第274話 戦士
結局、何事もなく試合は終了したようだ。
刃牙は勝者の余裕を持ちながら、梢江と共に控え室へと向かって行く。
Jr.の勝利予想をしちゃった独歩と渋川先生はトボトボと帰路へ向かっている途中なんだろうな。
憎い。
範馬って、憎い。
「強いね」
「バキくん」
二人の間には倦怠期の恋人らしい、気まずい空気が流れていた。
この状況を打開するべく梢江は声をかけてみるが、刃牙は無反応だ。
…おい、コラ。
一時期みたいにやたらめったらデレデレするのも気にいらんが、ツンツンはツンツンで気に入らない。
やっぱり、範馬は憎い。
範馬というより刃牙だけど。
「イッパツで終わらせちゃった」
「たったイッパツ」
正確には金的+顔面踏み潰し+チョークの3発だ。
チョークスリーパーを1発と数えられるのかは怪しいが。
でも、まぁたしかにイッパツで終わっているとも言えなくもない。
最初の金的でJr.は終わった。
肉体面でも、キャラクター面でも、終わってしまった。
金的を食らってもキャラクター性を失わないのは範馬くらいだ。
その他の格闘家が金的を食らうと、大抵ネタキャラとしての余生が待っている。
シコルスキーなんか典型例だ。
刃牙に金的を食らって以降、スプリンクラーにぶら下がったり、電話ボックスの中で戦ったりとイロモノ以外の何者でもない。
でも、初っ端から放尿したりしてたなぁ。
さすが、ロシア人。生粋のネタキャラだ。
「彼は立派な戦士だったよ」
「逆に俺がイッパツで倒されかねないほどにね」
「そんな言い方をしちゃダメだ」
どの口がそんなこと言うんだ、コラ。
デタラメ言うんじゃねえぞ、この範馬が。
前号でJr.に殺される覚悟のないヘタレの烙印を押したのはどこのどいつだった?
今更「アイツは強い。だが、それに勝った俺はもっと強い」的な言い方をしても説得力がない。
それでも押し徹すのが範馬刃牙、か。
そんな調子の刃牙に梢江は最後の戦いが近づいていることに喜びを見せる。
元々、非暴力主義の梢江だ。
勇次郎との戦いを境に刃牙が戦わなくなることは、純粋に嬉しいのだろう。
でも、勇次郎との戦いを五体満足で乗り越えられる可能性は絶無だ。
今の刃牙はおそらくひどい目に遭う。
というか、遭って欲しい。
金玉を何度も潰してもらいたいものだ。
「どこの家でもある親子喧嘩にすぎない」
「人に自慢できることじゃない」
やたらめったら規模の大きい親子喧嘩だ。
一応は謙虚な態度を取っているが、何だかそれが鼻につくのは私だけでしょうか?
まぁ、刃牙が嫌いなだけかもしれないけど。
前号で決定的に嫌いになったし。
「ひとりで帰るね」
醒めたままの刃牙に対して、梢江も冷めたままだ。
そして、ある意味では究極の別離発言をする。
オイオイ。
刃牙は止めることもなくただ見守る。
しかも、冷めた目線で。
オイオイ。
それともやっと梢江が可愛くないことに気づいたのか?
