範馬刃牙 第247話 ジャンケン 



刃牙が勇次郎に挑戦しようとしている!(皿洗いをだけど)
範馬勇次郎…バキという漫画を象徴する存在だ。
その勇次郎が皿洗いをする。あり得ない出来事である。
その禁忌に刃牙は挑戦しようとしている。
でも、バキパロディでは大抵勇次郎は汚れ役を担当している。
だったらイケるぜ?


勇次郎と刃牙は共に食事を終える。
勇次郎は残さず綺麗に食べ尽くしている。
さすが食の作法と敬意を知る男だ。
特に文句を漏らしていない以上、刃牙の料理に満足しているようである。
味で満足させられないことが懸念要素だったし、危機がひとつ去っただけでも大きな意味がある。

勇次郎と比較すると刃牙は非常に食べ方が汚い。
食器には料理のかけらがいくつも残っている。
テーブルには汁だって散乱している。
どれだけ汚く食べたんだ、こいつは。
勇次郎は食の心構えを諭すのなら、作法も言ってあげても良かったのに。
真摯に食に向き合うことは大事だが、食べ方は本人の自由というスタンスなのだろうか。

食べ終わった勇次郎は再び会釈をする。
今度はごちそうさまの会釈だ。
礼に始まり礼に終わる食事の作法を見せつけた。
一方、刃牙は…ただくつろいでいただけだった。
もうちょっと態度というものが…

(間違いない…………ッ)
(親父は食事で―――― “いただきます”と“ごちそうさま”をするッッ)


字面だけ見ればどうということはないが、勇次郎がやるものだから違和感だけが残る。
いただきますとごちそうさまをする!
大事件としか言いようがない。
ストライダムが聞いたら驚きそうだ。
彼は付き合いが10年以上はあるのに、会釈することを知らないに違いない。

しかし、こう対戦相手の必殺技の秘密を解き明かしたような口調で言われても。
これを知っても勇次郎との対決には何の役にも立たないぞ。
もう完全に喧嘩すること忘れてるな…
いや、家族団欒と闘争は似ているッッッと断言するかもしれないけど。
少なくとも範馬親子のそれは闘争に近しい。

食べ終わったということで刃牙は食器を台所に持っていく。
勇次郎は…背を壁につけてまったりしていた。
食事を終えたからといって帰る気がまったく見られない。
完全に親子の時間を過ごす態勢でいる。
もし、このまま帰ろうとしていたら刃牙はどうしていたことやら。

その時、刃牙の緊張は高まる。
何せあの勇次郎相手に食器洗いを願うのだ。
ストライダムなら即死級の行いである。
緊張するのも無理はない…のか?

(言うのだ………ッッ)
(地上最強の生物――――― 範馬勇次郎ではない)
(父――――― 範馬勇次郎に――――…………否)
(親父……… そう)
(俺の親父に――)
(気軽に声を………)


刃牙は深呼吸をして覚悟を決めようとする。
何かピクルの時よりも緊張している。
お…お前はそれでいいのか…?
緊張する気持ちはわかるがもうちょっとこう何というか…
多分、皿洗いすればさらに緊張するんだろうな。
あの親父が最小限の洗剤で洗っているッッッ。何というエコロジーッッッ。

ただ皿洗いを頼む。
それが板垣恵介にかかれば、ここまで濃密な心理描写が行われる。
カップヌードルにトリュフとキャビアを添えるような行いだ。
いや、脂っこさを考慮するとフォアグラの方が例えとして適切か?

「親父ィ………」(言った!!!)
「ワリィんだけどさ…………」(ワルくねェよちっともッッ)
「今日んところはさ――――」(毎日だっていいじゃねェかッッッ)
「洗い物やってくんね?」(言った〜〜〜〜〜)


セルフツッコミを入れながら刃牙は言い切った。
毎日だっていいって、毎日勇次郎と食事したいのだろうか。
どれだけパパ大好きなんだ。

海原雄山に食器洗いを頼むような暴挙を行った。
…が、勇次郎は無言である。
これには刃牙も大焦りだ。
勇次郎はブチ切れているのか、あるいはもう帰ったのか。
これ以上ない卑屈な表情になりながら刃牙は振り返る。

その時、刃牙に電撃が走り髪は逆立つ。
どうやら衝撃的な場面に出くわしてしまったようだ。
勇次郎が鬼の貌を解放しているかもしれないし、全裸で土下座しているかもしれない。
もちろん、服はきちんとたたんでいる。
刃牙も鬼の紳士っぷりに大驚きだ!

