範馬刃牙 第252話 仕置き



スケールのでかい親子喧嘩が続いている。
さすが人外一族にして変態一族のツートップだ。
飛び降りも通過点に過ぎない。
刃牙がまた飛び降りをする可能性だってあるぞ!

[“ピンチ力”という言葉がある]
[“摘む力”を表現(あらわ)わす言葉だ]
[ピンチ力を鍛えるため]
[様々な器具も存在する]
[結果――――それに伴う“力技”が出現する]
[“王冠裂き”“釘曲げ”“コイン曲げ”“トランプちぎり”]
[そのレベルに達した場合]
[“抓る”………の意味も違ってくる…………]


ピンチ力と云えばかつてオリバとゲバルが行った力比べが思い出される。(第43話
ピンチ力もとい握力はバキ世界では重要なステータスだ。
握力自慢に弱者はいない。
オリバもゲバルもそうだし、特に花山は握力ひとつでその存在感を示している。
シコルスキーだけは忘れろ。

地上最強と名高い勇次郎もまた握力が並外れていることは想像に難くない。
そんな勇次郎がつまむとどうなるのか。
指の力だけで刃牙を持ち上げている!
……もう実力差があるってレベルじゃねーぞ!

「〜゛〜゛〜゛〜゛〜゛〜゛〜゛」

刃牙は連載史上初めての悲鳴を上げながら苦しむ。
マゾと名高い刃牙もさすがに地上最強のつねりには耐えられないらしい。
この危機に刃牙は何もできていない。
闘争にさえなっていない仕置きでこの有様だ。
何かもう明るい未来が一厘も見えない。
今からラスベガスに行って烈の応援をしたらどうだ?

勇次郎相手に刃牙は急所を狙わなかった。
ピクルにはカスりパンチに金的と急所で妖術を使い放題だったのに……
それが勇次郎にとってよっぽどご立腹だったようだ。
勇次郎の方が圧倒的な格上なのに、刃牙には格下の扱いを受けている。
そりゃあプライドも地上最強の勇次郎は怒る。

勇次郎は刃牙の頬をつねり持ち上げ、そして投げ捨てる。
単純な行為ながらも勇次郎の膂力と刃牙との実力差が示されている。
赤子の手をひねるとはこのことだ。
こういう時におとなしくやられてくれるのは刃牙の少ない美点だ。
たまに謀叛を起こして大物食いするところはかなりの欠点だが。

「手加減する資格……」
「貴様にあるのか…?」
「答えるぉぉ!!!」

「痛ぇだろバカッッ」


何故か巻き舌で吠える勇次郎と親に折檻された子供のようなことをいう刃牙だった。
いや、実際に折檻されたか……
刃牙の頬からは血が出ている。
勇次郎のつねりによって、皮膚が若干ながら破れたのだろう。
肉をちぎられなかっただけ、勇次郎にも手心があるということか……

刃牙は勇次郎の問いに返答しない。
親子喧嘩だから急所は狙わないというスタンスのようだ。
刃牙がそれを自分から反故にすれば、範馬勇次郎との親子喧嘩という奇跡に等しい所行を自ら投げ捨ててしまう。
だから、言わないし言えないのだろう。
幸い、勇次郎もこの親子喧嘩に興じてくれているし。

「フフ……」
「長い夜になりそうだ………」


そんな刃牙を見て勇次郎はとても嬉しそうだ。
刃牙が親子喧嘩に耐えうる器になったことが嬉しいのか。
あるいは刃牙と親子喧嘩をできること自体が嬉しいのか。
いずれにせよ、親馬鹿冥利に尽きていることは想像に難くない。

ともあれ、これで刃牙も本格的な戦闘モードに入った……はず。
まずはさりげなく靴紐を緩める。
そして、ジャンプしながら勇次郎に向かって脱ぎ捨てる。靴投擲2連撃だ。
靴を相手に向かって脱ぎ捨てるのはバキ世界における陽動としては基礎技術だ。
ドリアンのようにパスの形で渡すことで相手を油断させることもあれば、渋川先生のように他の小物との時間差で投げつけることもある。
死刑囚から達人に至るまで、あらゆる格闘家が実戦で活用する技術なのである。

