第263話 最強=最高
父の渾身の一撃を受けたJr.は立ち上がれなかった。
2週間の時間を経ても回復しない一撃ッ。
本気の父は侮れない。
それよりも「Stand and Fight」はどうした?
今のJr.は心身共に衰えているようだ。
…2週間前からわかっていたことですが。
「終了だ」
アライ父が立ち上がれない息子の姿を確認し、終了宣言をした。
――もう終わりかよッ!!
相変わらずアライ流は短期決戦だ。
対戦相手をあまりいじらないから、サムワンのように印象にも残らない。
やや脱線するが、範馬は敗北者によく華を持たせる。
殴れば回転するし、蹴れば金的になるし、ムエタイは絶対に潰す。
要するにはネタになるのだ。
華というよりも仇花(あだばな)といった趣だが、気にしないように。
ス…
アライ父の言葉に従い、5人のボディガード?たちがぞくぞくと出てくる。
どいつもこいつも黒い人たちだ。
肌もそうだし、中身も黒そうだ。
要するに暴力世界の人ということだ。
この5人のどれもが危険度の高い姿形をしている。
真っ先に警察に職業を聞かれる――むしろ、怖くて聞けないタイプの人間だ。
こりゃあ、間違いなく強いですよ。
殴っても強いし、銃を持たせても強いに違いない。
なんだか、サムワンやシコルスキーくらいなら余裕で屠れそうだ。
…どうにもこの人たちは実際の強さよりもやられ方のひどさの方が目立つから、『弱い』という印象が拭えない。
「わたしの部屋へ運びなさい」
「イエッサー」
アライ父はさりげなくこのホテルに部屋を取っていたようだ。
つくづく油断できねェ。
それにしても「イエッサー」はないような気がする。
ヤ○ザにそういう掛け声は似合わない。
アレ?アライ父ってヤ○ザだっけ。
Jr.が連れていかれたのは0000号室だった。
なんとファンタスティックな部屋だ。
窓から移る光景は夜の街のようなので、それなりに高い場所――というよりもほぼ間違いなく最上階だろう。
2階とか3階に0000号室があっても困る。
0000号室はオリバの自室のように、きらびやかな内装だった。
まぎれのない超VIPルームだろう。
アライ父の財力はやはり恐ろしいものがある。
そんな一般人なら一生に一度来ることもありえそうにない部屋で、ベッドに横たわりながら物思いをする。
Jr.の頭には様々なことが浮かんでは消えているだろう。
衝撃的な連敗、目の前にいる父の真意など、考えることは多すぎる。
梢江との結婚のことを忘れてもらっていれば幸いだ。
むしろ、忘れろ。
刃牙の目の前で結婚を反故にする勢いで梢江を殴れば、もっと早く戦えたのかもしれないのに。
でも、今の刃牙は目の前で梢江がさらわれようとも、放置しそうでなんだか怖い。
「なにを考える」
「イヤになったか」
「この短期間に4連敗」
「そうなっても無理はない」
さりげなく痛い部分を強調しつつも、父は息子に話しかける。
闘士にとって連敗は何よりも辛いものだ。
連敗は自身への自信を喪失させるからだ。
そりゃあもう連ザフを何度やっても、一度も勝利できなかった管理人並みに凹む。
「この国の裏の格闘技界を牛耳っている男が」
「わたしの大ファンでね」
どこの誰だか予想はできるが、アライ父も難儀な人に絡まれたようだ。
バキ世界で大きな権力を持つ人の大半が問題をよく起こす。
不祥事を起こし次第、手を切り落とす中国の爺さんとかは危険度もMAXだ。
「裏世界では代表的な3名が
オマエを徹底的に痛めつけたとの連絡をくれた」
「ジャックハンマ」
「ドッポオロチ」
「ゴーキシブカワ」
「大変な3名と聞いている」
いったいいつそんな情報を入手したのだろうか?
アライ父は大変な人から情報を得たらしい。
言う通りにこの3人はどれも危険だ。
今思えば、この3人にボコボコにされたというのに、Jr.は五体を留めているというのは奇跡に等しい出来事だ。
これがセルゲイ辺りなら、金玉8個分の重体になっていたのは間違いない。
Jr.はタフさも一流のようだ。
しかし、ジャックはともかくとしても、独歩や渋川先生も裏世界の住民だったのか?
当然のごとく、あの人たちの精神構造はどうみても表世界向きのものではない。
チャンネルが違いすぎます。ムエタイを見つけ次第、パンツを脱がせます。
とはいえ、元神心館館長や警視庁の逮捕術の師範など、裏世界には相応しくない肩書きの持ち主でもある。
まぁ、それでもやっていることは完全にアウトローだ。
いろいろ反論を挙げてみたが、結論としては裏世界の人間で正しいだろう。
「そこまで知りながら」
「僕にファイトを挑んでいる」
Jr.は皮肉げに笑う。
どこかベストコンディションでないから負けた、とでも思っているのだろうか。
そして、それをわかりながらも、戦いを挑んだ父は卑劣とでも言いたいのだろうか?