さて、勇次郎が拳を握って肉薄していた。
オリバを屈服させる握力で拳を固めている。
かつて独歩や郭海皇を砕き、刃牙自身もこの拳に破れている。
刃引きをしていない純然たる凶器そのものである。
まさに勇次郎が持つ暴力の象徴ともいえるのがこの拳だ。

(パ………………… パンチ!!?おしおきのッッ)

勇次郎の拳を前にこの蕩けた発想!?
テンパりすぎだよ。
それならそれでさっさと避難しろ!
アンタは勇次郎の拳を想定してトレーニングを積んできたんだから(第172話)、むしろトレーニングを試す格好の機会じゃん。

「ジャンケンだ」
「ジャンケンで俺に勝ったならば」
「食器を洗おう」


勇次郎がジャンケンだとォ!?
三すくみを極めてシンプルな形で表現した公平平等なゲーム…それがジャンケンである。
まさかそれを勇次郎がやるとは驚きだ。
勇次郎ほど公平や平等が似合わない人はいない。
ジャンケンとか、本気でやる気なのか?

ここで思い出されるのはドラゴンボールのジャン拳だ。
孫悟空はジャンケンを武器として扱った。
勇次郎だってそうしてもおかしくはない。むしろ、自然だ。
グーもチョキもパーも勇次郎にとって闘争の道具以外の何でもないに違いない。
刃牙は勇次郎の攻撃に注意しろ!

「わ… わかりましたッッ」(敬語使ってんじゃねェッッ)

予想外の展開に思わず卑屈になる刃牙だ。
もう完全に脳味噌に酸素が行っていない。
そして、セルフツッコミが冴えている。
追い詰められて無意識下でカウンターを行っている状態だ。
刃牙は新しい芸風を身につけつつある。
その進化は留まることを知らないぞ。…芸人としてだけど。

こうしてジャンケンが行われる。普通に。
異常な状況である。
勇次郎が会釈するくらいに異常だ。
要するに全部異常。
白目でジャンケンをする違和感と言ったらもう。

刃牙はグーを出す。
それに対して勇次郎はチョキで対抗した。
あの勇次郎が負けた!?
まさか一流ハンターの悲劇が再臨した。

「…………勝ったッ…………」(見れる……ッッッ親父の食器洗いッッ)

刃牙だって思わず口に出してしまう勝利だった。
つーか、そんなに見たかったんだ、勇次郎の食器洗い。
食器洗いをさせたいのではなく、食器洗いを見たいのがポイントなのだろうか。
興味と好奇が先行している。
何だかんだで勇次郎の未知の部分に触れたくて仕方がないことが伺える。

その時、勇次郎が笑う。
白目で鬼の笑みだ。ニィ…と範馬笑みの効果音が付いている。
髪も逆立ち危険度が高い。
相変わらず勇次郎の笑みは怖いな。
勇次郎が爽やかな笑いをすれば多分一番のサプライズでトラウマになる。

すると勇次郎のチョキが刃牙のグーを挟んだ。
突然の出来事に刃牙はまったく反応できていない。
相変わらず思考が停止している。
勇次郎と戦うことを前提にトレーニングしていたんじゃ…

この状態で勇次郎は力んで挟み込む。
勇次郎の膂力は凄まじい。
指二本とはいえ、その圧力は万力にだって匹敵するだろう。
その力に抗することもできず刃牙のグーはパーに変わっていく。
圧倒され腰が落ちた時には、勝者は入れ替わっていた。
…あれ…この人、たしか勇次郎と戦おうとしているんだよな…

「ほら」
「な?」
「覚えておけ」
「この世には 石をも断ち切る鋏があるということをッッ」


はいはい!知ってます!
これって浦安鉄筋家族でやったネタですよね!
まさかの逆輸入だ。
そして、まったく違和感がない。
ギャグ漫画がギャグとして使ってネタを、格闘漫画が話の一環として使ってもまったく干渉していない。
バキはそもそもギャグ漫画だと言われれば何も言い返せません。

道理を無茶でこじあけた勇次郎であった。
こんなの絶対おかしいよ。
パーでチョキに負ければ握り潰して無理矢理グーにするんだろうな。
グーでパーに負けた時は…刃牙をそのまま殴るか?

