範馬刃牙 第309話 母と同じ



最終回まであと4話だ!
チャンピオンの表紙でもアピールしている。
実際に長く続いた親子喧嘩のフィナーレは目前だ。
だが、刃牙にはイロイロな意味で油断できない。
イロイロな意味で。


メキャッ

(折!!!)

最強と最愛の二つを同時に満たす博愛固めが刃牙に決まった。
ただのベアハッグと言えど勇次郎が行えば勝手が違ってくる。
そして、ベアハッグは決め手として愛用されてきた。
勇次郎はもちろん、オリバもドイルを捕らえる時に用いている。
ただ腕力だけで行う。
それだけに決め技として相応しいのだろうか。

生気のない顔で殴っていた刃牙もこれには意識を取り戻す。
ダメージを負いすぎて意識を取り戻した。
肋骨が折れるのを感じている。
骨折は大ダメージなのだ。骨折すれば負ける。
骨折しても勝てるのは刃牙くらい。ズルい。

(何度め…?)
(今宵…)(何度めの…)
(“さすが”…?)


そして、父親の強さも感じていた。
今まで嫌というほど思い知らされ、今宵も嫌というほど思い知らされた。
埋めがたい差があった。
それは強さではなく父と子の差なのかもしれない。

刃牙には悔しさよりも清々しさがあるように思える。
今まで以上に全力を尽くした。
悔いはないし残された力もないか。
だから、脱力に任せ刃牙は倒れる。
勇次郎に逆らう余力も気力もないか。

(同じだ…)
(5年前のあの時と……)


ここでこの場で唯一5年前のあの日のことを知る花山の出番である。
博愛固めは朱沢江珠を殺した技だ。
骨を砕かれ、鼓膜を破られ、それでも勇次郎に向かっていった朱沢江珠にトドメを刺した。
それを見た男としては反応せざるを得ない。
この役目は刃牙の友人である花山が思い出してこそだ。
ストライダムがいなくて良かったですね。
あいつ、何やってんだろ。

倒れた刃牙の姿を勇次郎はじっと見る。
すると肉体が透けてくる。
勇次郎は一目で肉体の負ったダメージを見切ることができる。
勇次郎が初登場した時にやってみせた能力で、近年になり設定として昇華されている。(第194話
急所を見切る能力、即ちダメージを見切る能力に等しいのだろう。
そんなわけで刃牙のダメージは以下の通りである。

[下顎骨…骨折 オトガイ結節……骨折… 下顎枝…………骨折 他…亀裂多数]
[左眼窩底…骨折 鼻骨…陥没 上顎骨…骨折 他…亀裂多数]
[前歯奥歯共に磨滅……欠損……損傷多数]
[両鼓膜……… 破損…]
[頸椎…… 左右捻挫……30度以上]
[肋骨……骨折6か所]
[両手骨及び手首…]
[共に軽度の炎症]
[両足骨……軽度の捻挫……]
[共に軽度の炎症]
[全身 余す所なく皮下出血……]
[脳…… 内臓…数か所の………………]


とにかく、全身メチャクチャということであった。
さりげなく歯が砕けているのがポイントか。
刃牙の歯はやたらと硬い。
今まで殴られまくってジャック戦とオリバ戦でしか砕けていない。
それだけに刃牙の歯が砕けるというのはそれだけで一大事なのだ。
でも、砕けていると言っても奥歯だけだし、一番折れやすいはずの前歯は健在だ。
ピクルとの殴り合いでも砕けなかったし、刃牙の歯は進化しているのか?

あまりの惨事に勇次郎でさえ途中で数えるのを諦めてしまった。
頭を抱えるほどだ。
勇次郎は同じくらい人体を破壊したことは幾度もあろう。
けれど、全力で殴ってこのダメージで済んだ上に存命しているのは間違いなく初めてだ。
刃牙はとんでもない傷だが、とんでもない傷で済んだとも言える。

そして、胡散臭いタフネスの持ち主である刃牙と言えどこれくらいダメージを受ければダメらしい。
刃牙をダメージで倒すにはこれくらいやらなければダメとも言える。
ガンダムのメインカメラを破壊しても倒しきれないように、刃牙を倒すには過剰なまでのダメージが必要とされる。
うーん、そりゃあ人類の手には余るな。

しかし、博愛固めでは肋骨くらいしか損傷がなかったのか。
十分には十分だが背骨とかも行くかと思いきや……
博愛固めは倒れない刃牙に対する最後の一押しとして用いられたのだろうか。
たしかに最後の一押しに相応しい最愛が込められた一撃だった。
梢江だってGOサイン出すよ。

「いいだろもう」

まさかの勇次郎の妥協発言だ!
これは大事件だ。対戦相手をとことん叩き潰す主義の勇次郎が妥協した。
これ以上、刃牙に攻撃を加えないと宣言した。
たしかにこれ以上ないくらいのダメージを与えている。
これ以上は死に至るし、むしろ現段階でも死んでいてもおかしくはない。
勝利とするには十分すぎるほどだ。