地下闘技場チャンピオン、範馬刃牙にとってもこの技術は習得済みであった。
ガイアの部隊と戦った時にも使っていた。
シンプルにしてディープな技術と言える。
ムエタイ使いもこの技術を体得していたら、もっと待遇は変わっていたのかもしれない。
あいつら、靴履いていないけど。

それを勇次郎は首の動きだけで難なくかわす。
もちろん、それは刃牙にとっても予想の範疇なのだろう。
本命は刃牙の得意技とも言えるハイキックだ。
春成や妄想アイアン・マイケルを一撃で下し、100kgのカマキリやピクルにも用いられたハイキック!
雑魚退治から大物への必殺技にまで、幅広く使用されてきた刃牙の十八番である。

(どこまで行っても…)
(親子喧嘩!)
(だから…………)
(急所は狙わない……………!)


そんな刃牙なりの信念の元に放たれたハイキックであったが――
そもそも親子喧嘩でハイキックを用いること自体が特殊である――
勇次郎は軸足に膝裏を突き、刃牙の体勢を崩すだけでいとも簡単に無力化した。
無駄な動きをしないだけに留まらず、刃牙の体勢を崩すことで次の攻撃も予防した
地上最強の生物、勇次郎らしい無駄のない対処であった。

まぁ、刃牙さん、無駄にジャンプなんかしちゃったから、勇次郎としても対処しやすかったのかもしれない。
おとなしく立ったまま投げつければ良かったのに。
並み大抵の速度だと靴が完全粉砕されてしまうと踏んだのか?
範馬一族の駆け引きはやっぱりよくわからぬ。

だが、刃牙も激戦を潜り抜けてきている。
バランスを崩しながらも1回転してバックスピンナックルを放つ。
しかし、それも勇次郎が若干前傾姿勢になることで腕の付け根を抑え無力化された。
腰に手を当てたまま、必要最小限の動作で刃牙の攻撃を無力化している。
圧倒的な戦力を振り回すだけではなく、無駄なく使うことができるのも勇次郎の恐ろしいところだ。

力だけなら勇次郎クラスはあったピクルだが、こうした小技は使えなかった。
だから、小技というか妖術で武装した刃牙には対抗できなかった。
だが、勇次郎はさすがに違った。刃牙の領域でも戦うことができるのだ。
勇次郎名物破壊芸はやたらと芸が細かい。この細かさが闘争においても活かされているのだろうか。
妖術だってそのうち使う。後光出したりするのは妖術の範疇か?

「聞きわけのないガキだ……………」

そう言って刃牙の額に拳骨を振り下ろす。
パンチではない。ただの拳骨だ。
だが、スピード・タイミング・部位……全てが完璧だったからか、これだけで刃牙の意識は朦朧とする。
勇次郎との戦いが始まって以来、刃牙はこればっかりだ。
とことん刃牙らしいというか。

この人、勇次郎と戦うこと前提でトレーニングを積んできたはずなのに、攻撃をかわすどころか受けることさえできていない。(第172話
これではピクルが報われないというものだ。
エンドルフィンが足りないのか?
やっぱり、もう一度墜落する必要があるみたいだ。

刃牙は光を失ったおぼろげな視線で彷徨う。
まるで意識を失ったようで、ただのダメージではなさそうだ。
脳震盪でも起こしているのだろうか。
勇次郎は人の頭を掴んだだけで脳震盪を起こせる。
ならば、拳骨一撃でも十分震盪せしめるのか?

