第258話 愚地の拳
「いいかい」
「2度とご免だと言わせるんだ」
独歩のリベンジ開始だ。
折られても、なお叩かれるJrは不便というか哀れだ。
だってまだ玉が残っているから。
そのうち、シコルスキーのように、存在自体が悲しくなるんじゃないかとちょっとだけ不安です。
「今…」
「ボックスヲ造ル」
少し乗り気ではなかったJrも覚悟を決めた。
ギブスを外し、折られた左人指し指を強引に拳の形にする。
痛そう。っていうか、痛い。
そこには戦士の覚悟があった。
「拳という箱……」
「ボックスをぶっつけ合い競い合う」
「ゆえにボクシング」
愚地独歩、驚天動地の解説だ。
ボクシングの語源をググってみたところ、古代ギリシャ語の箱が語源になった、box自体に殴るなどの意味があるなど、いろいろ語源が推測されているようだ。
いずれにせよ、独歩の言っていることは間違ってはいないようだ。
さりげなく、解説好きだけあり、その知識は侮れない。
話は変わるが解説好きといえば、本部の存在が挙げられる。
しかし、本部は実力が知識量が追いついていないのでイマイチな印象を拭えない。
それに知識量に反比例して、未来予想は大の苦手だ。
そのため、さらにヘッポコな雰囲気を醸し出してしまう。
一流の闘士には解説は必須だ。
克己が独歩を越えたいのなら、まずは解説を覚えよう。
本部は解説は十分なので肉体強化をすればいい。
では、刃牙は勇次郎にどう対抗するのだろうか。
勇次郎は肉体的な強さはもちろん知識面も優れている。
最近では龍書文は居合いについて解説したりしている。
もしや、刃牙はまずは解説の差を埋めるべく、本部の元で修行しているのかもしれない。
だから、今回(も)出てこなかったのかッッ。
「君ヲココデナックアウトスル」
Jrは勝利宣言をした。
これが数ヶ月前までなら信憑性があるのだが、今はもうだめだ。
役者的にいじられる傾向にあるし。
シコルスキーの「予想通りだ」並みに信じられない。
「ソノ後俺ハ…」
「君ノ顔ヲ何度モ踏ミツケル」
「許シヲ乞ウ君ヲ俺ハ決シテ許サナイ」
勝利宣言の次は追い討ち宣言だ。
「君が許しを乞うても僕は踏み続けるのを止めないッ!」と猛る。
独歩の態度が気に入らないようで、内心かなり怒っているようだ。
目上の人に対して「君」と読んでるし、一人称が「俺」になっているし。
「踏ミ続ケル」
「泣イテモ」「拝ンデモ」「祈ッテモ」
「決シテ君ヲ許サナイ」
「踏ミ続ケル」
「終わったかい」「ハナシ」
Jrは勢いに乗って猛る。
しかし、あっさり独歩に流された。
これにはJrも呆然としてしまう。
さすが、武神愚地独歩。
肉体や知識だけでなく、駆け引きも一流だ。
Jrも独歩のボクシングの解説に対して、「終ワッタカイ、ハナシ」と返せばよかったのに。
まぁ、「ボックスヲ造ル」という回りくどい言いまわしの解説をしてもらったんだから、その想いを無為にはできないのだろうが。
「なら行かせてもらうぜ」
戦いはもう始まっていた。
一見、無防備に独歩は近づく。
これには別の意味でJrはビックリする。
そして、反射的に、否、誘われたように右パンチを出した。
――否、出して、しまった。
ガシッ
通常の打撃音とは異なる異質な音が響き渡る。
なお、金的の場合、メタァとかベチィとか鳴ります。
独歩は頭蓋骨でもっとも硬いと呼ばれる額でJrのパンチを受けた。
人間凶器と称される独歩の額の硬さは並大抵ではない。
地下闘技場編冒頭で木材を叩き割っているほどだ。
そんな凶器に等しい額と真正面から接触すれば拳はただではすまない。
Jrの右手は砕け、折れた骨は手の甲を突き破り、剥き出しになっていた。
「ベアナックル時代には基本的な防御だったんだぜ」
愚地独歩、またも解説だ。
さすが、武神だけあり解説の使い方を心得ている。
本部は解説だけなら一級品だが、肉体面が追いついていないため、どうにも破壊力に劣る。
ボクサーの命である拳が砕かれた。
しかし、諦めるJrではなかった。
傷ついた左手で得意の最速のスピードを持つジャブを放つ。
だが、独歩はそれに合わせたカウンターの正拳突きを先ほど砕いた右手に放つッ!!
――って、正拳で右手を攻撃するのかよッ!
ものすごい容赦のない責めだ。
独歩の正拳は筋肉の壁を貫通するほどの威力を持つ。
それを筋肉の壁がなく、すでにくだかれた右手に受けるととんでもないことになる。
むしろ、なっていた。
Jrの右指はグシャグシャに折れ、骨は指先から剥き出しになった。
もう痛いとか、痛くないとかそういうレベルじゃなさそうだ。
ヘタに動かすと指がぼろっと落ちてしまいそうで怖い。
「決して許してあげない」
独歩はさわやかかつ極悪な危険なスマイルを浮かべる。
人間を壊すことを楽しみにする男の笑みだ。
危険――否、危険すぎる。
Jrの命である拳は完膚なきまでに壊された。
だが、これだけではすまないだろう。
まだ、玉が残っている。
次回は恐怖の睾丸責めが行われるはずだ。
玉だけでなく、棒も折られそうで怖い。
Jrの格闘家としての生命と、男としての生命の双方が究極の危険に晒されている。
Jrの安否が気にかかる中、次週へ続く。
本気の独歩はやはり強いというか、怖い。
達人同様のえげつない攻撃だ。
さすが、スポーツ世界に生きるのではなく、暴力世界に生きる男だ。
最近、ソッチ系の雑誌の表紙を飾っていたし、壊す壊される戦いは18番なのか。
Jrはこれからどうするのだろうか。
正直、どうにもなりそうにないが。
そろそろ、拳以外の武器を身に付ける時が来たか?
ここはやはり蹴りだろう。
しかし、アライ流ならば、一流の蹴りを身に付ける必要がある。
二流の蹴りではアライ流が汚れるだけだ。
そこで蹴りに関しては一流の格闘技ムエタイをラーニングすることだろう。
板垣漫画におけるムエタイの勝率は0%であることは気にしてはいけません。