きっと、今の刃牙はツンデレ海王である烈にくびったけに違いあるまい。
「ヒ…」
「ヒ…」
「ヒィ…」
その一方でJr.は大泣きしていた。
滝のように涙が床に垂れ落ちる。
当然、涙だけ流しているわけではない。
よだれと鼻水も大流出している。
スゲェ泣きっぷりだ。
せっかくの苦労が金的一発で水泡と帰したため、この気持ちはわからないでもない。
でも、何よりも泣きたいのは読者の方だ。
理由は述べません。
前号の感想で書きまくったし。
ところでJr.は膝と手を床に着けて泣いている。
こんな感じだorz。
まるで土下座のように見える。
何だか、あまりの強引な展開にしてしまったことを謝っている板垣先生の担当の姿が脳裏に浮かぶ。
板垣先生に付き合わされる担当は大変なんだろうなぁ。
金的にGOサインを出す辺り、かなり以心伝心のコンビっぽいけど。
Jr.はとにかく泣く。
涙の量よりも鼻水とよだれの量が多い気がするが、とにかく泣く。
この姿に先ほどまで見守っていたアライ父は声をかけることもなく、ただ立ち去る。
今、第3者がJr.にできることは同情するか、ぶん殴るか、立ち去るかの3択。
SAGAるのもありといえばありだが、そんなことをやったらよだれと鼻水を流しながら泣く。
そんなへっぽこJr.のところに梢江がやってくる。
涙とよだれと鼻水を出しまくる姿にさすがの梢江もカバンを落とすほど驚く。
あー、でも、これは数年前のあなたの姿ですから。
刃牙が毒に身体を蝕まれていた頃は梢江もこれくらいの涙と鼻水を流していた。
ヒロインが鼻水を流すのは正直どうかと思った。
「あなたは………」
「戦士でしょ」
梢江はJr.に言葉をかける。
刃牙が言った言葉と同様のものだ。
だが、これはあくまで刃牙に感化されたものではなく、梢江の本心だろう。
こういうところは、優しい。
これで板垣的美少女じゃなかったら、どれほど良かったことか。
梢江の労わりの言葉をJr.は首を全力で振って否定する。
涙・鼻水・よだれを流しながら首を振ったため、いろいろな液体が飛び散る。
そして、それが梢江の顔にかかる。
もちろん、梢江はまばたきもせずに受け止める。
さすが、刃牙の尿を飲んだ女だ。
涙・鼻水・よだれなんかでは驚きもしない。
むしろ、望むところなのだろう。
若い頃からこんな趣味をしていると、ロクな大人になれないと思う。
Jr.の鼻から大きな鼻水が垂れる。
さすが、汁描写に関しては少年漫画随一の板垣先生だ。
無駄にリアルな鼻水が描かれている。
正直、こんなに鼻水を真剣に描かれても困る。
「僕ト結婚シテ欲シイ」
梢江はJr.の鼻水を見て、プロポーズの言葉を不意に思い出す。
梢江さん、あなたは注視する部分を間違えている。
普通なら涙を見て思い出すだろ。
どうして、鼻水なんだよッッ!!
まぁ、それがチャンピオンのストロングスタイルなのだが。
ブラなんてしません。直接、乳を見せるのが少年漫画の正しいあり方だと言わんばかりだ。
梢江は相も変わらず鼻水を見たまま、Jr.との想い出が脳裏へと浮かんでいく。
ああ、たしかにいろいろあったなぁ…
本当にイロイロあった。
何度、Jr.と梢江のデートにツッコミを入れたことか。
それも過ぎ去ればいい想い出、は少し違うか。
それにしても、どうして梢江は鼻水を注目するのだろう?
鼻水プレイが梢江の性癖なのか?
そんなプレイ、見たことも聞いたこともねえ。
「あなたは…………」
感極まったのか、梢江はJr.を抱き締める。
梢江×Jr.確定デスカ?
実にカッコ悪いフラグの立ち方だけど。
とにもかくにも、これで刃牙は読者にも、恋人にも、何もかもから見捨てられた。
このまま、勇次郎と戦って大丈夫なのか?
誰も観客が来ることがなさそうだ。
そして、沈黙のまま、殺されそうで怖い。
そして、重大発表――
なんと、バキが52号、次々回で最終回だ。
なななななんだってーーーーーッ!!!!
大驚きも大驚きだ。
バキがなくなったら、生活の潤いがなくなってしまう。
いったい、何をネタにして生活しろというのだッ!!(ぉぃ
でも、「そしてッッッ―!!!!!!?」と煽られているから、別の形で続くんだろうなぁ。
次はどういう展開になるのだろう?
というか、あと2話で最終回かよ。
じゃあ、次回は「Jr.SAGA」、次々回が刃牙と勇次郎の決闘が始まった瞬間に終わりッ!なのか?
それとも、最終回は刃牙が勇次郎にその間実に2秒で敗北して終わりだとか。
わりとやってもらいたい展開だ。
むしろ、お願いします。