範馬刃牙 第246話 教育 



勇次郎が食への敬意を露わにした!
刃牙もビックリだ。まさかのいただきますだ。
意外な文化性を見せたが、刃牙よりは教養がありそうなのでむしろ自然かもしれない。
セックスだってスマートにやっていたし。


(襲いかかり)
(殺傷し)
(仕留め)
(食す)
(それが オーガ!!)
(範馬勇次郎という男ではなかったのか…!!?)
(手に入れる――とは 奪うこと)
(それが範馬勇次郎 ではなかったのか!!?)

刃牙は己の範馬勇次郎のイメージを振り返る。
悪鬼のように屍肉を食らうイメージしかなかったようだ。
実際、朱沢江珠を奪った時はそうだった。
欲しい物を手に入れようとした時、勇次郎は暴力をもいとわない。
あるいは相手への好意が暴力に変換されることもままある。

そんな勇次郎が会釈を、食への作法と感謝を見せた。
勇次郎は闘争において手抜きはしない。
黙っていても勝手に死ぬ(語弊あり)ムエタイだって丹念に叩き潰す。

勇次郎はかつて戦うということを美味い料理を食うことだと例えた。
闘争と食事は勇次郎にとって近しい存在なのだ。
だから、食事をただ食べるだけのものだとは考えていないのだろう。
食事には己の絶対を賭ける価値がある。

(「いただきます」―――!!?)
(いったい 何に頭を下げたのだ!!?)
(両親…!?)
(食材となった生き物…………!?)
(そこに関わった人々………!?)
(それ等全て…!?)
(その……どれでもない…!?)

勇次郎の会釈ひとつだけで刃牙の脳内に思考の奔流が巻き起こる。
主人公に惚れている幼なじみかよ。
どんだけパパ大好きなんだ、こいつ。

(俺……!? まさかの俺ェ!!?)
(〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ)


どんだけパパ大好きなんだ、こいつ!
あの人…私に気があるのかも…もう完全にヒロイン思考だ。
このスイーツ(笑)め。
もうサード幼なじみとしてどこぞの学園に忍び込んだらどうだ?

そんな悩ましくも嬉しい一時を過ごす刃牙であった。
限りなく近く限りなく遠い距離でも蜜月だ。
攻略完了したらこんな場面は見られなくなるぞ。
しかし、そんな時間をただ安穏と過ごす勇次郎ではない。

「なっちゃいない」

ついに勇次郎がツッコミを入れる!
海原雄山が山岡士郎をDISるが如く、刃牙に壮大なツッコミを入れるのだろうか。
「このメカブは出来損ないだ。食べられないよ」とか。(あ、これは山岡のツッコミだった)

勇次郎の両腕には血管が浮き出ている。
相当にご立腹なのがありありと伝わってくる。
なっちゃいない。本当になっちゃいないぞ。
鬼の怒りが食卓で炸裂する!

だが、これは刃牙が待ち望んだシチュエーションでもある。
食事の些細な喧嘩から闘争に発展するのを刃牙は望んでいる。
現にリアルシャドー勇次郎と食卓を共にして予行練習済みだ。第207話
むしろ、望むところだ。
ついに範馬親子の決戦が始まるぞ!

「え!!!」
「……え?」


って、何普通に驚いているんだよ!
そんなに勇次郎に突っ込まれたのは意外だったのか。
リアルシャドーの意味がまったくなかった。
完全にヘタれている。だが、これでこそ範馬刃牙だ。
これが草食系男子というヤツか?
範馬一族は総食系の言葉の方が似合うが。

「漫然と口に物を運ぶな」
「何を前にし―――――」
「何を食べているのか意識しろ」
「それが命 喰う者に課せられた責任――― 義務と知れ」


…マジですか?
勇次郎が極めてまともな説教をした。
まるで寺の坊さんのようにありがたい言葉だ。
食への敬意とその意義を教えてもらった。
刃牙だけではなく読者一同も心に刻まねばなるまい。

しかし、勇次郎がまともなことを言っている時の違和感と言ったらない。
言っていることは実にその通りだしいい言葉である。
明日からんっまいよーと美味しそうに食べよう。そうしよう。
でも、思わず笑いがこみ上げてくる。
これがシリアスな笑いというヤツか…

ともあれ、刃牙には反撃のチャンスを与えられた。
これに反論すれば今度こそ喧嘩できるぞ。
「この料理は世界中の食通がうまいと認めた味だぞ!この料理の味がわからないなんて食通じゃない!」と猛ってみてはいかがか。
俗物の台詞だが、刃牙が言う分には問題なしだ!

