第255話 決闘
戦いが――俺を呼ぶ。
表紙にそんなアオリと刃牙のアップから今回のバキは始まる。
でも、刃牙くん。
あなた、戦いが呼んでも出てきていませんよね?
そんな腑抜けた主人公が(表紙だけの)活躍をする一方で重傷のJrの前に達人渋川剛気が突如出現した。
現代風のナウい(死語)のファミレスに純和風のおじいちゃんはやや場違いだ。
餃子チェーン店に純和風の服装で挑んだ海原雄山並みに空気を読んでいない。
しかも、梢江との語らいを邪魔した辺りも空気を読んでいない。
しかし、この甘すぎて――くどすぎて――糖尿病になってしまいそうな語らいを邪魔したのは読者的に嬉しいです。
「さ……兄ちゃん…」
達人は有無を言わせず、Jrを連れて行くつもりだ。
この強引な責めは老獪さが為せる技、か。
思えば、郭海皇も強引に大擂台賽を私物化していた。
この世界の老人にはワガママが多い。
ワガママを突き徹すことが『強さ』という世界観ならではだろう。
「ウッカリシテイタ…」
「ゴメンナサイ梢江サン」
「ミスター渋川ト大事ナ約束ヲ忘レテイタ」
達人の思惑に気づいたのか。
Jrは精一杯の笑顔でその場を取り繕う。
しかし、言い訳としては二流だ。
前回見せた手腕はどこへいったのだろうか。
個人的にはそのままどっかへいってもらいたかった。
「………」
梢江は言葉をかけることもできず、ファミレスから出ていく二人を立って見送るだけだった。
格闘家の娘だけあり、格闘家の精神はわかるようだ。
昼のファミレスの武術家二人…勝負でしょう。
いや、少し違うか。
(ウソばっかり…)
梢江は寂しげな表情で心の中でつぶやいた。
どうして、傷だらけなのにまだ戦うのか?、という想いがあるのだろうか?
それにしても他の漫画の女性がいえばサマになる台詞なのに、梢江が言うとどうしてもなんかアレだ。
ついでに梢江の髪型は修行時代の大山倍達に似ていると思うのは自分だけでしょうか?
達人とJrは都内にある小さな森の中へとやってきた。
木陰が射し、雰囲気がいい。
Jrはファミレスじゃなく、ここに梢江を誘えばよかったのに。
ここならSAGAり放題だ。
そんなことになれば、チャンピオンを引き裂くかもしれませんが。
「遊ぶにゃもってこいだ」
達人は上着を脱ぐ。
どうやら、二人はまぐわ…いや、戦うつもりらしい。
読者が待ちに待ち望んだ達人のリベンジマッチだ。
「理解ラナイ………」
「我々ハ決着ガツイテイル」
達人はやる気満々だったが、Jrは乗り気ではなかった。
台詞通り、決着がついたからなのか。それともジャックに敗北したショックを引きずっているのか。
「ん〜〜〜……」
「決闘ってワケでもねェし…」
達人は前回の戦いは決闘ではないと主張した。
アレは生意気な若者におしおきをしてやろうという軽い気持ちで臨んだ戦いだったのだろうか?
前回はJrに挑まれた勝負だったが、今回は達人から仕掛けている。
243話でも述べた通り、普段は受けの達人が自分から仕掛けると危険だ。
達人が自分から勝負を仕掛けるということは、日本刀を持って柳に戦いを挑んだ本部並みに勝つ気でいるということだろう。
「ゲームだろうが遊びだろうが負けは負け」
「ゲーム……」
「負けっぱなしはど〜〜〜も性に合わんでな……」
前回の戦いは決闘ではないどころか、ゲーム・遊びと達人は卑下した。
試合ではなく死合いに生きる男にとって、命のやり取りに及ばない戦いは遊びということなのだろうか?
修羅場を知り尽くした男ならではの豪胆さだ。
若干、言い訳くさいのは気にするな。
「アレハ…」
「決闘デハナカッタノカ…」
「ハハ…」
「アンタ…」
「決闘をやりたかったのかい」
達人が前回の勝負では見せなかった危険な眼をした。
その眼光だけでJrは冷や汗を流す。
達人はべっこうのいいところを使った眼鏡を上着の上に落としている。
さりげなく、べっこうの眼鏡を壊さないようにしている辺りが達人の周到なところだ。
きっとこれは伏線です。
戦いが盛り上がってくると、眼鏡を使った攻撃をすることでしょう。
「やりましょか」
「決闘」
達人が独歩戦やジャック戦で見せた握った拳を下に降ろす構えを取った。
おそらく本気の証だろう。
前回の戦いでは(たぶん)見せなかった本気の本気に、Jrは冷や汗を流すことしかできない。
しかし、なんだか戦う前から負けるような反応だ。
ダイジョウブか、Jr。
(決闘ジャナカッタダト?)
