範馬刃牙 第239話 好事魔多し



独歩がやりすぎてしまったぞ!
三村の冥福を祈る。
あそこから生き残ることができたら現代医学の神秘を感じてしまうほど。
治っても二度と立って歩けそうにないな。


「うおおお……ッッ」

肋骨をむしり取る独歩に徳川光成は興奮する。
地下闘技場でも肋骨が飛び出る自体はそうそう見られないだろう。
禁じられた技術による虐殺であった。

しかし、興奮する辺りが徳川光成の巨凶っぷりだ。
腫瘍に肉体を冒されても文句は言えないな。
むしろ、然るべき報いだ。
親族の首を絞めさせ合うくらいの暴虐はやりそうだ。

当然、こんなことをやれば独歩は警察に捕まる。
グラップラー補正はさすがにここまで効かなかったようだ。
ドイルを八つ裂きにした烈は無罪だったのだが、白昼堂々と殺人を犯すのは不味かった。
栗谷川は(何故知っているのかは置いておくとして)事情聴取の様子を語る。

「使用(つか)いたくなかった」
「使用法に誤りはないが…………」
「できることなら……… 封印しておきたかった技術だった………」


使いたくはなかったと独歩は述懐する。
あそこまでやっておいて使いたくなかったも何もないが、独歩としてもやりたくはなかったらしい。
でも、今の独歩ちゃんは素人に喧嘩をふっかけるくらい、殺傷本能(キラーインスティンクト)が昂ぶっている。
使いたくないことを使えて、ある意味本望なのかも知れない。

本当に使いたくなかったのなら、喉仏を切断した時点で勘弁してあげれば良かったのに。
牛刀を真剣白刃取りや廻し受けで流してもいい。
過剰なまでの武で叩き潰してしまった。
巨砲主義で出し惜しみが一切ない。

「徒手(素手)の武術 空手 拳法には 存在してはならない技がある」
「不当な暴力による愛する者への生命の危機 圧倒的弱者への一方的な暴力的危害」
「そして戦争……」
「使用が認められるとするなら それら例外的ケースのみ」


餓狼伝でも語られた緊急時のみに使うことが許される技術であった。
この条件には自分の命を守ることが含まれていない。
自分の身を守るだけなら最低限の攻撃で事足りるかもしれない。
だが、他者を守るとなれば話は別だ。
護身を越えたレベルでの防衛行動に必要な技術であった。
でも、やっぱりやりすぎじゃなイカ?

今回の件は「圧倒的弱者への一方的な暴力的危害」に属するだろう。
独歩は鍛え上げた技術を誰かを守るために用いた。
立派だ。やりすぎだけど。萌え系アニメでバキネタを使うくらいやりすぎだ。
グラップラー一同はもうちょっとナチュラルな地点に立てないのだろうか。
あるいは正気にて大業はならずとも言うし、これくらいじゃないとグラップラーに仲間入りできないのか?

「使用法に誤りはありません」

それ故にあくまでも自分の無罪を主張する独歩であった。
何となくありだと思ってしまいそうな説得力だった。
年の功と言うべきか、巨大組織を治めてきた主の貫禄と言うべきか。

だが、グラップラー的には筋を通したが、法的には筋が通るのだろうか
マスコミも騒ぐぞ。
独歩ちゃん、最大の危機かもしれない。
もしかしたら法廷で争う逆転神心会が開かれるのかも。
危なくなったら末堂と加藤がうりゃっけいっして応援するぞ。


一方でベガスでは烈とクレーザーの戦いが続いていた。
烈のジャンプパンチを受け、クレーザーには大きなダメージが残っていた。
何だかダメージがなさそうなクレーザーだったが、ちゃんとピンチらしい。

烈もクレーザーのダメージを感じ取っており、好機と捉え一気に攻めていく。
4連突きが顔面にも腹部にも次々と突き刺さる。
どれも手応えを感じている。
片脚を失ったといえ、烈の打撃には陰りが見えない。十分な破壊力なのだろう。
アライ父曰く、ここからは殺し合いだそうだが、本当に殺し合いになるのか?

ザクッ

だが、ここでクレーザーの右フックが烈にクリーンヒットする。
一瞬、意識が飛んだのか、次に放たれたボディもまともに受ける。
押されている時にこそ手を出す。
後退を知らない男、クレーザーの真骨頂か。

危機を感じた烈はジャンプで逃げようとする。
何か寒い格ゲーのような対処法だ。とりあえず、飛んで逃げろ。
だが、その刹那にクレーザーのパンチが入る。
飛んだ瞬間に殴られて、非常に間抜けだ。
烈にはこんな間抜けな姿がよく似合う。

上からの攻撃に対処できないなら、飛ばれる前に潰せ。
これは独歩が天内悠戦において実践したものだ。
シンプルにして要を押さえている対策である。
なお、これが車田正美漫画だったら相手よりもさらに高く飛んで迎撃する。
クレーザーもそんなことをやっていたら、イロモノボクサーの道を歩めたかも。
殺し合いではなく、ギャグになるが。

打ち落とされて、クレーザーのターンは持続する。
忘れられがちだがクレーザーのパンチは鋭利な切れ味を誇るグローブパンチだ。
受けてもダメージが貫通してくるぞ。
理屈は相変わらずわからないが。

(なんという…)
(何という精神力… 肉体には…………)
(深いダメージが)(刻まれていように…)


烈はクレーザーの肉体よりも精神力に驚愕する。
心情がほとんど描写されないからわからないが、ハートの強さが自慢らしい。
それはピクルにはなかった強さだ。
…いや、ピクルさんは弱いわけじゃないんだけど…むしろ、最強の一角なんだけど…

思えば烈は精神力が強い相手との試合はなかった気がする。
もつれにもつれた寂海王戦も精神力というよりも人間力に苦しめられたし、
敗北した刃牙やピクルとの試合は異常な肉体に負けたカタチだ。
ダメージでも折れない精神の持ち主と戦ったのは初めてか。

その時、烈は回転し足を振り回す。
回し蹴り!?
ついに足技解禁か?
貴様は中国武術を嘗めた!私はボクシングを嘗めた!

