第265話 人体
[神の子と鬼の子急接近――]
刃牙もJr.との試合を承諾し、やっと刃牙が動き出そうとしている。
アオられている通りにJr.と刃牙は急接近している。
…でも、主人公がまったく動いていないのはなぁ。
近づいているのはJr.だけだし。
なお、何度も書いて書き飽きてきたので始めに書いておきます。
今回も刃牙は出てきません。
Jr.は負傷した身体でとにかくサンドバックを叩いていた。
でも、音は相変わらずポス…と弱々しい。
「…」がつくくらい、打撃力のない打撃音だ。
しかし、それでもJr.には必死らしく、夥しい汗を流している。
それはもうジャックのように汗で水溜りができていた。
ギブスをしている部位からは、ギブスの継ぎ目から汗が吹き出ている。
汁描写大好きな板垣先生らしい新しい汗表現だ。
卑猥な響きなのは気にしないように。
ところでこの状況を見るにギブスの中は汗でいっぱいなのだろう。
蒸れるから休止するなりした方がいいぞ、Jr.。
それとも、汗で蒸れるのがたまらないという性癖なのだろうか?
さすが、強いんだ星人は違う。
(いったい……………)
(何時間ああして……)
壁を背に見守っているデイヴは驚くばかりだ。
いったい何時間叩いていれば、汗の水溜りができるのだろうか?
いったいデイヴは何時間じっと見守っているのだろうか?
もう、恋を超えた愛がデイヴには備わっているとしか思えない。
雨の中でもじっとJr.のことを待つつもりだろう。
それにしても、Jr.の汗にはナニか別のものが混ざっていそうで怖い。
涙とか、よだれとか、尿とか。
尿を流しながらサンドバックを叩けば、範馬に少しだけ近づける。
ついでにマニアックなプレイにも目覚められるので、一石二鳥だ。
「いつから…」
「ああしているのかね?」
そこに親馬鹿のアライ父が登場した。
帽子プラスサングラスで擬態は万全にしている。
バレバレな気もなきにしもあらずですが。
デイヴはアライ父に対して「誰だてめェ」や「サングラス外せッ」など、「ッ」を付けて傍若無人に振舞う。
Jr.に誰も近づけたくないという雄心(オスごころ)が伝わってくる。
だが、相手が愛しのハニーのお父様と知った瞬間に態度は急変だ。
とてつもない愛想笑いをして、機嫌を取ろうとする。
その動揺っぷりに「有名人」を「ゆめめいじん」と間違えてしまっているほどだ。
…いつから、デイヴはかませ犬から小物になったんだ?
「闇雲に…」
「光明もなく…」
「無目的に」
「ただそうして…」
「バッグを打つ気分はどうかね………?」
父が息子に問いかける。
そういう状況に追い込んだのはアンタだろッ!?という気がしないでもない。
この親父、いじわるが大好きなようだ。
「一切の戦略が立たずとも……」
「まずは叩け」
「はは…」「わたしが君に言った言葉だったな」
Jr.は父の言葉を忠実に実行していただけのことだった。
ここまでくるともう洗脳の領域に踏み込んでいるような気がする。
「考えがなくともとりあえず実行へ移せ」が、マホメド家の家訓らしい。
嫌な家訓だ。これだからイロイロな災害に巻き込まれてしまう。
だから、「一切の戦略が立たずとも、まずは求婚しろ」なのか?
だが、松本梢江相手には戦略をよく立てた方がいい。空手で挑むのは危険だ。
あとできれば近づかない方がいい。究極的には存在を忘れた方がいい。
「半日以上もそうしているらしいな」
「科学的ではない」
再度、サンドバッグを叩き始めた息子に父は言う。
なんでこの人は半日以上叩いていることを知っているのだろうか?
