ピクル 第4話 困惑の野性
(冗談じゃないッッ)
(なんでオレだけ)
てっきり5秒で殺害されるとばかり思っていたら、アレン君は何とかピクルから逃げていた。
壁際から離れているところを見るに、何とか危機は逃れたようだ。
背中には鬼のような形相のピクルが迫っているけど。
もう勇次郎に追われているって具合だ。
逃げられません。
Jr.レベルの機動力が欲しいところだ。
(なんでオレだけ夜の夜中 研究室で…ッッ)
(SFホラーをッッ)
それはお前が死亡フラグを立てすぎたからだろう。
とツッコミたいところだが、無視しておこう。
アレン君は振り向きざまに銃弾を2発を叩き込む。
肩に銃傷を負っているのにも関わらず攻撃するなんて、アレン君の闘争心はかなり強い方だ。
少なくとも研究者の精神力とは思えない。
今までの行動を思い出すと研究者の頭脳があるとも思えない。
銃弾は1発はピクルの頬をかすめ、もう1発はピクルの左肩に命中する。
アレン君の肩に命中した銃弾は肉に深々とめり込んだ。
だが、ピクルの場合、銃弾は少しめり込んだだけですぐに取れた。
銃弾がまったく効かないという恐るべし筋密度の持ち主だ。
まさに猛獣並みである。
知能も猛獣だ。
そんな猛獣に言葉を話したアレン君は今更ながらに大馬鹿だ。
で、鬼の形相のまま、ピクルはアレン君の肩を掴む。
白衣しか掴めていないのが幸いだ。
もし、肩ごと掴まれていたら一瞬で骨ごと砕かれていたはずだ。
そして、本日2度目の失禁を達成する。
(終了(おわ)った)
(オレの人生がここに……)
読者的には第1話の時点で終わっていたけど、ここでやっとアレン君は自分の死期を悟る。
うん。死亡フラグを立てすぎた。
まだ、大丈夫。これぐらいなら俺にも勝てる。
これらは全て死亡フラグだ。
さようなら。アレン君。
君のネタっぷりは忘れたくても忘れられない。
「ハララルルララッッ」
それはもうどうして俺の車に傷を付けたと言わんばかりにアレン君の肩を揺する!
範馬レベルの超筋力で揺するあまりに、アレン君の眼鏡が吹っ飛ぶ。
服やズボンのボタンもちぎれる。拳銃も手放す。
これだけで人体を破壊しかねないほどの荒技だ。
何とか開放されたアレン君は生きてこそいるものの、完全に脱力状態だ。
もしかしたら、骨が折れているかもしれないし、どこかひとつくらいは外れているかもしれない。
でも、何とか生き残った。
今のアレン君は地雷源を走りながら、どうにかこうにか踏んでいない状態だ。
何とか足が地雷から1mmほど外れてくれている。
1mmでも間違えれば死ねます。
以後、死亡フラグを立てないようにしましょう。
「ルガルララルルラガ…」
「ガガルラルルラガル…」
ハとルとラだけではなくガも混ぜて、ピクルはアレン君に向けて何かを伝えようとする!
目が血走っていて必死な形相だ。
挙げ句、平伏するように頭を下げて手を地面にぶつける。
なんか邪悪宗教の祈祷のようだが、ピクルなりに何かを伝えようと精一杯なのだろう。
(なにかを訴えているんだ)
(…………………なにかしてくれと………… なんとかしてくれと……)
ピクルの必死の訴えにアレン君も何かを察する。
何とか死亡フラグコースから外れた。
あとはピクルの訴えを理解できればどうにかなる。
…なるよね?
死亡フラグの山を帳消しにできるよね?
ピクルの訴えで考えられるのは、まずは銃弾の痛みだろうか?
でも、銃弾程度の痛みに屈する生物ではなさそうだ。
生物なんて銃弾ぶつけられれば大抵屈するけど、バキ世界においては銃弾程度で敗北してはいけない。
…外伝の花山薫はあえて忘れよう。頭喰らってたし。
それとも銃を使うアレン君に何か感じるものがあったのか。
自分のフルスウィングと同等の威力を、銃を使うことでノーモーションで実現したのだ。
銃を撃たれた時に自分も真似をしてみようと思って銃弾を投げてみた。
そうしたら頑張ってみたけど目の前の眼鏡と同じくらいの速度しか出せなかった。
この眼鏡は自分と同じくらいに強い。
そんな理屈が働いて、友情とか共存本能とかを感じたのだ!
