第270話 チャンピオン
ついに刃牙とJr.の戦いが始まった。
でも、扉絵は勇次郎だ。
今まで刃牙は本編に出てこなくとも、扉絵だけには登場していた。
だが、それが奪われてしまった。
これは悲劇の前触れなのかッ!?
(来タ―――――――)
(射程距離………)
(マッスグ)(最短距離)(勇気…)
Jr.は戦いが始まったというのに、相変わらず解説モードだ。
いや、ステップを踏んで、刃牙の攻撃を華麗にかわす準備をしましょう。
あと、来タ―――なんて言うと、ちょっとだけ某巨大掲示板の住民に感じます。
Jr.も実は住民なのか?
「なぜ、刃牙に出てくる女は可愛くないのか」スレを立てていることだろう。
もしくは「刃牙に出てくる女にハァハァしてたまらない」スレか?
解説しているのはいいのだが、どうにも思考が混乱しているように思える。
さすがに刃牙が構えもせず、悠然と近づいてくると混乱するだろう。
この手の奇襲は刃牙の得意技だ。
すでにJr.は刃牙に呑まれているのか?
なお、このシーンは1ページ1コマ×2で描かれている。
右ページに刃牙とJr.を客観した視点。左ページにJr.主観の視点が配置されている。
板垣先生らしい、豪快なページの使い方だ。
ここまで堂々とページを派手に使える人はあまりいない。
(右!!!)
(外レタッッ)
(入ラレタッ)(迅ッ)(来ル)
悠然と近づく刃牙に対して、Jr.は右を放つ。
だが、その瞬間、刃牙は素早くJr.のふところに踏み込んでパンチをかわした。
無防備な前進はJr.に手を出させるための罠だったのだ。
ちょっと困る範馬力だけでなく、大胆かつ緻密な駆け引きができるのが刃牙の強さだ。
もしかして、春成戦のやる気のない顔も罠だったのか?
想定外の出来事だったのか、Jr.はただただ混乱するばかりだ。
達人や武神ですら反応できなかったパンチをあっさりとかわされれば、それは混乱する。
…実は完治していないというオチか?
(喰ッタ!)
(右)(強打)(重イ)
絶妙なタイミングで刃牙のカウンターの右がJr.の顔面に入った。
これが春成ならすでにノックアウトだ。
だが、範馬刃牙はそれだけでは容赦しない。
遠慮なく追い打ちのハイキックや生金的をする。
危険度の高さも一級品だ。
(………ッッッ)
(チャンピオン)(強イナァ……………)(ダウン?)
刃牙のジャストカウンターにJr.は虚ろな表情になった。
ま、待てッ。
お前、もう負けるつもりなのかッ!!
頼む、これだけは勘弁してくれェッ!!
ダメージに比例して、思考内容が(チャンピオン)(強イナァ)とかなり混乱している。
…大丈夫か、Jr.。
このままダウンするとちょっと困る。
(………ッッ)
Jr.の膝が崩れ、目の前の刃牙の姿が虚ろになる。
って、このままダウンする気満々じゃねェかッッ!!
ヤバイ。ヤバイぞ、Jr。
このままではチャンピオンが裂かれるぞ。
(…………・)
Jr.は後頭部をしたたかに打ちながらダウンした。
目の前は完全にホワイトアウトしてしまった。
…あの…すみません。
勝負あり…でしょうか?(チャンピオンを引き裂く準備をしながら)
歓声が刃牙とJr.を包み込む。
Jr.の表情は敗北者のそれだった。
これが大擂台賽だったら、もう勝負ありだ。決着してしまっている。
だが、ここは地下闘技場だ。
そして、特別審判に範馬勇次郎がいる。
気絶しただけでは終わらない。
もう玉がグチャグチャに潰れるまで、金的を強要される。
「潰れるまでやれ」と試合前に言っただけのことはある。(言ってません)
息子の快進撃に勇次郎は満足げな笑みだ。
これで電気アンマで追い打ちをしようものなら、白目で範馬笑いをすることだろう。
対するアライ父の表情は固い。
たしかにこんな展開になれば、困惑するだろう。
いざとなったら刃牙に一流のハンターをぶつける。
歓声が轟く中、Jr.は何とか意識を取り戻す。
時間にしてどれくらい意識が飛んでいたのかは不明だ。
だが、刃牙がその気になれば男として再起不能になるくらい、金的攻撃を浴びせられるだけの時間落ちていたはずだ。
Jr.、かなりピンチだ。
「どうだい」
「まだヤレるか」
起き上がったJr.を見下ろすように刃牙は言い放った。
なんだ、この態度は。
ものすごく憎い。否、憎すぎる。
全然紙面に出て来ないと思ったら、この不遜な態度だ。
謙虚という言葉を知らないのか?
やっぱりこいつは範馬だ。憎い。
何だか刃牙の態度は主人公よりもライバルの態度だ。
主人公が倒すべき敵を序盤から圧倒してどうする。
初手は刃牙の圧倒的な勝利だった。
次は顔面ではなく金玉を狙うことだろう。しかも、パンツを降ろして蹴る。
今回のパンチは「顔面を殴れるということは、金玉を蹴れるということなんだぜッッ」という刃牙なりのアピールだったのだ。たぶん。
Jr.の勝ち目が絶望的な中、次回へ続く。
せっかくやってきた出番を、人気を下げるために範馬刃牙は使った。
このままでは次回人気投票で9位くらいまで落ち込みそうだ。
サムワン海王と同じくらいの位置になるだろう。
ヘタすりゃ松本梢江に負ける。
刃牙の範馬力は出番がなくても本物だった。
認めたくないが、本当に地上最強の一人らしい。
…そんなに14リットルの砂糖水が効いたのか?
もしかしたら、出てこなかった5ヶ月間、ずっと梢江蜜を摂取していたのかもしれない。
だとしたら、この強さも納得だ。
やっぱり、強いんだ星人は違う。
刃牙の場合は範馬星人といった趣だけど。