そんな刃牙に向かって勇次郎は蹴りを振りかぶる。
数度目になる尻キックか?
あまりの打撃だからか、辺りを閃光が包む。
その時、イメージされたのは赤子の姿だ。
まさに赤子の手をひねる状態ということだろうか。
事実、それくらいの戦力差を見せつけられている。

[急所を……]
[狙わないとは云え…]
[ダメージを…………… 狙わないとは云え……………]
[相手は範馬勇次郎]


お互いに急所を狙わないのなら、その実力差は埋まることはない。
そして、勇次郎の強さは急所を狙うからではなく、その圧倒的な肉体によるものだ。
刃牙は絶望的な戦いに身を投じてしまった。
いや、わかりきっていたことか。
そもそも、ピクル相手に妖術を使わなければ対抗できない状態で勇次郎に挑むのは不味かったんじゃないのか。
絶望的な状況を抱えたまま、次回へ続く。


延々と実力差を見せつけられる刃牙であった。
まだエンジンがかかっていないからかもしれないが、やられすぎではないだろうか。
刃牙はエンジンがかかると胡散臭い強さを発揮するが、そうじゃない場合のやられ具合は異常だ。
序盤はローギアー、中盤以降はハイギアーで行く作戦だろうか。
ヘタれの刃牙とインチキ臭い刃牙の両面を味わえる作戦だ!
……あんまり嬉しくないな。

刃牙の本気レベルは通常時→エンドルフィン放出→範馬の血モード→鬼の貌モードとなっている。
通常時の刃牙は弱い。殴られたり蹴られたりで一発気絶は良くある話だ。
エンドルフィンを出すとランクが一つ上がって、さらに範馬の血モードになると中国四千年を上回るほどだ。
鬼の貌を出すと最大トーナメントを優勝できます。
でも、ピクル相手にエンドルフィンだけで勝って、オリバには鬼の貌でやっと勝利したり、どうも基準がよくわからないんだよな。

とりあえず、現状の刃牙は数ある刃牙の中でも最弱の通常時だろう。
いつものトランクスにさえなっていませんよ。
そんな刃牙なんてたかが知れているというものだ。
今すぐパンツ一丁になってしまうか?
よく考えればホテルのフロントで戦っているから、パンツ一丁が躊躇われるのかもしれない。

とんでもないスケールで戦っているが、急所を狙っていない喧嘩レベルの勝負だ。
最大トーナメント決勝の打撃戦をウォームアップと例えたエピソードが思い浮かぶ。
闘争に発展した時どうなることやら。

しかし、こうなってくると驚き役と解説役がいないのが寂しいと言わざるを得ない。
名勝負の影には驚き役と解説役がつきものだ。
だが、現状ではどちらも担当してくれる人がいない。
総理に期待しても仕方がないし、グラップラー一同の集結が待たれる。

ここで出るべきは本部、アンタだよアンタ。
今回の勇次郎の体捌きだって本部がいればもっと盛り上がったはずだ。
「下がれ刃牙ィッッ」とか「そうくるか勇次郎ォッッ」とか、本部がいればナイスリアクションが期待できた。
もったいないったらありゃしない。

断言できることは今の刃牙がやるべきことは、早急に驚き役と解説役を連れてくることだ。
ピクルとの戦いだって、刃牙だけがやたらと驚かれて解説されていた。
だから、圧倒できたと見るべきだろう。
そう見ろ。

とりあえず、驚き役の元祖である加藤と末堂、解説役の元祖である本部は欲しい。
解説役としての揺るぎない地位を高めてきた烈も欲しいところだが、残念ながらベガスにいるのが悔やまれる。
まぁ、ワガママも言っていられないから、驚き役解説役を無理にでも連れてくるべきだろう。
さすがにフロントやマネージャーにそうした大役をやらせるにはもったいないカードだ。

でも、解説役驚き役がいても、勇次郎だけを解説して驚きそうなのが怖いところだ。
いや、打倒なのかもしれないけど。現状、刃牙に驚く部分ないし。
強いて言えば起こしてよと頼んだところだ。
あれには「その手があったか〜」と本部だって太鼓判を押すに違いあるまい。
……今の刃牙はボケしかできていないのはさすがにどうかと思う。



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