(「ほら」………… 「な?」――じゃねェッつーのッッ)

もちろん、刃牙としてはたまったものじゃない。
せっかく勇次郎の皿洗いを見られると思ったのに…
実に不服な顔をしている。
そんな顔で皿洗いをしている。
やっているのかよ!?
こ、このヘタれがァ!!
完膚無きまでにヘタれでヒモ体質だ。

結局、勇次郎に皿洗いをさせることは叶わなかった。
だが、勇次郎の新たな一面を見ることはできた。
勇次郎はジャンケンをする!
誇りたく…はならないか。

勇次郎は偉大な父としての顔以外にも、お茶目?な父としての顔も見せた。
勇次郎の新たな一面は次々に掘り下げられていく。
刃牙としては幸せなことだろう。
蜜月とはこのことか。

でも、蜜月は短いと言うし、ベトコン時代の勇次郎の蜜月は短かった。
刃牙だって梢江とのただれた生活は毒やらJr.やらであまり続かなかった。
この家族団欒も長くは続かないだろう。
むしろ、形になっていたのが信じがたいくらいですよ。

とりあえず、親子喧嘩の話題に入るべきだ。
刃牙の知らないところでkg単位で金が動いている。
国からも別の意味で期待されている状態だ。
洗い終わったら早速喧嘩だ!
…でも、勇次郎の指二本に屈服したから先延ばしにしそうだな…
次回へ続く。


今回は浦安鉄筋家族ならぬ範馬脳筋家族だった。
恐ろしいまでのネタかぶりである。
そして、ノリノリの勇次郎だ。
実は皿洗いもやりたかったりして。

この調子で刃牙は勇次郎に無理難題を言っていくのだろうか。
食後のコーヒーを淹れてくれと言って、ジャンケンで負ける。
一緒に風呂に入ってくれと言って、ジャンケンで負ける。
一緒に寝てくれと言って、ジャンケンで負ける。
軽く2週間は潰せるぞ!

勇次郎がストライダムに食器を洗ってくれと言われても、当然ジャンケンなんかしない。
むしろ、会釈だってしない。食べ終わったら勝手に帰る。
相手が刃牙だからこそ、勇次郎は心を砕いているのだろう。
とんでもない親馬鹿だよ。

刃牙はかつてないほどの近さで勇次郎と向き合っている。
おそらく地球上の誰よりも勇次郎との距離が近い。
誇ってもいい…かもしれない。
あとジャック兄さんは泣いていい。

それにしても刃牙は勇次郎に従順だ。
反抗の欠片も見せない。
敬語を使うくらいだし何だか嫌いな上司に逆らえない部下みたいな哀愁が漂っている。
このままじゃ卑屈な大人になるんじゃイカ?

かつての刃牙は勇次郎との家族団欒の中に戦いがあると主張した。(第218話
でも、戦いがあるどころか仲良くやっている。
勇次郎がノリノリで、それに刃牙が戸惑っている感じだが。
勇次郎の作法が完璧すぎて突っ込めないので、刃牙は火種を見つけられない状況なのだろうか。
力尽くでジャンケンを覆しちゃったし、何もかもが後手後手だ。

「家庭の和み さしたる興味もなく――理解もできぬ」とかつて勇次郎は言っていた。(第219話
…言っていることとやっていることが違うじゃねえか。
このツンデレ親父め。
だからとて闘争だけを行う これも健全とは言い難い。
闘争もする。家族団欒もする。
両方を共に美味いと感じ――血肉に変える度量こそが親子には肝要だ。

やはり、ここはコーヒーだろうか。
勇次郎にコーヒーを作らせる。
そのためには勇次郎を屈服させる必要がある。
本人がそう言っていたし、コーヒーが対決の鍵となることは想像に難くない。

でも、今の勇次郎は普通にコーヒーを作りそうで怖い。
その場合、刃牙はどうするのだろうか。
不味いとか言ってみるか?
勇次郎コーヒーの淹れ方の極意と味わい方を聞かされて引き下がるかもしれないが。
わ…わかりましたッッ。(敬語使ってんじゃねェッッ)

ともあれ、コーヒーを巡ってゴキブリダッシュするのが一番平和じゃないだろうか。
…そういえば、刃牙ハウスにはゴキブリがいるんだったな。
ゴキブリを見つければ勇次郎はどうするんだろう。
刃牙の衛生観念のなさにブチ切れるのだろうか。
そして、刃牙ハウスを掃除してくれるぞ!
勇次郎は父であり母であるのだ…
その辺も浦安鉄筋家族を真似たりして。

バキはギャグ漫画だとよく形容される。
まぁ、私もそう思う部分がたくさんある。
そんなバキにギャグ漫画のネタがそっくりそのまま輸入されてしまった。
刃牙の一人ボケツッコミもギャグそのものである。
敬語使ってんじゃねェッッは流行りそうだ。

前回はシリアスな笑いを追求し、今回は純然たるギャグを追求した。
陰と陽が混ざった見事な構成である。
バキの何たるかを改めて思い知らされた心持ちだ。
何かもう戦わなくてもやっていける気がした。



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