だが……勇次郎らしからぬ。
幼年期に戦った時は戦闘不能になった刃牙にさらなる追い打ちを加えていた。
勇次郎としても本当は追い打ちをしたい。
が、こらえているのか。

今の刃牙は勇次郎にとって最大にして最強にして最愛の敵だ。
トドメを刺すのは躊躇われるのか。
勇次郎も刃牙と関わって変わったのだ。
勇次郎らしからぬ、それでいて一人の父親らしい一面である。

(それでいいッッ)
(続行は………………これ以上の加撃は……格闘(たたかい)ではない…)
(巨凶ではない…)


勇次郎の決断を独歩は認める。
戦いではなく虐殺になってしまう。
そして、巨凶ではないは何にかかっているのか。
これ以上攻撃を加えることは巨凶として相応しくないということなのか、巨凶そのものになってしまうということなのか。
何にせよ巨凶らしからぬ一面だ。
これはたしかに親子の融和とも言え……ませんよね、やっぱり。

勇次郎が刃牙に並々ならぬ想いを抱いていることを独歩はよく知っている。
というか、実際に聞かされた。
それだけに二人の関係を終わらせることを良しとしないのか。

勇次郎はこの場を去ろうとする。
すると観客がさながらモーゼのように道を空ける。
そして、ありがとうと皆頭を下げる。
健闘を讃える。
これが激闘を戦い抜き、見せてくれた勇次郎に捧げられる唯一の言葉か。

(佳き時間を過ごした…)

勇次郎は心底満足していた。
18年にも渡って溜めていたものを消化できたのだろう。
そして、人生の最強の敵との戦いでもあった。
これで満足しなければ何で満足するというのか。
最終回も近いことだし、ここで満足しなければ尺が足りない。

でも、そばにピクルがいるから勇次郎がトドメを刺さずとも、ピクルが刃牙を食ったりして。
恨み辛みはありそうだ。
それも戦っていた最中の恨みよりも乱入した時に折られた歯の恨み。
でも、勇次郎を黙って見送っているから、空気を読めるようになっているか。
相変わらずのふんどし一丁とはいえ、出てきていない間に現代社会について学んだのかもしれない。

が、その時、勇次郎は背後に何かを感じる。
振り向いたら仰向けに寝ていた刃牙がうつぶせになっていた。
足を向けていたはずが頭を向けているし、微妙に動いている。
まだ刃牙は動いている。
まだ歌える。頑張れる。戦える、のか?

「蹴ったな…」

僅かに動く刃牙を見て、勇次郎は目を開き、そして満面の笑みを浮かべる。
蹴ったとは物理的に蹴ったのではなく、勇次郎のトドメを刺さないという気遣いを蹴ったと見るべきか。
まだ波乱があるのだろうか。
でも、今回を除けば残り3回だ。もう時間がない。
残り時間が決まっているだけに逆に先が見えなくなっている。
決まっていなくても見えなかったのだが。
次回へ続く。


刃牙、ボロボロのグシャグシャであった。
もう生きていることさえ不思議ではあるが、まだ動けるらしい。
だが、どこまで動くのだろうか。
残り3回動き回って収束するのだろうか。
復活するにせよ、最近のペースだと1話を丸々使うのが恒例だ。
時間がかかります。

勇次郎は刃牙に攻撃を加えることを十分だと判断した。
抱えてしまった弱みだ。
そういえば、この戦いにおいて勇次郎のこうした一面は随所に見られた。
刃牙を完全に壊しきれないのかもしれない。
それが刃牙の逆転の布石となるのか。

勇次郎は刃牙を愛している。
愛情が暴力に転換されるのが範馬一族の恒例だ。
(無関心になるとジャック状態になる)
だが、その暴力にも限度があるのだろうか。
勇次郎にトドメの一撃を躊躇わせる要因となっている。

刃牙に対する愛情は勇次郎にとっては弱みかもしれない。
だが、勇次郎が一人の子供の親である証左でもある。
勇次郎だって人間なのだ。
孤高の最強が手にしたなけなしの人間性である。
その人間性を否定することも卑下することもできない。
だからこそ、観客たちは讃えたのだろう。

そんな弱みを徹底的に突くのが刃牙だから困る。
相手の弱点を突くエゲツなさが範馬一族の持ち味だ。
そんなわけで復活した刃牙はひどいことをしそうで嫌だな……
この戦いで勇次郎が見せた笑みを写真に撮って「親馬鹿」「キモい」とか悪言をつらつら書き殴ったり。
最愛の息子のこの仕打ちには勇次郎と言えど凹まざるを得まい。
対抗されて刃牙の変顔を集められたら負けか……



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