範馬刃牙 最終話 さようなら



ついに地上最強の親子喧嘩が決着だ!
それは即ち20年以上続いたバキという物語の決着でもある。
でも、あそこからどうやって決着するんだ?
最終話なのに、いやだからこそ油断できない。


「あああ〜〜!!」

突然のちゃぶ台返しに勇次郎が吠えた。
それほどまでに刃牙のちゃぶ台返しは見事であった。
観客だってちゃぶ台返しに驚いている。
何かみんなのレベルも上がっている。
あと押し寄せた外人たちはどうなったのだろう。
すっかり見えないし、味噌汁もちゃぶ台返しも知らないと思うのだが。

ちゃぶ台返しされ勇次郎は即座に反応する。
ちゃぶ台をキャッチし、箸をキャッチし、味噌汁をキャッチする。
さすがの鬼の身体能力だ。

「…………ッッ」

(………………ッッ)


だが、勇次郎は思わず取った行動に自ら驚いてしまう。
言葉でも心でも驚いた。
勇次郎にしては珍しい。
満身創痍とはいえ勇次郎の動揺を誘うとは……
刃牙、恐るべし。
これって褒めておけばいいものなのかな。

キャッチして味噌汁その他を守ったつもりが、幻影は消えてしまう。
ちゃんと観客も消えたことを感じていた。
勇次郎の動揺と共に生み出した幻影が揺らいだのか。
ううむ、こいつらの戦いは難しすぎるし、団欒はもっと難しい。

「親父……」
「救われたなァ……」


偉そうだ! 刃牙が偉そうだ!
瀕死の重傷だというのに自重する気ゼロ。
柳がこんな態度を維持した結果、どうなったのか知らないわけではなかろう。
いや、知らないのかも。
本部から「負けが確定しているのに調子乗ると裏拳食らうぜ?」と忠告も受けなかったのだろう。
というか、そもそも本部と逢っていないのかも。
本部は「範馬刃牙」になって登場していないある意味貴重なキャラだ。
この大一番で解説さえしなかった。
ボンクラめ。

「その通りだ………」
「思い当たるフシがある」
「あの味噌汁は少ししょっぱい」
「認めるのが嫌で………」
「誤魔化しちまった…」
「嘘をついちまった」


勇次郎が己の落ち度を認めた。
今夜一番の冷や汗だらだらな勇次郎である。
幻影の味噌汁にしょっぱいもクソもないと思うのだが、ともあれ刃牙は勇次郎から一本取っていた。
こいつらの攻防は本当に難しい。
幻影の味も見切らなければいけない高度な情報戦だ。
妄想戦か。

「俺の動揺を察したオマエが」
「ちゃぶ台で……… 俺を救った……………」


ちゃぶ台返しによって味噌汁の味付けの失態をなかったことにしたのか?
ううむ、よくわからん。本気でわからん。
別にしょっぱくてもいいじゃない。
勇次郎のプライド的には許さないのだろうか。
勇次郎は神話にさえなっているから、それこそほんの些細な落ち度も許容できないのか。
強すぎるというのも困りものだ。

「強さの最小単位とは」
「“我が儘を通す力” “意志を通す力”」
「貴様はこの俺を 地上最強を炊事場へ立たせた」
「我が儘というならこれ以上はあるまい」
「ここに………」
「地上最強を名乗れ」


勇次郎が刃牙の地上最強を認めた!
刃牙は己の望み、勇次郎の作った飯を食べるという願いを叶えた。
刃牙は我が儘を通し、勇次郎は我が儘を通された。
その上でさらに一杯食わされた。
これには勇次郎も負けを認めざるを得ず、刃牙の地上最強を認めざるを得ないだろう。
……得ないのか?
何か攻防が難しすぎるぞ。

ともあれ、観客は大騒ぎだ。
あの勇次郎が自分以外の地上最強を認めたのだ。
神話が崩れた瞬間だ。
だが、その内容に少しくらい突っ込めい。
いや、勇次郎ほどの有名人だと些細な一言でも人々の心は動くのかもしれないが。

そんな地上最強認定を受けた刃牙の表情はどこか暗い。
そういえば、鼓膜を破られていた。
問題なくやり取りしていたのが不思議なくらいだ。不思議というかおかしい。
そんなわけで地上最強認定されているのを知る由はないのだ。

「決着の際…………」
「どちらが高見に立っているのか」
「頭の位置」「頭部の標高が上にある者」
「見下ろしている者こそが勝利者」
「親父の言葉だ」


ここで刃牙はピクル戦において勇次郎が言った言葉をなぞる。(第183話
あの発言を刃牙は聞いていないはずだ。
オリバが刃牙に電話で話しているのも想像できない。
とはいえ、勇次郎が刃牙に格闘技を教える中で勝敗の大前提として教授したのだろう。
知っているのも道理だ。

