第275話 挑戦資格


次号、(一応の)最終回だ。
そして、Jr.戦の快勝は夢オチということもなく、バキ世界は進行していく。
ちょっと悲しい。

『グラップラー刃牙』のラスボスは母違いの兄ジャックだった。
範馬には範馬。
毒を以って毒を制す。
そんなわけでまさにラスボスに相応しい強敵であった。
試合開始と同時に殴り合い。失禁。9週間の回想。主人公の動脈が噛み千切られる。ジャックが大量のゲロを吐く。
なんというか本当にバキという漫画に相応しいラスボス戦だった
これだけ見ると、とても格闘漫画とは思えない。
9週間も回想するか?
しかも、回想するのはベトナム戦争だし。

だが、『バキ』のラスボスはこの数週間でイロイロな意味で株を上げたJr.だ。
ファーストヒットで気絶。御託を述べている間に金的。そして、悶絶。悶絶中に顔面踏みつけで完全に気絶。虫の息のところにチョークスリーパー。
圧倒的なまでの虐殺っぷりだ。
こいつ、本当にラスボスか?
というか、主人公がここまでライバルを叩き潰していいのか?
でも、バキらしいラスボス戦といえなくもない。
金的とか。


「外れも外れ……」
「我々2人は大外れでしたな」


場面は神心館の館長室。
部屋にいるのは武神愚地独歩と達人渋川剛気だ。
達人は珍しいスーツ姿だ。
こういう姿もできたんですね。いつも胴着だと思っていた。

あの誇大妄想を2人はちょっとだけ引きずっていたようだ。
「アライJr.が完成するッ」どころか、男として破壊されてしまった。
刃牙敗北予想は良かったけどなぁ。
アライJr.がネタキャラとして完成するという意味なら、大当たりだけど。
…飯匙倩(ハブ)酒を飲みながらだから、もしかしてヤケ酒中ですか?

「強くなっとる」
「はい」


2人は刃牙がJr.を瞬殺できるまでに強くなっているとは思っていなかったようだ。
最後に出逢ったのは刃牙が毒に冒されている真っ只中だったから…
もしかして、あれからずっとやせ細っていたままだと思っていたのか?
だとしたら、大外れも大外れだ。
まぁ、あのままでもシコルスキーくらいなら倒せそうだけど。

「渋川さん」
「勝てますか範馬刃牙に」


〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ。
愚地独歩、この状況におけるタブーに触れやがった…
この質問に対して達人は「これ…」「匂いはキツいけど」「意外にウマいね」話題を逸らした
達人ならではの駆け引きだ。
だが、独歩も「飯匙倩(ハブ)酒」「沖縄の友人から頂きました」と対抗する。
ここで話題を元に戻そうとしてもうまくはいかなかっただろう。
あえて、話題を逸らしたままにして、相手から本音を聞き出す状況に持っていく。
武神ならではの高度な駆け引き、かもしれない。

「勝てぬとは言えんわな」

達人にしては弱気な発言だった。
勝てない、とは言えない。
勝てる、とも言えない。
範馬は理不尽だ。
技術や力だけでは勝てない。
理不尽な範馬力に人間の力はほとんど通用しない。

「刃牙の父オーガは受けました」
「息子刃牙に挑戦の資格ありと」
「わたしの心は決まってます」


意味深な言葉を独歩は言った。
「わたしの心は決まっています」
この言葉の真意は今号の最後で明らかになる。


「あぁ?」

「いやマチガイねェよ」
「範馬勇次郎がバキの挑戦を受けた」


神心館の道場であろうか?
その場には烈海王、火傷が完治した克己、そして加藤清澄がいた。
顔にはドリアンによって刻まれた傷が残っているものの、ほぼ完治したといってもいいだろう。
…生死不明の烙印が押されて、もう4年。
やっと生きていることが判明した。
個人的には嬉しい。
ところで末藤はどうしたんですか?
彼はどうなったんですか?
もしかして、ジェットコースター墜落事件で死んじゃったの?

「…………」
「しかしよォ………」
「オーガはバケモノだぜ」


克己は以前勇次郎に喧嘩を売りかけていた人とは思えないほど、弱気な発言をする。
でも、これが一般論です。
刃牙なんかが互角に戦われると困る。

「イヤ…」
「範馬刃牙は強くなっている」
「擂台賽で見せた秒殺………そしてアライJr.戦で見せた圧倒的な実力」
「彼はもう以前のステージにはいない」


烈先生は現状の刃牙の実力を指摘する。
うん、説得力のある言葉だ。
刃牙に対してはデレデレなだけある。
もう手作り弁当を届けますよ。
「き、貴様のために作ったわけではないッッ」と顔を真っ赤にして否定しますよ。
ハァハァ。

「全ての格闘士……………全ての武術家が歩む道………」
「地上最強の栄光へ一歩先んじたワケだ」

最大トーナメントの優勝者になった時点で、一歩先んじられていた気がする。
というのは置いておいても、いつの間にか刃牙は地上最強に肉薄している。
正直、過酷な修行をしたとか、強敵と戦ったとか、そういった描写がないため、どうにも感情移入できないけど。
セックスで強くなるのは、どうかと思う。