と思ったら、ロープを蹴った。
そして、その反動を活かして殴る!
義足で劣った脚力を環境利用によって補っている。
天才烈海王の並外れたセンスは健在だ。
試合ではなく実戦で鍛えられているからこその機転の効き方だ。
ボクシングのテクニックやルールに縛られていないのも大きそうだ。
だが、一歩間違えればどぢっ子烈海王になる。

烈のロープを利用したパンチは文句なしのベストヒットだった。
リングにかけろだったら見開きで宇宙が展開されますよ。
だが、クレーザーは怯まずにアッパーで烈を吹き飛ばす。
強いのか弱いのか、よくわからなかったクレーザーだったが、今は間違いなく強い。
烈の打撃を受けてもなお折れていないのだ。

(これが……スモーキンジョー…)

(そうなんだよ……)
(奴は………)(スモーキンジョーなんだよ…………………)

(イッツ…… スモーキンジョー……)


烈、深町コーチ、アライ父はGNr粒子でも散布されたように同じ思考をする。
何が煙りなのかはよくわからないままだが、クレーザーの何たるかは示した気がする。
これほどの強者がチャンピオンになれないということは今のチャンピオンは規格外なのか?
ついにボクシング復権の時が来るのだろうか。
来て欲しいような来て欲しくないような。

(さらなる上位(うえ)で使用されるハズだった――――)
(秘術(とっておき)……)
(今……封印を解く………)

吹き飛ばされながら烈は拳の握りを変える。
グローブ越しに見たその形は人差し指一本拳だ!
数多の人中を穿ってきた魔性の拳である。
…ん?人中?
止めろ、人中の必殺率は50%以下だぞ!第209話

ともあれ、拳の形を使い分けるのが烈の秘策らしい。
でも、それはいつもなら当たり前のようにやっていることだ。
その当たり前さえも烈は封印していた。
苦戦するのも道理か…

一本拳でどこを穿つのだろうか。
ボクサーの慣れていない生の拳の感触で攻めるのだろうか。
しかし、秘密兵器が一本拳なのはやや拍子抜けだな…
もっとも、烈のことだから変態的な展開になるかもしれないが。
次回へ続く。


愚地独歩、無反省であった。
正当防衛とかそういう理由じゃなく、グラップラー的な言い訳ができると踏んだからオーバーキルしたのだろうか。
独歩ちゃんは狡猾な一面がある。
実は計算尽くで殺したのかも。

それにしても独歩が素直に連行されていたのも意外だし、グラップラーが連行されるのも意外だ。
今までグラップラーには特別な法令が適用されていると思っていた。
例えば、路上で戦っても罪に問われないとか。
例えば、公園でフンドシ一丁になっても罪に問われないとか。
例えば、上半身裸になって川を走っても罪に問われないとか。
そっかー…捕まるんだー…

これから独歩はどうなるのだろうか。
まぁ、いざとなれば徳川光成が動くだろうから心配はないか。
あれだけの物を見せられた以上、警視総監に札束をkgで渡すに違いあるまい。

これで独歩の話は一区切りだろうか。
マッチメークって独歩VS三村だったのか?
それってマッチメークというか、単なる残虐ショーな…
徳川光成が満足したのだから、些細なことにこだわっても仕方ないか。

一方で烈VSクレーザーはついにというかやっとというか、何とかクライマックスだ。
たった2R目だというのに長い戦いに思える。
クレーザーとの戦いが始まったのが第222話、9月だから3ヶ月以上は戦っている。
まさかの長期戦だ。まぁ、千春が割り込んだせいもあるけど。

クレーザーはどれだけのダメージを受けても屈せず烈への攻撃を止めない。
烈の攻撃にこれだけ耐えるということは相当なタフネスの持ち主だ。
片脚で打撃力が落ちたことを考慮してもなかなかのものである。
ボクシングをやっていなかったら、もっと輝けたのかも知れないな。

そして、烈の秘密兵器は人差し指一本拳だ。
一本拳かー…
バキ世界においてはあまり効力を発揮していない地味な存在だ。
ただそれは使うのも使われるのも当たり前なのだからかも。
ボクシングに輸入すれば大活躍か?
それってボクシングのレベルが低いってことになるんじゃ…

だが、最近の展開はターン制だ。
次回、また別のキャラに焦点が当たるかもしれない。
格闘家が都心部で大暴れしちゃうか。
魔都新宿が生まれそうだ。

それにしても突っ込んじゃいけないのかもしれないけど、クレーザーのやっていることのどこが殺し合いなのだろうか
どうみても普通のボクシングにしか見えないのですが…
でも、アライ父はビッグマウス気味だからな。
クレーザーのバックにアライ父が立った時点で何かが失敗していたのかもしれない。



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