「親父(あなた)は確かに俺を見下ろし去っている……」
「あの時俺は殺されていた」
「争えない事実」
「俺の敗北(まけ)です」


対して刃牙は負けを認めた!
頭を下げている。完敗と認めている。
殊勝な態度だ。
ピクルの時に勝敗をうやむやにした態度が良くなかったのを認めているのか、今回は素直に敗北を認めている。

最近の刃牙は試合に負けて勝負に負けて、それでも何となく勝った気になれる方向性でいるのだろうか。
最強を冠するピクルと勇次郎にこのスタンスを貫いている。
ある意味、恐ろしいな。
勝てるけど勝てない。いや、勝っているんだけど。

これには観客も沸き上がる。
勇次郎が最強を認めた男が最強を捨てたのだ。
ううむ、よくわからんが一大事だ。
あれか、味噌汁で駆け引きが難しくなっているのか。

[今宵限りの気紛れか]
[最強を手放した父]
[勝利を手放した息子]
[各々が共に]
[自己(おのれ)にとっての最大を差し出した]


今の刃牙と勇次郎は己のもっとも大きなものを分け与える仲になっていた。
さりげなく大きな事実だ。
愛し合っている関係なのだ。
紆余曲折の果て、二人が辿り着いた到達点である。
20年分の重みが込められた関係だ。
今の二人はお互いに憎み合うことなく心より認め合っている。

「勝負ありッッ」

ここで数年ぶりの勝負ありコールだ!
言ったのは地下闘技場の元締め、徳川光成である。
美味しいところを持って行きやがった。
二人の関係をよく知るだけにこの結果に去来するものもあるのだろう。
いや、出たがりなのかもしれないが。

「いい気なもんだ…」
「治ってやがる…」


地上最強にして史上最強の決戦を見られたからか。
徳川光成が抱えていた病巣は回復していた。
これにはちょっと勇次郎も笑っている。
何だかんだで徳川光成のことが嫌いではないのか。
まぁ、メフンおごってもらったし。

これで徳川光成の死という負の要素は払拭された。
そうなると徳川光成を見舞うために企画された第2回最大トーナメント(仮)はどうなるのか。
……いや、回復したからなしってオチか。
うむ、円満。

[地上最強の]
[親子喧嘩…………]
[ここに終了……!!!]


二人は握手をして親子喧嘩決着だ!
実力として勝ったのは間違いなく勇次郎だ。
だが、刃牙の執念は勇次郎の軫念を揺るがした。
心が折れたら敗北ならば、心が折れていないのなら敗北ではないのだ。
そして、刃牙は最後まで心が折れることはなかった。
心が折れない強さを持つのは主人公らしい。
やってることは主人公らしくないけど。
次回へ続かない。


そんなわけでついにバキシリーズは終わりを迎えた。
結局、明確な意味で刃牙は勇次郎に勝つことはできなかった。
20年間に渡り勇次郎が最強のままであり続けた。
刃牙は近付くことはできても、追い抜くことはできなかった。

けれど、二人の関係はいつしか勝つ負けるから親子のそれへと変化していった。
結果としてお互いに親子として認め合い、大切なものを差し出し合える関係へと変化した。
二人はあくまでも親子なのだ。
相争う間柄とは遠いのかもしれない。

そうなったのも「バキ」になってからである。
勇次郎は最大トーナメントで優勝した刃牙を認めたのか、大分待遇が良くしたというか親馬鹿になった。
そう、息子と恋人の情事に割り込むくらいは。
あそこから勇次郎は刃牙を息子として意識し始め、刃牙もまた勇次郎への感情が変わっていったのかもしれない。
一方でジャックの扱いは悪くなりました。
最終回なのに出てきていないし。

親子喧嘩自体は今までにないくらい長く、そしてバリエーション豊かな戦いだった。
もはや芸の見せ合いである。
1年間も続いたが飽きることはなかった。
刃牙も勇次郎もお互いに芸達者だ。
その気になれば1年持たせることも楽勝か。

親子喧嘩は終局したが残されたものも多い。
一番にあるのが烈ボクシング編、存在が囁かれた第2回最大トーナメント。
勇一郎という爆弾も忘れられない。
今までの展開を畳むどころかむしろ広げてしまっている。

「範馬刃牙」は終わった。
だが、これからのバキシリーズはどうなるのか、まだ目を離せそうにない。
さ、さすがに広げた風呂敷を畳むことなく終わるわけはないですよね……?
次回はロングインタビューがあるそうなので、そちらの感想を書きます。



 
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