「…………… ………ハイ」

…随分とあっさり引き下がってくれるな、オイ。
やたらと勇次郎に突っかかった大擂台賽時代はとっくの昔に過ぎ去ってしまったようだ。
かつてここまで勇次郎に従順な刃牙はいただろうか。
いや、いない。

(……………… な……………)
(なんてマトモな事を…ッッ)
(一分一厘 反論の余地もない…!!!)


刃牙も勇次郎がまともなことを言っていたのにびっくり仰天だった。
勇次郎はまともなことを言わないイメージしかなかったらしい。
だが、誰が刃牙を責められようか。
勇次郎がこんなことを言った暁には吹くというものだ。
私は吹いた。刃牙のツッコミでも吹いた。
…あんたもまともなツッコミをしているよ。

刃牙は己の歩んできた道を振り返る。
勇次郎のことを考え、憎み、強くなった。
だが、勇次郎の意外な一面を見せられた。
勇次郎のことを何も知らないのではないか。
そんな想いがよぎる。

勇次郎に対する刃牙の感情は極めて複雑だ。(第190話
もはやただ戦って勝つだけの存在ではなくなっている。
勇次郎との戦いに何があるのか。何を得られるのか。
それは戦ってみないとわからない。
現に食事するまでは勇次郎の一面に気付けなかった。
だからこそ、戦ってみるべきだと思うが、そうなると足踏みしちゃうのが刃牙である。

困惑の中で唐突に刃牙は勇次郎が口にしているめかぶの説明をする。
何とパックのものらしい。
当然、味付け済みだろうし、自然調味料以外の調味料も使用されていることだろう。
料理漫画的には自殺行為のような発言だ。
具体的には海原雄山に「この料理の味付けは化学調味料っすよ」と言うようなものだ。

さらにはメカブが身体にいいことを強調する。
身体にいいと2回も言っている。
大事なことなので2回言いました。

だが、生活全般において勇次郎はまったく健康を意識していない。
アルコールの一気飲みをするし、煙草だって吸う。
そんな勇次郎の前で健康食品を謳うとは何たる軟弱か。
勇次郎に夜道は危険だから気を付けろと諭すような愚行だ。

刃牙はあまりにも大きな失敗をした。
だが、これは刃牙の攻めと見るべきだろう。
勇次郎がブチ切れればむしろ良し。
刃牙の挑発に勇次郎は如何に対応する!

「うむ……」
「防腐剤…着色料…保存料… 様々な化学物質 身体によかろうハズもない」
「しかし」
「だからとて健康にいいものだけを採る これも健全とは言い難い」
「毒も喰らう 栄養も喰らう」
「両方を共に美味いと感じ―――― 血肉に変える度量こそが食には肝要だ」


また、勇次郎がまともなことを言った!
予想外の答えにまたも絶句する刃牙であった。
刃牙はいつもそうだね。
勇次郎が意外な一面を見せると、決まって同じ反応をする。
わけがわからないよ。
どうして刃牙はそんなに勇次郎のイメージにこだわるんだい?

健全な物だけを与えることが健全であるわけではない。
不健全な物をも消化できることこそが真の健全には必要である…
まるで子の教育のような言葉だ。
PTAの会長になってみてもいいのではないだろうか。
とりあえず、義務教育としてブラックエンジェルズを読ませるべきということか。

勇次郎が煙草という健康に良くないものを吸っているのも、こんな理由からなのだろうか。
健康に悪いからやらないのではなく、健康に悪いものを消化できる力がグラップラー的に大事なのか。
グラップラーは基本的にみんながみんな、健康に無頓着なのも納得できた。

それにしてもいろいろなことに使えそうな台詞だ。
日常生活でも積極的に言ってみたいな。
けいおんも喰らう。まどか☆マギカも喰らう。
両方を共に美味いと感じ――ネタに変える度量こそが感想には肝要だ。

(ヤバい… 泣きそうだよ)
(親父が俺に まともな教育をしてくれているッッ)
(ああ……)
(何てステキな 裏切りの数々……ッッ)


泣きそうなくらいに感無量の刃牙だ。
勇次郎と飯を共にする。当たり前のことを話す。
今のところ、望んだ親子らしい食事を達成している。
ここまで親子らしい食事になるとは誰が予想できただろうか。
ある意味、本懐を遂げた状態だ。
それはとっても嬉しいなって、刃牙も泣きたくなるわけだ。
その幸せをジャック兄さんに少しでも分けてあげてください。

さらに勇次郎は食事の作法を刃牙に見せつける。
美しく箸を持ち、綺麗に操り、器をきちんと手に取り口を付ける。
魚だって骨だけを残し、身は全て綺麗に食い尽くしている。
こんな見事な食べ方をされれば作った方としても感無量だ。
女だったら思わず惚れちゃうよ。
なお、刃牙の食べ方は勇次郎とは打って変わって汚い。
たくさん料理を作った烈海王は刃牙には惚れないんだろうな。

(初めて親父が―― まっすぐに誇らしい)
(だから……)
(だからこそ言ってみたい!!!)