達人の気迫に小鳥の動きは止まり、虫の動きも止まり、一陣の風が吹く。
だが、Jrは冷や汗を流すばかりではなかった。
表情は戦士のそれに変わり、ステップを踏み始める。
傷ついた身体ながら、眼光は凶器のように鋭い。
Jrもやる気だ。
(老齢ニ達シナガラ……)
(ナント言ウ負ケ惜シミッッッ)
でも、Jrは達人の言うことに不服らしい。
そりゃ、勝者にとってみれば、達人の言葉は負け惜しみにしか聞こえない。
Jrは拳を強く握る。達人が踏みこむ。
達人の踏み込みに合わせて、Jrの眼が輝いた。
シュパァ
達人が反応できなかった最速の左ジャブが放たれた。
持ち前のハンドスピード、強い脚力に踏み込みが合わさった、強く、速い、ワンパンチKOの威力を秘めた必殺のジャブだ。
このジャブに達人は敗北している。(正確にはその後のアライ流寸勁だが)
達人はこの一撃の前にまたも砕け散るのかッ!?
!
だが、達人は見事にかわした。
しかも、達人の18番、足元を当身で崩すカウンター付きだ。
Jrは手を付き、どうにかダウンから免れる。
だが、その瞬間、冷や汗と電撃が同時に走った。
「兄ちゃんや…」
「痛ェぞ…」
達人はJrの左手の人差し指を握っていた。
しかも、危険度の高い凶悪な笑顔と共にだ。
Jrは冷や汗付きで達人を見上げる。
なんだか格下の反応です。
指捕りは本部の大好きな技だ。
特に金竜山の小指を握って大喜びしたのは、本部ヘタれ伝説に拍車をかけている。
解説が大好きなのに、どうして相撲の小指の強さを知らなかったのだろうか?
もしかしたら、アレは他の誰かに解説させるための伏線だったのかもしれない。
さすが、稀代の解説家。その技は達人級ッ。
本部のことは置いておこう。
本部ならともかく、達人が指捕りに成功したのは大きな意味と危険すぎる予感がする。
ブンッ
達人はJrを投げた。しかも、人差し指を握って。
当然、Jrの指は「ペキッ」と折れる。
痛い。実に痛い攻撃だ。
しかも、ボクサーの命、拳を潰すというエゲツナイ攻撃だ。
だが、Jrの悲劇はこれだけではなかった。
投げられた先には木が生えていた。
その木に頭を思いっきりぶつけるJr。
これも痛い攻撃だ。
自分の身の回りにある環境を達人は武器にしている。
達人らしい熟練した技、そして達人ながらのエゲツナイ攻撃だ。
達人が本気の強さを見せたところで次号へ続くッ!
達人がJrに対してエゲツナイ攻撃をしかけている。
思えば、前回の戦いでは達人は正攻法で戦っているような気がする。
下駄と眼鏡を使った奇襲はしているが、その後の追い討ちはわりと甘いものだった。
本来ならば、今回のように指捕りをするべきなのだろう。
今の達人は相手を倒す戦いではなく、相手を潰す戦いをしている。
まさしく決闘だ。
達人はやっぱりこうでなくきゃいかんという怒涛の攻めを繰り広げている。
しかも、Jrの武器をいきなり破壊している。
Jr、ピンチだ。
Jrに逆転の策があるのだろうか?
必殺の最速のジャブがいきなり破られたから先行きは暗い。
しかも、達人は自分から仕掛けることは少ない。しかも、いざ仕掛ければまず必中だ。
だからJrが得意とするカウンターも狙いにくい。
攻めてもダメ、守ってもダメ。
Jr、やっぱりピンチだ。
達人が読者の待ち望んだリベンジを開始した。
この調子で独歩もリベンジするのだろうか?
いや、リベンジしてください。
しかし、リベンジされすぎると刃牙と戦う前に廃人になってしまいそうだ。
今回ので拳が破壊されたから、もし独歩と戦うなら正拳5連突きで胸骨を破壊された挙句、膝を破壊されるかもしれない。
傍らに(なぜか)いる克己と烈は本気で壊し始めたと驚愕する。
逆転するには夏江さんを襲うくらいしか考えつかない。
ついでに奇跡の復活を果たした本部に「才能に頼る性根が技を曇らせる」だとか、「卑劣に仕込んだ神速の拳に頼っている」だとか、
次々に言いがかりをつけられ、卑劣な凶器攻撃でいぢめられた挙句、拳を鎌で切断されてしまうかもしれない。
みんなに弄られて、刃牙と戦う前に再起不能になってしまったJrは梢江にイヤしてもらう。
梢江はJrをイヤすべく必殺のSAGAが開始されるッ!
それだけは救命阿ッ!!