言うまでも非常に危険だ。
出血はもちろんのこと、呼吸もできなくなる。
徹底的にまで叩き潰したジャックはJrに背中を向け、前回脱ぎ捨てたシャツを羽織る。
やっとこさ、満足したようだ。
範馬に絡まれると五体満足では済みません。
「〜ヽゝ〜」
それでもJrの意識はまだ失われていなかった。
懸命に切れた舌で何かを喋ろうとしていた。
ジャックも振り返り目を見開く。
「〜ゝ」(来) 「ヽ〜」(イ) 「〜〜」(ヨ)
「〜〜ζ〜…ηξ〜…ζ〜…」(来…イ…ヨ…)
Jrは切れた舌でモゴモゴと必死に言葉を紡ごうとする。
しかし、まったく発音できていなかった。
ジャックにはまったく意味が通じていないようである。
だが、その言葉ではない『コトバ』の意味は挑発だった。
「〜ξζηゝヽξ〜」(チャ…ン…ス…)
「〜ζ〜……ξη〜」(ダ…ゼ…)
言葉では通じないことを悟ったのか。
クイクイと身振り手振りで挑発する。
戦闘不能にまで追い詰められたのになおこの気概。
Jrのハートの強さは本物のようだ。
…まぁ、状況的に虚勢を張っているようにも見えなくもないが。
ニィ…とJrは微笑む。
しかし、ジャックは意に介さず、ザキッという範馬的な音に共に背中を向ける。
とことんダメ押しをするのが範馬だが、戦闘不能者をいたぶるような真似はしないようだ。
(ク…ッソ…)
(逃ゲラレチャ…)
(ショウガネェ………)
Jr、ついに力尽きる。
だが、脳裏に浮かべたのは敗北ではなかった。
顔面が陥没し舌が切れた五体でも、まだ負けていないという。
ハートの強さというか、ものすごいまでの意地を感じる。
なんか死刑囚的だ。
意地を張りすぎると読者からパッシングされるから気をつけましょう。
ジャックとの戦いから5日後…
Jrは傷ついた身体を癒すべく、『オーガスト』というファミレスでとびきりの癒し系美少女とデートをした。
「ど…」
「どーしたンですか」
ついに登場だッ!
地上最強の雌――烈女松本梢江ッッ!!
イヤ、この人を相手にすると全然癒されません。
むしろ、イヤされます。
「イヤ…」
「チョットネ…………」
Jrはどうにか生きていたようだ。
しかし、おどろおどろしい文字で発音がままならないようだ。
「君カラ………」
「元気ヲモライタクテ………」
普通なら病院のベットで寝ているべき体調だろう。
しかし、あえて梢江と遭遇デートした。
そう。これは梢江の母性本能をくすぐる巧妙な策略なのだ。
さすが、Jr。駆け引きに長けるだけのことがある。
この策略にモノの見事にはまった梢江は「ダイジョウブですか……?」「しゃべりつらそう………」などと、しきりにJrのことを心配している。
これに加えてJrは手術してもらったばかりの舌を見せる。
生々しい傷跡が舌には残っていた。
「オレは傷ついているんだッッ。君のイヤしが必要だッッ」とJrは主張した(意訳)。
しかし、梢江は汗を流し、表情も引き気味だ。
まぁ、こんなものを見せられると普通なら引きます。
その失態を取り戻すようにJrはさらなる攻勢を仕掛ける。
傷ついた舌でコーヒーを飲む。
すると当然、舌にしみる。
「OHッ」とナイスリアクションをするッ!
首振りに加え、目をガッチリと閉じるという見事なアクションも付加している。
これにはさすがの梢江も「しみる……?」「冷たいのにする?」とJrを気にかける。
見事な駆け引きだった。
今のJrは肉体的なダメージを武器としている。
恋愛の機敏を完全に掌握しているのだ。
もっとも、機敏以前の部分を間違えているような気がしますが。
なんかアメリカの大地に立って、「ここは富士山だッ」と叫ぶほど間違っている気がする。
「会いたいと言われれば………」
「こうして会うことぐらいはできるけど…」
「わたしからはそれ以上のことは…」
「なにも期待できない…」
梢江のココロはまだどうにかこうにか刃牙の側にあるようだ。
Jrが望むイヤしを行動に移せないようだ。
しかし、この言葉を聞いたJrは傷だらけの顔で微笑んだ。
そして、さっきは舌にしみていたはずのコーヒーをグイッと一気飲みする。
…ん?それじゃあ、さっきの「OHッ」はなんだったんだ?
やはり、アレは梢江を惹かせるための演技だったようだ。
さすが、Jr。
幾重に策を張り巡らせている。
「十分ダ…」
「会ッテサエクレレバ…」
そして、とどめの一言だ。
「君に逢わなければ生きていけない」(やや誇張)と主張した。
この攻勢にはさすがの梢江も為す術なくノックアウトか?
だが、次の瞬間、Jrの肩がポン…と叩かれた。
死神の蜜のような雰囲気が漂う中に危険な乱入者が現れた。
「お嬢ちゃん」
「この兄ちゃんちょっと借りていいかな」
なんと、渋川剛気の再登場だッッ!!
Jrに敗北した後は因果の彼方に消え去ると思ったら違った。
さすが、達人。
ムエタイ戦士とは違います。
衝撃の展開になりつつ次週へ続くッ。
達人はナニをしにきたのだろう?
達人とJrの共通点はジャックに敗北したことだ。
Jrにジャックリベンジを託すのか?
それとも、やはり、瀕死のJrを達人が叩き潰すのか?
読者にはこれを願う人がわりと多そうだ。ていうか多い。
どちらにせよ、次週が楽しみです。
また、達人の出現は大きな意味がある。
あの調子だとJrと梢江が少年誌じゃ書けない惨劇を起こしそうで不安だった。
だが、達人はそれを見事に阻止した。
さすが、達人。人生においても一流ッッ。
最近のJrは頑張っているから好印象だ(今回の梢江とのやり取りは含みません)。
達人との勝負で実戦の駆け引きを学び、独歩との勝負で実戦の心構えを学んだ。
そして、ジャックとの勝負で敗北を学んでいる。
Jrは着実に進化している。
対する刃牙はナニをしているんだろう?
というか、今回もまた出てこない。
出てきたのは表紙だけだ。
この調子だと、誰が主人公なのか忘れ去られますよ?