範馬刃牙 第188話 友情の証
漫画のキャラなら誰だって命を賭ける時がある。
恋した女を守るため、己の誇りを守るため…
そして、ストライダムが命を賭ける時は今だ!
いや、アンタは命の使い方を間違えている。
ギャグにしかならない命の使い方だぞ。
そんなわけでストライダムですよ、ストライダム。
我々は彼の過去を見て何を思い出すだろうか。
驚愕役。
これしか思い浮かばない。
ボケとツッコミで言ったら間違いなくボケ側の人間だ。
でも、ストライダムは米軍を代表する男ですよ。
アオリではいつの間にか米軍の最強兵士になっている。
…そんなに凄い人だったのか?
ここに来てストライダムの評価がヤケクソ気味に上乗せされた。
この評価に実績は伴っていないけど。
そんな渦中の人、ストライダムは基地内の敷地に立っていた。
当然、完全(笑)武装だ。
ここに勇次郎を呼んだのだろう。
どうやらストライダムは本気で戦うつもりらしい。
本気だったのかよ。
止めてよね、君が本気で勇次郎と喧嘩したら生きて帰れるわけないだろ。
[ストライダムよ……………… 俺との関係を維持したくば―――――]
[年に一度―――――――― 俺を狙え]
と、無謀というか絶望的なストライダムの挑戦は、どうやら勇次郎からの注文だったらしい。
そりゃそうだ。
ストライダムがいきなり勇次郎との決戦を試みるほどのアホの子ではない。
ここ2週間は完全なアホの子にしか見えなかったけど。
勇次郎はストライダムにノールールで襲い掛かるように言いつけていた。
刃物あり、銃器あり、爆薬あり、さらには核までもあり。
このどれを使っても勇次郎に勝てる気がしないが、それほどのレベルで命を狙うように言いつけていた。
[全身全霊を傾けよ 必ず仕留めると決意せよ]
[範馬勇次郎の][知己を名乗りたくば―――]
[オーガの側近と 認められたくば―――]
[それが―――]
[唯一無二の方法だ]
そして、勇次郎と戦わなければ側近として認められないらしい。
…勇次郎はストライダムを側近と思ってたんだ。
意外だ。
勇次郎からそう思われるのは光栄なこと…かもしれない。
ストライダムも毎年命を張るってもんですよ。
周りからは勇次郎の腰巾着程度にしか捉えられていないのかもしれないけど。
しかし、側近の契約更新のために1年に1度、命を賭けるというのは大変だ。
致死率は100%を上回るレベルだ。
悲惨なクリスマスプレゼントとはまさにこのことだ。
命は投げ捨てるものとでも言いたいのか?
[ストライダムよ…]
[殺すつもりで企め]
それって勇次郎も殺す気ということですよね。
…止めておこう、ストライダム。
1年に1度もこんなことを繰り返しておいて、今生きているということが奇跡だ。
ミラクルにもほどがある。
ともあれ、ストライダムには相応の覚悟があるのだろう。
勇次郎に挑むからには半端な覚悟では逆に命取りだ。
そういう態度の人間を叩き潰すのが勇次郎の趣味だ。
趣味呼ばわりしちゃったけど、そうした半端者を叩き潰すことが非常に多い。
ジャガッタとかサムワンとか。
ストライダムも歴戦のムエタイ戦士のようにスクラップにされてしまうのか?
いやいや、ストライダムはムエタイを餌にした男ですよ。
同じように勇次郎だって餌にしてやる!
そんな決意を抱いていることだろう。
決意というよりも勘違いか。
「おい……」
明日じゃなく今日やる!
そんな決意をしているストライダムの背後から突如声がかかる。
背後には勇次郎が立っていた。
神出鬼没の勇次郎らしく、音もなく現れた。
心臓が止まるほどのドッキリだ。
だが、戦いを決意したストライダムならばこの程度では動じない!
「オ゛ブッ」
さて、びっくり仰天したストライダムさんは後転で転がりながら間合いを離す。
このダメリアクションひとつで積み上げたもの全てが崩れてしまった。
いや、積み上げたものはムエタイを屠ったことくらいだけど。
チャンピオン1週間分しか積み上げていない。
しかし、ストライダムはくるくる回るだけじゃない。
回り終えたら構える。
その構えはまさしく戦士のそれ。
それはそれ。
でも、もう失うものは失った気がする。
面の向こう側の顔は、涙目の気もする。
ストライダムは前口上を述べようとする。
とりあえず、何か気の利いたことを喋っておきたいところだ。
地上最強と地上最自由の両方を同時に相手できることは滅多にないくらいは言っておきたい。
前口上くらいは見せ場にしないと、何も出来ずに終わってしまうぞ!
「アハハハハハハハハハハハハ」
「ハハハハハハハハハハ」
「今回はんだと!!?」
「いいッ」「言わんでいいッ」
「去年は100年に一度の――――――
2年前は類稀にみる――――――
その前は空前絶後の――――――」
「まるでボジョレ・ヌーボのキャッチフレーズだぜ」
前口上すら潰された!