デイヴに聞いていたじゃん。わからなかったはずじゃん。
まぁ、そこは親馬鹿のアライ父だ。監視カメラかなんかで見守っていたのだろう。
「古流武術にはいくつもの実証例がある」
「負傷した部分に負担を与え肉体を対応させてしまう」
「人体にはそれほどの力がある」
父はこう言い息子の科学的ではない、スポーツにはあるまじき行為を全面肯定した。
たしかに武術にはこうすることで肉体を鍛える鍛錬が存在する。
アライ流はスポーツよりも武術的な思想を持っているようだ。
でも、こういった類は鍛える→怪我をする→鍛える→怪我をする…を繰り返して、強くなる鍛錬方法だ。
怪我をすることを前提に、そして怪我をしても鍛える鍛錬なのだ。
決して鍛える→怪我が治るではない。
鍛錬自体の是非は問わないとしても、刃牙との戦いが目前に迫っているのに、このトレーニング方法は少し間違っているような気がする。
それでも「一切の戦略が立たずとも、まずは叩け」がアライ流なのか?
あと、親父さんは人体の可能性に頼りすぎです。
あんたは予言書だけで人類滅亡へのてがかりを掴むキバヤシか。
「バキ・ハンマがお前の挑戦を受諾した」
アライ父は事実を伝えた。
Jr.は驚く。
…この人は対戦が決まっていないのに、トレーニングしていたのか?
アライの家訓はわかったから、もうちょっと考えて行動した方がいい。
「ただし」
「条件はベストコンディション」
ドスッ
「最高の状態で試合場に立て」
「ならば相手をしてやろう」
バスッ
「バキ・ハンマの言葉だ」
刃牙の注文は非常に偉そうだ。
くそぉ、ナニ様のつもりなんだ、このバキSAGAは。これが主人公パワーなのだろうか?
この言葉に感情が揺り動かされたのか、サンドバックを叩く音がどんどん大きくなっていく。
あ、やっぱり気に障ったんだ。
Jr.の表情が「クソ主人公がッ!出てこねェクセにいばるんじゃねェッ!」と言わんばかりの形相になる。
その顔に相応しく怒涛の勢いでサンドバッグを叩く。
…あー、そんなことやると壊れた拳がさらに壊れるからやめた方がいいです。
殴っているうちにギブスが壊れていく。
やりすぎだあんた。
腕のギブスだけではなく、脚のギブスも壊れていく。
…どういう原理なのだろうか?
主人公への怒りパワーはものすごいようだ。
怒りの猛打は続く。
そのうち、ギブスが完全に壊れてしまう。
だが、その中にあったのは壊れた四肢ではなく、完治した四肢だった。
ヒィィィィィッッ!!なぜか完治しているよォッ!!
やはり、Jr.もグラップラーだ。
骨折ごとき、ほんの数日で完治する。
「スゴいね」
「人体(はぁと)」
息子の復活にパパは満面の笑みを浮かべた。
というか人体の使い方を間違えている。
鍛えると治る人体がどこの世界に存在するんだ。
というよりも、スゴいのは人体じゃなくて、マホメドの血のような気がする。
何にせよ、Jr.が無理矢理大復活した。
あとは14リットルの砂糖水を一気飲みすれば、コンディションは万全なものになる。
梢江とSAGAをやれば、より完璧だ。
…でも、SAGAると決戦前に腹上死しそうだなぁ…
ハードトレーニングをやると快復するのがアライ家のようだ。
汗まみれになるまでサンドバッグを叩くわけだ。
…この破天荒な復活の仕方がどうしようもなく板垣風味だ。
次回は巻頭カラーのようだ。
ついに、やっと、刃牙が登場するのだろう。
こういう大イベントにしか登場できない主人公というのも悲しい。
でも、登場したら登場したで勇次郎にボコボコにされた後だったりしたら笑えない。
刃牙が地下闘技場チャンピオンとして戦うのなら、舞台はやはり地下闘技場だろう。
久し振りの地下闘技場の盛り上がりに観客は歓喜することだろう。
そして、解説神本部がしゃしゃり出てくる。
きっと、ボクシングには蹴りがないと解説してくれるだろう。
そういった直後にJr.が大地を蹴る姿を見て、「ボクシングにも蹴りがあったのか〜〜〜〜ッッ」と冷や汗付きで驚く。
未来予想が出来ていない解説が本部の武器なのだ。
持ち味をイカせッッ。
ついでに加藤や末藤にも驚いてもらいたいところだ。
あいつら、こういう場面にしか活躍できないし。
それ以上に生死をハッキリさせないと不安だし。
いや、死んでいても困るのだが。