食に対する真摯な態度と素晴らしい作法を勇次郎は見せつけた。
思えばそれしかやっていないのだが、刃牙の勇次郎に対する評価は激変した。
大擂台賽で廊下をぶち抜かれた時に刃牙は勇次郎を誇りたくなるほど強いと形容した。
それは格闘家として誇りたかったのだろう。

今は違う。
おそらくは父として誇りたいに違いない。
この食事で勇次郎は刃牙に父としての自分の姿を見せた。
それも戦いという視点ではなく、日常からの視点で…
これは今まで見せたことのなかった姿だ。

そんな父に伝えたい言葉がある。
ここで俺と戦ってくれと言えば実に自然な流れだ。
いや、食卓でこういうことを言うのは不自然だが、範馬的にはオールオッケーだ。
もう何も怖くない。
ついに宿命の親子喧嘩が起きるぞ!

(“親父ィ………………… 今日は洗い物やってくんね!!?”)

って、頼むのはそれかよ!?
…刃牙さん…あんたの望みは勇次郎と戦うことですよね?
何を家族団欒で満足しようとしているんだ。
お前が泣きそうになったのは忘れないぞ。
とことん親子であろうとする刃牙であった。

勇次郎は刃牙の質問に対してどうするのだろうか。
食に対する敬意とこだわりを勇次郎は刃牙に説いた。
ならば、後片付けはどうするのだろうか?
後片付けの前にご馳走様をして、そこでまず刃牙が驚くのが先か。

波乱が巻き起こるかと思った勇次郎との食事だが、至極円満に進んだ。
勇次郎のタメになる話も聞けた。
無論、その状況自体が異常にもほどがあるのだが。
波乱を孕みながらも次回へ続く。


動乱の食卓であった。
実にまともなのだが、ひどく笑えた。
恐ろしい勇次郎効果である。
こんなの絶対おかしいよ。

食への態度、見事な作法…
いずれも刃牙の記憶にはない勇次郎の姿だった。
それは父としての勇次郎の姿だ。
オーガとしての勇次郎ばかりを見てきた刃牙の記憶にあるはずもない。

刃牙が追いかけてきた勇次郎は当然オーガとしての勇次郎だ。
だが、父としての勇次郎は知らなかった。
それが驚きに繋がっているのだろう。
読者だって驚きだよ。
誰だ、テメエ!

刃牙が父としての勇次郎を知らなかったように、勇次郎も息子としての刃牙を知らないのかもしれない。
物心つくつかないどころか出生直後から格闘技を教え込んでいたし、息子としての一面を見せる機会すらなさそうだ。
息子らしいことを言ってみるか?
誕生日プレゼントでもねだっておけ。
どうなるかは怪しいが、恋したオーガならばあるいは…

そして、勇次郎は食器を洗うのだろうか。
戦場生活は長いので自炊はできるらしい。(第241話
ならば、食器の始末はどうしているのだろうか?
レーションはゴミを減らす…つまりは敵軍にこちらの形跡を残さないためにレトルトのものが重宝されているようだ。
それを考えると食器を洗うことは勇次郎には少ないのかもしれない。
意外な難関になるのか?

そもそも料理をしている勇次郎も想像しにくいが、食器洗いをしている勇次郎はさらに想像しにくい。
無難に洗剤を使うのか?
それとも鬼の身体能力で皿を一瞬で洗うのか?
むしろ、皿が粉になっても不思議ではない?
疑問と不安は尽きない。

勇次郎の機嫌を取るのは極めて難しい。
ストライダムなんてよく機嫌を損ねては死にかける。
というか、機嫌を保つために年に1度は命を狙わなければならないほどだ。
時と場合によっては自爆だってしないといけないぞ。

今のところ、勇次郎は上機嫌だ。
刃牙が料理を作ってくれたのは親馬鹿として幸福の至りに違いない。
だが、ちょっとした一言で風向きが変わるかもしれない。
食器洗いで勇次郎がキレてもおかしくはない。
でも、うっかり食器洗いをやっちゃいそうでもある。
試合するよりも先を読めない展開だ。

家の外にいる機動隊はこんなことが繰り広げられていることは知る由もなかろう。
今なら勇次郎の危険度も低そうだし、本部も介入してみてはどうか。
「このメカブは化学調味料ばかり使った不純な味…こんな紛い物の味を喜ぶ人が多いのが日本の衰退を象徴しているよ」とか言う。
範馬親子に同時に殴られて、親子初の共同作業の完成だ!
本部が親子の絆を再確認させることとなるのは確定的に明らか。



サイトTOPに戻る Weekly BAKIのTOPに戻る