しかし、バキ世界では当然のごとく無視される主張だ。
金玉を潰したら、さらに棒をへし折る世界だからだ。(やや違います)
「負けるワケにはいかなかったからね」
「5年も狙い続けた男が虫の息」
「更には両手両足が壊滅状態ときている」
「見逃すハズないじゃないか」
満面の笑みと共に父は息子にヒドイことを言った。
息子のために戦ったと思ったら、私怨がわりと多めに混ざっているようだった。
バキ世界の父親は問題児が多い。否、多すぎる。
「僕がファイトを受けた時も
父さんは後姿のままそんな顔をしたんだろうな」
Jr.は別段父を恨むわけでもなく、爽やかな笑みを浮かべた。
というか、あの嫌な笑顔に気づいていたようだ。
これにはアライ父もビックリだ。
「え?」なんて、戦っている以上に動揺している。
父の笑顔に気付いていたなんて、これでも父と息子のようだ。
心を通わせる部分もまたあるのだろう。
これが範馬親子や郭親子並みになると、もはやまともな会話すら成立しなくなる。
「もう……」
「やめたらどうだ」
「わたしが完成を目指した」
「全局面的ボクシングを更に進化させた」
「感謝している」
「しかし」
「誰が一番強いかを決める世界」
「そんな世界から我が子を解放したい」
「それもまた偽らざる親心だ」
なんだかんだでアライ父はJr.のことを親心で見守っていたようだ。
これが範馬父だったら、問答無用に叩きつける。
郭父だったら、「ほんとに儂の子?」とひどい言葉を叩きつける。
愚地父もわりと放置気味だ。
困った親父が多い中、アライ父は立派に父親をしている。
重傷を負っている息子を遠慮なく殴る部分は忘れろ。
「より若く…………」
「よりスピーディでよりパワフルで」
「しかし」「より強くはなかった」
「強いのはどっち」
「そんなシンプルなテーマでありながら」
「内容たるや果てしなくディープだ」
「150歳になろうというカイオー・カクも
ドッポ・オロチもゴーキシブカワも」
「誰もこのゲームを下りようとはしない」
「実の子が相手でも手段を選ばず勝つ」
「それほどこのゲームは魅惑的なんだ」
Jr.は戦士の表情になり立ち上がった。
まだ、心は折れていないらしい。「Stand and Fight」だ。
しかし、「実の子が相手でも手段を選ばず勝つ」というのは、かなり特殊の事例だと思う。
目の前にいる一級品の例外を参考にしてはいけないだろう。
郭海皇が回想の中とはいえ、久し振りに出てきた。
大擂台賽以降はいまひとつ出番がなく、それでいて大擂台賽だけで終わるような人物ではないため、個人的には嬉しい。
郭海皇が見せた『武』は(いまいち理解するのが苦しいものだったが)Jr.の心に刻み込まれていたようだ。
146歳ながら地上最強の生物に真っ向勝負を挑んだ姿は、敬うに値するものなのだろう。
それにしても郭海皇は相変わらず白目だ。
ここまで白目が似合う146歳はいないだろう。146歳って郭海皇だけだし。
「すでに4連敗…」
「でも僕はやめない」
「もうやめられない」
Jr.がさらなる戦いを決意した。
今までのようにふてくされてはいない。
父との戦いにより、輝きを取り戻したようだ。
なんだか主人公らしい立ち直り方だ。
そういえば、肝心要の主人公はどうしていたんだっけ?
「のぉミスター」
「よき闘士じゃないか」
そして、ついに出てきやがった…
戦いのためならどんな贄でも遠慮なく捧げる狂人徳川のじいさんだ。
こいつがアライ父のファンであり、アライ父に息子の情報を提供した張本人ようだ。
戦いがないと生きていけない性分のだけあり(推測)、厄介事をなるべくなら起こしたいらしい。
きっと、アライ父にインタビューに行ったジャーナリストも徳川の使いに違いあるまい。
というか、ジャーナリストはどうなったんだっけ?
「最強とはすなわち最高」
「命にすら値する」
え?そうなの?
このジジイ、相変わらず出てくる度に賛否両論が巻き起こる問題発言をしやがるッッ。
こういった価値観が今日もまた悲劇を生むのだろう。
そして、ブラジル人やサンボ使いなどのかませ犬が生贄になる。
「地球上最も偉大な」「ノーベル最強賞………」
「ヤルかッ範馬刃牙とッッ」
!
ついに――やっと――この話が出てきたッ!!
今まで長かった。
長かったというよりも、刃牙のやる気のなさが全ての発端だ。
あの人、せっかくの挑戦を一瞬で反故にしたし。
Jr.は待ち望んだ戦いにビクッと反応する。
…驚いているのか?ビビッっているのか?よくわからない反応だ。
そして、父はあの嫌な笑顔を浮かべる。
いろいろと波乱の展開だ。
しかし、最大の問題はどうやって刃牙に火を点けるか、だ。
もしかして、勝った者は松本梢江との結婚、なのか…?
それだけは救命阿(ジュウミンア)という感じだ。
自分が刃牙なら間違いなくPASSする商品だ。
ガン×ソード次号最終回並みの衝撃を受けつつ次号へ続くッッ。
…やっぱり、打ち切りするんだ。
アライ父と範馬父は少なからずの因縁がある。
アライ父は勇次郎に敗北したし、Jr.は勇次郎に殴りかかっている。
アライの血と範馬の血は強く交錯しているのだ。
その息子同士が戦うという大イベントに親馬鹿たちは興奮を隠せないのだろう。
きっと、アライ父は息子のトレーニングを開始するんだろうな。
勇次郎はどうするんだろう?
「喰らって喰らって喰らいまくれッッ」とアドバイスするのか?
…いや、あともうSAGAは勘弁してくれ。
もう何話も刃牙が出て来ていないが、来週辺りそろそろ出てきそうだ。
何せ本人の知らないところで、勝ってに刃牙対Jr.のカードが組まれかけているのだ。
ここはひとつ何か言っておかないといけないだろう。
だけど、「俺は誰とも戦う気はないんだ」とのたうったら、チャンピオンを裂くぞ。
これからの見所はやはり刃牙の動向だろうか。
Jr.がヘタれ道から脱却していようとしているのだ。
刃牙も脱却してもらわなければ、主人公として困る。
ノーベル最強賞らしいところを見せてもらいたい。
ところで、ノーベル最強賞ってなんだ?
あと松本梢江さんは出てこなくていいです。