うん。相当無理のあることを言ったと思う。
いずれにせよ原人の考えていることは理解できない。
目の前にいるアレン君には頑張ってもらうしかない。
せいぜい死亡フラグを踏まないようにしてくれ給え。
(いずれにしろだッッ)
(殺されることは無…)
馬鹿野郎!
あっさり死亡フラグを踏むんじゃねえ!
だ、ダメだこいつ…
これなら大丈夫は死亡フラグなんだぞ!
気をつけろ!すぐに後ろから刺される!
ああ、この場合は目の前にいる原人に殴り殺されるか!
さようなら…アレン君…!
バンッ
そして、予想通りにアレン君はピクルに肩を叩かれて吹き飛ぶ。
回転しながら吹き飛んで芸術点が非常に高い。
もう大ダメージだ。
ついに死んだか?
この吹き飛び方はグラップラー刃牙25巻で勇次郎が刃牙を払いのけた時のものと酷似している。
加えるなら、同42巻でジャックが紅葉を吹き飛ばしたものとも似ている。
範馬特有の吹っ飛ばし方をピクルはやってのけた。
範馬伝統の技をピクルが行ったため、範馬一族の可能性が飛躍的に高まった。
これは範馬の遺伝子が知る技なのかもしれない。
使い道は…えーと…
喰らった相手がギャグになる。
そんな範馬一族特有の大技を喰らいながら、アレン君は何とか意識を保っていた。
そして、立ち上がる。なんてタフガイなんだ!
でも、目の前はドロドロだ。
さすがに脳がぐるんぐるん回されただけある。
それでも、身体が生存を選んだ。
アレン君は酔ったような足取りでティラノサウルスが保存されている冷凍室へと向かう。
ここに避難すればピクルの魔の手は及ばない、という考えだろうか。
隠れられたとしても寒さで死ぬと思うけど。
まぁ、脳みそぐるぐるだししょうがない。
アレン君は常時脳みそぐるぐるだけど。
ふらついた足取りで冷凍室の扉前まで到着し、パスワードを入力する。
追われている時にパスワードを入力すると、扉を開けるまでは大丈夫だが開けた途端に追いつかれるのがこの世のサガだ。
というわけでピクルが扉が開くと同時に追いつく。
アレン君は最後の最後まで王道を選んだ男であった。
君の勇姿は忘れない。忘れられない。
が、ここでもアレン君は何とか地雷を踏み外した。
冷凍室の中にいたティラノサウルスの匂いをピクルが嗅いだのだ。
かつての宿敵にして主食に逢おう冷凍室に入る。
「ア゛ァア゛ア゛ア゛ラァ゛ア゛」
ピクルが叫んだ!
ティラノサウルスの氷付けの姿を見て、自分も氷付けになっていたことを思い出したのだろうか?
それとも、アレン君に切り取られた数百グラム分の肉の跡を見て、ブチギレか?
何にせよ何を考えているのかわからないから、この怒りが何なのかも掴めない。
(ひょっとして…)
(ひょっとしてこれって…)
(捕獲成功ォ!!?)
と、その隙にアレン君は扉を閉めた!
捕獲成功だ!
絶対抜け出されるだろうけどな!
ここまで来たらピクルの目覚めに呼応して、ティラノサウルスが目覚めてもおかしくない。
というか、ピクルを凍死させたらどうするんだ。
せっかくの世期の大発見及び大成功が水の泡になってしまう。
あ、理想的な環境に置けばすぐに復活してくれるか。
とにもかくにもいろいろとあったけど、アレン君は今週も生き残った。
格闘家ですら一瞬で叩き潰されることがたくさんあるのに、アレン君は数週間も生き延びている。
これは快挙だ。
もし、ムエタイ使いだったら1話のうちに死んでいたな。
ムエタイ研究者アレン君!
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