「………でどーするよ克己さん」

加藤の一言で三者の間に沈黙と思考が流れる。
どーするよって、読者的には神心館100万人でリンチにしてもらいたい
是非、お願いしたい。


今度はどこぞのバーだ。
スペックによって破壊された頬が傷こそ残っているものの完治した花山と柴千春がいる。
…花山さん。いったいどういう最先端の医学を駆使したんだ?
皮膚移植なんてレベルじゃない。
肉を移植しないと治せないぞ。

柴千春は加藤同様、刃牙に何らかのアプローチを図るべきだと言おうとしたが、花山はただ「放っとけ」という。
花山と刃牙の付き合いは勇次郎を除く登場キャラの中では、もっとも長い。
それだけに刃牙のことを理解している。
それだけに勇次郎との戦いに関与しないという選択を取るのだろう。
でも、建前っぽいなぁ。
花山さん、意外に気まぐれだし。


「正直オーガの首を狙うには」
「ワシじゃ無力すぎる」


そして、ついにこの男が来てくれたッッ。
どこへ行っていたンだッ、解説神ッッ。
俺達は君を待っていたッッッ。
本部以蔵の登場だ――――――――ッ。

実に含蓄のある言葉だ。
あんたじゃ本当に無力すぎる。
昔、勝つ気満々で戦いを挑んだ人の言葉とは思えないが実に意味のある言葉だ。

「誰に限らず」
「勇次郎の前では無力……………………ではありますが…」


弟子の花田は師匠に合わせる。
久し振りに出てきたなー、花田。
マウント斗場のかませ犬になって以来、一切の見せ場がなかったのが懐かしい。
せめて、死刑囚編の時に柳に噛まれるくらいだったろう。
肝心要の柳は本部に噛まれたんだけど。


「共に刃牙にブッ倒された者同士……」
「どーするよ兄貴……」


懐かしキャラ再登場ブームの流れに乗って、今度は鎬兄弟の登場だ。
鎬昂昇、生きていたんですね。
顔面に広がる火傷の跡がもう一般人として生活できないことを物語っているけど、とにかく復活だ。
そして、ちょっとだけ物騒なことを話している。
…それ言ったらみんな物騒だけど。


そして、懐かしキャラの締めるのは、勇次郎を除く刃牙最大最強の敵ジャック・範馬だ。
明らかに300kg以上の重量のバーベルを軽々空中へ放り投げて登場する。
さすが、範馬。
やること為すこと、いちいちが派手だ。

「ナンダトォ…」

「範馬刃牙が父範馬勇次郎氏に挑戦し――――」
「勇次郎氏及び徳川光成地下闘技連会長はそれを受けた」
「挑戦は認められた」


猪狩は淡々とジャックに事実を伝えた。
ジャック兄さん、珍しく大驚きだ。
そして、空気が歪むほどに静かに猛る
なんか、紙面にまったく出て来ないヤツに、勇次郎挑戦権を奪われたのがそんなに立腹らしい。
バーベルトレーニングをやっていたみたいだし、その無念。痛いほどわかります。
でも、あなたも範馬だから、ずいぶん優遇されているような…

「アノアホウガ……」
「認メロ……ッテ言ウノカヨ」


勇次郎と戦い、倒すのはジャックの望みでもあった。
それをここ数年セックスしか印象に残っていない弟に奪われて、めちゃくちゃ怒っている。
今にも殺しに行きそうだ。
是非、殺しに行って欲しい。


そして、刃牙の家に戻る。
そこには梢江の姿はいない
刃牙と独歩だけだった。

「なァバキ…」
「俺らァ…」「知り合ってどんくらい経つ……」


作中時間では1年くらいだろう。
だが、掲載期間で考えると…10年以上だ。
バキって長い間続いているんだなぁ。

「なのに不思議なことが一つある」
「俺と君は」「一度も戦っていない」

やはり、刃牙は勇次郎との戦いの前に幾多の戦いを経験するらしい
そして、これがバキ最終章の主な流れになるのだろう。
そんなわけで次号へ続く。


刃牙は最大トーナメントを制覇したが、独歩や渋川先生などの壁は越えてはいなかった。
ジャックも実力だけで勝利したわけではないだろう。
勇次郎に挑むには、越えるべき人がまだまだいる。
それを置いて刃牙は勇次郎に挑むことはできない。
というか、そんなことは許さない。
独歩だけでなく、オリバや郭海皇とも戦うのだろうか?
最終章は刃牙が主人公らしい話になりそうだ。
いろいろな意味でこれから先が気になる。

でも、これで普通に最終回だったら、凹むなぁ。
バキはまだまだ終わって欲しくない。
もう生活の一部だし、人格の一部だ。
それだけ私にとって、板垣は重要なものだ。


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