第269話 場
これでシャンパンファイトを開始したら俺は怒る。
(シャンパンを持ちながら喧嘩すること。シャンパンを落とすと敗北。
ホストに伝わる伝説的な決闘方法で、この勝負で消えてしまったホストの数は千を越えるという)
刃牙とJr.がグラスを片手に「始めい(カンパイ)ッッ」の声と共に戦いを開始したら、泣く。
来ルッッッ
アノ暗闇ノ向コウカラ――――
彼等ヨリ強イ男ガ――――
出テ来ル!
俺ヲ倒ス為ニダッ
相変わらずJr.は解説モードだ。
しかし、前回、ダラダラと流していた汗はもうひいている。
勇次郎の目の前で失禁する小坊主の顔ではなく、凛々しい戦士の顔になっている。
前回のヘタレっぷりはどこへ消えたのだろうか?
「コノ場所デガーレンヤチャモアンモカマセ犬トシテ喰ワレタンダ…ダッタライケルゼッッ」と悟りの境地に達したのか?
歓声と緊張が漂う中、突如Jr.の目の前に何かが降って来た。
爆撃のような轟音と閃光を伴うほど、その物体のインパクトは強い。
「!?」
「!?」
Jr.、大慌て。
さっきまでの戦士の顔はどこへ消えたのか。
また、小坊主的なヘタレ顔と冷や汗を流している。
もしや、範馬刃牙の登場か?
あまりに地味すぎて紙面から姿を消したというのに、登場シーンだけは派手にやろうという魂胆か?
このハッタリイズムッッ、まさに範馬刃牙ッッ。
(ユージロー……………ハンマ…ッッ)
だが、煙の中から現れたのは刃牙ではなく、地上最強の親馬鹿範馬勇次郎だった。
この人、やっぱり目立つのが大好きだ。
ただ登場するだけでなく、派手な演出を加えている。
普通にやればつまらないものを、その範馬力で珠玉の芸に変えるのが勇次郎だ。
目立ちたがり屋一族の長の座は当分変わることはなさそうだ。
勇次郎の登場に観客はより興奮する。
「やるのかッアライJr.とッ」「ブチ壊す気だッッ」とか、今日ここに何のために来たのか完全に忘れてしまっている。
え〜…そんなに刃牙の戦いよりも勇次郎の戦いが見たいのか?
…見たいんだろうなぁ…
「私ニ用カ」
「やっと」
「地に足が着いたようだな」
だが、勇次郎の乱入にJr.は冷静に対処している。
さっきまで小坊主顔をしていたのか、まるでウソのようだ。
最近のこの人はコロコロ調子が変わる。
やる気になったり、ヘタれたりのシコルスキーみたいだ。
勇次郎の言う通り、Jr.は完全に落ち着きを取り戻していた。
勇次郎は混乱した相手に異常事態を突きつけることで冷静にするという荒業を繰り出した。
さすが、範馬一族の長。人心掌握に長けている。
策が成功したのが嬉しいのか、勇次郎は白目で微笑む。
並みの人間だったら「はひぃぃぃ〜〜〜」と逃げ出さんばかりに怖い笑顔だ。
「極………」
「近い将来…」
「あいつは俺に牙をむく」
もうずいぶん前から牙をむいているような気がするのは気のせいか?
大擂台賽でも喧嘩を売られていたし。
喧嘩を売られた直後に片手で圧倒したわけですが。
「そして」
「18歳の小僧ながら」
「そうするに相応しい力を持ち始めている」
「オマエが今から闘う相手は」
「そんな漢だッッ」
アレ?いつの間に18歳になったんだ?
どうやら読者の知らぬ間に誕生日を迎えていたようだ。
誕生日を祝ってもらえない主人公も珍しいだろう。
プリキュアではちゃんと誕生日を祝っているというのに…(プリキュアを比較に出すな)
しかし、息子の年齢を、つまりは誕生日を覚えているなんて、さすがは勇次郎だ。
きっと誕生日プレゼントを贈ったんだろうな。
多分、砂糖水あたりだろう。
せっかくだから大増量の38リットルくらい。
でも、勇次郎と闘うに値する力を持っているかとなると疑問だ。
さっきも書いたけど、大擂台賽では片手の勇次郎に圧倒されている。
今の刃牙と勇次郎はムエタイと範馬くらい戦力の差があるように感じる。
それとも、長い間登場していない間にSAGAりまくっていたのか?