試合開始前に全ての手札を投げ捨てられたようなものだ。
あとはずっと俺のターンを食らうだけですよ。
しかし、去年の前向上を覚えているなんて、このイベントは勇次郎にとってけっこう楽しみなものなのだろうか。
飽きずに毎年やらせていることから、ストライダムのことを評価していることが伺える。
こうなったら後は生身で戦うしかない。
リアクションで得票数を稼げる時代はこれで終わりました。
燃え上がれ、ストライダム。
だが、ストライダムは燃え尽きていました。
戦意を失ったように視線を下に向ける。
ダ、ダメダメだぁ…
その隙を突き、一瞬で勇次郎がストライダムの元に歩み寄りヘルメットを蹴り飛ばす。
ヘルメットだけが綺麗に吹っ飛んだ。
ストライダムには傷ひとつない。
だが、唖然とする。口をぱっくりと開けて完全に無防備だ。
無傷なのに致命傷だ。
「ストライダム」
「約束を違えたな」
「勝てるハズがないと捨ててかかってるッ」
あまりの失態続きに勇次郎からお前ダメ判定が下されてしまった。
いやいや、あなたを満足させる気満々ですよ。
ストライダムはそう返答したかったのだろう。
でも、冷や汗ダラダラで返答に困っている。
即答できない時点で答えを自ら出した感がある。
「イヤ……」
(火薬を仕込んだこの拳を…ッッ)
(火薬を仕込んだこのツマ先を…ッッ)
(せめて一撃でもッッ)
でも、勝機はあるよ。
勇次郎に突っ込まれてから3コマ後の返答だったが、勝機はあるよ。
勇次郎だって麻酔には負ける。
ならば、火薬にだって負けるだろう。
そんな根拠のない自信がストライダムの脳を駆け巡ったに違いあるまい。
「オーガと言えども人の子… 範馬勇次郎らしくもない読み違い」
ストライダムは自信ありげに笑みを浮かべ、語り出す。
馬鹿野郎!それは死亡フラグだ!
こんな笑みを浮かべた人間は直後に落ちぶれる。
殺られずに殺ると言い出したJr.とか。
これは金的フラグか?
いや、ストライダムは本気で勇次郎を殺す気でいる。
ならば、きっと!
バコ
と、その時、先ほど勇次郎が蹴り上げたヘルメットが落下してきた。
蹴り上げたのなら当然落下する。
万有引力の法則に従った当たり前の現象だ。
だが、このことにすらストライダムは妖怪と出会ったように驚く。
さっきまでの笑みは消え、その表情は凍り付く。
ダメダメだ。せっかくの見せ場なのに未だかつてないほどに失点を重ねている。
この人は本当に勇次郎に勝つ気でいたのか?
さらにそれと同時にストライダムの着込んでいる防具が真っ二つに割れる。
胴だけじゃなく、股間を守るプロテクターも両断にされていた。
勇次郎はヘルメットを蹴り上げると同時に防具を切り裂いたのだった。
防具と共にストライダムの戦意も一刀両断にした。
さすがに破壊の達人、勇次郎である。
完璧なタイミングで防具を破壊する熟練の破壊技術だ。
パフォーマンスも地上最強なだけのことはある。
こうして心も防具も砕かれた。
ストライダムに残されたのはボンバーパンチだけだ。
当たりさえすればガンダムにだって勝てる!
そんな自信を持っておりました。少し前までは。
「オーガよ…………」
「読み違いも甚だしい」
でも、不敵な態度は崩さないストライダムであった。
冷や汗だらだらだけど、不敵な態度は崩さない。
態度くらいは保っておかないともう何もかもがダメだ。
何もかもがダメになっているけど、何もかもがダメになる。
「わたしはね……」
「たった今捨てたのだよ」
と、偉そうに降参した。
偉そうにダメな人だ。いつも通りのストライダムだ。
そうして、両拳をぶつける。
あ…そんなことをすれば火薬が…
「Aッchiiッ」
当然、火薬は爆発する。爆風をストライダムはモロに受ける。
そして、ストライダムが面白い悲鳴をあげた。
オリバの「ITEッ」並みに面白い。
まさに身体を張ったギャグだ。
ん?
こんな面白い悲鳴をあげることが出来るということは、火薬なんて勇次郎には当てても通用しないんじゃ…
そんなわけで結局、勇次郎に挑むことはギャグ以外の何物でもなかった。
まぁ、ストライダムだからしょうがない。
「………」
この身体を張ったギャグに対し、勇次郎は思わず無言だ。
滑ってしまったのか?
実力では相手にもならなかったから、自爆ギャグをやってみた。
しかし、これで黙られると辛い。
結局、ダメなままだ。
ストライダムは勇次郎の側近として認められたのだろうか。
いや、こんなギャグをやったんだから認めて欲しいですね。
自らの命を賭けたギャグをやったんだから少しくらいは報われて欲しい。
新年が明けたら段ボール暮らしになっていたら笑えるのだが。
次回へ続く。
ストライダムが勇次郎に挑めばどうなるのだろうか。
それはギャグ以外の何でもなく、見事にギャグにしかならなかった。
まぁ、さすがに無理ですよね。
うっかりストライダムと勇次郎を戦わせてみようと思ったが、どうしても戦いにならなかった結果がこれなのだろうか。
いや、まともな試合にもちょっとばかりは期待しちゃった私もいる。
期待するばかりでまったく内容が思い浮かばなかったけど。
強いて言えば試合にならないという試合だけが思い浮かぶ。
結果、そうなってしまった。
試合前のパフォーマンスの時点でストライダムは完全敗北だ。
瓦割りで勝負ありと言われるような悲惨な敗北だ。
Aッchiiッがなかったら何もかもが終わっていたところである。
Aッchiiッのおかげでギャグにはなれた。
ギャグにはなれた!
ストライダムは結局はストライダムであった。
変わらない君が美しい。
こういったところを勇次郎は評価しているのかもしれないな。
意外にも一緒にいれば飽きない人なのかも。
とりあえず、リアクションはものすごく上手い。
Aッchiiッ。
こんなことを楽しそうに(楽しそうに?)言ってくれる友人は私も欲しいと思う。
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/ ⌒ ⌒ \
ハハッワロス
| ,ノ(、_, )ヽ |
\ トェェェイ /
/ _ ヽニソ, く
こんな笑みを向けそうだけどな。
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