「どけよ…」
「ここは俺の場だぜ」
勇次郎の背後から不遜な態度の声が響く。
勇次郎相手にこんな言葉をかけられる人間はそうはいない。
郭海皇のようなよほどの実力者か、本部のようなよほどの身の程知らずのどちらかだ。
そして、背後にいたのは範馬刃牙だ。
「復ッ復ッ」
「主人公復活ッッ」
「主人公復活ッッ」
「主人公復活ッッ」
「主人公復活ッッ」
「主人公復活ッッ」
「主人公復活ッッ」
ついに、やっと、5ヶ月ぶりに主人公が再登場した。
これには観客席で見守るツンデレ烈海王も大喜びをする。(自分の脳内で)
でも、勇次郎と比べるとかなり地味な登場の仕方だ。
もしかして、ずっと勇次郎の背後にいたのかもしれない。
「なんとなく入場したけど親父の存在感が強くて、みんな俺のこと忘れているや」みたいな心境だったのかもしれない。
そして、意を決して声をかけて、やっとその存在をアピールできたのかも。
ついに刃牙とJr.が地下闘技場で邂逅する。
ここまで長かった。
主人公が交代してしまうまでの時間がかかってしまった。
「死ぬまでやれ」
「そして上がって来い!!!」
勇次郎らしい不穏な言葉で自分が絶対的な強者の位置にいることをアピールする。
でも、勇次郎のところに上がるには郭海皇やオリバなどの壁がまだまだある。
また、勇次郎と対等に戦うには、軍隊と戦えるだけの圧倒的な暴力も必要とされそうだ。
…Jr.を倒したところで刃牙は勇次郎の領域には達することはできないだろう。
(今回は一段と可愛くない)梢江とアライ父が見守る中、ついに戦いが始まろうとする。
勇次郎のテンションが上がってきたようだ。
試合開始の合図となる太鼓ならす小坊主のところへと向かう。
どうやら、試合開始の音頭を自分が取るつもりのようだ。
スゲェ親馬鹿だ。
ちょっと浮かれすぎなのではないでしょうか?(怖いので敬語)
「はじめいっ」
勇次郎が試合開始の音頭を取るッ。
地上最強の生物らしく太鼓を叩くのにバチを使わない。
平手で太鼓を叩く。
そして、「ドンッ」というすさまじい音と共に、太鼓の皮が敗れる。
なんというかもう目立ちっぱなしだ。
勇次郎がやれば太鼓を叩くという行為すらも、立派なパフォーマンスへと変わっている。
芸というモノを心得ている漢だ。
そして、ついに刃牙とJr.の対決が始まろうとしている。
二人の親馬鹿と賞品の梢江が見守る中、本ッ当ッに久し振りの刃牙の戦いを見られるッ。
というわけで、次回へ続く。
久し振りに刃牙が登場したのは良かったけど、完全に勇次郎に食われてしまった。
梢江を駅弁しながら入場すれば対抗できたのかもしれない。
対抗できても嬉しくないけど。
でも、登場したのはいいけど、相変わらず刃牙の顔に力が感じられない。
なんか春成と戦う直前の面構えと似ているような気がする。
Jr.のリードジャブをかわしざまに当てた右は――――――
正確にJr.の顎の先端を捕え――――――
脳を頭骨内部に激突させ――――――
あたかもビリヤードゲームのごとく頭骨内での振動激突を繰り返し生じさせ――――――
典型的な脳震盪の症状をつくり出し――――――
既に意識を分断されたJr.の下顎へ
ダメ押しの左アッパー
崩れ落ちる態勢を利用した―――――
左背足による廻し蹴りは
Jr.を更なる遠い世界へと連れ去り――――――――
全てを終わらせた!!!
その間 実に2秒!!!
なんて春成風に決着したら、本気でチャンピオンを裂く。
でも、今の刃牙なら遠慮なくやりそうだ。
Jr.のエンジンがかかっていない間に決着ッッ。
2秒で終わらせるだけだと暴動が起きかねないから、さらにパンツを脱がした上で生金的をして観客のハートがっちり掴む。
範馬刃牙は地下闘技場の観客が何を期待しているのかを良く知っているのだ。